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新しい生活の幕開けだった。4
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~冒険者ギルドの寮~
あの後、ジェイクの記憶が本当にないことを確認したシヴィーとマスター。いろいろな質問を投げかけたことによって、気を失う以前の記憶が失われてしまったこと、それに対してマスターがシヴィーに説教をしたこと、なぜかそれを庇うジェイクのせいで時間が長引いてしまい、気が付けば時刻は夜となっていたこと。
そのすべての出来事に対して、シヴィーは盛大な溜め息をこぼしながら寮へと帰ってきたのだ。
「あ、おかえりなさい! シヴィーさん!」
エプロン姿のリリーのお出迎えだ。
荷物を取りに戻った時にレイラと共に服でも買ってきたのだろう。露出の多い『例の服』とは程遠い、白いボタン付きのシャツにオレンジ色のスカートだ。麦わら帽子なんて被せたら似合いそうである。
「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも──」
「ウワァァンダフルッ! おや、シヴィー君じゃぁないか! こんな時間までどこをウォォォキング! してたんだい?」
「マスターのところに行ってただけだ。えーっと、アルティメットだっけ?」
「アァァァルティッミス! アルとでも呼んでくれ」
名前を叫んだ意味はなんだったのだろうか。
しかし、エプロン姿のリリーに鍋の蓋をドヤ顔で持っているアルティミス。料理でもしていたのだろうか、それにしては料理のにおいすら漂ってこないのだが。
「とりあえず飯だな。お昼は食べれなかったから、そろそろ限界みたいだ」
ぐぅっと腹の虫がタイミングよく鳴き。アルティミスとリリーと共にリビングへと足を向けた。
そこまでは良かった。そこまでは。
リビングに入って、ふたりが料理をする姿を和ましく眺め、運ばれてくる品々をたらふく食ってやろうと考えていたシヴィーを裏切るかのように、リビングに設けられたテーブルにて、泡を吹きながら突っ伏しているレイラがいたのだから。
「……なにがあった」
「いやぁ、あの。これはですね……」
「はっはっは! この僕が! 説明しよう!」
アルティミス曰く、リリーが薬草は食べれるのかどうかの議論を始めた矢先、隣でお腹が鳴ってしまったレイラが標的となり、薬草料理を食べる羽目となったのだという。しかし、肝心な一口目を食べる瞬間にシヴィーが帰ってきてしまい、リリーとアルティミスはお出迎えをするべく出向いてきたのだとか。
「それで? 誰が料理したんだ?」
「あぁ、それなんだが。僕はしていないんだ。全部リリーさんがやってくれてね」
「はぁ、なるほどな……料理も調合と一緒だったわけか。ご愁傷様だな、レイラ」
「初めての料理にしては上手くできたはずなんですけど。口に合わなかったら、言ってくださればいいのに」
いや、言う以前に一口目でこうなってしまったのだから仕方がない。
「鍋だったら爆ぜてるんだろうな……」
「シャラァァップ! 彼女の胸の傷をえぐる発言はデリィィット!」
「──んあっ!? お、おいアル! 鍋の蓋で人の顔を叩いてはいけませんって親から習わなかったのか!?」
「ふはははは! 当然のことをしたまでのこと!」
ドヤ顔を決めるアルティミスに苛立ちはするが、シヴィー不在の中、リリーとレイラの面倒を見てくれていたと考えれば、これくらいは許してもいいかもしれないと考えているシヴィーであったが、流石に鍋の蓋で叩かれるのは頭に来たのか、アルティミスの頬目掛けてけんごつを放った。
「んぐほ!? ば、ばかな……この、僕が!」
「おーい、リリー。アルがこけて怪我したみたいだから、おめぇさんのポーション飲ましてやってくれ」
