地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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火の国編

それぞれの行方

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火の国 ガバーナル


アルフィスとリリーは馬を走らせてガバーナルまで戻ってきた。
一旦、ここに半日滞在し、次の日の早朝にラザンを目指す予定だ。

このままラザンまで一気に行く予定だったが、リリーの体調を鑑みて滞在するとこにしたのだった。

故郷ベルートが全滅し、自分達が暮らした屋敷が全焼していたとなればショックも大きい。
さらに追い討ちで、2人の謎の焼死体。

アルフィスの怒りは頂点に達しそうだったが、リリーのことも心配しての判断だった。


夕方にはガバーナルの宿前に馬に跨ったままで到着したアルフィスとリリー。
馬を降り、アルフィスがリリーの顔を見ると青ざめていた。

「姉さんは先に休め」

「え、ええ……」

リリーが入ろうとした瞬間、宿から見覚えのある女性が出てきた。

「アルフィス!リリー!」

「は、母上……」

「母さん!!」

目の前にいたのは、2人の母、アメリアだった。
リリーは涙し、すぐに走って、その胸に飛び込んだ。
アメリアも涙の中、リリーを抱きしめる。

「母上!よかった……よかったよぉ」

その光景を見たアルフィスも涙を目に溜めた。
あれだけ悪態を言っても、リリーにとって、やはりアメリアは母親だった。

「母さん……」

「アルフィス……無事でよかった」

「何度か死にかけたがな。どうしてここに?」

「話すと長くなるわ。リリーは先に休んで。顔色が悪いわ」

「うん」

「アルフィスには話しておかないといけないことがある」

「ああ。"ヤツ"のことだな」

アメリアは少し驚くが、アルフィスが"あの人物"に辿り着いたことを悟り、静かに頷く。

リリーは宿の1人部屋へ。
アルフィスとアメリアは、アメリアの部屋へと向かった。


__________



宿、アメリアの部屋。
ベッドにはリンが寝ていた。
その寝顔を確認したアメリアは部屋の中央の小さな机の横に置かれた椅子に座る。
アルフィスは腕組みをし、部屋のドアの前に立っていた。

「どこから話していいのかわからないわね」

「端的に頼むぜ……あまり時間は無さそうだ」

アルフィスの言う"時間"というのはアルフォードが国境を超えてしまうことの懸念だった。
土の国へ入られてしまったら、見つけ出すことは困難だ。

「アルフォードのことは知ってるのよね」

「ああ。土の国で、そいつがトップを務める組織と戦った。"ケルベロス"とかいう」

「なるほど。そこまで辿り着いたのね……」

「アルフォードは何を考えてる?」

「アルフォードは、とても優しくて、平和を願った……でも、それを完結させるために"あること"を思いついたのよ。恐らく、それを諦めきれずにいる」

「あること?」

「"魔竜を復活させる"ことよ」

アルフィスは首を傾げる。
何故、平和を願っているのに魔竜を復活させる話になるのか理解できなかった。

「最初、私が学生の時に聞いた話は、"竜血を無くす"という話しだった」

「竜血を無くす?そんなことできるのか?」

「私もそう聞き返したわ。その時、邪魔が入って最後まで聞けなかったけど、彼との最後の任務の時に詳細を聞いた」

「待てよ……まさか」

「魔竜を復活させれば、竜血は全て魔竜へ収まって無くなる」

「いやいや、確かに無くなるかもしれないが、魔竜が復活した方がヤバいんじゃないか?」

「彼はそう考えてなかったわ」

「意味がわからん……」

「彼は魔竜を復活させて、無属性魔法で竜の体から意識だけ切り離して無力化することを考えていたのよ」

アルフィスが思考するに、それは猫アルがおこなった魔法なのではと思った。
自分の意識を切り離して猫に入れた。
そして自分の体に、転生者ホウジョウシンゴの意識を入れる。

「だけど問題があった。彼は、それを解決する方法をずっと見つけられなかったのよ」

「問題?」

「宝具よ」

「宝具?宝具がどうした?」

「魔竜を復活させるためには宝具を全て一箇所に集めなければならない。それをクリアする方法が見つからなかった」

宝具はそれぞれの国に散らばっている。
セントラルのシックス・ホルダーだけは他国への移動を許されているようで、現状はアルフィスとロスト・フォースの使い手が他国へ行けることなっている。

「そして最後の任務……土の国でのことよ」

「なにがあったんだ?」

「彼は……何故か狂ってしまった」

「狂った?」

「任務が成功して、私とアルフォード、ビショップ、そのバディだったエヴィと食事をした次の日の夜、アルフォードはエヴィを殺した」

「はぁ?」

「その時、彼はもう彼では無くなってた気がする。私やビショップにも敵意剥き出しだったわ。そして彼の長い髪は黒から銀色に変わりかけてた。恐らく、ここに"ケルベロス"という組織が関わっているであろう……ということは後でわかったことよ」

アルフィスはアルフォードという人物に会っては無いが、この話を聞くに、確実に魔人であることがわかった。

「その後、私とビショップでアルフォードと戦って倒した……」

「……」

「あの時のアルフォードの強さは異常だったわ……今までに戦った、どんな敵よりも強かった」

「なるほどな……」

「その後、少しして、あなたが生まれたのよ。名前は最初からアルフォードと話し合って決めてた。"男の子ならアルフィスにしよう"って。ビショップはひどく嫌がったけどね」

そう言って笑みを溢すアメリアだったが、どこか悲しげだ。
愛する人を自分の手で殺めた時には、もう、その愛する人との間の子が、お腹に宿っていたのだ。
アメリアの気持ちは計り知れない。

