【改訂版】スキルなしの魔法使いは、自分の才能に気付いていない

諫山杏心

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17話 今日の主役は

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 「もうそろそろ時間ね。じゃあ、リリア。お父様達の所へ行きましょう」

 「分かった。じゃあね、ヴィンヘルム君」

 「オイ、なんで俺には言わないんだよ!」

 「レオ、日頃の行いって奴だよ。……じゃあ、会えたらまた後で」

 
 ベリタスに別れの挨拶をして、私はセルフィアの手に引かれて会場の奥へと歩みを進める。
 そうして少しすると、目当ての人物は見つかった。

 
 「お父様、お母さま!連れてきましたわ!」

 「ありがとう、セルフィア。……おや、リリア。前に会った時もかわいかったが、今日は一段と可愛らしいね」

 「本当。どこかの国のお姫様と言われても気付かないわ」

 「あ、ありがとうございます。今日は呼んでいただき、本当にありがとうございます」


 目の前にいるセルフィアの両親――モンテスマ伯爵と夫人に礼を言うと、彼等は目を細めて微笑んだ。
 
 「いいのよ、セルフィアのお友達なんだもの。……それに、貴女はもっと評価されるべき人材だわ。ねぇ、あなた?」

 「そうだな。……しかし、今の貴族は腐ってしまっているな。スキルがないというだけで女神ドミナに愛されていないだの、周りを不幸にするだのと――」

 「ちょっと、お父様!」


 セルフィアの叱責に伯爵は、ハッとしたようにこちらを見て慌てて言葉を濁し始めた。
 
 貴族の間でも、私の悪い噂が立ってしまっているらしい。
 ――本当、どの世界でも、噂というのは回るのが速いものだ。

 私は「気にしていませんよ」と伯爵に笑いかけた。
 伯爵は酷く申し訳なさそうに「すまないね」と謝罪した。

 
 「もう、お父様ったら。……でも、そんな噂も、今日で終わりです!なんせ、リリアに魔法を披露してもらうんですもの!」

 「楽しみね!セルフィアから色々聞いているけれど、実際に見るのは初めてですもの」

 「色々……?セルフィア、何を言ったの?」

 「杖を使わずとも魔法が使えるとか、詠唱なしで魔法を使えるとかを、よ」

 「私もそれを聞いていてね、今日を楽しみにしていたよ。……さて、そろそろ始めようか」


 伯爵はそう言うと、音が鳴るように手を叩きながら「皆様!」と声を張った。
 すると、途端に会場は静かになり、こちらへ注目が集まる。


 「皆様、本日は私の娘、セルフィアの誕生日パーティへ来てくださった事、誠に感謝いたします。これより、娘より皆様への挨拶の時間とさせていただきます!……さぁ、セルフィア。皆様へ挨拶を」


 伯爵に促され、セルフィアが一歩前へ出る。
 その表情、仕草は自信に満ち溢れていた。優雅な微笑みは、いつも私を揶揄っている彼女とはまるで別人のようだ。


 「……皆様。本日はご多忙の中、私の誕生日パーティへご足労いただき、誠に感謝しております。本日、私は十歳となりました。まだまだ大人とは言えない年ではありますが、モンテスマ家の令嬢としての誇りを胸に、皆様とこの国の発展のため、よりよい未来のため、尽力させていただきたいと思っております。未熟な私を、これからもよろしくお願いいたします」


 堂々としたスピーチを終え、彼女は美しいカーテシーをした。
 それを見た周りの貴族からは拍手が鳴り、どこからか「さすがはモンテスマ家の令嬢だ」という賛辞が聞こえる。

 ――セルフィア、すごい。本当に貴族のご令嬢なんだな。
 当たり前の事を考えながら、私も周りに合わせて拍手をした。
 
 鳴りやまない拍手の中、堂々と微笑みを浮かべている彼女はまるで、一国のお姫様の様だ。

 
 「……さて。これにて私からの挨拶は終わりとさせていただきますが、今から、皆様にご紹介したい方がおります。……こちら、私の友人、リリアです」

 「み、皆様、初めまして。リリアと申します」


 セルフィアがこちらへ振り返り、微笑みながら私を紹介した。
 紹介された私は、ここ一カ月で身に着けたカーテシーを披露する。
 
 ――これで、合っているのだろうか。
 うまくできているか、という不安な気持ちで礼をすれば、周りから静かなざわめきが聞こえた。


 「見た事ない令嬢だな」

 「黒髪に赤い目なんて珍しい」

 「この前、子供から聞いたスキルなしの容姿と同じだ」

 「スキルなし?そんなのがいるの?」


 
 「皆様、お静かに」


 モンテスマ伯爵の制止の声が響き、会場は静まり返った。
 ……周りの反応からして、私の噂は貴族の間でかなり回っている様だ。
 
 ――ハァ。大丈夫なのかな、本当に。
 心の中だけで溜息を吐いて、私はセルフィアと伯爵、伯爵夫人に目を見遣った。


 「皆様の耳にも入っているでしょう、最近噂のスキルなしの少女の事が。……もうすでにお気づきでしょう。ここにいるリリア嬢こそ、そのスキルなしの少女なのです」


 
 「まぁ!あの噂、本当だったのね」

 「女神ドミナに愛されていない者がいるなんて」

 「噂通りなら、アレって平民よね?なぜ平民がこのパーティに?」

 「セルフィア様も、なぜスキルなしを友人などと……」



 「しかし、皆様。ここにいるリリア嬢は、私の知る限り、この世界の誰よりも魔法の才に溢れております。それはさながら、あの伝説の魔法使い――アロウの再来とも言えるでしょう!」


