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ポーションの飲んだくれ。3
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しばらくしてからマスターが目を覚まし、リリーとなぜかアルティミスまでもが謝罪をしていた。
「あれは地獄よ……朦朧とした意識がいきなり刈り取られたんだもの!」
「そりゃぁ、災難だったな」
「本当に、申し訳ございません……」
「この僕も! 共に謝罪をしよう!」
いや、なんでアルティミスまで謝るのか。
ノリがいいのか、ただただ雰囲気を読めていないのか、アルティミスには謎が多いのだが、普通にしていれば面倒見のいい同居人という感じであったりする。しかし、リリーには鼻の下を伸ばすのにレイラには見向きもしないのは、どうかと考えたりするシヴィーであった。
その後、レイラのためにとマスターが仕立てたギルドの制服が取り出された。先の一件によって、マスターの縫物のスキルは確認済みなのだが、肝心なデザインが『あれ』だったこともあり、受け取る際に若干引きつった笑顔を見せたレイラであったが、いざ広げてみると思っていたデザインとは180度も違う物だった。
「か、可愛いわね!?」
「ふふ、私が1からデザインしたのよ? 可愛くないわけじがないじゃないの」
手に握られた、黒い生地をベースとしたドレスを思わせるワンピースだった。少し短めのスカートに、袖のない大人の印象を感じさせるデザインだ。すると、目を輝かせるレイラを見ながら、アルティミスがひそひそとシヴィーに話しかけてきた。
「シヴィー君。彼女にあれは厳しすぎないだろうか?」
「厳しい? あれはあれで似合うんじゃないか?」
「ちっがぁう! あんな華やかな衣装を着させるのに、あのまな板はなんだ! あんなのじゃ大人の魅力どころか──」
「誰が子供体系だって?」
「ひぃ!? ぼ、僕はなにも言ってないですよ!? お口がミ〇フィーですので!」
噂をすればなんとやら。
まぁ、流石に近くでこそこそされたら聞き耳が立つわけで、ぺこりぺこりと謝るアルティミスを横目に、シヴィーはマスターの元へと足を向けた。
「マスター、もしかしたら住居人がひとり増えるかもしれない」
「……そこのソファーで寝ている子のことかしら?」
「あぁ、話せば長くなるが。ちょっと訳アリっぽくってな」
「──隠し子ねっ!?」
「えぇ!? あの子、シヴィーさんのお子さんだったんですか!? あ、あの。お相手はどちら様で……?」
「いやいや。道具屋のポーションを飲み漁ってたのを保護しただけだ。隠し子どころか、俺には女気がまったくないからなぁ」
女気がないという言葉に、戻ってきたレイラが眉を寄せたことは言わないでおこう。しかし、マスターもすごい勘違いと言うよりも吹っ飛んだ発想をしたものだ。実際、いきなり女の子を連れてきたらなにかと詮索してしまうのも事実なのだから、しょうがないことなのだろうか。
「それで? 訳アリってどういうことなのか、説明してちょうだい」
「あくまで推測だが、この子は『ポーション中毒』かもしれないんだ。あくまで推測だからな? 言い切れる程の根拠はないが」
「ポーション中毒? て、なんなんですか?」
「聞いたことないのか? 身体がポーションの多量摂取によって、飲まなきゃ落ち着かないとか暴れたりする病気みたいなもんだ」
アルコール中毒とはまた違った、ポーション中毒。
軽症の場合は、ポーションを目にするかふと思い出してしまったときに、飲みたくなるものであり、これが重症になってしまうと、常時ポーションを飲んでいないと暴れだしたりする稀なものである。しかし、その症状になる者の大半はお金に余裕のある富豪か、自分のポーションを摂取する調合師しかいないのだ。
となると、少女は良い所のお嬢様か調合師の可能性が高い。
考え込むマスターだったが、時間が時間だったのでレイラを連れて寮を後にした。
「レイラさん、大丈夫でしょうか?」
「ん? どうだろうな、勇者パーティーが解散されちまったから、冒険者たちからなにかしら言われるだろうが、レイラなら大丈夫なんじゃないか?」
「ほほう。勇者パーティーがブレェェイック! ですか」
「シヴィーさんも所属してたみたいですよ?」
「ワッタ、ファァァァァック!?」
思いがけないリリーの言葉に、いつも少し上から目線だったアルティミスが発狂し、シヴィーを二度、三度みやるとぺこりと頭を下げた。相手の地位が自分とは程遠い存在だと気が付くと、人間というのは自然と頭を下げてしまうものなのだろうか。
「ん……あ、れ。ここ、どこ」
「おやおや、遅いおはようでございますね」
「あんまうるさくするなよ? なにかあってからじゃ遅いからな」
ソファーからむくりと起き上がり、目をごしごしとする少女。アルティミスが変なことをしないようにと、釘をさしたはいいものの、心配でしかたがないシヴィー。そして、少女が背伸びをすると同時に捲れたフードから、ちらりと見えてしまった違和感。
──耳が尖っていたのだ。
人間とは程遠いその耳に、シヴィー含む3人は驚きを隠せずに口を開けていた。
「私、なんでここに?」
「道具屋で外に投げ飛ばされたときに、頭かどっかを打ったみたいでな。気を失ってたからここまで連れてきたんだ」
「そう。その、ありがと」
あまり元気のあるトーンではない。
ぼそりぼそりと喋った彼女の声は透き通っていて、癒しというよりも落ち着く物に近いだろう。
「失礼。君は、エルフなのか?」
「っ!?」
