ライバル宣言返上求む

ななし

文字の大きさ
5 / 8
敵→ライバル

第5話 彼女の守りたいもの

しおりを挟む
「はぁ!?販売店のエロおやじに口説かれてるだぁ!?」
「ちょっと!」

叫んだ俺の頭を容赦なく理沙子がはたいた。

「声でかい上に、色々デリカシーない男ね。ほんと。」
「いや、お前なんでそんな冷静なんだよ」
「冷静に見える?むかっぱらがたって仕方がないわよ。」

ぐいっとジョッキを煽って、はぁーっと理沙子が深いため息をついた。

「掌なでなでされるだけで気持ち悪いってのに、あの男!露骨に体の関係持ったら、今度の企画口利きしてあげるよって、ふざけてんの……!」

こみ上げてくる怒りを押さえつけられないのか、ぎりぎりと理沙子はこぶしを握り締めて宙を睨んでいる。だが、そこにはどこか悲しみや不安がのぞいていて、それを怒りでごまかしているようにも見える。

「悪い…で、お前どうするつもりなんだよ。」
「とりあえず適当に誤魔化して、今度の企画だけは通してくるつもり。」

予想外の回答に俺は目をむいた。

「馬鹿、お前そんなんあぶねぇだろ。課長に事情話して誰か同行頼めよ。」

理沙子の顔が途端に曇った。

「だって、そしたらまたこれだから女はって顔するじゃない」
「んなこと言ってる場合か。」
「…………」
「お前がそういうつもりならいい。俺が課長に言って、代行する。」

そんなエロ親父のところに、理沙子をいかせられるか。なんとしてでも俺がなんとかしてやる。息まいて立ち上がろうとした俺を、理沙子が強い力で引きとどめた。

「嫌よ!せっかく、ここまでこぎつけたのに!」
「馬鹿かお前は!」

頭に血が上って俺は叫んでいた。

「……っ」

ぐっと理沙子が唇をかんだ。恐らく自分でも無謀だとはわかっているのだ。こいつはそこまで馬鹿な奴じゃない。

「わりぃ……」

少し涙目になった理沙子を見て、一気に頭が冷える。座席に座りなおして、息をつく。

「自分でもバカだって思うわよ、でも」
「頼れよ、こういうときの同期だろ。俺が嫌なら、尾瀬でも誰でもいい。海外営業部の木崎だっていい。だから、一人で抱え込むんじゃねぇよ。」

ほんとは、俺を頼ってほしいけど。

「樹……」

弱弱しくうつむいた理沙子の肩は細く、頼りなく見えた。

―――なんとかしてやりたい。

夜遅くまでこいつがその企画を通すために努力をしてきたことを俺は知っている。だからこそ代行、という形ではなく、違う方法で企画を通してやりたかった。
俺にできることは何かないか。直近の取引先とのやりとりを振り返り、はたと思い至る。

「待てよ、そこの販売店なら俺もなんとかできるかもしれない。」
「え……」
「騙されたと思って、俺に任せてみろよ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。 どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。 「もういい。愛されたいなんて、くだらない」 そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。 第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。 そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。 愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

処理中です...