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秩序の牢獄編
鍵
しおりを挟むそろそろ日も落ちかける頃。
メイアとクロードは騎士のジェニスと別れた後、ギルドへ向かっていた。
現状、謎が謎を呼ぶという状況だった。
橋の下の老人の話でカトレアに婚約者がいたというのは本当だったが、それは想像していた人物像とは異なっていたからだ。
婚約者である老人の息子というのは屋敷で仕事をしているはずで、冒険者では無いとのことだった。
だがジェニスの話によると婚約者は"冒険者"で、すでに死亡しているとのこと。
どうやら現状、この町の冒険者たちを仕切っているデュラン・リンバーグの元パーティメンバーだったようだ。
「ギルドにデュランもいればいいがな」
「ええ。もしかしてデュランさんが秩序造物主なのでしょうか?」
「可能性はあるだろう。デュランは冒険者だからね。昨晩の音楽祭には出席していないだろうから、これは考えなくてよくなる」
推理する側としては、あまり深く考えなくてもいい落とし所ではあった。
"デュランが秩序造物主である、ということに気づいたことによってカトレアは殺された"
そう考えれば楽だった。
「しかし不思議なのは、なぜデュランはこの町で馬鹿正直に安い依頼を受け続けるのか……そして秩序造物主だったとしても、依頼報酬である大金の出どころはどこなのか?」
「ずっと貯め続けていたのでしょうか?それとも支援者でもいるとか……」
「ずっと貯め続けていた金を、一つの小さな町の犯罪を無くすために使うというのは考えづらい。僕もパトロンの線は考えたが、そうなればパトロンはデュランが秩序造物主であるということを知ってることになる。今回の事件の動機が"秩序造物主の正体に気づいた"で間違いないとすれば、この犯人は誰かに協力を求めるタイプには見えない。恐らく単独犯で、いても相当な近しい協力者が一人か二人、そうなると冒険者のデュランはどうも犯人像とは異なるようにも思える」
「やっぱり、またデュランさんに会うしかないでしょうか?」
「本人に会っても話してくれるかどうかだね。どうもこの事件を調べられるのは嫌そうだった」
「嫌そう……といえば領主のサンドラさんもそうでしたね」
「ああ。それも気になるところだ」
「ですが、デュランさんが何も言わなければ手詰まりです」
「そうだね」
ここまで情報を追いかけてきたが、デュランから何も聞き出せなければ途切れてしまう。
しかし、昼間に武具屋の前で会った際の対応を見るに絶望的であった。
2人は思考を重ねながらも歩みを進め、ギルドに辿り着いた。
デュランに情報を聞くよりも先にガイに会う方が先だ。
恐らく猫を捕まえられずに機嫌が悪くなっているだろうと想像していた。
窓から灯りが見えるギルド。
2人は木作りのドアを開けて中へと入る。
するとギルド内に響き渡る女性の声がした。
見ると受付のところで揉めているようだ。
数人の冒険者がいたが、全員が関わりたくないといった様子で受付カウンターを見ることもしない。
メイアとクロードはそっとギルドのドアを閉めて女性を見た。
「ねぇ!一体どうなってるの!!」
「は、はぁ……そう言われましても……」
「こんな簡単な依頼もこなせないなんて、冒険者なんて大したことないわね!!」
怒気を含んで言い放つ女性は、綺麗な金色の髪を後ろで束ね、高級そうな毛皮のコートを羽織る。
少しふくよかな体型の品の良さそうなマダムといった印象だった。
「いつまで待たせる気なの!」
「ほ、本日、依頼を受けた冒険者がいましたので、もうしばらくお待ち頂ければ……」
「はぁ!?あの子がいなくなってから、もう五日も経つのよ!道端で死んでたりしたらどう責任取るっていうの!」
「は、はい……申し訳ありません」
"激昂"という言葉がよく似合うほどの罵声だった。
受付嬢はペコペコと何度も頭を下げるが、マダムの怒りはおさまる気配はない。
その時だ。
バン!と勢いよくギルドのドアが開けられる。
入ってきたのは赤髪の少年だった。
「ガイか……ん?何を持ってるんだ?」
「何って依頼されたものだよ!」
ガイは両腕で包み込むように、黒いふさふさした毛のようなものを抱いている。
さらに顔には引っ掻かれたのうな跡があり、ところどころが赤くなっていた。
「随分と傷だらけに見えるが」
「こいつが予想以上に逃げ足が早くて、捕まえたら捕まえたで暴れるからさ。おかげでミラとも逸れちまったよ」
「ミラ?」
クロードは首を傾げた。
聞き覚えのない名前だっからだ。
瞬間、受付嬢が声を上げる。
「ああ!来ました!」
「え?」
マダムはガイを見ると目を輝かせて走り寄る。
ガイの腕にいたのは"異様に毛の長い猫"だった。
「ああ!私の可愛い子!よかったわぁ!」
ガイは抱えていた毛の長い猫をマダムへ優しく手渡した。
するとマダムは態度を一変させ、満面の笑みでガイに言った。
「ありがとうね!坊や!」
「"坊や"じゃねぇけど……まぁ、よかった」
「この恩は忘れないわ!」
「ああ」
そう言ってマダムはギルドの入り口へと向かう。
その際も両腕で抱えた猫に頬ずりしながら歩いていた。
「さぁ、お腹空いたでしょう。今日はスージーちゃんの好きなサーモンステーキを用意してあるから一緒に食べましょうねー」
打って変わる上機嫌さに呆気に取られたギルド内の冒険者たちだが、構わずマダムは去っていった。
一方、クロードとメイアは真剣な表情で見合わせる。
すぐにガイはハッとしたように言った。
「あ、そういえば、これ渡すの忘れたな」
「なんだそれは?」
「猫が暴れた時に首輪から外れちゃってさ」
そう言ってガイは手に持った物をクロードに見せた。
それは"小さな鍵"のように見える。
持ち手の部分が"スペードのマーク"を模った鍵だった。
「返してくるよ」
「いや、それはマダムの鍵じゃない」
「じゃあ、これって何の鍵なんだよ」
「それは時計塔の地下へ行くための鍵だ」
そう言ってクロードはニヤリと笑った。
橋の下の老人が言っていた"スージー"とは人間の女性のことではない。
先ほどの女性が飼っている"猫"だったのだ。
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