「え? アルティミスさん大丈夫ですか? あ、これ。私が調合したポーションです。良かったら飲んでください」
「あ、あれれぇ? おかしいぞぉ? 僕は今、シヴィー君にパァァンチをもらった気がするんだけどなぁ。んんんー?」
「アル。そいつは幻覚だ。ここ最近の疲れが溜まってたんじゃないか? ほら、怪我してるかもしれないんだから飲んどけよ──青汁」
リリーが差し出している青汁を指さすと、アルティミスは鼻の下を伸ばしながら受け取った。
「リリーさんが優しい! あぁ、こんな僕にも! 天使は降臨するんですね。では、いただきます!」
蓋を開けて、すぐさま口へと流し込む。
そして、案の定なにかを察したのか、アルティミスは口をぱんぱんに膨らませた状態で止まった。
「どうしたどうした。レディーが作ったポーションはお気に召さなかったのか? ほら、鼻摘まんでてやるから一気にいっちまえよ」
「んんんッ!? んん! んんん! んぐ、んぐ……」
「おーおー、いい飲みっぷりじゃねぇか。良かったなぁリリー」
「はい! 初めて私のポーションを飲んでくれる人が現れました!」
シヴィーに撫でられながら笑みを浮かべるリリー。
中身が何か知ってたら絶対に飲まないだろう。それを知ってもなお飲もうという勇者はこの世界中のどこを探してもいないと言っても過言ではない。だが、リリーにとっては自分のポーションを飲んでくれたというだけでも嬉しい事のはずだ。
「し、シヴィー君ッ!? な、なにかが……なにかが込み上げてくる! これは、まさか──」
「お、おい! 俺の肩に掴まるんじゃねぇ! っちょ、離れろ!!」
「これが、僕の! リリーさんへの、っう、ラァァ……ヴゥゥゥロロロロッ!?」
「くっそ! 俺目掛けて吐きやがった!」
「アルティミスさんッ!?」
結果、鼻からでも口からでも、リリーの青汁を摂取した際に起こる反応はひとつ──嘔吐であることが判明した。
「あぁぁぁぁくっそ! なんて日だ!」
新しい住み所での初めての思い出は、先住民からの歓迎のゲロでした。
あの後、ジェイクの記憶が本当にないことを確認したシヴィーとマスター。いろいろな質問を投げかけたことによって、気を失う以前の記憶が失われてしまったこと、それに対してマスターがシヴィーに説教をしたこと、なぜかそれを庇うジェイクのせいで時間が長引いてしまい、気が付けば時刻は夜となっていたこと。
そのすべての出来事に対して、シヴィーは盛大な溜め息をこぼしながら寮へと帰ってきたのだ。
「あ、おかえりなさい! シヴィーさん!」
エプロン姿のリリーのお出迎えだ。
荷物を取りに戻った時にレイラと共に服でも買ってきたのだろう。露出の多い『例の服』とは程遠い、白いボタン付きのシャツにオレンジ色のスカートだ。麦わら帽子なんて被せたら似合いそうである。
「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも──」
「ウワァァンダフルッ! おや、シヴィー君じゃぁないか! こんな時間までどこをウォォォキング! してたんだい?」
「マスターのところに行ってただけだ。えーっと、アルティメットだっけ?」
「アァァァルティッミス! アルとでも呼んでくれ」
名前を叫んだ意味はなんだったのだろうか。
しかし、エプロン姿のリリーに鍋の蓋をドヤ顔で持っているアルティミス。料理でもしていたのだろうか、それにしては料理のにおいすら漂ってこないのだが。
「とりあえず飯だな。お昼は食べれなかったから、そろそろ限界みたいだ」
ぐぅっと腹の虫がタイミングよく鳴き。アルティミスとリリーと共にリビングへと足を向けた。
そこまでは良かった。そこまでは。
リビングに入って、ふたりが料理をする姿を和ましく眺め、運ばれてくる品々をたらふく食ってやろうと考えていたシヴィーを裏切るかのように、リビングに設けられたテーブルにて、泡を吹きながら突っ伏しているレイラがいたのだから。