アルティミスが割って入ったのだが、エルフだと言うのを隠すためにフードを被っていたのだろうが、捲れていたことに気が付かなかった少女は急いで耳を手で覆い、目を大きく見開くと同時に俯いてしまった。
「あれは地獄よ……朦朧とした意識がいきなり刈り取られたんだもの!」
「そりゃぁ、災難だったな」
「本当に、申し訳ございません……」
「この僕も! 共に謝罪をしよう!」
いや、なんでアルティミスまで謝るのか。
ノリがいいのか、ただただ雰囲気を読めていないのか、アルティミスには謎が多いのだが、普通にしていれば面倒見のいい同居人という感じであったりする。しかし、リリーには鼻の下を伸ばすのにレイラには見向きもしないのは、どうかと考えたりするシヴィーであった。
その後、レイラのためにとマスターが仕立てたギルドの制服が取り出された。先の一件によって、マスターの縫物のスキルは確認済みなのだが、肝心なデザインが『あれ』だったこともあり、受け取る際に若干引きつった笑顔を見せたレイラであったが、いざ広げてみると思っていたデザインとは180度も違う物だった。
「か、可愛いわね!?」
「ふふ、私が1からデザインしたのよ? 可愛くないわけじがないじゃないの」
手に握られた、黒い生地をベースとしたドレスを思わせるワンピースだった。少し短めのスカートに、袖のない大人の印象を感じさせるデザインだ。すると、目を輝かせるレイラを見ながら、アルティミスがひそひそとシヴィーに話しかけてきた。
「シヴィー君。彼女にあれは厳しすぎないだろうか?」
「厳しい? あれはあれで似合うんじゃないか?」
「ちっがぁう! あんな華やかな衣装を着させるのに、あのまな板はなんだ! あんなのじゃ大人の魅力どころか──」
「誰が子供体系だって?」
「ひぃ!? ぼ、僕はなにも言ってないですよ!? お口がミ〇フィーですので!」
噂をすればなんとやら。
まぁ、流石に近くでこそこそされたら聞き耳が立つわけで、ぺこりぺこりと謝るアルティミスを横目に、シヴィーはマスターの元へと足を向けた。
「マスター、もしかしたら住居人がひとり増えるかもしれない」
「……そこのソファーで寝ている子のことかしら?」
「あぁ、話せば長くなるが。ちょっと訳アリっぽくってな」
「──隠し子ねっ!?」
「えぇ!? あの子、シヴィーさんのお子さんだったんですか!? あ、あの。お相手はどちら様で……?」
「いやいや。道具屋のポーションを飲み漁ってたのを保護しただけだ。隠し子どころか、俺には女気がまったくないからなぁ」
女気がないという言葉に、戻ってきたレイラが眉を寄せたことは言わないでおこう。しかし、マスターもすごい勘違いと言うよりも吹っ飛んだ発想をしたものだ。実際、いきなり女の子を連れてきたらなにかと詮索してしまうのも事実なのだから、しょうがないことなのだろうか。
「それで? 訳アリってどういうことなのか、説明してちょうだい」
「あくまで推測だが、この子は『ポーション中毒』かもしれないんだ。あくまで推測だからな? 言い切れる程の根拠はないが」
「ポーション中毒? て、なんなんですか?」
「聞いたことないのか? 身体がポーションの多量摂取によって、飲まなきゃ落ち着かないとか暴れたりする病気みたいなもんだ」
アルコール中毒とはまた違った、ポーション中毒。
軽症の場合は、ポーションを目にするかふと思い出してしまったときに、飲みたくなるものであり、これが重症になってしまうと、常時ポーションを飲んでいないと暴れだしたりする稀なものである。しかし、その症状になる者の大半はお金に余裕のある富豪か、自分のポーションを摂取する調合師しかいないのだ。
となると、少女は良い所のお嬢様か調合師の可能性が高い。
考え込むマスターだったが、時間が時間だったのでレイラを連れて寮を後にした。
「レイラさん、大丈夫でしょうか?」
「ん? どうだろうな、勇者パーティーが解散されちまったから、冒険者たちからなにかしら言われるだろうが、レイラなら大丈夫なんじゃないか?」
「ほほう。勇者パーティーがブレェェイック! ですか」
「シヴィーさんも所属してたみたいですよ?」
「ワッタ、ファァァァァック!?」
思いがけないリリーの言葉に、いつも少し上から目線だったアルティミスが発狂し、シヴィーを二度、三度みやるとぺこりと頭を下げた。相手の地位が自分とは程遠い存在だと気が付くと、人間というのは自然と頭を下げてしまうものなのだろうか。
「ん……あ、れ。ここ、どこ」
「おやおや、遅いおはようでございますね」
「あんまうるさくするなよ? なにかあってからじゃ遅いからな」
ソファーからむくりと起き上がり、目をごしごしとする少女。アルティミスが変なことをしないようにと、釘をさしたはいいものの、心配でしかたがないシヴィー。そして、少女が背伸びをすると同時に捲れたフードから、ちらりと見えてしまった違和感。
──耳が尖っていたのだ。
人間とは程遠いその耳に、シヴィー含む3人は驚きを隠せずに口を開けていた。
「私、なんでここに?」
「道具屋で外に投げ飛ばされたときに、頭かどっかを打ったみたいでな。気を失ってたからここまで連れてきたんだ」
「そう。その、ありがと」
あまり元気のあるトーンではない。
ぼそりぼそりと喋った彼女の声は透き通っていて、癒しというよりも落ち着く物に近いだろう。
「失礼。君は、エルフなのか?」
「っ!?」
アルティミスが割って入ったのだが、エルフだと言うのを隠すためにフードを被っていたのだろうが、捲れていたことに気が付かなかった少女は急いで耳を手で覆い、目を大きく見開くと同時に俯いてしまった。
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