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土の国編
ルール
しおりを挟む土の国 グランド・マリア
マーシャはエルヴァンヌの部屋にいた。
部屋は、かなりの広さで絨毯が敷かれ、灯りは暖炉だけで薄暗く感じる。
その他は一切何も無い部屋だった。
中央、マーシャとエルヴァンヌが向かい合って立つ。
その距離は5メートルほどだった。
マーシャは両手持ちでショートソードを構える。
一方、エルヴァンヌは武器などは何も持っていなかった。
このエルヴァンヌという女性は謎が多い。
エルヴァンヌ自身は瞬間移動できる。
さらに、原理は不明だが、部屋にある物を消すことができる。
マーシャは、このエルヴァンヌの能力を全く解明できないまま戦闘するしかなかった。
「原理を知りたい……という顔をしているわね。ちょっとヒントをあげましょう。戦いは、なるべくフェアな方が私は好きだから」
エルヴァンヌはそう言って、一枚のコインを見せた。
なんの変哲もない、ただのコインだった。
エルヴァンヌは、それを手に乗せて力強く親指で弾く。
マーシャは弾かれたコインを目で追った。
しかし、空中で回転していたはずのコインが途中で消える。
「え?」
その瞬間だった。
マーシャの左こめかみに何かが凄まじいスピードで当たった。
あまりの衝撃に、倒れないにしてもマーシャはよろける。
同時に、床に何かが転がる音がした。
マーシャはその音の方向を見ると、エルヴァンヌが指で弾いたと思われるコインが転がっていた。
マーシャは痛みで顔を顰めるが、そんな中でも思考する。
だが、間髪入れずエルヴァンヌは腕を前に突き出す。
マーシャは警戒し、剣をしっかりと構え直した。
そのままエルヴァンヌはパチン!と指を鳴らす。
するとマーシャが立つ地面に影が広がった。
ハッと気づくと同時にマーシャは天井を見ると、何か大きい物体が落ちてくる。
間一髪のところでそれをバックステップで回避した。
後ろに下がったことでマーシャは入り口のドアを背負う。
その大きな物体が絨毯に落ちるとガシャン!と何かが割れる音がした。
目の前にあったのは大きめの食器棚で、飛び出した皿やコップが散乱し割れていた。
さらに、またもパチンと指を鳴らす音が聞こえると、食器棚は割れた食器ごと一瞬で消える。
目の前にはショートソードを持ったエルヴァンヌが突きのモーションで襲いかかってきた。
「そんな!!」
マーシャは首を逸らし、エルヴァンヌの剣を回避する。
エルヴァンヌの突きは入り口のドアに突き刺さった。
マーシャは回避と同時に斬り上げ攻撃をおこない反撃するが、その攻撃が当たる前にエルヴァンヌはパッと消える。
残されたのはドアに突き刺さったショートソードだけだった。
「いい動きね。他の聖騎士とは違うわ」
エルヴァンヌの声だった。
それは彼女が元いた場所から聞こえてきていた。
マーシャが部屋の中央付近を見るとエルヴァンヌは、さっきまでは無かった椅子に座って、小さめのテーブルつき、その上に置いてあるティーカップを持つと、それを飲んだ。
「これが私の能力だけど、わかったかしら?」
「……」
「他の聖騎士とも戦ったけど、ここまで見せてはいない。やはり、あなたは特別ね……」
そう言って、エルヴァンヌはティーカップを机に置くと、その机は消えた。
そして椅子から立ち上がると同時に椅子も消える。
さらに指をパチンと鳴らすと、エルヴァンヌの頭上にショートソードがいきなり現れ、それをキャッチする。
マーシャはドアの方を横目で見ると、ドアに突き刺さっていたはずの剣が消えていた。
「これは……魔法……」
マーシャがそう呟くと、エルヴァンヌは少し驚いた表情をした。
「あら? まさかこんなに早くわかるなんて……」
「でも……なぜ……」
マーシャの疑問はエルヴァンヌが一番よくわかっていた。
これが魔法というのであれば辻褄が合わないことがある。
