地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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土の国編

ムビルークにて

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土の国


マーシャとワイアットの2人は炭鉱町であるムビルーク周辺の村を調査していた。

村は何ヶ所かあり、村の全てが無人。
それも竜血によってもたらされた被害の影響だった。
住民達は難民として被害の少ない町や中央のザッサムへ移動していたが、その移動中に行方がわからなくなっていた。

そして日差しが眩しい炎天下、マーシャとワイアットは何の情報も得られることなく炭鉱町ムビルークに到着していた。

ムビルークは町というには小さく、その大きさは村に近い。
この町の活気は他の町に負けないほどだったが、今は無人になっていた。

「竜血が採掘場から出てきたようだ。作業中の人間が魔人化して、そいつらは処理はしきれていないから警戒を怠るなよ」

「はい」

家屋が少し等間隔で並び、一番奥に採掘場があった。
その道をワイアットが先頭で後ろからマーシャが周囲を見渡しながら歩く。

町はもの静かだった。
吹く風は土埃を舞い上げ、砂の匂いを強く漂わせる。
そんな中、ワイアットはいきなり道の真ん中で立ち止まった。

「どうかされましたか?」

後ろを歩いていたマーシャも立ち止まり、首を傾げる。
ワイアットは目を細めて周囲を見ていた。

「人の気配があるな。この気配は魔人じゃない」

「え?でも、ここには避難命令が出ていたはずですが……」

「まさか……」

ワイアットが言いかけた時、数メートル先の右の方の家屋のドアが勢いよく開き、人間ができた。
それはボロボロ布の服を着た若い青年だった。
二十代ほどの青年は大きい箱を重そうに抱えており、前が見えづらいのかワイアット達に気づいていなかった。

ワイアットはため息をつきながら、その青年に近づいた。
マーシャもそれに続く。

「重そうだな。手伝ってやろうか」

「へ?」

徐に青年の前に立ったワイアット。
ワイアットは腕組みをしながら鋭い眼光で睨んでいた。

「うああああ!!」

青年は叫び声を上げると持っていた大きい箱を地面に落とした。
その箱は青年の足に直撃し、声は叫び声から悲鳴に変わる。

しかし青年はその痛みをものともせずに、ワイアット達から逃げるように猛スピードで走っていった。

「無駄なことを……」

ワイアットは腰に差した中型の杖を抜くと、少しだけの詠唱を済ませて杖を横に振る。
すると青年の周りで風が巻き起こった。
風は青年を軽く数メートルだけ宙へ飛ばすと、それは消える。
青年はそのまま落下し地面に叩きつけられた。

「うぐぁ!!」

マーシャは走って青年に駆け寄ってしゃがみ込んだ。
ワイアットがその後ろに立ち、呆れ顔で青年を見下ろしていた。

「だ、大丈夫ですか?これは流石に酷いと思います!」

「なんでだよ」

「この町の住民かもしれないのに!」

「この町の住民が声をかけられただけで叫び声上げて逃げると思うか?」

ワイアットの言葉にマーシャは納得せざるおえなかった。
確かにこの青年の行動は不自然だ。

「無人の町に入り込む、物盗りだろう」

「物盗り……?」

マーシャは"物盗り"というものを聞いたことがなかったからか首を傾げた。
それは育ちゆえの無知だった。

「お前、どこから来たんだ?」

「ぼ、僕は……」

青年は起き上がり地面に座り込む。
その表情は暗く涙目だった。

「ジバールだよ。あそこは物が無いからさ」

「なぜ物が無いのでしょうか?」

マーシャが優しく青年に質問した。
青年がマーシャを見ると少し顔を赤らめ、俯きながらも口を開く。

「領主だよ。他の町から物が入ってこないから独り占めしてるって母さんが言ってたんだ」

「そんな……」

「なるほどな……」

マーシャがジバールの現状を聞いて怪訝な表情を浮かべるが、それに構うことなくワイアットは採掘場の方へ歩き出そうとしていた。

「あ、あの!この男性はどうするんですか!?」

「今回の件には関係ない。ほっとけ」

マーシャがその言葉に青ざめる。
やはりこの魔法使いは優しくない。
再びそう思ってしまった。

「奥には行かないほうがいいと思うけど」

「ん?どういう意味だ?」

ワイアットが青年の発言が気になったのか振り向いた。
そこには悲しげな表情の青年と怪訝な表情のマーシャがワイアットを見ていた。

「妙なやつが出入りしてるんだ。そいつ採掘場に出たり入ったりしてる」

「なんだと?」

「最初は僕と仲間達でここに物を盗りに来てたんだけど、僕以外そいつに捕まっちゃって連れていかれたんだよ」

「連れていかれた?どこにだ?」

「採掘場の中さ」

ワイアットはその言葉に驚いた。
同時にマーシャも驚く。
採掘場の中は竜血が溢れ出して、普通の人間が入れる環境ではないはず。

「その妙なやつってどんなやつなんだ?特徴とかはあるのか?」

「特徴?特徴だらけさ。上品な服に赤いローブと短い髪……目つきが悪い。そして……」

「まだあるのか?」

「全て銀髪の少年だ。僕より小さかった」

「銀髪……!?」

ワイアットの驚きようにマーシャは首を傾げていた。
明らかにその反応は常軌を逸していた。

「変な魔法を使ってた。あれって土の魔法……なのかな?僕は魔法詳しく無いからわからないけど」

「あ、あの、その少年だけしかいなかったんですか?」

「え?ああ、一番最初に見た時は銀髪の女の人も一緒だったかな?それ以来はその女の人は見てないけど」

マーシャとワイアットは顔を見合わせた。
その銀髪の少年がこの件に関わっているとみて間違いは無い。
だが、このまま何の準備もせずに採掘場に突入するのは危険だと2人は思った。

「一旦、ジバールに戻るか。応援があったほうがいいだろう」

「そうですね」

マーシャは立ち上がり、青年に手を差し伸べると、青年はその手を掴み立ち上がる。
3人は一旦ジバールへ戻るため、採掘場とは逆方向の町の入り口へと向かった。

「竜血が発生してるのに採掘場に出入りしてるとはな」

「しかも少年なんて……」

ワイアットとマーシャの表情は真剣だった。
明らかにその少年は異常だ。

そして3人が入り口に到達しそうなあたりで、町の入り口に人影が見えた。
その人影を見た青年はぶるぶると震え始め、それを見たワイアットとマーシャは只事ならざるを悟った。

「まさか……」

町の入り口から3人にゆっくり近づく人影は次第にその姿を現した。

それは上品な貴族服の上に赤いローブを羽織った、銀髪の少年だった。

その少年の眼光は、おおよそ子供とは思えないほどで、獣ですらも後退りそうな鋭い目だった。
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