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火の国編

イレイザー

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モーン・ドレイク


夕刻、刑務所を背にした2人の囚人がいた。

ボサボサの茶色の長髪で長身の筋肉質の女性囚人51番。
緑色のボサボサの長髪、細身で左手には小型のステッキを持つ男性囚人52番の2人だった。

数メートル先に向かい合うのはシックス・ホルダーのセレン・セレスティー。
左手には槍を持ち、鋭い眼光を囚人2人に向けていた。

「どうした?動きが止まってるぞ」 

セレンの言葉に息を呑む51番と52番の額には汗があった。
凄まじい強さの猛獣を目の前にした狩人のように2人は動けないでいた。

「ね、姉さん……こいつはヤバいよ……」

「ヤバいと言っても、こいつを殺さなければ私達の自由はないよ」

そう言うと、51番は手に持つショートソードを両手持ちし、斜め下に構える。
いつでも飛び出せる体勢だった。
後方に立つ52番もステッキ型の杖を前に構えて詠唱準備に入る。

「お前ら程度に"エンブレム"も"宝具のブラッド・オーラ発動"も必要無い」

「なんだと?」

51番のこめかみには血管が浮き出る。
明らかに目の前に立つセレンという女性は自分達よりも強い。

だが、それでも聞き捨てならない発言に、51番は地面を力強く蹴り、一気にセレンとの距離を縮めた。

「狩りには冷静さが必要不可欠だろ?地方の村々で人間狩りしてた貴様にはよくわかってるはずだ」

「そんなもの知るかぁ!!」

51番が到達寸前、風の球体が、セレンの頭上に発生した。
風の球はみるみる形を変えて長い刃物のような形になり、セレンへと落ちる。
それはまるでギロチンだった。

だがセレンは少しバックステップすると、それは目の前に落ちる。
落ちた衝撃で地面は砕かれ砂埃が上がった。

そこに51番が猛スピードで入っていった。

この"風の攻撃"は当たればダメージ、回避すれば砂埃での目潰しの二段構えの攻撃だったのだ。

「これで死ね、シックス・ホルダー!!」

52番はニヤリと笑った。
砂が舞って視界が遮られた中での戦いは、今ままでの"狩り"では何度も経験していた。

瞬間、52番の横を猛スピードで何が通り過ぎ、刑務所壁にズドンと音を立てて激突する。

「な、なんだ!!」

振り向くと、51番の巨体が刑務所の壁に食い込んでいた。

「面白い戦い方だな……だが、私には通用しない。こんなものが通用するのは戦い慣れしてないアマチュアだけだ」

52番が砂埃が舞う方を見返す。
すると舞っていた砂がビュンと円形に広がり、そこには槍を構えたセレンがいた。

「あとは貴様だけだな……52番」

「ひ、ひぃ……」

恐怖の表情を浮かべ、後退りする52番には、もう戦意は無かった。

セレンはゆっくりと52番に歩いて近寄る。

そして、目の前まで来たセレンは52番に鋭い眼光を向けると、右拳を引き、渾身の右ストレートを、その顔面に叩き込んだ。

その衝撃で、吹き飛んだ52番は刑務所の入り口付近の壁に叩きつけられ気を失った。

「さて、こいつらを中に押し込めて、ラザンへ戻るか……」

セレンは思考し、アインの方はアメリアがいれば大丈夫だろうと、1人で馬に跨ると、中央ラザンを目指した。


__________


火の国 中央ラザン


昼間のラザンの商店街には露店も多く、活気に溢れている。
町の住民も、旅人も大勢、買い物を楽しんでいた。

そこに一つの露店、果物が並んだ店があった。
品揃いはなぜか少なく、俯く店主はため息混じりだ。

「すまない、これをくれ」

「え?ああ、いらっしゃい!」

今日初めてのお客に、暗い顔で俯いていた店主の顔が一気に明るくなる。

店主が、その客を見ると、見窄みすぼらしいフードから両肩がはみ出るほど体格で、長身の男性客だった。

そして店主が一番気になったのが、髪の色。
赤いボサボサの短髪で、その髪は半分以上が"銀色"だ。

左眼は斬撃を受けたのか、額から頬まで斜めに切り傷があり潰れていた。
さらに左腕を見ると、服の袖を結んでいる。
これは"左腕が無い"という意思表示でもあった。

「あ、あんた、任務の帰りかなんかか?」

「まぁ、そんなところだ」

「魔獣にでもやられたのか?あまり、無理しないことだぞ。強くも無いのに、でしゃばると長生きできんぞ」

その店主の言葉に、赤髪の男は驚くが、すぐにニヤリと笑った。

「そうだな……だが、これは魔獣にやられたわけじゃない。昔、恐ろしく強い聖騎士に切り落とされたのさ」

「へー。悪い聖騎士もいたものだ」

「ふふ。俺の方が悪者かもしれないよ」

そう言って赤髪の男は、硬貨を指で弾いて店主へ渡す。
そして、一つだけリンゴを取ると、その場を後にしようとした。

「また来るよ」

「ああ。あんたの顔覚えておくよ。名前は?」

この質問は、ただの興味本意だった。
少し振り向く赤髪の男は無表情で一言だけ口を開いた。

「"イレイザー"だ」

それだけ言うと、赤髪の男は笑みを溢し、人混みへと消えていった。

店主は眉を顰めた。
その名に聞き覚えがあったからだった。
そして、この名の主を思い出すと一気に青ざめる。

それは数十年前に、この国に出現した最強の火の魔法使い。
聖騎士、魔法使い、合わせて100人以上殺した"殺人鬼・イレイザー"だった。
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