百歩譲って、女性が魔法を使えたとしても、マーシャはエンブレムを発動しているのに、ここまで至近距離で魔法を使えることがあり得なかった。
「なぜ、かしらね?」
そう言って笑みを溢すエルヴァンヌ。
「でも……」
「ん?なにかしら?」
「この能力にはルールがある」
そう言って、マーシャはエルヴァンヌを睨んだ。
その発言を聞いたエルヴァンヌからは笑みが消える。
「エンブレムでは、この魔法は無効化できない、その謎はわからない。でも……」
「……」
「でも、なぜ私が持っている"剣"を消さないの?恐らく消せないのでしょう。でも私のマントは消せた。ここから推測すると、あたなは一度、触れた物なら出したり消したりできる」
「凄いわね……たった一度の攻防で私の能力の断片を理解した人間はあなたで2人目だわ」
マーシャはこの能力の謎を解いた、もう1人の人物は大体予想がついた。
「あなたはフェアな戦いが好みと言ったけど、私がこの謎を解いたところで何もできない。どちらにせよ、この部屋では、あなたが有利なのはかわらない」
「確かにそうね」
「でも……私はあなたに勝つ!」
マーシャはそう言って再び剣を構えた。
その姿を見たエルヴァンヌはニヤリと笑う。
「その凛々しく、勇み立つ姿を見ていると、たまらなく、へし折りたくなるわ」
エルヴァンヌは腕をまた前に出す。
再度、指を鳴らすつもりなのだろうとマーシャは警戒した。
案の定、パチンと指を鳴らすエルヴァンヌ。
すると目の前に"人間"が現れて床に落ちた。
それは地下で会った聖騎士だった。
「う、うう、ここは……?」
聖騎士はうつ伏せに倒れているが、起きあがろうと床に手をつく。
しかしエルヴァンヌが背中を踏みつけて、それを阻止した。
「がは!」
「やめなさい!!」
マーシャは叫ぶが、エルヴァンヌはやめるどころか、さらに足に力を入れる。
そして、手に持ったショートソードを逆手に持ち、それを振り下そうとしていた。
エルヴァンヌは聖騎士の背中に剣を突き刺すつもりだった。
「!!」
マーシャはドンと絨毯を蹴ってダッシュした。
エルヴァンヌとの距離は7、8メートルはあったが、数秒で目の前まで辿り着く。
左から右へ、渾身の横斬り。
エルヴァンヌの首元を狙ったもだ。
だが、またしてもエルヴァンヌは消える。
エルヴァンヌが持っていた剣は聖騎士の背中に落ちそうになるが、マーシャは寸前でグリップを掴んだ。
安堵したのも束の間、パチンと音が部屋に響くと、倒れた聖騎士と、マーシャが掴んだ剣が消えた。
「きゃああああ!!」
その瞬間、凄まじい悲鳴が部屋中に響き渡る。
マーシャが後ろを振り向くと、聖騎士が仰向けに倒れ、その胸には剣が突き刺さっていた。
さらに奥にはエルヴァンヌが腕組みをして立っている。
「そ、そんな……なんで……」
「その絶望の表情が見たかったのよ……たまらないわね。さぁ次は、あなたの番よ」
聖騎士は剣が胸に刺さったショックか、呼吸が荒く、大量の涙を流す。
それ見てエルヴァンヌは顔を赤らめて笑みを浮かべているが、今までにないような不気味なものだった。
だが、マーシャは、それを見ることなく俯く。
「あらあら、戦意喪失しちゃったかしら?仕方ないわよね。これ、あなたがやったようなものだし」
「……」
「大丈夫。何も心配いらない。この子の"皮"も後で残らず綺麗に剥ぎ取って、エンブレムと一緒に永遠に、この屋敷に飾るから」
エルヴァンヌがそう言って、パチンと指を鳴らすと聖騎士は突き刺さった剣ごと消えた。
恐らく、再び牢屋に転移させられたのだろう。
「許さない……」
「え?」
「貴様は……ここで殺す」
マーシャはそう言って顔を上げた。
その鋭い眼光は"金色"に光り輝いている。
そしてマーシャは、エルヴァンヌの体からオーラのように放たれている"闘気"がハッキリと見えた。
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