最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

生き残りたち(3)

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イザークを先頭に向かっているのはベンツォードの南地区にある診療所だ。
診療所は南にあるといっても中央寄りで砦に近かった。

ガイとメイア、クロードと並び、その後方からアッシュとローゼルが続く。

次に会うのは"ウィルバー・ドランク"だ。
このベンツォードの専属医師で騎士たちの体調管理を任されている人物。

「俺、ちょっと彼のこと苦手なのよね」

アッシュがボソリと呟く。
その発言をローゼルは聞き逃さなかった。

「それなら無理に会う必要もないでしょう。団長には他にやるべきことがあるかと」

「え?」

「書類仕事です」

その言葉にアッシュは目頭を摘む。
そしてうなるように言った。

「あー、突然なんか具合が悪くなってきたねぇ」

「誤魔化してもダメですよ」

「ローゼルちゃん、人にはねぇ向き不向きってあるわけよ」

「ただあったことを、ありのまま書けばいいだけです」

「それが苦手だって言ってるんだけどねぇ」

部下や外部の人間がいるのにも関わらず、このやる気のなさ。
騎士団という組織の規律から一脱した態度には、さすがのガイも呆れていた。

そんなやり取りをしていると西側の方から一頭の馬が走ってきた。
乗っていたのは女性の騎士のようだ。
馬はアッシュとローゼルのすぐ横に止まり、乗っていた女性はすぐに降りた。

「団長、ここにいらしたんですか」

「おー!エマちゃん、ちょうどいいところに!」

"エマ"と呼ばれた女騎士はガイやメイア、クロードから見ても妙に地味だった。
貴族特有のオーラのようなものも感じず、どちらかといえば平民に近い。
ブラウンの短い髪を邪魔にならないように全て後ろで束ねている。
馬を降りた時に金属音がしたのを聞くと鎧を身に纏っているのだろうが、全身を包む防寒着のローブでそれは見えなかった。

彼女の印象は"やる気が感じられない"ということ。
それはナイト・ガイのメンバー全員が感じていたことだ。

「王都から使いが来ておりました。なんでも急ぎの用とのことです」

「手紙でなくて直接来るとは……」

「西門の前で待たせてあります」

「了解。すぐ向かう」

アッシュの口元が緩むのがわかった。
それを見たローゼルが口を挟む。

「団長、そちらは私が行きますから、どうぞ砦にお戻りになって書類仕事を」

「何言ってるのよローゼルちゃん。これは明らかに緊急だよ。俺が行かなくてどうする」

「……面倒ごとを後回しにすると痛い目を見ますよ」

「俺は追い込まれてから強くなるタイプなの」

アッシュはそう言うと西門の方へと歩き出した。
ローゼルはため息混じりに後を追う。

「あとは任せるよ」

アッシュはただそれだけ言って去ってしまった。
その光景を見ていたガイとメイアは呆気に取られている。
残されたのはナイト・ガイのメンバーとイザーク、そして今来たエマという女騎士だ。

エマも会釈をして立ち去ろうとしたが、すぐにイザークがそれを止めた。

「エマ、ちょっと待って。彼らの話を聞いてもらえるかな?今回の事件を解決するために団長が雇われた方々なんだ」

「事件?解決?」

目を細めて睨むようにガイたちを凝視する。
明らかに敵対心を感じる目だった。

「解決も何も犯人は逃走したでしょう。解決したいのなら奴らを追ったらいい」

「エマ……」

困った表情をするイザークだが、構わずにクロードが前に出て口を開いた。

「この砦の居住区は四つに別れているね。女性の騎士はどこに住んでるのかな?」

「私に聞かなくても副団長に聞けばわかるでしょう」

エマの発言に怒りを露わにしそうになるガイ。
握り拳を作るのが見えたメイアはガイを止めた。

すぐにイザークが言った。

「女性の居住区は東側になります」

「なるほど」

納得したクロードはエマを見た。
その瞳にエマは息を呑む。

「君はなぜ南側にいたのか聞いてもいいかい?」

「嫌よ。私は何も答えないわ」

「そうか」

「もう行ってもいいかしら?」

「ああ」

クロードが言うとエマはすぐに馬に跨った。
このやり取りにはイザークもため息をついている。

「そういば……」

そこにクロードがふと思い出したように呟く。

「まだ何かあるの?」

「砦がほぼ壊滅して生き残った女性は君だけだと思ってね。さぞ寂しいのではないかなと」

この発言にエマは一切、表情を変えることは無なかった。
むしろその表情は冷酷さを感じさせる。

「まぁ、しょうがないでしょう。こうなっちゃったんだから。それに彼女たちにとっては"名誉の死"なんだから死後の世界ではさぞ誇っていることでしょう」

「君は悲しくないのかい?」

「悲しい?なんで?」

「仲間が死んだんだ。悲しむものだろうと思ったんだが」

「仲間ねぇ。そうね、"ある意味"悲しいかな」

「ある意味?」

「ええ。彼女たちの泣き叫んで死ぬ様を是非この目で見たかったわ……」

やはりエマは全く顔色を変えずに言った。
しかも副団長がいる前でだ。

「冗談よ。私は行くわ」

そう言って馬に乗ったエマは東地区の方へと走り去って行った。
すぐに申し訳なさそな表情のイザークは口を開く。

「すいません、私の部下が……」

「いえ。そういえば気になったのですが、なぜ王都から来た者が西門に?普通は南門か東門ではないですか?」

「ああ。今、開門してあるのは西門だけなのです。他の三つの門はよほどのことが無い限り開けません」

「なら襲撃は西門から?」

「そうなりますね」

この情報に少し考え込むクロード。
最初、南から向かってきたガイたちだが最初の目的地が砦ではなかったため、ここの"南門"は見ていない。
ネルーシャンから真っ直ぐに砦に来ると必然的に"西門"から入ることになるためだ。

「とにかく診療所へ向かいましょう」

「ええ」

イザークが笑顔で言った。
促されるままナイト・ガイのメンバーはウィルバー医師に会うため診療所を目指した。
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