「……なにがあった」
「いやぁ、あの。これはですね……」
「はっはっは! この僕が! 説明しよう!」
アルティミス曰く、リリーが薬草は食べれるのかどうかの議論を始めた矢先、隣でお腹が鳴ってしまったレイラが標的となり、薬草料理を食べる羽目となったのだという。しかし、肝心な一口目を食べる瞬間にシヴィーが帰ってきてしまい、リリーとアルティミスはお出迎えをするべく出向いてきたのだとか。
「それで? 誰が料理したんだ?」
「あぁ、それなんだが。僕はしていないんだ。全部リリーさんがやってくれてね」
「はぁ、なるほどな……料理も調合と一緒だったわけか。ご愁傷様だな、レイラ」
「初めての料理にしては上手くできたはずなんですけど。口に合わなかったら、言ってくださればいいのに」
いや、言う以前に一口目でこうなってしまったのだから仕方がない。
「鍋だったら爆ぜてるんだろうな……」
「シャラァァップ! 彼女の胸の傷をえぐる発言はデリィィット!」
「──んあっ!? お、おいアル! 鍋の蓋で人の顔を叩いてはいけませんって親から習わなかったのか!?」
「ふはははは! 当然のことをしたまでのこと!」
ドヤ顔を決めるアルティミスに苛立ちはするが、シヴィー不在の中、リリーとレイラの面倒を見てくれていたと考えれば、これくらいは許してもいいかもしれないと考えているシヴィーであったが、流石に鍋の蓋で叩かれるのは頭に来たのか、アルティミスの頬目掛けてけんごつを放った。
「んぐほ!? ば、ばかな……この、僕が!」
「おーい、リリー。アルがこけて怪我したみたいだから、おめぇさんのポーション飲ましてやってくれ」
「え? アルティミスさん大丈夫ですか? あ、これ。私が調合したポーションです。良かったら飲んでください」
「あ、あれれぇ? おかしいぞぉ? 僕は今、シヴィー君にパァァンチをもらった気がするんだけどなぁ。んんんー?」
「アル。そいつは幻覚だ。ここ最近の疲れが溜まってたんじゃないか? ほら、怪我してるかもしれないんだから飲んどけよ──青汁」
リリーが差し出している青汁を指さすと、アルティミスは鼻の下を伸ばしながら受け取った。
「リリーさんが優しい! あぁ、こんな僕にも! 天使は降臨するんですね。では、いただきます!」
蓋を開けて、すぐさま口へと流し込む。
そして、案の定なにかを察したのか、アルティミスは口をぱんぱんに膨らませた状態で止まった。
「どうしたどうした。レディーが作ったポーションはお気に召さなかったのか? ほら、鼻摘まんでてやるから一気にいっちまえよ」
「んんんッ!? んん! んんん! んぐ、んぐ……」
「おーおー、いい飲みっぷりじゃねぇか。良かったなぁリリー」
「はい! 初めて私のポーションを飲んでくれる人が現れました!」
シヴィーに撫でられながら笑みを浮かべるリリー。
中身が何か知ってたら絶対に飲まないだろう。それを知ってもなお飲もうという勇者はこの世界中のどこを探してもいないと言っても過言ではない。だが、リリーにとっては自分のポーションを飲んでくれたというだけでも嬉しい事のはずだ。
「し、シヴィー君ッ!? な、なにかが……なにかが込み上げてくる! これは、まさか──」
「お、おい! 俺の肩に掴まるんじゃねぇ! っちょ、離れろ!!」
「これが、僕の! リリーさんへの、っう、ラァァ……ヴゥゥゥロロロロッ!?」
「くっそ! 俺目掛けて吐きやがった!」
「アルティミスさんッ!?」
結果、鼻からでも口からでも、リリーの青汁を摂取した際に起こる反応はひとつ──嘔吐であることが判明した。
「あぁぁぁぁくっそ! なんて日だ!」
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