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最終章
ヒガンバナ
しおりを挟む火の塔の最上階
広いこの部屋の壁は一面が黒い。
さらに焼け焦げた匂いが漂っていた。
アルフィス・ハートルの装置したガンドレットは形状を変えていく。
腕輪の部分が溶け、どんどん手に絡みつくと、鋭利な爪となって凝固する。
ゆっくりと奥へ……火の王・ロゼが座る玉座へと歩き出した。
その距離は数百メートルはある。
ロゼは椅子に深く腰掛け、足を組み、拳を作って頬に当て、くつろぐ。
アルフィスが少し気になったのは、ロゼは魔法具を持っていないという点だった。
だが、アルフィスは構わず右手を掲げる。
そして、一気にその手を握った。
「"エクスフレイム・マジック"」
部屋内に大竜の咆哮が響き渡り、アルフィスが立つ場所に巨大な赤い魔法陣が展開する。
ガンドレットは次第に赤黒いオーラを放つが、それは一瞬にして漆黒の炎へと変わった。
さらにアルフィスの髪の色は全て銀色になり、瞳の色も赤くなる。
アルフィスは前に少し体を傾けると、赤絨毯を踏み締めて、瞬時にその場から消えた。
コンマ数秒。
数百メートルの距離を一気に詰めると、玉座に座るロゼに右ストレートを打つ。
瞬間、ズドン!と大爆発が起こり、爆煙が広がった。
「爆炎衝撃!!これが俺の拳だ!!」
ロゼを中心に熱波が展開する。
爆煙が吹き飛ばされ、目の前の光景を見たアルフィスは息を呑んだ。
ロゼは左手の人差し指、たった一本だけでアルフィスの右ストレートと爆発の衝撃を止めていた。
「な、なんだと!?」
「……」
ロゼは無言でアルフィスを睨むと、手のひらを広げ、"真紅の熱波"を展開する。
あまりの熱圧にアルフィスは後方に数百メートル吹き飛ばされた。
アルフィスは空中でバク宙すると、そのまま"黒炎の弓"を作る。
そして、一瞬で、それを放った。
「黒薔薇矢!!」
"黒炎の矢"が玉座に座るロゼへ高速で向かう。
だが、ロゼは少しだけ手を横に動かすと、熱波がそれに反応し再度発生。
黒炎の矢の軌道は大きく逸れて、玉座の数メートル横に当たって、小さく連続した爆発が起こる。
着地したアルフィスは動揺することなく、次の攻撃に出た。
「魔力収束……」
手のひらを広げ、そこに魔力が集まる。
巨大な黒炎の球が、徐々に小さくなり、ビー玉ほどの大きさになった。
「炎龍巨星!!」
アルフィスは右ストレートで、黒炎の球を殴る。
撃ち出された炎はレーザー砲のように鋭い線でロゼへと向かう。
それを見たロゼも、手を前に出して広げた。
すると、"小さな真紅の火球"が作られる。
その作成スピードはアルフィスとは違い、一瞬だった。
そしてロゼは火の球を軽く指で弾く。
すると、その球はレーザー砲のように鋭い線になって飛び、アルフィスの黒炎のレーザーと部屋の中央でぶつかり合った。
凄まじい熱量が部屋に広がる。
"真紅のレーザー"と"漆黒のレーザー"の力比べだったが、強さは同等。
部屋の中央で大爆発を起こし、アルフィスは衝撃で門に叩きつけられた。
「がはぁ!!」
かろうじて立つアルフィス。
正面を睨むと、爆煙から姿を現したロゼは相変わらず玉座に深く腰掛け、足を組んでいる。
深くため息をついたロゼは重い口を開く。
「拍子抜けだ」
「なんだと……?」
「"覚醒"と"武装"の混合攻撃は単なる力任せ。"収束"は魔力を圧縮させるスピードが遅すぎる。ヴォルヴ・ケインを使って、この程度とは……期待はずれだな」
アルフィスのこめかみに血管が浮き出る。
完全にキレていた。
「この程度だと、俺を玉座から動かすことは不可能だ。何時間、何日、何ヶ月、何年やろうと」
「てめぇ……」
「もういい。お前の力はわかった。ここまで来てくれた礼だ、俺の50%ほどの力で葬ってやろう」
ロゼの燃え上がるような眼光がアルフィスを睨む。
その凄まじい"闘気"は首を絞められるようだった。
今にも気絶しそうなほど息苦しく、押しつぶされそうなほどの殺気。
ここから放たれる魔法を想像しただけで、アルフィスは金縛りにあったかのように動けなくなった。
……そして、それは、すぐさま唱えられた。
「"魔力収束・火岸花"」
そのロゼの言葉に反応するように、部屋の中に小さな真紅の粒子が何千、何万と発生した。
アルフィスが魔力収束で作れる弾は一つだけ。
だが、ロゼはそれを一瞬で数万作り、部屋中に展開させる。
アルフィスは一歩も身動きがとれなかった。
少しでも動けば、極小の炎の粒子に触れる。
そうなれば、何が起こるのかすらわからなかった。
「俺が、この部屋を"闘気"で覆い守らないと、ラザンごと無くなる。これは、それほどの威力だ……遠慮無く受け取ってくれ」
そう言うとロゼは広げていた手を一気に握る。
瞬間、粒子の全てが大爆発を起こし、それは塔の周辺に巨大な地震を起こすほどの衝撃だった。
その一つ一つは大魔法級の魔力が圧縮された粒子。
たった一つでも人間では、到底耐えることができないほどの火力だったが、それが数万回、連続爆発させる。
爆発は数分間にも及び、凄まじい轟音は鳴り止まない。
ようやく連続した爆発が終わった頃には、部屋の中は、黒煙と焦げた匂いが充満していた。
「アルフィス・ハートルだったか。ほんの少しだけ楽しめたよ。……しかし、これから先、また退屈な日々が何百年続くのやら」
ロゼは目を閉じる。
恐らく、この先、客は何年も来ないだろうと、深い眠りにつこうとしていた。
だが、ロゼは妙な気配を感じ、すぐに目を開けた。
「まさか……ありえん」
目の前の黒煙から、ビュンと何かが飛び出した。
赤い歪な線は、一瞬でロゼに到達する。
それは、真っ赤な目を見開き、夥しい量の黒炎を全身に纏ったアルフィス・ハートルだった。
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