最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

文字の大きさ
80 / 251
エターナル・マザー編

ゲイン・ヴォルヴエッジ

しおりを挟む

クロードとリリアンは一足遅れてアカデミアへと戻る。
玄関先にはユーゲルと先ほどとは違う騎士がいた。
重厚な鎧を身に纏い、顔が隠れるほどのかぶとを着けた騎士。
羽織る真っ赤なマントは地面につくほどで、歩けば引き摺りそうな長さだった。

ユーゲルは2人に気づく。

「おお、リリアン団長、クロードさん!」

「ユーゲル団長、どうしてここに?姫様から事情を聞くのではなかったのでは?」

「それが、もう休まれるということで部屋にお戻りになってしまったようで……」

「そうか……」

リリアンはため息混じりに一言だけ。
驚きもせず、ただ呆れた様子を見るに、ザラ姫という存在の人間性を理解してのことだろうとクロードは感じた。

「そういえば、そちらは?」

クロードが聞いた。

「ああ、サイフィス・アドラス。今は第五騎士団の副団長です」

「今は?」

「ええ。前にいた副団長は左遷したんです。ちょっと問題を起こしまして」

ユーゲルは苦笑いしながら言った。
そのまま続けて、

「とりあえず応接間へ行きましょう。ゲイン卿とブリハケット施設長がおりますので」

「え、ええ」

いつも気丈なリリアンの表情が曇った。

____________


廊下を歩く4人。
先行するのはユーゲルとサイフィス。
クロードはリリアンと並んで歩く。

気を紛らわしたいのかリリアンが口を開いた。

「そういえばメイアに言ったこと……どういう意味?」

「なんの話だ?」

「学校は波動を学ぶ場所よ。自分が知らないことを知者から学ぶ。あなたが言っていたことを考えると、"生徒同士の馴れ合い"のように感じたから」

「君の話は正しいよ。だが、今のメイアに必要なのは同年代とのコミニュケーションだ。彼女はずっと大人の中にいたからね。精神が成熟した人間との関わりが多かった」

「どういうこと?」

「冒険者は荒くれ者も多いが、ごく当たり前の"道理"はわきまえる。だが、人間社会にはそれに大きく反する者達もいる。どんな人間だと思う?」

「なるほど……"子供"ってことね」

「そう。メイアには前々から話ていたことがあってね。"自分の話はあまりするな、寡黙であって相手の話をよく聞け、そしてその発言をよく思考して、場合によっては吸収し、自分のものにしろ"と」

「……」

「"大人の情報"はおおかた収集できただろう。メイアに学ばせたいのは人間の子供の思考なのさ。それらの情報は必ず将来の役に立つ」

「……あなたは、メイアに何をさせたいの?」

「別に何も。彼女は将来有望だと思ったから、色々教えているだけさ。彼女は……いい母親になる」

クロードは笑みを溢して言った。
納得したリリアンは少し頷く。

会話しているうちに応接間の前まで来た。
ユーゲルがドアを開けると部屋には2人の先客があった。

テーブルの前に置いてある椅子に腕組みをして座っている初老の男性。
白髪でオールバック、高そうなスーツを着込でいる。
彼は落ち着きが無く、足を小刻みに動かしていた。
クロードが見るに、この男がブリハケットなのだろうと思った。

そしてもう1人、部屋の奥の窓際に置かれたソファに腰掛ける騎士らしき服装の男性。
長い白髪を後ろで結い、それを肩にかけて流す。
彫りの深い顔つきで30代後半といったところか。
足を組み、手には本が握られており、そこに視線を落としていた。

「ゲイン卿……」

リリアンの顔が青ざめていた。
恐怖や不安、焦りとさまざまな負の感情が入り混じる。
確かに、この白髪の男、ゲイン・ヴォルヴエッジがいるだけで部屋の空気は凍るように冷たく感じた。

4人に気付き、ブリハケットは入り口を見る。
座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がると、ドン!と机を両手で叩いた。

