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さぁ、調合を始めようか。2

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 ~冒険者ギルド~

 シヴィーとアルティミスがギルドに足を踏み入れて、すぐさま目に留まった光景。それは、マスターからもらった制服を着たレイラが冒険者に囲まれている光景だった。

「れ、レイラさん。マジ可愛いっす!」
「ほんとねぇ、私より目立ってないかしら?」

 その傍で見物するマスターとジェイクもいた。しかし、レイラに対する評価はこれほどまでに高かったのだろうかと、いささか疑問を抱いたシヴィーは、マスターの元へと足を向けることにした。

「なぁ、マスター。なんでこんなことになってんだ?」
「あらぁ、シヴィーちゃんと……なんだ、アルティミスもいたのね」
「な、なんだとは失礼な!」
「あー、はいはい。レイラがねぇ、着替えてからみんなに頭を下げたのよ、今までの行いに対しての謝罪ってことでね。ジェイクの場合は、まったくの別人になっちゃってるから、みんな気にしてないみたいよ?」

 あのレイラが謝ったのか。と、内心驚いているシヴィーであったが、そこはあまり表情に出さずにわちゃわちゃと囲まれているレイラを見ていた。ジェイクの件についてはマスターが朝方話したそうで、冒険者達はまるで新人を迎えるかのように接してくれていたようだ。

「最初はみんな驚いてたわよ? レイラの事といい、ジェイクのことも。いい子達でよかったわぁ」
「そいつは良かった。それで、ジェイクにはこれからどうさせるつもりなんだ?」
「どうって、シヴィーちゃんのところで預かってもらう予定よ?」
「はぁ!? 俺のところにこさせても面倒見れないぞ?」

 なにより金がない。

 シヴィーはそう言いたかったのだが、マスターもなにも考えずに物をいってるつもりなどない。となると、今後ジェイクの立場は調合師として、シヴィーと共に冒険者ギルド所属といった感じになるのだろうか。それとも、ただのヒモとして寮に住まわせる予定なのか。しかし、寮の部屋も5つしないため、ジェイクが住むとなるといささか厳しい面があるのではないだろうか。

「シヴィーちゃんの元で下請けって感じにしようかなって思ってるわ」

 なるほど。

 つまり、市場などで薬草などを購入する手間が省けるわけだ。ジェイクが薬草採取という簡単な仕事を受け持ち、シヴィーの元へと届けて報酬を得る。それなら、市場で購入するよりも安く済み、ジェイクの懐も潤うということにつながるのだが、

「戦闘になったらどうするんだ? 記憶がないってことは、魔物云々の知識もないってことだろ?」

 そう、冒険者の生死を分けるのは知識によるものが多い。ジェイクがこれまでに得てきた魔物の知識から、地形、薬草などの生えている場所云々の記憶がないのだ。それによって、リスクはかなり高いものだと言える。

「レイラにも手伝わせるから大丈夫よ。あの子もお金に困ってるみたいだから」
「……ぐうの音も出ないな。わかった、こっちで面倒を見よう」
「シヴィー君! この僕に! なんの相談もなしに話を進め──」
「あ、シヴィー! ねぇ、この恰好どう? 似合ってる……かな」

 アルティミスがシヴィーとマスターの会話に割り込んだのだが、遠くからシヴィーを見つけたレイラが取り巻きを払いながら駆け寄ってきた。みんなにちやほやされて、気分がいいのだろうか。シヴィーの前でくるりと一回転して服装を見せつけると、前かがみに顔を見上げてきた。

「お、おおう。似合ってると思うぞ」
「えへへ、そう? そうでしょ? マスターもいい腕してるじゃない」
「ちょっと小突かないでよ。私がデザインしたものだもの、目立たないわけがないわ!」

 ふふんと鼻を鳴らすマスター。

 裁縫のスキルが高いことは、レイラの制服を見れば一目瞭然。その技術をもってすれば、そういった業界のトップに立てるのではないだろうか。そして、えへへと笑顔を見せるレイラを傍からじっくりと観察するアルティミス。

「なるほど、着飾ればまな板でもアイドルに……」
「何か言った? アルティミス」
「あぁ、いや。こっちの、僕の! 話だ。気にしないでくれ」

 レイラに対して失礼な事を言うと、どういう目に遭うのか体験してしまったアルティミスにとって、笑顔の奥に見える殺気は恐怖する対象となってしまったようだ。まぁ、自業自得と言えばそうとしか言えないのだが。そして、レイラのプチお披露目会が終わったことで、冒険者ギルドはいつも通りの日常を送り始めた。



 ~冒険者ギルド ギルドマスターの部屋~

 レイラは仕事のため、先輩の受付嬢達と共に忙しなく行きかっている中、シヴィーとアルティミス、マスターにジェイクと言った以前ならば考えられない組み合わせの4人が顔を合わせながら、今後の仕事内容から、生活についての話し合いをファンシーすぎる部屋で行っていた。

 ファンシーな部屋に野郎が4人。なんだこの絵面は。

「さっき話した通り、ジェイクはシヴィーちゃんの元でお仕事ね。あと、服の件なんだけど──縫っちゃったっ」
「うぉ! 俺の着てた服にそっくりだ!」

 剥がれる前に着ていた服によく似た、白い無地のボタン付きのシャツに黒いズボンだった。アルティミスの来ている物に似てはいるのだが、研究者のような服装とはまったく雰囲気の違うもので、どちらかと言えばトレジャーハンターのような屈強な男が身に着けるおとなしめの服装。

「サイズがピッタリ……」
「はぁ、はぁ……シヴィーちゃんの、生着替え……んくぅ!」
「やっぱり君はマスターの着せ替え人形のようだな」
「え、マスターってそういう趣味の持ち主なんすか?」

 着替えるだけで発情するマスターを横目に、言いたい放題のアルティミスとマスターの本性を知ってしまったジェイク。流石にサイズがピッタリなところは何も言わないでおこう。
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