地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
156 / 200
土の国編

開眼

しおりを挟む

土の国 グランド・マリア


エルヴァンヌの部屋、中央に"瞳"が金色に輝くマーシャが立つ。
暖炉の灯りしかない、薄暗い部屋だったからか、その眼光は明らかに光を放っているのが確認できた。

入り口付近に佇むエルヴァンヌは、その瞳を見て息を呑む。

「なんて……美しいの……」

エルヴァンヌの口から出た言葉は素直な感想だ。
今まで見たことのない、その瞳の色に、ただ胸が高鳴った。
そして、何よりもエルヴァンヌが思ったこと。

"欲しい"

ただ、それだけだった。
欲しいと思ったものは、どんなものでも力づくで手に入れてきたエルヴァンヌにとって、今までにないほど、その"瞳"は愛おしかった。
もはや"皮"など、どうだっていい。
とにかくエルヴァンヌは、その瞳を抜き取って、自分の物にすることを決意していた。

だが、その"瞳"に隠された能力が不明な以上、不用意に近づくのは得策ではない。

「どうした?来ないなら私から行く」

鋭い眼光のマーシャはショートソードを左下に両手持ちのまま構えてダッシュ体制。
距離は5メートルほど。
先ほどのスピードでなら、ほぼ一瞬に近い速さで距離を詰められる。

そう考えたエルヴァンヌは策を考えた。
この策は、どんな者でも動揺する策。
エルヴァンヌは堪えきれず笑みが溢れた。

マーシャはその笑みを見た瞬間、渾身の力で絨毯を蹴る。
今までにない猛スピード。

だがエルヴァンヌは構わず指を鳴らした。
するとマーシャの目の前に、先ほど、この部屋にいた村娘が抱きつくような体制でいきなり現れる。
村娘には意識は無い。

マーシャはダッシュをストップさせて、彼女を優しく受け止めた。
エルヴァンヌは村娘ごとマーシャを貫こうと、ショートソードで突きの動作に入っていた。

「これで、終わりよ!!」

エルヴァンヌは勝利を確信していた。
このまま2人の心臓を一突きで終わり……
そう思った矢先、マーシャはダンスを踊るように体を回転させ背を向けた。

エルヴァンヌの剣が当たったのは、マーシャが背負う大剣。
マーシャはさらに回転し、エルヴァンヌの剣を受け流すと、村娘を抱き抱えたまま右下から左上への斬り上げ攻撃を放った。

だが、マーシャの剣は空を切る。
エルヴァンヌは後方に数メートル先に転移していた。

「どういうこと……?ありえないわ……」

マーシャは村娘をゆっくりと絨毯の上に寝かせた。
そして振り向くと、再度、"金色の瞳"でエルヴァンヌを睨む。

「頬から血が出てるわよ」

そう言われたエルヴァンヌはハッとして頬に手を当てる。
10センチほどの切り傷。
エルヴァンヌは手についた血を見た瞬間、その手を震わせた。

「なぜ……私が……私に傷なんて……」

「今度は確実に首を刎ねる……」

エルヴァンヌの動揺は異常だった。
傷を負ったのは何十年ぶりか。
それも、本の紙の先で指を切った程度。
剣で斬られて出血などありえなかった。

「偶然……よね……」

エルヴァンヌは深呼吸して平常心を意識した。
傷を負っただけで、心を取り乱すのは二流。

だがマーシャは剣を構え、落ち着いた瞬間のエルヴァンヌに猛ダッシュで向かった。
またしても距離は5メートルほど。
到達は一瞬だ。

エルヴァンヌはマーシャが到達し切る前に、指を鳴らす。
正面に2メートルはありそうな大きい本棚が現れる。
マーシャはそれを縦斬りで両断した。
だが目の前にはエルヴァンヌはおらず、本の切れ端だけが舞い上がり、視界を塞ぐ。

視界が遮られた状態だが構わず、マーシャは背負う大剣のグリップを握る。
そして一気に引き抜くと、"背後の気配"に回転斬りを放った。
マーシャには手応えがあった。
剣の切先ではあるが、確かに何かを斬った感覚がある。

「がはっ……そんな……ありえない……」

エルヴァンヌは暖炉付近。
首元を押さえ、口からは血を出していた。
かろうじて立っている、そんな状態だった。
マーシャの大剣はエルヴァンヌの喉のあたりを切り裂いていた。

「何が見えているの……?その"目"はなんなのよ!!」

「私にもわからないわ。ただオーラのようなものが見えるだけで、特別なものではない」

「オーラ……ま、まさか……"闘気"が見えるの?ありえない……ありえないわ……」 

マーシャは眉を顰めて困惑した。
"闘気"というものを初めて聞いたからだ。

「歴戦の武人が何十年も掛けて、ようやく辿り着けるとされる境地……セカンドですら10年以上、狂ったように戦い続けてようやく見えたと言っていたのに……こんな小娘が……」

「……」

「まさか……まさか……"闘気を目で追ってる"の?」

「ええ。このオーラは、なぜか"あなたより先に動いてる"」

エルヴァンヌの顔は青ざめている。
その返答を聞いた瞬間の脱力感は異常だった。
エルヴァンヌはジレンマが昔、言っていたことを思い出していた。

"闘気はせっかちだ。なぜか先に動きたがる"

闘気は人の体より先に動く。
だから闘気が見える人間は、数秒後の相手の動きがわかるというのだ。

エルヴァンヌの予測不能の転移魔法は完全にマーシャの"開眼"によって封殺されたのだった。

「私の勝ちだ。エルヴァンヌ女卿」

「何者だ……貴様は……」

「私は、この国のシックス・ホルダー、マーシャ・ダイアス」

エルヴァンヌは言葉を失った。
この若さでシックス・ホルダーとは。

マーシャはゆっくりとエルヴァンヌに近寄る。
そのあまりの圧力に、無意識に震えて後退りしていた。

「私が……この私が……負ける……この部屋で……」

「……」

「ありえない!!この私が!!」

エルヴァンヌは発狂し、指を鳴らす体制に入ろうとした瞬間、マーシャはもう目の前にいた。
凄まじいスピードで、左手に持つショートソードをスマートに払い、その腕を斬り落とす。
動作そのままに右の大剣の横斬りで胴体を切り裂いた。

エルヴァンヌの胴体だけ勢いよく暖炉へ吹き飛び、炎に焼かれた。

「うがあああああああ!!」

悲痛のエルヴァンヌは、間も無く絶命した。
無表情のマーシャは、その燃え盛る暖炉の炎を金色に輝く瞳でずっと見ていた。

そして次第に、その瞳は元の色を取り戻していくのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...