地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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最終章

ルーキー

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セントラル 北東門


風の国への入り口とも言うべき、この門の前には早朝からでも行列はあった。
門から吹き込んでくる、風は強く、甘い花の香りも同時に運ぶ。

門を抜けて風の国へ入国した2人の若者がいた。
今年、魔法学校と聖騎士学校を卒業したエリクスとティアだ。

エリクスは水の魔法使い。
大きい杖を片手に持ち、黒い髪に少しだけ青が混ざった肩まである長髪、グレーのローブを着ていた。

ティアは火の国出身の剣士だった。
ショートカットの黒髪で、ほんの少しだけ赤が混ざっている。
白いワイシャツに軽装の革の鎧で、青いジーンズを履き、左腰にはレイピアを差す。

2人は初任務ということもあってか緊張感もあるが、それ以上に新しい旅立ちに胸が高鳴っていた。

「ティア!ついに初任務だな!」

「あんた、そんなに浮かれないの!」

「ティアだって、昨日寝れなかったって言ってたじゃないか」

「ま、まぁ、そうね」

ティアは少し顔を赤らめる。
興奮して眠れなかったとなれば、なにか子供のようで、流石に恥ずかしくなった。

「それより、馬車は用意してあるんでしょうね?」

「ああ。レイメルに行く行商人に乗せてもらうことになってるよ」

「はぁ……やっぱり、名をあげない限りは屋根付き馬車には乗れないわよね」

「そうだね……でも、ここから名を上げて、二つ名手に入れて、シックス・ホルダー目指そう!」

「こらこら、そんな大きい声で言ったら恥ずかしいじゃないの!それこそ子供の夢みたいなものでしょ!」

ティアは、また顔を赤らめつつ周りをキョロキョロと見た。
近くには1人だけ、ボロボロのフードを着た人間しかいなかった。
フードを頭まで被っているため、男性か女性かもわからない。

「もしかしてあれが行商人?」

「い、いや違うと思うけど……」

そんな会話をしていると、門から荷馬車が出てきた。
御者は年配の男性で、馬車の荷台には野菜や果物があり、座るとなるとせいぜい3人が限界だった。

「待たせたね」

「いえ!」

「こ、これに乗るのね……」

笑顔のエリクスだが、ティアは顔が引き攣る。
興奮気味のエリクスとため息混じりのミーナは荷台に乗り込む。

その時、近くにいたボロボロのフードを着た者が寄ってきて話しかけてきた。
その声は男性だった。

「すまない。この荷馬車はどこまで行くんだ?」

「え?ああ、馬車はレイメルに向かいますが、僕達はモルナアトラで降りて、東の洞窟の調査に行きます」

「そうか……悪いが乗せてもらえないか?邪魔だと判断したらすぐに降ろしてもらっても構わない」

「え?」

フードの小柄な男性の言葉に2人は顔を見合わせた。
ティアは怖い顔で首を横に振る。
エリクスが思うに、これ以上馬車が狭くなることを懸念しての行動だろうと感じた。

「いいですよ。旅は道連れっていいますからね!」

「エリクス!あんた!」

「いいじゃないか。これも何かの縁だよティア」

エリクスの笑顔を見たティアは再びため息をつく。
そして少し横に詰めると、フードの男を向かい入れた。

「すまないな」
 
男性の言葉にティアはそっぽを向く。
エリクスは苦笑いするものの、目の前に座ったフード姿の男性は怒る気配はなかったので安堵した。

こうして3人を乗せた荷馬車はモルノアトラを目指した。


____________


出発して数時間、沈黙に耐えられなかったエリクスはフードの男性に話しかける。

「あの、もしかして魔法使い……の方ですか?」

「エリクス……バディ無しで魔法使いが1人で歩くわけないでしょ」

「いや、俺は魔法使いだ。バディは必要無い」

この発言に2人は驚いた。
魔法使いは聖騎士と組むことで最大限に力を発揮する。
それが必要無いというのが信じられなかった。

「あんたら、今年の卒業生か?」

「え?は、はい。と言っても少し訓練が長引いて数ヶ月セントラルにいましたけど……」

「なら同い年だな。敬語じゃなくてもいい」

エリクスとティアは、また驚き顔を見合わせた。
恐らく自分達と同じ、目の前のフードの男性は今年の卒業生。
バディがいないとなるとセントラルに残って見習いとして雑用をやらされる。
一人旅なんて以ての外、新人が1人で歩くなんてありえなかった。

「今年の卒業でバディ無し?どこの下級貴族よ」

「ティア、そんな言い方は……」

「どうせ、見習いが嫌で逃げてきたんでしょ?」

フードの男性な少し笑ったような気がした。
それが聞こえてか、ティアが隣を睨む。

「まぁ、そんなところだ。やっぱり俺はどこへ行っても1人が好きなのさ」

「はぁ?」

ティアには、この男性の言葉が理解できなかった。
"常識はずれ"、"頭のおかしい魔法使い"と完全に割り切ると、ティアは、それ以上口を開くことはなかった。

会話はエリクスが繋いだ。
それからモルノアトラまでニ日半ほど。

町に辿り着くまでに調査する洞窟がある森が見えたが、フードの男性は、その方向をじっと眺めていたのが、エリクスは気になった。


____________


モルノアトラに到着し、エリクスとティアは降りた。
2人は買い出しの後、すぐに森へと向かうとのことだった。

「乗せてもらって悪かったな。このまま俺はレイメルに行く」

「いや、大丈夫。何事も助け合いだから」

フードの男性の言葉に笑顔を見せるエリクス。
一方、ティアは全く男性の方を見ずにそっぽを向いたままだ。

「では、僕たちはこれで失礼します」

「ああ、そうだ」

エリクスとティアが去ろうとした時、フードの男性はすぐに呼び止めた。

「あの森に入って、ヤバいと思ったらすぐに引き返せ。いや、恐らくそうなる」

「え?」

「とにかく、忠告はしたからな」

その言葉に首を傾げながらも、エリクスは軽く頭を下げて、ティアと一緒に商店街を目指した。

「何よあれ。意味がわからないわ」

「……」

「どうしたの?エリクス」

「い、いや、なんでもない」

「あんな、ボロッボロのフードの魔法使いの言うことなんて聞くことないわ。どうせ私達が羨ましかったのよ。卒業してもバディがいないなんて、いい笑いものだし」

「ああ」

ティアがエリクスの顔を覗くと、何か考え事をしてきるような表情をしていた。
ティアはため息をつくと、エリクスの背中を思いっきり叩いた。

「痛い!!」

「シャキッとしろ!二つ名手に入れて、シックス・ホルダーになるんでしょ!」

「……ティア」

「何よ」

「声が大きいよ……」

ハッとティアが気づいた時には遅かった。
周囲を見ると、ベテランと思われる聖騎士や魔法使いは2人を苦笑し、睨む者までいた。

「とにかく、これが初任務だし、ミスするわけにはいかないわ!頑張りましょう!」

「うん!そうだね!」

エリクスとティアの2人は買い出しを早々に済ませると、モルノアトラから南西の方角にある洞窟を目指すのだった。
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