共学の学校にもしも男子が1人しかいなくなったら?

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15 波紋とざわめきの午後

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涼と美咲が付き合い始めて一週間。教室の空気は穏やかなようで、微かなざわめきをはらんでいた。

「朝倉くんって、付き合ったら意外と堂々としてるよね」

「でもさー、なんか調子乗ってない?七瀬さんが優しすぎるんじゃない?」

「もともと“男子一人”って特別扱いだったし…なんか引っかかるんだよね」

そんな小声が、時折教室の隅で囁かれるようになった。



ある昼休み、涼は階段裏で、偶然その会話を聞いてしまった。

(…俺のせいで、美咲に何か言われてたらどうしよう)

その不安は、午後の授業中も頭を離れなかった。

放課後、帰り支度をしている美咲に、涼はそっと尋ねた。

「…なあ、美咲。周りから何か言われてない?」

「んー?少しはあるけど、気にしてないよ」

「でも――」

「涼。私は、あの日ちゃんと選んだんだよ。噂とか、陰口とかじゃなくて、“私の気持ち”で」

涼は何も言えなかった。目を伏せたまま、唇を噛む。

「…でも、俺さ。やっぱり“男子一人”って特別な扱いを受けてた。それが気に入らない人もいるって思うと、怖い」

「ううん。涼が特別なのは、“男だから”じゃない。“あなただから”なんだよ」

その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

(守られてばかりじゃ、だめだ。俺も、美咲を守れるくらい強くならなきゃ)



数日後。涼はHRでクラス全員に向けて、こう言った。

「俺、七瀬と付き合ってます。正直、男子ひとりの環境でいろいろあったけど、それでも彼女のことが好きで、ちゃんと一緒にいたいと思ってる。だから、変な噂を立てるのはやめてください」

教室が一瞬、しんと静まり返った。

次の瞬間、誰かがぽつりと呟いた。

「…いいな、ああやって正面から言えるの。うらやましい」

続けて別の女子も。

「…確かに、朝倉くん、最初から逃げてなかったもんね。文句言うの、筋違いかも」

少しずつ、ざわめきは溶けていった。

涼の言葉が、静かに、でも確かに空気を変えていた。



帰り道、美咲が言った。

「ねえ、私、今日ちょっと泣きそうだったよ」

「なんで?」

「かっこよすぎて…ずるいって思った」

涼は頬をかきながら照れ笑いした。

「俺のほうこそ、ずっと守られてたのは俺だったから。ありがとう」

二人の手が重なった夕暮れ、季節は確実に“次”へと歩みを進めていた。
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