地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
191 / 200
火の国編

また、いつか、どこかで

しおりを挟む

火の国 南の野営地


早朝、野営地から少し離れた丘の上。
時より強く風が吹き、草木が揺れていた。

そこは広い平地で中央には大きな木が立っている。
その大きな木を中心として、周囲には多くの石造りの墓が無造作に並ぶ。
墓の数は百を超えていた。

その中にある一つの墓。
四角い石造りで、真ん中には赤い宝石が埋め込んである。
その前に立つのはアルフィスとセレンの2人だった。
アルフィスの手には黒い表紙の本があった。

「すまないな。無理言ったみたいで」

「いや、どのみち、ここの配属になったのなら私の部下に変わりはない。丁重に葬るのは当然のことだ」

「ありがとう。だが、あの薬はどうしてこの国に運ばれたんだ?」

「あれは、妹や部隊の仲間の竜血病を治すために運ばせたんだ。まだ、これからも悪化する者は多く出るだろうから、大量にな」

「なるほどな。しかし、あの小瓶以外、屋敷と一緒に吹っ飛んだんだろ?」

「いや、全て無事だった」

「なに?」

アルフィスは眉を顰めた。
これを画策した"イレイザー"という人間の目的が全くわからなかった。

「地下に、妹達とレイを閉じ込めていたが、そこに一緒にあったんだ。ヤツの目的は殺戮じゃなかった。ただ、正したかっただけなのさ……セレスティー家の所業をね」

「そうか……だが、レイも無事でよかった」

「お前のおかげだ、アルフィス。この礼は存分にさせてもらう」

アルフィスは笑みをこぼす。
だが、すぐに悲しそうな表情に変わった。

「いや、"癒しの薬"で貸し借り無しだ」

セレンにそう言うと、アルフィスはゆっくりと墓の前に歩き、しゃがみ込むと黒い本を置く。

「ん?大事な本なんだろ?」

「貸すって、約束だからな。また取りにくる」

「次はどこへ向かうんだ?」

「会いたい人がいる……そいつに会ってくるぜ」

アルフィスは立ち去ろうと振り向く。
すると丘を登ってくる人影があった。

「ノッポ……デブ……それに、あいつら……」

セレンも、その光景見るとニヤリと笑う。
登ってきたのはノッポとデブだけではない。
南の野営地、全部隊の聖騎士、魔法使い、数十名。
皆の手には一輪の花があった。

「たった一人のために……ここまで……会ったこともないんだぞ」

「確かに、見たことも話したこともない人間だが、そんなものは関係ない。この部隊に入ったからには、みんな家族さ」

「そうか……」

アルフィスは墓へ向き直る。
しゃがみ込み、真ん中に埋め込まれた赤い宝石にそっと触れると、自然に涙が頬を伝った。

「ヴァネッサ……ここに、お前をいじめるやつなんていない。ゆっくり休め。そして、また……いつか、どこかで……」

ノッポ、デブは号泣していた。
さらに集まった部隊全員は真剣な表情だ。
誰一人として、この死をないがしろにする者などいない。

一人、また一人と順番に墓の前へ出ると、手に握る花を置いた。
 
アルフィスは、その光景を目に焼き付けると、南の野営地を出発して、セントラルを目指すのだった。


____________


セントラル 南東門


通例のごとく、そこには長蛇の列を作る。
アルフィスが乗る馬車はその列を無視して進むが、何か複雑な気持ちだった。

馬車を降りて検問へ行く。
そこには毎回、対応する顔見知りの聖騎士がいた。

「おう。通してもらうぜ」

「あ、はい!どうぞ!」

「おいおい、どうした、そんなにかしこまって」

「い、いえ!シックス・ホルダーともなれば流石に……」

アルフィスは頭を掻く。

視線を感じ周囲を少し見渡すと、列に並ぶ人々、全員が興奮気味だ。
アルフィスの姿を見た魔法使い達は声を上げ喜び、聖騎士の女性達は顔を赤らめる。

アルフィスはため息をつくと検問にいる聖騎士に向き直った。

「あんまり畏まるな。俺なんて大したことはない」

「い、いえ!そんなことは……」

「最強……、シックス・ホルダー、……なんて言われても、たった一つの命すら守れないんじゃ、そんなもんに何の意味もないさ」

それだけ言うとアルフィスは門を抜けてセントラルへ入っていく。

「あ、あの!どちらまで?」

「風の国に行く」

アルフィスは歩きながら聖騎士に手を振り、セントラルの中へと消えていく。

アルフィスは久しぶりに、一緒に戦ったバディに会うため、また少しだけ長い旅へと赴くのだった。



火の国編 完
____________



火の国 

ある日の夕刻のことだった。

"火の塔"は入り口を抜けると螺旋階段がある。
その螺旋階段の数は作った人間ですらわからないほど。

数時間かけて上がると、巨大な門が佇む。
その中には大きな部屋があり、中は黒い壁と、焦げたような匂いが漂う。

そして赤絨毯が一本、部屋の奥へ向かって伸びる。
部屋の奥には数段の段差があり、真ん中には玉座があった。
部屋の天井まで届くほどの炎の彫刻が印象的な椅子だ。

そこに一人の男が目を閉じて座る。
銀の長髪に少し赤が混ざり、後ろで束ねる。
細身の筋肉質、上半身は裸で、下は黒いレザーパンツを着用していた。

足を組み、椅子の肘掛けに、左肘を置き、拳を作って頬に当て寝ている。

男はゆっくりと目を開けた。
その瞳は炎のように真っ赤だった。

「凄まじい気配が二つ……この位置はセレスティー家か」

瞬間、ズドン!という轟音が外に響いたのが聞こえた。

「なんという強さ……この二千年間、感じたことの無い、とてつもない気配だ。これは人間なのか?カインやリーゼ……レノをも超える気配だ」

外には、もう星空が見える。
玉座に座る男はニヤリと笑った。
この胸の高鳴りは何百年ぶりか……そう考えただけで口元が緩んだのだ。

「強さに飢えているのなら、ここまで上ってくるといい。この俺が……"火の王・ロゼ"が遊んでやる」

そう言うとロゼは高笑いした。

温度が上昇し、"真紅"の粒子が部屋中に広がる。
粒は数千、数万にも及び、その一粒、一粒は収束された魔力で構成された"極熱の炎"だった。

そして、ロゼの高揚に反応するかのように、巨大な地震が、火の国の全土を揺らした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...