地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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土の国編

召喚

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土の国 ムビルーク


ワイアットとマーシャ、そしてこの町で出会った青年の3人は入り口付近に立っていた。

今の時間は炎天下で大地は熱を帯び、ゆらゆらと空間を歪めている。
さらに風が少し強く吹き、砂が舞い上がる中、3人は数メートル先に立つ少年と向かい合った。

少年は3人の姿見るや鋭い視線から、その年相応の表情へと変わった。
キョトンとしながら3人を見ている目は少し眠そうだった。

「なんだあのガキは……やばい気配だ」

いつものマーシャなら"ガキ"という言葉に反応してしまうところだが、今回は違った。
ワイアットが言う通り、その少年から放たれているオーラは常人のそれとは違った。

「あ、あれが僕の仲間を連れ去ったやつだ……」

「なるほど……」

そう言うとワイアットが数歩前に出た。
少年は立ち止まったままだ。

「おい。少年。珍しい髪の色だな」

「え?そうかな?僕の周りにはいっぱいいるけど」

ワイアットがその言葉を聞いた瞬間立ち止まる。
そして少年を睨みながら腰に差した中型の杖に左手を添えた。

「ほう……俺はお前で"2人目"だがな。そんなにいっぱいいるのかよ」

「僕が住んでる町じゃ珍しくないけどね」

「何者だ貴様は」

ワイアットの言葉に少年は少し考えていたが、すぐに口を開いた。

「僕はダリウス。ダリウス・ダリアム」

「ダリアム?」

少年が言った名前にマーシャが反応した。
マーシャはその名前には聞き覚えがあった。

「ここに何の用だ?」

「それは言えないかな。お兄さん達、僕の姿を見てしまったなら一緒に来てもらわないとだめだ」

「なんだと?」

少年の言葉に一気に3人の緊張感が増した。
マーシャも左腰のショートソードの鞘に左手を添え、右手はいつでもグリップを握れるような状態だ。

「お前が難民を連れ去っていたのか?」

「……なんだ知ってるのか。僕だけが連れて行ってるわけじゃないけどね」

「何のために?」

少年は再度、考え始めた。
今度は少し長く思考し、頭も掻いている。
言ってもいい情報とそうでない情報をすぐにまとめられていない様子だった。

「僕の町を発展させたい」

「どこの町だ?」

「グランド・マリアさ」

ワイアットは首を傾げた。
聞いたことのない町の名前だったからだ。
そしてマーシャと顔を見合わせるが、この国の出身であるマーシャですらも首を傾げていた。

「おしゃべりはここまでだ。さぁ一緒に来てもらうよ」

「もう一つだけ聞かせてくれ」

「なんだい?」

「"アルフォード"という人物を知ってるか?」

ワイアットがその名を口にした瞬間、空気が変わった。
そしてダリウスは眠そうな目から、鋭い眼光に変わりワイアットを睨む。

その目を見たワイアットはニヤリと笑った。

「やっぱりブラック・ケルベロスと難民誘拐は繋がってたか。そして……お前"アルフォード"という人物を知ってるな」

「連れていくのは無しだ。ここで死んでもらう」

ダリウスはそう言うと両手を前にかざした。
その体制を見たワイアットは左腰に差した杖を引き抜き構える。
マーシャもワイアットの横に並ぶように前に出ると腰のショートソードのグリップを握り、抜剣体制を取った。

ダリウスはその場から動かず、両手を前にかざしたままだった。
青年が言うにはダリウスは魔法を使うらしいが、魔法具を持っていない。
ワイアットはそれが一番気がかりだった。

そしてようやく詠唱のためかダリウスは口を開いた。

「噛み殺せ……ガッディス、ガイア」

ダリアムがそう呟くと自分の体の正面、地面に伸びた影からドロドロした黒い液体が溢れ出してきた。
そしてその液体から二体の犬型魔獣がゆっくりと模られる。
犬型の魔獣は二体横に並び、凄まじ咆哮をあげた。

「おいおい、冗談だろ……」

「魔獣……!?」

ワイアットとマーシャは驚愕していた。
それは紛れもなく魔獣だが、通常の犬型の魔獣より少し大きい。

二体の魔獣は猛スピードで2人に向かった。
片方の魔獣が先行し、もう一体は後方へ移動する。

それを見たマーシャがダッシュしながら左の腰のショートソードを抜剣し、横薙ぎ払いの一線を放った。
魔獣は構わずジャンプし、マーシャの首元を狙って噛みつこうとしていた。

「エンブレム!!」

マーシャはエンブレムを発動する。
ショートソードはちょうど魔獣の顔面狙いだったが、魔獣は剣に噛みついた。

「か、硬い!!」

マーシャは全力で剣を振り切ろうとするが、魔獣のあまりの硬さに振り切れず、むしろ押し返されそうだった。

「この獣、エンブレムで消えないということは魔法じゃないな……魔力覚醒……」

ワイアットはすぐさま魔力覚醒を使う。
周囲にバチバチと雷が走り、ワイアットの髪の色に銀色が多く混ざり始めた。

「飛電・雷道!!」

その言葉と同時に一気に左手に持っている杖を前にかざすと、雷が歪にマーシャの背中に向かう。
しかしその雷はマーシャにはあたらず、横に方向転換し、さらにV字に曲がって獣に直撃する。
魔獣はあまりの衝撃に数十メートル、横に吹き飛ばされた。

