150 / 200
土の国編
移動都市グランド・マリア
しおりを挟む土の国 グランド・マリア
町は常に地中を移動し続けている。
ごく普通の町と変わらないが、この町は魔法によって土で覆われ、地中深くへ隠されている。
町自体の大きさは、かなり広く、住民が増えるたびに、さらに拡張を続けていた。
ドーム場で閉ざされた空間だったが、空中には火の魔法によって燃える空があり、薄暗くとも光はある。
地上には2、3メートルの高さで、薄い瘴気が漂い、このグランド・マリアと呼ばれる町では一切、魔法が使えなかった。
だが唯一、このグランド・マリアにおいて瘴気が無い場所がある。
"それは町の中央にある巨大な闘技場だった"
ローマのコロッセオを彷彿とさせるこの建物は、円形に立ち、壁沿いの高い場所に観客席がある。
この闘技場でおこなわれる様々なイベントが、グランド・マリアという町においての娯楽であった。
________________
グランド・マリア 闘技場
中央に向かいあって立っているのは魔法使い同士。
1人は中年、長髪で薄い緑色の髪で、上半身裸、布のズボンを履いている。
大きめの杖を持っているが、その杖はもうボロボロだった。
逆にもう1人の魔法使いは異質だった。
白いワイシャツを肘のあたりまで捲り、黒いレザーパンツを履いた少年。
魔法具を持っていないのもそうだが、短髪で、髪の色が黒に少し銀が混ざっている。
この少年を見た観客は凄まじ声援を送る。
「アルフィス!お前に賭けてんだからな!!」
「そんな魔法使い、ボコボコにしちまえ!!」
「手加減いらねぇからな!やっちまえ!!」
観客は言いたい放題だった。
だが、アルフィスと呼ばれた少年は、それに構わず目の前の魔法使いを睨む。
その眼光の鋭さに、長髪の魔法使いは息を呑んだ。
お互い、距離にして10メートルほど離れているが、アルフィスという少年の圧力は痛いほど伝わった。
「ガキが……調子に乗りやがって……」
「その程度の"闘気"か……生きて帰れると思うな……」
長髪の魔法使いの発言は単なる強がりということはアルフィスにはわかっていた。
それは相手から放たれる"オーラ"で自然にわかった。
2人の間に1人の魔法使いが立った。
黒いローブに身を包み、フードを被っていて顔が見えない魔法使いだった。
魔法使いは指にコインを乗せてそれを弾こうとしていた。
歓声が最高潮に達した瞬間、黒いローブの魔法使いはコインを力強く弾き、宙へ上げた。
そのコインが地面に落ちたと同時に2人の魔法使いは詠唱を始めた。
「複合魔法……」
「風よ!!我が敵を……」
長髪の魔法使いが詠唱を完了する瞬間、アルフィスは目の前に現れた。
そして相手の顔面を目掛けて右ストレートを放つ。
ズドン!という轟音が闘技場内に響き渡ると同時に、アルフィスは拳を振り抜く。
長髪の魔法使いは数十メートル吹き飛び、地面を転がっていたが、そのまま壁に激突し、ようやく止まった。
「複合魔法解除……が、かはぁ……」
闘技場は大きい声援で沸き立つが、アルフィスにはもう聞こえていなかった。
通常の複合魔法ですら、アルフィスには凄まじい負担になっていたのだ。
胸を押さえるアルフィスを闘技場の奥からやってきたフードを被った魔法使い2人が無理やり担いで運ぶ。
アルフィスが運ばれた先は闘技場の地下、そこは瘴気が漂い、魔法は使えない区画だった。
地下には一つ一つ狭い部屋があり、鉄格子で仕切られる。
それは"牢獄"と言っても差し支えない作りだった。
その一つにアルフィスを無理やり投げ入れ、2人の魔法使いは去っていった。
牢獄の中には、1人の少年がいた。
少年はうつ伏せに倒れるアルフィスに駆け寄る。
「師匠!!こんなの……酷すぎる……」
「リオン……気にするな……」
リオンと呼ばれた少年は涙目になっていた。
この町に来てから数日経つが、アルフィスは毎日、少なくとも2回は戦っていた。
「僕のせいで……僕が戦えないから師匠は……」
「もう少しだ……あと何回か勝てば出られる」
「その前に師匠が死んでしまいます……」
「俺は大丈夫だ……」
アルフィスはそれだけ言って気を失った。
リオンはアルフィスが倒れる側に座り、泣き伏す。
そこに別の部屋から声がする。
声は男性でかなり低い声だった。
どこからともなく聞こえるその声の主の姿は見えない。
「凄いねぇ。もしかしたらこのまま勝ち抜くかもしれないな」
「……」
「勝ち抜けば出られるだけじゃない……ご褒美もあるからなぁ」
「ご褒美……?」
「"天黒水"。ケルベロスになれる魔法の薬さ」
「どうして……そんなものを……」
「だって、この戦いは"サード"の後釜を見つけるためにやってるみたいだからな」
リオンは首を傾げた。
確かクロエと会った時にアルフィスが言っていた人物だったような気がした。
「ナンバーをもらえるからさ。みんな命懸けなんだ。だが、恐らく誰も"サード"にはなれないよ」
「え?」
「だって、最後に戦う相手は"セカンド"だからさ。みんな殺されて終わりだ」
リオンはもうわかっていた。
セカンドというのはジレンマのことであると。
ジレンマという男は村を破壊した張本人であることを。
「セカンドが帰ってきたらみんな殺されて終わりだ……この牢獄にいる人間は誰一人生き残れないのさ……」
そう言うと声の主は大笑いし、それは地下に響き渡った。
________________
闘技場から観戦者が帰っていた。
各々、次の日になれば、また家事や仕事がある。
ほとんどの男性は町の北にある工場で働いていた。
女性は南の区画へ出向き、農作物や衣服を作る。
闘技場を出た男達は、興奮が冷めやらぬ中、帰宅する途中だった。
相変わらず町の中は薄い瘴気が漂っている。
「いやぁ、やっぱり、あの魔法使いは凄いな」
「あれって魔法か?物理じゃねぇか」
「いいじゃないか、今までにあんな強さの魔法使いはいなかったからな。毎日の楽しみが増えたよ」
そう言って3人は談笑しながら歩いていると、フードを被った者とすれ違った。
「ちょっと聞くけど、その魔法使いの名前は?」
3人は呼び止められる形で話しかけられた。
フードで顔は見えないが、その声は女性だった。
振り向く3人は顔を見合わせる。
そして、そのうちの一人が答えた。
「アルフィスって魔法使いだよ」
「……そう。ありがとう」
女性は3人にお礼を言うと歩き始めた。
その対応を見た男性3人とも首を傾げて、家路へ向かうのだった。
女性はフードを脱ぎ、ショートカットのブラウンの髪を少し手で整える。
「帰ってきて早々ね……なぜアルフィスがここにいるかわからないけど、彼がいるなら、まずは"ゼドゥース"を倒さなければ」
そう言ってクロエ・クロエラはフードを被り直すと、町の北にある工場地帯を目指した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる