地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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火の国編

波乱

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アルフィスとヴァネッサ、舎弟の2人は南野営地に近い町、ガバーナルに到着した。

到着した頃はもう夕刻。
ここで一泊し、次の日の昼頃の出発を予定していた。
南野営地まで、あとわずか。
アルフィスは久しぶりの里帰りに高揚すると同時に、ヴァネッサとの別れに寂しさも感じでいた。

アルフィスは町の中心部にある宿の一室にいた。
ここは町一番の高級宿で、部屋はかなり広い。
そこにアルフィスは1人でベッドに寝転がり殺風景な天井を見る。

「あんなに金に困ってたのに、今はプチ富豪だな」

各国で功績を上げたアルフィスの報酬は凄まじいものだった。
ただ、がむしゃらに戦い続けた結果、全く生活に困らないレベルになっていたのだ。

アルフィスは長い旅の疲れからか、睡魔が襲った。
目を閉じた瞬間、ドアがノックされた。

アルフィスは勢いよく上体を起こすと、ベッドから降りて部屋の入り口へ向かう。
ドアを開けると、そこには少し顔が赤いヴァネッサがいた。

「おう、どうした?」

「あ、あ、あ、あの、よかったら、一緒に散歩でもどうかなと……」

「ん?まぁ別に構わないぜ」

アルフィスがそう言うと、ヴァネッサは満面の笑みを浮かべた。

2人は町へ出た。
夜ではあったが、町には灯りが多く、活気がある。
少し歩くと徐々に灯りが少なくなり、満天の星がよく見えた。

「星、綺麗ですね!」

「そうだな」

2人は、お互い空を見上げながら並んで歩く。
だがヴァネッサは途中で立ち止まる。
気づいたアルフィスは振り向くと、ヴァネッサは俯き、悲しげな表情をしていた。

「どうした?」

「あ……明日で最後だなって……」

「そうだな……いや、まだ野営地までの旅が残ってるぞ」

「そうですね……」

ヴァネッサは苦笑いを浮かべる。
明らかに無理しているのは容易にわかった。

「セレンは性格は"どぎつい"が面倒見はいい。心配することはないさ」

「私が気にしてるのは、そこではなく……」

「ん?じゃあなんだ?」

「あの……」

「ん?」

「アルフィスさん、もし……よかったら……」

それだけ言って口篭る。
アルフィスはその後の言葉を待ったが、ヴァネッサが口を開くことはなかった。

「ごめんなさい!また明日!」

ヴァネッサは顔を真っ赤にして宿の方へ、勢いよく走り去ってしまった。

「な、なんなんだよ……」

取り残されたアルフィスは、ため息をつくと、星空を見上げながら歩いて宿へ戻った。


________________



アルフィスの朝は早かった。
まだ合流には時間があったが、なぜかもう町の入り口付近にいた。

「ちょっと早すぎたか……」

もう少し、高級宿を堪能してから出てくればよかったと後悔しつつ、アルフィスはヴァネッサと舎弟2人を待っていた。

そこに町の方から猛スピードで馬が駆け抜けてきた。
人を掻き分けてくる馬の上には聖騎士学校の制服を着た黒髪の女性が乗っていた。

「なんだ、ありゃ。あぶねぇな」

数メートル先、細目でアルフィスが馬のほうを睨むと、聖騎士もアルフィスを見る。

2人は、お互いを認識した。

「アルフィス!?」

「リリー姉さん!?」

馬は急ブレーキで止まり、砂埃を舞い上げた。
その砂埃で咳き込むアルフィス。
構わず、リリーは馬から降りてアルフィスに勢いよく抱きついた。

「お、お、お、おい!なんだよ!いきなり!」

「アルフィス……」

アルフィスが驚くのも無理はなく。
リリーという女性は家族嫌いのイメージが強かった。
土の国へ入った時などは、母親が竜血病が治った話をしても興味なさそうだった。
それだけでなく、母親のことを"あんな女"と言い放ったことはアルフィスは覚えていた。

「どうしたんだよ!!」

「ベルートが……母上と父上が……」

「どういうことだ……?」

「ベルートが誰かに襲われたみたいで……」

「なんだと!?」

アルフィスはいきなりで訳がわからなかったが、リリーの動揺は尋常ではない。

そこに舎弟2人が荷馬車に乗って現れた。

「ア、アニキ、その人は……」

「ま、まさか愛人……」

「ちげーわ、ボケ!!姉さんだよ!!」

舎弟2人は真顔で納得していた。
だが、何か様子がおかしいことに2人はソワソワしている。

「お前ら、ヴァネッサが来たら、南の野営地まで連れてけ。俺は姉さんと一瞬にひと足先にベルートへ向かう」

「え?」

「どういうことですか?」

「ベルートが襲われたらしい」

舎弟2人は驚くと顔を見合わせる。
そして、アルフィスの言ったことに対して何度も頷いていた。

「姉さん、行くぞ!」

「え、ええ……」

リリーは馬に跨り、アルフィスはその後ろに乗る。
そして一気に走り出すと、猛スピードの馬は一直線にベルートへと向かった。


________________



途中、休憩もしたが、ほぼ休まず馬は走り続けてくれた。

アルフィスとリリーは一日半ほどでベルートに到着した。
朝方で、町からは黒い煙が各所で上がるのがよく見え、2人は言葉を失う。

馬は一気に町に入り、ハートル家の屋敷に向かうが、町の家々は崩れて焦げたあとが黒く染まっている。
屋敷へ向かう最中、住民の姿を見ることはなかった。

アルフィスとリリーが馬に乗ったままハートル家の門を潜る。
だが、目の前にあるはずのものが無かった。

「や、屋敷が……」

屋敷は完全に全焼し、崩れていた。
焦げた臭いが辺りに広がり、不快感を覚える。

そして屋敷の前には、巨大なドス黒い人影があった。
アルフィスとリリーの乗る馬は屋敷から数メートル離れたところで止まる。
2人は馬から降りると、その人影を見た。

「なんなの……あれ……」

リリーの震えは当たり前の反応だった。
その人影は3メートルほどある身長で体全体が黒い。
数百キロはありそうな太った体に筋肉質の腕。
それは明らかに特殊個体の魔人だった。

「姉さん、下がってろ」

「アルフィス!!あんなのに勝てっこないよ!!」

「心配無い。ちょっと耳塞いでてくれ」

「え……?」

そう言って、アルフィスはゆっくりと巨大な魔人に近づく。

アルフィスの腕に装着されたガンドレットの形状が徐々に変化していった。
手首あたりにある"腕輪"のような部分が溶け始める。
溶けた銀色の液体がアルフィスの手を覆うように絡みつくと、すぐに凝固し、銀色の爪になった。

アルフィスは鋭い眼光で魔人を睨むと、右手を前に掲げる。

「その程度の闘気か……てめぇ、生きて帰れると思うなよ……"エクスフレイム・マジック"!!」

アルフィスは一気に拳を握った。
鋭い銀の爪は掌を貫き、血が飛び散る。
だが、血は地面に落ちず、空中で停滞し、瞬時に霧のように拡散する。

霧のような血は、瞬く間にガンドレットへ吸収されると赤黒いオーラを放ち始め、熱波が広がる。

赤い雷撃が周囲に走ると地面を抉り、巨大な魔法陣がアルフィスの立つ場所に展開する。
同時に、"大竜の咆哮"が響き渡った。

その、あまりの轟音にリリーはすぐに両耳を塞いだ。

「な、な、な、なんなの……どうなってるのよ……」

涙目で震えながらも、アルフィスの姿を見るリリー。

アルフィスの装着するガンドレットから放たれる赤黒いオーラが"黒い炎"に変わった瞬間、リリーは思った……

そこにいるのは、もう自分の知ってる、"体が弱いアルフィス"ではないと。
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