共学の学校にもしも男子が1人しかいなくなったら?

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10 転校生と波紋

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春の風が少しずつ暖かさを帯びてきた頃、2年C組にひとりの転校生がやってきた。

「えっと、今日からこのクラスに入ります、真田蒼(さなだ・あおい)です。よろしくお願いします。」

静かな声に、どこか凛とした空気が漂っていた。スラッとした長身に整った顔立ち。そして、淡い色の瞳が印象的だった。

――男子だった。

教室に軽いざわめきが走る。女子ばかりのクラスに涼一人、という“珍しい構図”が続いていたが、そこに新たな男子生徒が加わったのだ。

「男子もう一人来たねー!」

「涼くん、やっと仲間ができた?」

周囲は軽い冗談交じりに盛り上がったが、当の涼は少し複雑な心境だった。

(…正直、ちょっとホッとする。でも――)

気がつくと、美咲が少し離れた席から涼を見ていた。その視線は優しかったが、どこか少しだけ、不安げにも見えた。



「よろしく。俺、朝倉涼。」

昼休み、涼は思いきって真田に声をかけた。

「…ああ。よろしく。」

それだけで会話は終わった。

真田蒼は無口で、人との距離感が独特だった。誰とでもフラットに接するが、深く踏み込ませない――そんな印象を受けた。

だが、それがかえって女子たちの興味を引いた。

「真田くんって、クールでかっこいいよね!」

「なんか漫画のキャラっぽい!」

気づけば、真田を中心にした女子たちの輪ができ始めていた。

(今まで“唯一の男子”だったけど、これからは違う)

涼は、その変化に戸惑いを感じながらも、表面上はいつも通りを装っていた。



放課後、美咲と帰り道を歩いていると、彼女がぽつりと口を開いた。

「涼、ちょっと元気ない?」

「…そう見える?」

「うん。無理して笑ってるとき、わかるようになってきたから。」

美咲はそう言って、立ち止まった。

「真田くんのこと、気にしてる?」

「…少しだけ、ね。」

正直な気持ちだった。自分だけだった“居場所”が、少しずつ変わっていく。そんな小さな不安が、涼の胸に渦巻いていた。

すると、美咲はふっと微笑んだ。

「でも私は、涼の味方だよ。真田くんが来たからって、涼のこと忘れたりしない。」

その一言に、涼の胸はじんわりと温かくなった。

(そうだ。美咲が、いてくれる)

心の拠り所がある。それだけで、どんな変化も受け止められる気がした。
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