夏の終わりに

佐城竜信

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千里のバスケの試合の日がやってきた。
「大丈夫か?千里」
千里はちょっと前まで体調が悪かったし、まだ時々悪夢は見るようだ。それでも千里の顔色はよく、これ以上ないというくらいの笑顔を浮かべて、
「大丈夫!今日は絶対に負ける気がしないよ」
と言った。その表情からは自信が窺える。
「そうか……それなら大丈夫だな」
彰久もそんな妹の様子に安心して頷いた。
今日行われるのはバスケの県大会だ。リーグ形式の試合が夕方まで行われ、これに勝てば全国大会へと進める。だから、と千里は続ける。
「今日は絶対に優勝しなきゃいけないからね!なんていったって、今日優勝すれば全国大会に行けるんだから。峰岸先輩の試合を今日で最後にしないためにも、ね!」
千里はちらりと、背後にいる由香里に視線を送る。その視線に気が付いたのか、由香里はにこやかに笑顔を浮かべて手を振っている。
そして明るい声でこういった。
「千里、彰久君といちゃいちゃしたいのもわかるけど、そろそろミーティング始めるわよ」
「してません!」
千里は思わず顔を赤くして否定した。そして彰久の方を向くと、
「それじゃあ彰久、行ってくるね」
と手を振った。彰久も微笑んで手を振る。
「ああ、頑張れよ!」
それから千里は由香里たちの元へと走っていく。
(もう大丈夫そうだな)
そう思いながら、あれだけ体調が悪くなっていたのが自分のせいだと考えると胸がチクリと痛んだ。千里と別れた彰久は応援席へと向かう。そこには正義と真理、そして小百合と雄介と正志が座っていた。
「真理姉。千里に応援の言葉をかけなくてよかったのか?」
「大丈夫。私が何か言うよりも、彰久君の言葉の方がきっと千里の力になるわ」
真理がそう言うと、正義と雄介もうんうんと頷いている。
「なんだよそれ」
彰久はそう言って苦笑しながらも、どこか嬉しそうな様子だった。
一方で雄介たちはというと。
「なあ正志、後で俺にも写真焼き増ししてくれよ」
「あっ、ずるい!私にもお願いね!」
「うん、わかってるよ!」
正志は一眼レフのカメラをいじくりながら、そう答える。
「そういえば正志ってカメラマン志願だったよな。凄いカメラだな、それ」
彰久にはカメラの良しあしはわからないが、それでも正志が持っているカメラが高級品であることはわかる。
「ああ、これは父さんがくれたんだよ。『将来はカメラマンになりたいんだろ』って言ってね」
「へえ……そうなんだな」
そんな話をしていると、試合開始の時間がやってきたようだ。コートの反対側から千里のチームの選手たちが現れる。その中にはもちろん千里の姿があった。少し緊張している様子だが、それでも表情はイキイキとしている。
「頑張れよ、千里!」
彰久がそう叫ぶと、千里はこちらを向いてピースサインを返してきた。
そして試合が始まった。千里のチームは、順調に試合を進めていく。そして……
「試合終了!勝者、O高校!」
審判がそう告げる。千里たちの勝利だ!会場から大きな歓声が上がる。その中にはもちろん彰久の姿もあった。彰久は小百合や正義たちとハイタッチをしながら喜んだ。
「いやあ、まさか千里があそこまでバスケが得意だったとはねえ!」
「当たり前よ。千里は努力家だからね」
正義の言葉に、真理は自分のことのように胸を張って答える。
「そうだな、にしても千里ってあんなに強かったのか。よくやった!って感じだな」
彰久がそういうと、正義たちは嬉しそうに笑った。
「とはいっても、まだ初戦に勝っただけだからな。この後も勝たないと、全国には行けないんだから」
と正義が言うと、正志が言った。
「大丈夫だよ。千里ちゃんたちならきっと勝てるよ!」
そんなことを話しながら、これから先の試合も応援していくのだった。


そして千里たちは順調に勝ち進み、とうとう決勝戦にまで駒を進めた。
「千里ちゃん、あと少しだよ!」
正志が嬉しそうに言う。決勝戦の相手は優勝候補と言われているA高校だ。
「大丈夫かな……?」
真理が不安そうにつぶやく。
「大丈夫だよ、真理姉。千里ならきっと勝てるさ」
彰久はそう言い、千里の方に目を向けた。すると、ちょうど千里と目が合う。
「見ててね、彰久!」
そう言って微笑むので、彰久も笑顔で頷く。
「ああ、頑張れよ!千里ならできる」
そんな会話をしていると試合開始の合図が鳴る。まずはA高校が攻めてきたため、千里もそれに応戦する。
「いけー、千里ちゃん!」
A高校の選手からボールを奪った千里は一気にゴールへと駆けていく。そしてそのままゴールを決めた!
「よしっ!やった!」
彰久は思わずガッツポーズをする。正義も、そして真理たち他のみんなも嬉しそうだ。
「千里ちゃん凄いね!かっこいいよ!!」
A高校の選手からシュートを決めた千里に、由香里が駆け寄ってきて抱き着いた。
「せ、先輩……苦しいです……」
そんな様子を見せられながら、正義たちは千里が優勝することを確信した。
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