 周りの中傷を吹き飛ばす勢いの明るい声で、伯爵は告げた。
 伯爵の放った話の内容に、周りはよりざわざわと話し始める。

 ――なんか、悔しくなってきたな。
 
 先程から耳をすまして貴族の話を聞いていた私は、胸とお腹が怒りで騒ぎ始めるのを感じた。
 言わせておけば、平民だの女神から愛されていないだの、言いたい放題だ。

 
「そして、今日は娘の誕生を祝う席に来ていただいた皆様への感謝を示すため、魔法を披露してもらおうと、このリリア嬢に来ていただいた次第です。……皆様、どうか彼女の芸術の様な魔法をご覧ください!」

 
 高らかに言い切って、伯爵はこちらを向いた。
 そして柔らかな声で「さぁ、リリア。やってしまいなさい」と微笑んだ。
 一見優雅に見えるこの笑みを、私はこの一カ月の間、散々見てきた。――それは、セルフィアと全く同じ笑みだった。

 ――娘も娘なら、親も親だ。
 その事実に気付いた私はついつい笑ってしまった。そうして笑みを浮かべたまま、私は口を開いた。
 

 「伯爵。この会場の明かりを消すことはできますか?」

 「え?あ、ああ。構わないよ」


 不思議そうにしながらも、伯爵は会場の明かりを消す指示を出した。
 指示を受けた給仕やメイド達は駆け足で散り散りになる。少しすると、会場は薄暗くなった。

 突如暗くなった会場に、貴族達は再び騒めき始めた。
 それを聞きながら、私はゆっくりと目を閉じる。
 
 
 ――今日は、セルフィアの誕生日。皆が、今日ここに来で良かったと、そう思える魔法を。

 願いを込め、私は指先を振るう。
 温かい感覚が体を通して指先から放たれ、それは空気中を駆け抜けていく。

 光が、この会場を埋め尽くした。
 繊細なキラキラとした輝きが人々の間を駆け巡っていく。

 わぁっと歓声が上がり、私は微笑む。
 ――これで終わりじゃない。今日の主人公は、私ではないのだから。
 
 私はもう一度指を振るった。
 先程よりも明るい光が生まれ、それはある一点へと一直線に向かっていく。
 ……今日の主役、セルフィアの元へ。
 

 「え?」


 セルフィアが呟いた瞬間――彼女に光が纏った。
 まるで彼女自身が光り輝いているような光景に、人々は感嘆の声を漏らす。
 
 周りを駆け抜けていた光もセルフィアの元へ集まり、彼女はより一層輝く。
 そうして少し経って、その光はセルフィアの髪とドレスを揺らしながら、ふっと霧散した。

 ……少しの間、この空間は静寂に包まれた。
 そうして、会場の明かりが付き始めた頃だった。


 「……なんだ、今のは!?」


 その声を皮切りに、周りからは歓声のような声が上がる。
 ……どうやら、成功したらしい。


 「いやはや、これ程とは。……皆様、いかがでしたか?これがこのリリア嬢の魔法。彼女は杖も使わず、詠唱もなしにこれ程の魔法を扱う事ができる、まさになのです!」

 張り上げた伯爵の声に、貴族達は沸いた。
 私へ向ける視線も、軽蔑ではなくなった。なんというか、興味津々、みたいな感じだ。

 
 「これにて余興は終了です。さぁ、皆様。後はごゆるりと、このパーティをお楽しみください」

 
 美しい一礼をした伯爵に、力強い拍手喝采が起こる。
 ――良かった。無事、終わらせられた。

 ふぅ、と安どの溜息を吐く。
 すると「ちょっと、リリア」と声を掛けられた。セルフィアだ。

 
 「セルフィア、どうだった?」
 
 「綺麗だったわ。……でもあんな、私を目立たせるような事、しなくても良いじゃない」

 「なんで?」

 「なんでって……貴女の魔法の才を貴族達に知らしめるための時間だったのに」


 ぷくり、頬を膨らませたセルフィアに、私は少し笑ってしまった。
 ――なんというか、セルフィアって本当に……。

 私はふっと笑みを浮かべ、彼女と向き合った。


 「セルフィアは、良い人過ぎるよ」

 「なぁに、いきなり」

 「私はね、セルフィア。友達の誕生日は、その友達が主役になって欲しいんだ。大切な人が生まれた、大切な日なんだから。……そう思っちゃ、ダメかな」


 私はセルフィアの指に自分の指を絡めた。
 ――今日の私は、いつもより積極的だ。
 冷静に考えながらも、なんだか少しだけ顔が熱い。

 そんな私を見て、セルフィアはおかしいものを見たかのようにプッと吹き出した。

 
 「良い人なのは貴女もよ、リリア。……こんなに素敵なお誕生日は初めてよ。本当にありがとう、リリア」

 「どういたしまして。良い人同士、これからもよろしくね」


 私達は顔を見合わせて笑った。
 それを遠くから、ベリタスが穏やかな表情で見つめていた事には気付かなかった。
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