ライバル宣言返上求む

ななし

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敵→ライバル

第1話 前途多難な日常

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 俺は樹裕26歳。希望だった食品メーカーに入社して早3年。現在は営業Ⅱ課のエースとして活躍中だ。仕事はトップとまではいかないものの、それなりの結果も出して順調、プライベートも昨年ずっと欲しかったバイクを購入し休みの日はツーリングに出かけたりと忙しくも充実、そして恋愛は―――前途多難。

 「おっ、樹―、こないだの例の商品結構売れたんだって?」
「あ、はい、販売店さんに尽力していただきましたので、恐らくその結果が表れたのではないかと。課長のお力添えのおかげです。」
「いやいや俺は何もしてないよ。まぁ、引き続きがんばれな。」
「はい、ありがとうございます――っと」

視線に気が付いてちらりと目線をやると、同期の岡理沙子が親の仇でも見るような目でこちらをにらんでいた。
やめとけ、やめとけ、と自分で思いつつ、こちらを気にしている理沙子が可愛くて構わずにいられない自分。

「あれー、岡ってばどうしたの?俺のこと熱心に見つめちゃって。」
「別に。見てなんかないですけど。自意識過剰ですか。」
「いやいや、あっついー視線を感じたぞー?」
「ばっかじゃないの、あんたになんか興味ないから。」
「…そお?俺の方が、営業成績上なの気にしてんじゃないの?」

理沙子の動きがぴたっと止まる。
あ、やばい、またやりすぎたかも。口にしてから後悔したが、もう遅い。

「………っ、絶対、あんたなんかぬかしてやるんだから!」

大きく宣言すると、「営業行ってきます!」と理沙子は大股で部屋を出ていった。

「おー、いってこーい」

課長の気のない声がむなしく響く。

「……樹、お前、あれマジでやってんの?」

同じく同期の尾瀬に脇腹をつつかれ、思わず顔がゆがんだのが自分でもわかった。分かってる、いや、だからお願い、何も言わないで。
 そんな俺の雰囲気を察したのか、尾瀬は何も言わずに俺の肩を叩いてどこかへ行った。

「…………またやっちまった」

                    ***

 「樹はなんで毎回あれやっちゃうんだろうねぇ……」

乾杯し、それぞれがビールに口をつけたところで、尾瀬がしみじみ言った。

「…………」
「なんだよ、まぁたやりあったのかよ。」

返事を返さないでいる俺の周りに他部署の同期達も絡み始める。大方いい酒の肴がみつかったとでも思っているのだろう。――くそっ。
 俺が理沙子への気持ちを周りに触れ回ったことは一度たりともないが、周囲にはどうもバレバレのようで、同期で飲むと時々こうして話題にされる。

「向こうもお前のこと嫌ってんだし、いい加減、違う女の子捕まえたら?」
「嫌われては……」
「いや、嫌われてんだろ。どうみても。」
「っ……」

ぐうの音もでない。…嫌われてる、分かっちゃいるけど、他人の言葉だと余計、くるな。

「お前、営業成績も優秀だし、いくらでもいると思うけど。」
「……尾瀬にはかなわないけどな。」

そういわれて、向かいで飲む尾瀬が、ピースサインをしてみせる。
 尾瀬と言えばベテラン勢も何人かいる営業Ⅱ課の中で、営業成績トップを保持する、同期の中でも英雄的存在だ。なかなかやっかみも受けやすい立場みたいだけど、性格もあけっぴろげで、敵を作らない性格のせいか、先輩からも同期からも信頼を得ている。ただ唯一の欠点と言えば。

「尾瀬はなぁ、身長がなぁ!」
「余計なお世話だわ!」

どっと笑いが起きる。

唯一の欠点は少年のようなベビーフェイスと、女の子とそんなに変わらない160台の身長ぐらい。

「今日だって、年確認されてっしょ。」
「26歳にもなってうけるわー」
「うるさいわ。ったく。……でもまー、確かに女子受けがいいのは間違いなく樹の方だな。うらやましいぜ。」

尾瀬が小さくウィンクをしてきて、げんなりする。

「お前、マジで言ってんのかよ……」
「んにゃ、ちょっとした嫌味。」

実際、強がりでもなく、こいつはモテるとかそういうことにあんまり関心がないように見える。そういうところが逆に格好いいって、意外と陰で地味な人気があるのも知っている。
そのくせ、時々こういうこというんだからな、尾瀬は。ちょっとふてくされて、俺はビールを飲み干す。

「でもさでもさ、樹はなんで岡なわけ?岡って、結構性格きついじゃない?俺だったら勘弁だけど。」

それなー、と周りが同意する。

「それは……」

のみの席の話題にしたくなくて、俺は口をつぐんだ。

「そういや、俺、ずっと気になってたんだけどさ」

察した尾瀬がさらりと話題を変えた。

「岡が樹に突っかかる理由って、営業成績なんだろ?なんで樹なんだ?」

確かに営業成績だけを言うのなら、俺ではなくても尾瀬でも別の営業でもいいはずだ。だけど、理沙子の態度は俺限定できつくなる。

「んなの、俺が知りたいわ。」

少しむくれて答える。

「それは分からんけど、ここまで悪化した理由は間違いなくお前だろ。」
「お、木崎!遅かったな、こっち座れよ」

同じく同期で、営業1課のホープ、木崎。こいつと尾瀬と、俺、それから理沙子。好調な成績を上げている俺たちの世代は黄金世代、なんて陰で言われているらしい。
悪い奴じゃないけど、いちいち言葉がきつい。

「生一つで。」

手際よく注文を済ませると、木崎はじろっと樹を見た。

「よせばいいのに、わざわざ怒らせて、構いたがってんのバレバレ。」

木崎がこともなげに言う。図星をつかれて思わず黙る。

「だって、、そうでもしないと声もかけてくれないんだもん……」
「声かけるにしたって色々あんだろ。隣の課まで聞こえてきて迷惑なんだよ、ったく。」
「まぁまぁ、木崎。」

尾瀬がなだめてくれる。ちょうどそのタイミングで木崎のビールが運ばれてきて、本日何度目かの乾杯を済ませる。

「でも、ま、反省してんなら、たまには別のアプローチしてみれば。」
「え……」
「岡、まだ残業してたから、なんか差し入れとか持ってってやれば?」

ぐいっとビールを煽って、木崎が言った。

「お、なんだよ、優しい男アピールってか!?」
「いいじゃん、いいじゃん!樹行って来いよ!」
「コンビニスイーツなら、セブンがおすすめだぞ!」

一気に周りが盛り上がり始め、俺もだんだん乗せられて俄然やる気になってきた。
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