共学の学校にもしも男子が1人しかいなくなったら？

9 日常の中の特別な関係

文化祭が終わり、校内には一抹の寂しさと安堵が漂っていた。飾りは片付けられ、廊下にはいつもの静けさが戻ってきた。

だが、涼の中では確かに“何か”が変わっていた。

美咲と話すとき、どこか照れくさくなる。隣の席に座っているだけで、鼓動が速くなる。文化祭の最後、裏庭で交わした言葉が、ずっと胸に残っていた。

「…これからは、演技じゃなくても、隣にいてくれる？」

（うん、いるよ。ちゃんと――）

その日から、美咲との距離は自然と縮まっていった。朝の挨拶、帰り道の会話、ちょっとした目配せや笑顔。周囲も気づいているのか、二人をからかうような視線や囁き声も増えた。

「ねえねえ、美咲と涼ってさ、なんか雰囲気変わったよね～」

「まさか、ほんとに付き合ってるとか？」

そんな噂も飛び交ったが、二人は特に否定も肯定もせず、静かに受け止めていた。

涼は、驚いていた。

以前の自分なら、こうした注目に押し潰されていたかもしれない。でも今は――むしろ、少しだけ誇らしかった。

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昼休み、屋上で二人だけの時間を過ごすようになった。

「最近、ちょっとずつみんなとも自然に話せるようになってきたんだ。」

涼がそう言うと、美咲は嬉しそうに頷いた。

「うん。私、前から思ってた。涼って、すごく気を遣ってるのに、それを顔に出さないんだよね。」

「…それ、褒められてる？」

「もちろん。優しいってことだよ。」

二人の関係は、特別だけど、どこか穏やかで、自然だった。

かつて涼が感じていた「男子ひとり」という孤独感は、もうそこにはなかった。誰かに認められ、誰かとつながっている。その実感が、涼の表情を柔らかくしていた。

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放課後、美咲と一緒に昇降口を出ると、空は赤く染まり始めていた。

「ねえ、涼。」

「ん？」

「来年の文化祭も、一緒に何かやろうね。」

「……うん。演劇でも、なんでも。」

「また“彼氏役”やってくれる？」

「そのときは…“本物の彼氏”として出るよ。」

冗談めかしてそう言った涼に、美咲は驚いたように目を見開いたあと、少しだけ頬を染めた。

「――それ、楽しみにしてる。」

そんなふたりの背中を、春の風がそっと押していた。