夏の終わりに

佐城竜信

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「ふぅ……。疲れたな。もうだいぶ歩いたんじゃねえか?」
彰吾が汗を拭いながら言った。まだ家を出て一時間も経っていないのだが、彰吾はすでにくたくたになっているようだ。そんな彰吾の姿を見て彰久はため息を吐いた。
「まったく。だらしないな親父は。正義さんの言っていた通り運動不足だろ」
「うるせぇな。つーか、こんな暑い中歩いてんだからしょうがねぇだろ」
「はいはい」
彰吾と彰久は近くの公園に来ていた。繁華街の通りに面した公園で遊具は少なく、小さな子供が遊ぶには適していない場所だ。そのベンチに彰吾を座らせ、
「親父、ちょっとそこで休んでろ」
そう言い残して彰久は自販機へと向かう。その彰久の背中を見送っていると、繁華街の方から声が聞こえてきた。そちらを見ると金髪の如何にもハーフといった感じの女性が二人の男に絡まれているようだった。
「お姉さん美人だねぇ~。俺たちと遊ばない?」
「いえ……結構ですから」
「遠慮することなんか無いって!ほら行こうぜ!」
一人の男が強引に女性の手を引く。それを見た彰吾は舌打ちをして走り出すと、女性と男たちの間に割って入った。
「おい!嫌がってんだろうが!」
「なんだてめえは!関係ねぇ奴は引っ込んでやがれ!」
男の拳が彰吾の顔面目掛けて飛んでくる。彰吾は彰久とは違い、格闘技の経験どころか、まともに喧嘩をしたことすらなかった。それでもなんとか避けようとするが、相手の動きのほうが速い。
(やべっ……)
彰吾は殴り飛ばされ、地面に転がった。口の中が切れ、血の味がする。
「おいおい、おっさんよ。大丈夫か?」
もう一人の男がニヤリと笑って近寄ってくる。
「なんだよ、だっせーなぁ。女一人守れねーのか?」
「ちっ……黙りやがれ」
彰吾は立ち上がり、近づいてきた男の顔に膝を叩き込む。だが、相手はそれを片手で受け止めると、彰吾の腹に拳を打ち込んだ。
「ぐっ……!」
彰吾は苦痛の声を漏らしながらその場に崩れ落ちる。そんな彰吾の髪の毛を掴み、男は無理やり立たせた。
「おいおい……随分と舐めた真似してくれるじゃねーか」
「てめぇこそ……よくも俺の親父を殴ってくれたな」
横から声がしたので彰吾が視線を向けると、そこには彰久がいた。
「なんだぁ?兄ちゃんが代わりに殴られてくれるってか?」
「ああ、そうだ」
彰久がそう言うと、彰吾は驚きのあまり目を大きく見開いた。
「お前……何言ってんだ」
「いいから、早く逃げろよ」
「馬鹿野郎!そんなことできるわけねぇだろ!」
「……だったら、ここで大人しく見ていろ」
彰久はそう言って彰吾を睨みつける。そして、男たちを鋭い眼光で見据えた。
「へぇ、威勢が良いな。でもよ、この状況が分かってんのか?二人相手に勝てると思ってんのかよ?」
「ああ、もちろんだとも」
彰久は自信満々に答えた。
「へえ、面白いじゃねえか。だったらよ、まずはお前からやっちまうか」
「やれるもんならやってみな」
「……後悔するなよ」
彰吾の髪を掴んでいた男が彰久に向かっていく。彰吾はその隙に男の手を振りほどき、彰久の後ろに隠れた。
「いくぜ、おらぁっ!」
彰久の腹に拳が叩き込まれる。ばきぃ、と嫌な音が響くが。痛がっているのは彰久ではなく、殴ったほうの男の拳だった。
「……!?」
彰久が放った掌底は男の顎を捉えていた。そのまま脳震盪を起こし、地面に倒れこむ。
「てめえ!」
もう一人が彰久の顔を蹴り上げようと脚を上げる。しかし、それよりも速く彰久の左肘が相手のこめかみに打ち込まれた。
「うぎゃぁぁっ!!」
悲鳴を上げて倒れる。彰吾はそんな光景を見て呆然としていた。
「……ははは」
彰久は笑う。
「ざまあみろ」
そう言って、彰久は彰吾を見る。
「親父が俺を守ってくれたように、今度は俺が親父を守る番だ」
「……お前」
彰久を呆然と見ていた彰吾だったが、突然笑い始めた。
「はは、ははは」
「なんだよ、気色悪いな」
「いや、お前も言うようになったなと思っただけだ」
「当たり前だろ」
彰久も笑いながら答える。
「俺はまだまだ子供だけどさ、いつか親父のことを守れるくらい強くなるよ」
「……おう」
彰吾は照れくさそうに頬を掻く。
「まあ、それまでは俺がしっかりしなきゃいけないけどな」
「そうそう。お前はもっと俺を頼ってくれてもいいんだぜ?」
彰吾と彰久は顔を見合わせて笑った。
その時だった。
「あ、あの……。彰久君?」
彰吾が助けようとした女性が話しかけてくる。
「峰岸先輩?」
彰久はその女性、峰岸由紀子を見て驚いた表情をした。
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