もう一匹の魔獣も猛スピードで迫り、マーシャに飛びかかろうとしていた。
マーシャは一歩踏み込み、両手持ち、縦一線の斬撃を飛びかかり際の魔獣の頭に当てた。

しかしその魔獣も硬く、マーシャは押し返されバンザイする形で仰反ってしまう。
魔獣はその隙を見逃さず、マーシャの首元に噛みつこうとしていた。

だが、マーシャは仰け反ったままショートソードを背中の方に落とした。
そして背中にある大剣のグリップを両手で掴むとそのまま勢いよく引き抜き、飛びかかろうとしていた魔獣に縦一線の斬撃を放つ。

魔獣はその硬さからか斬れなかったが地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなっていた。

「ほう。なかなか」

ワイアットはマーシャの戦いに関心した。
一匹目の魔獣で硬さを判断し、次の戦いでは即座にそれに対応する。
この短時間でそれができる聖騎士は少ないと感じたからだった。

ダリウスは驚いた様子だったが、すぐに地面にしゃがみ込むと地面に手を当てた。
するとまたドロドロした黒い液体が地面から湧き上がってきていた。

「また何か召喚するぞ!!」

ワイアットの言葉に反応したマーシャは猛ダッシュでダリウスへ向かった。
そしてダリウスの目の前まで一瞬で辿り着くと、縦一線の斬撃を放つ。

しかしその瞬間、ドロドロした液体の中から人間の数倍はあろうかという黒い手が突き上がってきた。
黒い手は手のひらでマーシャの大剣を受け止めた。

「これは!?」

驚くマーシャをよそに黒い手は、肩、頭、胴体と形作られ、最後には3メートルはあろうかという二足歩行の全身が細い犬のような魔物が現れた。

その魔物は大剣を握りマーシャごと持ち上げる
と、それを横に薙ぎ払うように勢いよく投げる。
マーシャは家屋の壁を突き破って止まった。

「切り殺せ……ガルフォン」

"ガルフォン"と呼ばれた魔物はただ無表情にワイアットを見ていた。
そして片手を地面につくと、力一杯に地面を蹴り猛スピードでワイアットへ向かった。

「こいつはヤバそうなのが出てきたな……本気でやるか………」

そう言うとワイアット杖を前出し、さらに右手を添える。
ワイアットが立つ場所に紫色の魔法陣が展開すると轟音と共に雷撃が周囲に広がり、それは地面を抉った。

「"魔力収束"」

ワイアットがその言葉を口にした瞬間、雷撃が一瞬で杖の前に集まり、拳ほどの球体になった。
球体は雷を伴いながら、どんどん小さくなり、最後にはビー玉ほどの大きさなる。

「"紫電・竜王雷球"」

その球体を見たダリウスは焦ったように叫んだ。

「あれはマズイ!ガルフォン戻れ!!」

ダリウスの叫び声は虚しく、魔物は止まることなくワイアットにあと数メートルというところまで迫っていた。

「飛電30発ぶんの魔力だ……受け取れ!!」

そう言ってワイアットは勢いよく杖を横に振ると、雷を帯びた球体は魔物の方へ猛スピードで飛んだ。

魔物はワイアットを切り裂こうと、右腕を振り上げており、無防備となったその胸に球体は直撃した。

球体が魔物に直撃するとドン!という低い音が周囲に響き渡る。
そして一瞬にして魔物は紫色の雷で覆われ、身動きが取れなくなった。

苦しむ動作をする魔物を雷は数分にわたり拘束した。
その雷撃の威力は凄まじもので、球体から漏れた雷は周囲の家屋を破壊し、また魔物の立つ地面も抉る。

長時間、雷撃は魔物を拘束し、ようやく消えた。
魔物からは煙が上がり、力なく膝から崩れ落ちうつ伏せに倒れた。

「まさか……2つもスペシャルスキルを持つ人間がいるなんて……」

ダリウスはワイアットの魔法に息を飲み、後ずさる。
そして手を振るわせながらも片手を前にかざした。

「また、こいつ!!」

ダリウスが再度魔物を召喚すると察したワイアットは杖を構える。
その瞬間、横の家屋からドン!と音がしたと同時にマーシャが飛び出し、ダリウスの目の前まで来ると腹にボディブローを打った。

「うっ!」

ダリウスはその痛みに気を失い倒れ込むが、マーシャはそれを支えた。

「無事か?」

ワイアットがマーシャの方へ駆け寄る。
魔力覚醒状態が解除されたワイアットの髪はいつもの緑色に戻っていた。

「はい。私は大丈夫です。この子はどうしましょうか?」

「そいつも一緒にジバールへ連れて行く。聞きたいことが山ほどあるからな」

マーシャは頷くとダリウスを抱えた。
よく見ると、まだ10歳ほどの少年で寝顔はあどけない。

ワイアットはそんなダリウスの寝顔を見て、ため息をつく。
そしてみなで馬車に乗り込み、一旦ジバールへ戻るのだった。
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