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エターナル・マザー編

通り名

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なぜ生命は断続しつづけるのだろうか?

そこには必ず母体が存在するが、繰り返される生命の断続を見守り続けることは決してできない。

誰のもとにも死はやってくる。
生命である以上、誰一人として時間の牢獄から出ることはできない。
死から逃れることはできないのである。

だが……もしも永遠に生きられるとするなら?

"母体"が永遠であるなら、子も永遠に生み出され続けるのだろう。

____________________


ナイト・ガイのメンバーは次の町である、イース・ガルダンを目指していた。

北にある王都から南西にある湖の真ん中にある町だ。

数日はかかると思われる旅だった。
街道を進むと商人や冒険者と多くすれ違った。
なぜか、その際すれ違いざまに横目で見られているようで、メンバーたちは眉を顰めた。

ガイは耐えかねて口を開いた。

「なんか……妙に見られてる気がするんだけど」

「ええ……私も感じてたけど」

「気のせいじゃないの?」

楽観的なローラの発言にガイとメイアは顔を見合わせた。
"考え過ぎか"と思った2人。
そんなやり取りをクロードは笑みを浮かべて見ていた。


ある程度進むと道が二手に分かれていた。
森を通るルートと街道ルートだった。

北へ向かうには森を通り抜けるのが一番早い。
クロードが言うには日数にして一日か、二日は違うだろうとのことだった。

「ただ、問題は魔物が出るということだ。ガイは波動を使えないし、ローラも怪しい」

「"怪しい"ってどういう意味よ」

「前衛二人が波動を使えないのなら、街道を進む方が安全だろう」

無視されたローラの顔はふくれる。
ガイは少し考えていた。
このままクロードの言葉に甘えていいのだろうかと。

「俺は森を進みたい」

「ほう」

「今のままじゃ。カトリーヌに勝つどころの話じゃない。少しでも実践経験を積んでおきたいんだ」

「メイアとローラがいいと言うなら僕は構わないよ」

「あたしは構わないわよ」

「私も大丈夫です」

「決まりだな」

「悪いな……俺がもっと強ければいいんだけど」

「最初から強い人間なんていないさ。ガイはよくやってる。この短期間でレベル10の魔物を討伐するほどだからね」

ガイはその言葉に励まされた。
メイアとローラも笑顔で頷いている。

「では森へ入ろう」

「ああ」

メンバーたちが森に入ったのは昼頃だった。
ここから一日の野宿で森を抜ければイース・ガルダンは目と鼻の先となる。

魔物が潜む可能性が高い森。
パーティメンバーは強い緊張感と共に先に進んだ。

____________________


森林の特有の緑の匂いが強かった。
最近まで雨が降ったのか地面がジメジメしている。

ある程度、森を進んだ頃だった。
ローラ以外の3人は気配を感じていた。

「複数……か」

「ああ」

「人……ですかね?」

ローラは眉を顰めて辺りを伺うが何も見えない。
構わず進む3人の後を追った。

すると正面に人影が3つ見えた。
それは明らかに人間であったが、さらにその先には黒い影がある。

「戦闘中のようだな」

「ええ……でも様子がおかしいです」

人影を見ると若い男1人、女性2人のパーティのようだった。
バンダナを巻いた男の剣士は女性2人を守るようにして前に立つ。
女性の1人はローブ姿で遠距離型なのだろう。
もう1人は膝をつき短剣を地面に突き刺した状態でかろうじて立っているようだった。

若い男剣士の前にいる魔物は四足歩行の黒い狼のようだったが、見るからに人間の体ほどある大きさをしていた。

「メイア!援護を!」

「ええ!」

ガイとメイアは走り出した。
距離にして数百メートルだったが、すぐに戦闘場所まで到達した。

3人の冒険者たちはガイとメイアの姿を認識した。
一方、ガイとメイアは冒険者たちを追い越し、黒い狼へ向かう際に3人とすれ違う。
少し横目で見ると若い冒険者たちはボロボロで息が荒かった。

