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再会Side天音
しおりを挟む付き合っていたあの頃、彼のことは別に好きじゃなかった。
平凡すぎるほど平凡。背が高くて、スタイルはいいのに、地味な服を好み、性格も優しすぎて、多分、つまらないなんて、女の子達に言われてきたんだろうなってそんな人。
女馴れしていないのか、私の手に触れるだけで、指を震わせていた。今思えば、そんな姿も可愛らしかったのだろうけど。
私には他に思う人が居たから。
申し訳ないと思いながら、彼を本当の意味で好きにはどうしてもなれなかった。
それなのに。
今、こうして彼を思い出してしまうのは、どういうことなんだろう。
『あ、天音さん…、す、す好きです。』
少し上ずった声を今でも思い出せる。誰とも付き合う気などなかったのに、その真剣な眼差しに揺れた。この人だったら、あの人を忘れさせてくれるんじゃないかと。
―――でも、駄目だった。私が、壊した。私が、すべて踏みにじって終わりにしたのだ。
***
仕事を終えて、私は急ぎ足で池袋の改札を抜けた。
思ったよりも早く商談が終わったのは、嬉しい誤算だった。見たかった映画のチケットの予約は電車の中で済ませてある。あとは映画の時間まで、久しぶりに服でも見て、美味しいご飯でも食べようかと、心が躍る。
池袋の街を回るのはどれぐらいぶりだろう。普段は乗り換えに利用するだけで降りることなんて滅多にない。そもそもここしばらく池袋の街を避けていたこともあって、随分と久しかった。ざっとみただけでも、立ち並ぶ店は色々と変わっていそうだった。
そういえば――彼と会ったのもこんな日、だった。仕事が早く終わって浮かれていた日。懐かしくもあり、どこか痛みを伴うその記憶に、私はぼんやりと意識を飛ばす。
『天音さん……』
困ったように眉を下げて笑う彼の表情を見ているのが、私は嫌いじゃなくて。不器用で、少しからかいたくなるほどに、一生懸命で一途な人だった。震えながら、想いを伝えようとする彼の姿は、年上とは思えないほど、可愛らしくて、なんだか微笑ましかった。
思い出すつもりもなかった記憶が次々とこぼれ落ちて、らしくもなく、もしあの時、なんて考える。「もし」の過去なんて、どこにもありはしないのに。
「天音さん!」
幻聴?ううん、確かに今――。私はあたりを見渡し、息を切らせて走ってくるその人を見て、動きを止めた。ひょろりと高い背、見るからに人の好さのにじんだ優しげな面差し。逃げ出したい、そう思った。
「なんで…」
「僕もびっくりしました。偶然ですね。お仕事帰りですか。」
邪気のない笑顔はあの頃のまま。
「あ、ええ……」
「よかった、ここで会えて。」
会えてよかった?あんな別れ方をしたのに、どうして。疑問が頭をめぐるけれど、そのどれも口にすることができず、私は彼から目をそらした。
「天音さん、よかったらこの後時間とかありませんか…?僕…」
「私、用、あるから…」
知らず、語気が強くなった。話など…今更できるわけもない。
「あ、そうか、そうですよね…すみません。」
しゅんとうなだれる彼の姿に罪悪感がこみあげる。のどもとまで出かかった、謝罪の言葉を飲み込んで、私は唇を噛んだ。
「その、あ、えっと、じゃあ、よかったらまたお茶でも……」
「ごめんなさい。」
「あ、天音さ……」
必死に言葉をつむごうとする彼の姿を見ていられなくて、私は慌てて逃げ出した。
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