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さぁ、調合を始めようか。1

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 ~冒険者ギルドの寮~

 アルティミスの一言により、俯いたままなにも話さなくなってしまった少女。先ほどまで、自分の置かれている状況を把握することができなかったはずなのに、人種を指されるとすぐさま怯えるかのようになってしまった。

 この世界で、種族の違う者と関わることを嫌う人間が多い。それも、エルフやドワーフといった亜人種もまた例外ではないのだ。万が一、タチの悪い連中にでも見つかれば奴隷として売られたり、最悪の場合は監禁されたりとあまりいい噂を聞かないのだ。

 それらを踏まえた上で、彼女がフードを被ってまで人間の街に出向いてしまった原因である『ポーション中毒』は、何ものかに意図的に患わされたのか、本人の意思でそうなってしまったのか。

「エルフだろうが、ドワーフだろうが関係ないだろ? 言葉が通じるんだ。特別扱いする必要なんてないだろ」
「そ、それは……」
「そうですよ! 種族の壁なんて言葉くらいしかないじゃないですか!」
「僕はそういうことを言いたかった訳ではないんですが……」

 アルティミスは、エルフである少女をかくまって大丈夫なのか。と、心配をしているのだ。

「彼女がもし、外部の人間に見つかってしまったとしても。僕たちにはどうこうすることができないんですよ?」
「そん時はそん時だ。拾ってきた俺がどうにかする。それでいいだろ?」
「責任云々の問題ではなく……はぁ、わかりましたよ。でも、マァァスター! に、報告しておいたほうがいいのでは?」

 匿うというよりも、共に過ごす。と、言ったほうがこの場合しっくりくるのではないだろうか。家族同然のように生活する寮に住むので、あまりそういうことを気にしていてはらちが明かないのだから。

「んま、どうにかなるだろ」
「ん……うん」

 少女の頭を撫でたシヴィー。

 自分を受け入れてくれたことがうれしいのか、フードからちらりと見えた少女の表情は明るくなっていた。



 冒険者ギルドに顔を出すにあたって、シヴィーには必要となる物がいくつもあった。それは、調合するにあたって必要となってくるであろう素材の費用と、本人の服、朝食の3点だ。

 素材の費用はギルド側の支援によってまかなえるが、服と朝食は別だ。服の場合は、マスターに剥がされたのでギルドというよりも本人の懐から出してらわなければならない。そして、朝食はレイラと共に済ませる予定だったのがなくなってしまったため、どこかで手軽に朝食を済ませなければならないのだから。

「リリーはこの子とお留守番だ。仲良くしてやってくれ」
「あ、はい! お姉さんとお留守番ですよっ」

 すっかりシヴィーに懐いてしまった少女は、撫でられたあとにリリーのもとへとトテトテと歩いて行った。

「あと、なにかあったときはこいつを渡してやってくれ」
「これは……」

 先ほど購入した治癒のポーションだった。

 ポーション中毒者にとって苦痛なのは、ポーションが手元にない不安や欲求によるもの。シヴィーは、最初からこうなることを予想して購入していたのだろうか。しかし、もしもの場合は……、

「構わん、アルのポーションをくれてやれ」
「ちょぉぉぉっとまったぁぁぁぁ!!! なんなんだい! 僕のポーションは飲用水とは違うんだよ!?」
「うるさいから近くにきて叫ぶな」
「これが叫ばずにいられるものかぁぁぁぁあ!?」
「帰ってきたら寮がなくなってました。なんて、マスターに報告するか?」
「……リリーさん。構わないから、僕の! ご自慢の一本を飲ませてあげてほしい」

 結局飲ませるんかい。

 リリーはこくりと頷くと、シヴィーとアルティミスを見送るために玄関へと出向いた。

「いってらっしゃい! 気を付けて行ってきてくださいね」
「は、はい。いってきます! えへへ」
「鼻の下伸ばしてないでいくぞ」
「あ、ちょっとシヴィー君!? ぐえっ、首元を引っ張らないくれ!」

 シヴィーに引っ張られたアルティミスが見えなくなるまで、手を振っているリリー。そして、ふたりが帰ってくるまで少女と過ごすのが楽しみなのか、軽い足取りでリビングに戻ったのだが、

「んぐ、んぐ……っぷはぁ、やっぱり美味しい」
「え、あ。あれぇぇぇぇぇッ!?」

 シヴィーの渡してくれたポーションは二瓶まるまる飲まれていました。



 ~街の大通り~

 謎のセーターを着た青年とやけに鼻の下が伸びている男がひとり、傍から見たら『ヤバイ奴ら』以外の何者でもなかった。見行く人々は奇妙なものを見る目で彼らをみやったりするのだが、すぐに目を逸らす。

「やっぱり、この僕が! 輝いて見えるんだろうか」
「一回鏡見てこい、おめぇを見た瞬間にみんな目をそらすどころか、そっぽ向いてんだぞ」
「ふふ、惚れてまうやろってやつだな。ふはははは!」

 一緒に歩いていてめんどくさくはないのだろうか。アルティミスの話すことひとつひとつにこたえるシヴィー。しかし、アルティミスの外見はただの学者のような成りであるのだが、なぜ目を逸らすのだろうか。

「そりゃぁ、おめぇ……いちいちウィンク送るからだろ……」
「これが、定め! 僕にはこれしかないと思ってる!」

 調合はどこにいった。

 男にウィンクを送られて喜ぶのはマスターぐらいだろう。と、考えながら歩いてシヴィーは、いちいち自意識過剰な調合師と共に冒険者ギルドへとたどり着いた。
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