「これは、どういうことだ!!誰の仕業だ!!」

怒号が響き渡り、ユーゲルが汗をかきつつ部屋の中央まで進んだ。

「これは……その……」

「なんだ、言ってみろ!!」

ユーゲルは次の言葉を発することができなかった。

「ザラ姫が犯人だろう」

それはユーゲルとサイフィスの背後から聞こえた声だ。

「誰だ!!貴様は!!」

「彼は……リリアン団長の……」

「僕はリリアン団長の友人ですよ」

そう言いつつ、クロードは少し前に出た。
ユーゲルとサイフィスは間を開けるようにして振り向く。

「なんだ、この小汚い……いや、リリアン団長殿のご友人……何かの間違いでは……」

「いえ、私の友人のクロードです。彼は私の命の恩人です」

「まさか……メリルお嬢様を犯人にしたという男か……」

ブリハケットの言葉に反応するかのようにパタンと音がした。
部屋の奥、ソファに座るゲインが本を閉じた音だった。

リリアン、ユーゲル、ブリハケット、全員の視線がゲインへと向き、一同が息を呑む。

「ああ、妹を捕縛した男……クロードさん……なかなか面白い名前だね」

「……僕を恨んでいるのか?」

「恨む?何を?」

ゲインは冷ややかだが鋭い視線をクロードへと送る。

「感謝したいほどだ。我が家をけがす不浄な存在を消し去ってくれたのだから」

「消し去ってはないが」

「現に行方不明だろう。まぁ私はそれでも構わん。私の前に二度と姿を見せないのであれば文句などない」

「……」

「それで気になったのだが、"ザラ姫が犯人"だと?」

「ああ」

「なぜ、そう言い切れる?」

「話によると、ザラ姫がサンシェルマから出たところ、あまり時間差もなく火の手が上がったと。もはや姫様しかこの犯行は無理と考えるのが自然だと思うけどね」

「君は……本当にフィラルクスの事件を解決したのか?」

「どういう意味かな?」

「二年前にも同じ事件があったことはユーゲル第五団長から聞いていると思う。同じ場所、同じ犯行……しかも前回も今回もザラ姫の滞在中だ。そして姫様はあろうことか前回疑われている。そんな状況で同じ事件を姫様が起こすだろうか?」

「……」

「仮定の話だが、前回の事件の犯人が姫様だとしよう」

ゲインがそう言った瞬間、ブリハケットが思わず口を開いた。

「ゲイン卿!!」

「ブリハケット施設長……黙っていなさい」

「は、はい……」

ゲインの眼光がブリハケットへと向く。
だが、それをすぐにクロードをへと戻す。

「姫様が犯人だった場合、こんな事件は起こすはずはない。一度、疑われたのに再度、同じような犯行で事件を起こすのはリスキーだ。また、前回の私の推理通り姫様が犯人でなかった場合もしかり。これは動機の面からだが、わざわざ自分の気に入ってる店の店主を殺すだろうか?何の目的があってそんなことをする?」

「動機を推測しはじめたらキリがないだろ。逆に言えば、どんな些細なことだって動機になりうる。僕は状況判断でものを言ってる。夜に店が閉まっているのに、そこから出てきたのはザラ姫、その後すぐに火の手が上がって店主の焼死体が見つかる」

「そうだな。だが、殺して火まで放ったのに、わざわざ正面玄関から出てきたとは頭を傾げる話だ。それに極論ではあるが君はザラ姫がサンシェルマの店主を殺すところを見たのか?」

「いや」

「なら、それ以外の推理もできるではないか。状況判断ならザラ姫が犯人だが、そう仕向ける"ギミック"があるとするなら?」

「ハッキリ言ってもらいたい」

「今回の事件は犯人が他にいる。その犯人はザラ姫をおとしいれるために、この犯行を計画。そしてそれを今日実行した」

「根拠は?」

「それは今から調べる」

無表情だったゲインが少し笑みを浮かべた。
クロードはため息をつくと振り向き、応接間のドアへ向かった。
リリアンを通り過ぎてドアを開けて応接間を後にする。
驚いたリリアンはすぐにクロードを追った。

「クロード!どうしたんだ!」

「なにが?」

「"なにが"って、この事件はどうするの?」

「僕には関係ないよ。ただ状況から見てザラ姫が犯人だとは言ったが、それだけだ。ゲイン卿が調べると言っているのだから任せたらいい」

「それも……そうだが……」

「何かあるのか?」

「この事件は……何か変な気がするのよ」

「変?」

「ええ。メリルの件もそうだったけど、ゲイン卿は何か……いえ……私の考えすぎかもしれないわね。引き止めてごめんなさい」

今にも泣きそうなリリアンの表情を見たクロードは大きく息を吸った。

「君には紹介状の借りがあったな……それを返さねばなるまい」

「え?」

「だが、もしゲイン卿の言うように犯人が他にいてザラ姫に罪をなすりつけようと犯行に及んだとするのなら厄介だよ」

「どういう意味?」

「もし本当にそんな人間がいるとするのなら、"かなり頭がいい人物"だ。ザラ姫の行動を全て把握してなきゃ成立しないからね」

「確かに……」

「今日は遅い、明日の朝にサンシェルマで会おう」

「クロード……でも、ガイはどうするの?」

「今、僕の目の前にいるのは君だ。僕は君を助ける」

リリアンは自分でも知らぬうちに涙が頬を伝った。
その涙を見たクロードはただならぬ事実を察し、この事件の真相を調査することになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』 そこにある小さな村『リブ村』 そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。 ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。 なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。 ミノタウロス襲撃の裏に潜む影 最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く ※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...