黒い狼もガイを認識した。
一気に駆け出すと、口を開き鋭利な牙で噛みつこうとガイへ向かって飛んだ。

ガイは立ち止まり左腰のダガーのグリップに右手を添える。
飛び込んできた黒い狼の牙を体勢を低くして回避し、引き抜いたダガーの柄頭を"顎"へ当てた。

ドン!という音が響くと黒い狼は宙を見る。
同時に左太もものダガーを左手で逆手に引き抜くと横斬りで黒い狼の首に一閃をあびせた。

そのままガイはダガーを振り抜いた勢いで回転し、回し蹴りを黒い狼の腹に当て吹き飛ばす。

「"炎の彗星"!!」

メイアが放った小さい炎の球は高速でガイを通り過ぎて黒い狼へ向かう。
炎の球が着弾すると、さらに黒い狼は吹き飛び、数百メートル先の木に叩きつけられると、火柱に包まれた。

一部始終を見ていた若い冒険者たちは唖然としていた。
ものの数秒で自分たちが苦戦していた魔物を倒してしまったのだ。

「す、すげぇ……」

男の剣士が呟く。
ガイとメイアは3人の冒険者の元へ歩く。

「大丈夫か?」

「あ、ああ。助かった」

「よかったです」

ガイは安堵しメイアは笑みを浮かべる。
若い男の剣士は2人の姿をじっと見ていた。
後方にいる女性たちもそうだ。

「もしかして、その髪の色……君たちはガイ・ガラードとメイア・ガラード?」

「え?」

「どうして私たちの名前を……?」

不意に名前を言われて困惑した。
この若い3人の冒険者とは会ったことはないし面識はない。

「やっぱりそうだ!」

3人は顔を見合わせると満面の笑みを浮かべる。

「どういうことだ?」

「どうも、こうも、"ナイト・ガイ"は駆け出し冒険者の間じゃあ有名だよ!」

「そうそう!まさかこんなところで会えるなんて奇跡だわ!」

「ガラード兄妹に会えるだけじゃなくて助けてもらえるなんて……」

3人は興奮気味だった。
全く話の読めない状態にガイとメイアはどうしていいのかわからなかった。

そこにクロードとローラが合流した。

「君たちはどこで僕らのパーティのことを聞いたんだ?」

「え?どこって、いろんなところで噂になってるぜ。駆け出しなのにレベル8やらレベル10の魔物を討伐した兄妹がいるって」

「なにそれ、そんなに噂広まってるの?アダン・ダルを出てから一週間も経ってないけど……」

さすがにローラも困惑していた。
魔物レベル10の討伐はつい最近だ。

「通り名もカッコいいし。俺たち駆け出しの憧れさ」

「通り名?」

「"瞬炎しゅんえんのガイ"と"炎女神ほむらめがみのメイア"さ」

「な、なんだよそれ……俺は聞いてないぞ」

ガイは開いた口が塞がらず、メイアは顔を赤らめる。
どこからそんな名前が出てきたのか理解できなかったのだ。

「とにかく、この恩は忘れないよ!」

「ありがとうございました」

「またどこかで!」

若い3人の冒険者は、そう言って先に進み始めた。
残されたナイト・ガイのメンバーたち。

ガイとメイアはしばらく放心状態だった。

「なんで、あんたらだけ、そんなカッコいい通り名もってるわけ?」

「それは俺らが知りたいよ!」

「え、ええ……女神は……言い過ぎかと思います」

そんなやり取りを見ていたクロードは笑みを浮かべて口を開いた。

「いいじゃないか。パーティとして有名になることでSランクも見えてくるというものさ」

「別にSランクになりたいわけじゃ……」

「この国の姫様と婚約できるんだ。これ以上、望むことはあるまい」

ガイはそういった話には興味はあまりなかった。
だが、旅を始めたら妙に女性からアプローチされることが増えたような気もした。

クロードの言葉にローラは複雑な心境だった。
自分でも気づかないほど鼓動が早くなっている。

「とにかく、ちんたらやってないで進むわよ!」

「何怒ってんだよ」

「怒ってないわよ!!」

ローラの激昂が森中に響き渡った。
ガイとメイアは顔を見合わせ、クロードは苦笑いする。

4人は先に行った若い冒険者たちを追いかけるようにして森を進んだ。

ここからは何事もなく、メンバーたちは森を抜けることができたのだった。
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