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5.はじめてのクラスイベント
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涼が女子たちとの距離を少しずつ縮めていった頃、学校では一つのイベントが迫っていた。春の恒例行事――校内レクリエーション大会だ。学年全体で行われるこのイベントでは、クラス対抗で競技や発表を行い、団結力を高めることを目的としていた。
涼にとって、それは楽しみよりも不安の方が大きかった。
「ねえねえ、今年の競技、リレーもあるってよ! どうする、誰が出る?」
昼休み、女子たちのグループが盛り上がっていた。涼は窓際の席からその様子を見ていた。彼が輪に加わろうか迷っていたそのとき、美咲が気づいて手を振った。
「涼! こっち来なよ! リレーのメンバー決めてるの!」
「え、僕も?」
涼は驚いた。運動は得意ではない。むしろ苦手な部類に入る。それでも、美咲は笑顔で頷いた。
「もちろん。うちのクラス、みんなでやるんだよ。一人だけ外れるのはナシ!」
輪の中に招き入れられた涼は、女子たちの熱意に圧倒されながらも、少しだけ嬉しさを感じていた。リレーは一人100メートルの短距離走。苦手だが、逃げるわけにはいかないと覚悟を決めた。
⸻
放課後、校庭では練習が始まった。
「涼、腕振りが小さいかも。もっと大きく!」
「うん、ストライドも狭いよー。もっと足を前に出して!」
女子たちは、涼の走りを見て素直な感想を口にする。指摘は的確で、遠慮がない。だが、それがむしろ涼には心地よかった。彼はようやく、“気を遣われすぎない関係”の中に入っていると感じていた。
練習の合間、美咲が隣に座り、水筒を差し出してくれた。
「思ってたより走れるじゃん、涼。」
「いや、ぜんぜんだよ…でも、なんか頑張りたくなってきたかも。」
「うん、それでいいんだよ。私たちも、涼がいるからクラスがうまく回ってるって思ってるよ。」
その言葉に、涼は思わず目を伏せた。今までは“浮いてる存在”だと思っていた自分が、クラスの一員として必要とされている――それがこんなにも嬉しいなんて。
⸻
大会当日。
緊張感が教室を包んでいた。リレーの順番は後半。涼の出番はアンカーの一つ前。順位を大きく左右する重要なポジションだった。
「いけるよ、涼!」
「昨日の練習、すごくよかったよ!」
女子たちの励ましの声が飛び交う中、涼は深く深呼吸した。いつもならプレッシャーに負けていたかもしれない。でも今は違う。このクラスでの居場所を、ようやく手に入れた気がしたから。
スタートの号砲が鳴り、レースが始まった。バトンが次々と繋がれ、歓声と歓声の合間、涼の順番が来る。
バトンを受け取った瞬間、何かが弾けた。風を切る感覚、足元の地面の反発、それらすべてが涼を前へと押し出す。苦しい。けれど、心は軽かった。
バトンをアンカーの真琴へ渡すと、涼はその場に倒れ込んだ。
「涼、大丈夫!?」
美咲が駆け寄る。その横で真琴がゴールテープを切ると、場内に歓声が沸き起こった。2位だった。1位ではなかったが、皆が心から満足していた。
「ありがとう、涼! あのラップ、すごかったよ!」
「かっこよかったよ!」
女子たちの声に囲まれながら、涼はうつむいたまま笑った。こんなふうに、誰かと一緒に何かをやり遂げたこと――それが、心から嬉しかった。
⸻
その日の帰り道、涼は一人で校門を出たところで立ち止まった。春の夕陽が赤く地面を照らしている。
“たった一人”だったこのクラスで、今、自分は“みんなの中の一人”になれた気がする。
これからもっと、うまくやっていける気がした。
涼にとって、それは楽しみよりも不安の方が大きかった。
「ねえねえ、今年の競技、リレーもあるってよ! どうする、誰が出る?」
昼休み、女子たちのグループが盛り上がっていた。涼は窓際の席からその様子を見ていた。彼が輪に加わろうか迷っていたそのとき、美咲が気づいて手を振った。
「涼! こっち来なよ! リレーのメンバー決めてるの!」
「え、僕も?」
涼は驚いた。運動は得意ではない。むしろ苦手な部類に入る。それでも、美咲は笑顔で頷いた。
「もちろん。うちのクラス、みんなでやるんだよ。一人だけ外れるのはナシ!」
輪の中に招き入れられた涼は、女子たちの熱意に圧倒されながらも、少しだけ嬉しさを感じていた。リレーは一人100メートルの短距離走。苦手だが、逃げるわけにはいかないと覚悟を決めた。
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放課後、校庭では練習が始まった。
「涼、腕振りが小さいかも。もっと大きく!」
「うん、ストライドも狭いよー。もっと足を前に出して!」
女子たちは、涼の走りを見て素直な感想を口にする。指摘は的確で、遠慮がない。だが、それがむしろ涼には心地よかった。彼はようやく、“気を遣われすぎない関係”の中に入っていると感じていた。
練習の合間、美咲が隣に座り、水筒を差し出してくれた。
「思ってたより走れるじゃん、涼。」
「いや、ぜんぜんだよ…でも、なんか頑張りたくなってきたかも。」
「うん、それでいいんだよ。私たちも、涼がいるからクラスがうまく回ってるって思ってるよ。」
その言葉に、涼は思わず目を伏せた。今までは“浮いてる存在”だと思っていた自分が、クラスの一員として必要とされている――それがこんなにも嬉しいなんて。
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大会当日。
緊張感が教室を包んでいた。リレーの順番は後半。涼の出番はアンカーの一つ前。順位を大きく左右する重要なポジションだった。
「いけるよ、涼!」
「昨日の練習、すごくよかったよ!」
女子たちの励ましの声が飛び交う中、涼は深く深呼吸した。いつもならプレッシャーに負けていたかもしれない。でも今は違う。このクラスでの居場所を、ようやく手に入れた気がしたから。
スタートの号砲が鳴り、レースが始まった。バトンが次々と繋がれ、歓声と歓声の合間、涼の順番が来る。
バトンを受け取った瞬間、何かが弾けた。風を切る感覚、足元の地面の反発、それらすべてが涼を前へと押し出す。苦しい。けれど、心は軽かった。
バトンをアンカーの真琴へ渡すと、涼はその場に倒れ込んだ。
「涼、大丈夫!?」
美咲が駆け寄る。その横で真琴がゴールテープを切ると、場内に歓声が沸き起こった。2位だった。1位ではなかったが、皆が心から満足していた。
「ありがとう、涼! あのラップ、すごかったよ!」
「かっこよかったよ!」
女子たちの声に囲まれながら、涼はうつむいたまま笑った。こんなふうに、誰かと一緒に何かをやり遂げたこと――それが、心から嬉しかった。
⸻
その日の帰り道、涼は一人で校門を出たところで立ち止まった。春の夕陽が赤く地面を照らしている。
“たった一人”だったこのクラスで、今、自分は“みんなの中の一人”になれた気がする。
これからもっと、うまくやっていける気がした。
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