そして同時に、ビショップがなぜ自分を嫌っていたのかがわかった気がした。
それは"アルフィス"という名前にアルフォードを感じていたからなのだろう。

「けど、アルフォードは生きていた……まさかベルートまで来るなんて」

「なんでベルートまで来たんだよ……」

「貸したものを返してもらうと、"黒い本"を持っていったわ」

「マジか……」

それは明らかにアルフィスが求めていた本、黒の魔導書だった。
この話を聞くに、黒の魔導書の本当の所有者はアルフォードだったということだ。

「そして、ビショップと執事のレナードを殺して、私達をモーンへ連れて行った」

「レナードもか……しかし、なんで、そんなところまで行ったんだ?」

「何か、計画の支障になる出来事を回避するためのようね。だから、私達が最後の任務で命をかけて捕まえた男を脱獄させた」

「誰だそれ?」

「"殺人鬼・イレイザー"よ。本名はリエン・セレスティー。100人以上の聖騎士と魔法使いを殺してるわ」

「セレスティー?……いや、待てよ、そいつも魔法使いなのか?」

「ええ」

「そんな数の聖騎士をどうやって倒すんだよ」

「彼は"竜の涙"というアーティファクトを持っていた……それは……」

「ああ……知ってるぞ……なるほど、そういうことだったのか」

この出来事がアルフォードの過去と繋がっていた。
ヴァネッサが欲しがった"竜の涙"を所持していたのはイレイザーという殺人鬼。
そして、その殺人鬼を土の国で捕まえたのがアメリアとアルフォード、ビショップ、エヴィだ。

「アルフォードは最後の任務の際、"竜の涙"を所持したままだった。私達も気づかなかった。それを元の持ち主であるリエンに返したのよ」

「だが、なぜ母さんも連れて行かれたんだ?」

「私を手土産にしたんだと思うわ。私はリエンの左目を切って失明させ、杖を持っていた左腕を切り落としてる」

「マジか……」

「だけど、リエンは私やリンには手を出さなかった。"身動きが取れない女、子供を殺す趣味は無い"といってね」

アルフィスが土の国でゾルディアから聞いた話はあながち間違ってないないのだろうと思った。
アメリアは、何人も聖騎士を殺した殺人鬼を追い詰めるほどの強さ。
強い人間を求めたアルフィスだったが、まさかこんなに近くに、これほど強い人間がいたとは思いもよらなかった。

「彼はラザンへ行ったと思うわ。セレスティー家に復讐するつもりよ」

「なぜセレスティー家に?」

「わからないわ。過去に何かあったのかも。かなり憎んでいるみたいだったから」

「どっちにしろラザンは通る……レイアのことも心配だし……セレスティー家に急ぐか」

「目的地は中央ラザンね……でも私はリンとここに残るわ。これ以上、この子に無理はさせられない」

「ああ、わかった。だが、よくここまで来れたな」

「セレン・セレスティーに助けられたのよ」

「セレンに?」

「ええ、あとスペルシア家のご子息、アインさんにも、とてもお世話になったわ」

「アインがこの国に?」

「探してる人がいるみたい。ここに着いて、すぐに別れたけど」

「そうか……あの時の借りは間違いなく返してもらったぜ……アイン」

それは水の国での出来事のことだった。
大きな借りだったが、間違いなく同等のお返しにアルフィスは目頭が熱くなる。

「俺はすぐにラザンを目指す……だがリリーがあの調子じゃあな」

「そういえば、あなたの2人のお友達、この宿に泊まってたわよ」

「友達?誰のことだ?」

「太った子と細い子」

「は?」

それはヴァネッサを南の野営地に送り届けるはずの舎弟2人。
時間的に荷馬車で、南の野営地まで行って、ガバーナルまで戻ってくるまでの距離を考えると、今ここに2人がいるのはおかしい。

アルフィスはアメリアの部屋を出て、2人の部屋を確認するため、一旦、宿のロビーへと降りると、ちょうど舎弟がいた。
2人は暗い表情をしていた。

「おい、お前ら!」

「ア、アニキ!!」

「なんで、お前らここにいるんだよ!」

妙に暗い顔の2人は顔を見合わせて、重い口を開く。

「そ、それが……」

「ヴァネッサちゃんが……」

「ヴァネッサがどうした?」

「行方不明なんです!」

「なんだと!?」

驚くアルフィスに、さらに暗い表情となる2人。
アルフィスからヴァネッサのことを頼まれていた責任もあってか、その重みを感じていたのだ。

「どこに行ったのかわからないのか?」

「はい……ただ……」

「なんだよ」

「妙な男と話していたのを見ました」

「妙な男?どんなやつだ?」

「長い銀髪の黒いロングコートの男です……」

「長い銀髪の男……まさか……」

この時、アルフィスにある考えが浮かんだ。
それはヴァネッサの求めていたものだ。

"黒の魔導書"と"竜の涙"

もし、この銀髪の男がアルフォードだとするなら、"黒の魔導書"を所持し、さらに行方不明とされた"竜の涙"がある場所もわかっている。

「おいおい……知らないヤツについて行くなってママから教わらなかったのかよ……」

「ア、アニキ……ヴァネッサちゃんは……」

「お前ら、どっちでもいい、馬は乗れるか?」

「おいら、乗れます」

手を上げたのはノッポの方だった。

「俺をラザンまで運んでくれ。デブは母さんとリリーを頼む」

「了解です!!任せて下さい!!」

こうしてアルフィス達、2人はラザンへ向かうため馬を走らせた。
アルフィスは"アルフォード"という人物に近づきつつあった。
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