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今にも雨が降り出しそうな薄暗い曇天の中、細い路地裏を歩く女。
ビビッドピンクのキャップ帽を目深に被り、靡かせるのはミディアムの黒髪。そして大きめのパーカーとその下から僅かに見える短パン。…どれも黒ばかりで、短パンとニーソの間に見える地肌の白さが際立っている。
その女の名は蜜姫、歳は18。
女は不意に立ち止まり、パーカーのポケットから徐に出された左手。その手には改造されたデザートイーグルが握られている。
銃口を向けた先には、壁と、異国の言葉を零す顔面蒼白なブロンド美女がいた。
「─…До свидания. 」
その言葉とともに放たれた銃弾。サイレンサーを装着しているため銃声は聞こえず、路地裏には空気を切る音が鈍く響く。
横たわるブロンド美女に近づき冷たく見下ろした女は、すぐに興味を失ったのか、何事もなかったかのようにその場を後にした。
-----
迷路の様な路地を迷わず進む。
ただでさえ人気の無い路地。曇天のせいか、いつも以上に暗く怪しい雰囲気を醸し出していて。容易く闇と同化することができた。
闇に紛れてたどり着いたのは路地裏にある一つの扉。高層ビルに囲まれた…所謂“死角”に、場違いながらもひっそりと佇む煉瓦作りの2階建て。
女はアンティークの扉を静かに押し、音もなく中に滑り込んだ。
「いらっしゃい、あぁ…おかえり、蜜姫。」
家主であり、店主である仲介人が、穏やかに微笑む。
「………、和寿。」
呼応するように、仲介人の名を小さく零す。
「デザートイーグルの使い勝手はどうだった?」
いつものカウンター席に座れば、にやり、とハンドガンの感想を求めてくる仲介人。女は左のポケットからデザートイーグルを出し、カウンターテーブルに静かに置いた。
「…普通。強いて言えば…あまり好きじゃない。」
仲介人は、やっぱりか、と少し思案したあと、デザートイーグルを手にし、銃口を女の眉間へと突き付ける。きっかり5秒…満足したのか、手にしたそれをカウンター下に仕舞った。
「相変わらず表情一つ変えねぇなぁ。」
笑いながらそう言う仲介人に女は若干の殺意を抱きながらも、ただジッと見据える。
「蜜姫ぐらいだぞ。仲介しているだけの俺に、気に入らない、だの、好みじゃない、だの、重みが欲しい、だの、つまらない、だの注文の多い奴。」
言葉の割にどこか愉しそうな声色の仲介人が、ちょっと待ってろ、と言って裏へと姿を消す。 すぐに戻ってきた仲介人の手には3丁のハンドガン。
「純正の“M&K USP9”か、… “ブレン・テン”、だな。」
「…ブレン・テン?」
…仲介人は女の目の色が変わったのを見逃しはしなかった。
「そ。Dornaus and Dixon companyの、ブレン・テン。」
女がブレン・テンに注いでいた視線をチラリと仲介人に向ければ。
「…勿論、純正。」
「スタンダードと同じサイズで黒、ってことは…ミリタリー?」
ミリタリーは、別名“ポリス・モデル”。フレームはステンレスで艶消し黒染めされている。
仲介人は、流石だな、と小さく笑って。
「ブレン・テンを選ぶなら、こっちもやるよ。」
そう言った仲介人が並べたのは、少し小さめのハンドガン。
「まさか…ポケット・モデル?」
ニヤリ、と妖しく笑う仲介人。
ポケット・モデルは“幻のコンパクト・モデル”と呼ばれ、スライドにはクロームがかかっていて、フレームはスタンダード・モデルを加工したもの。試作は2丁しか作られず、作動するのは1丁のみだと言われている。
「ミリタリーでも珍しいのに、ポケット・モデルまで…。依頼は何、金?それとも仕事?」
問屋が武器を買い付けてくるのとは異なり、仲介人の元に集まるのは「依頼」とその「報酬」。ハンドガンなんかも価値のあるものであれば、報酬になることがあるのだ。もちろん先ほどのデザートイーグルのように報酬ではなく、仲介人の元に舞い込む武器もあるのだが。
「いらねぇ。千梨が、そろそろ蜜姫が自分に合ったガンを探してるだろうから、つって持ってきたやつだからな。」
至極愉しそうな仲介人。 女はピクリ、と僅かかに隠しきれなかった反応をみせた。
「千梨…?」
「あぁ、ニューヨークから戻ってきた。」
殺し屋は独自のコネクションを長年かけて作る。しかし女は特にそういったことをするタイプではなくて。それでも女の絶対的な強さに惹かれ、是が非でも我が手中に、と考える人間が後を断たなかった。
この異例の事態に、5年前…この世界では珍しく、一つのチームが出来上がった。
その名は、女の通り名でもある「JOKER」。女が信頼に値すると認めた者の集まり。メンバーはそれぞれ名を轟かせる変わり者達だ。
仲介人、和寿
問屋、千梨
情報屋、神壱
ハッカー、桃
スナイパー、椿
闇医者、桜
そして…殺し屋、蜜姫。
チームと言っても、そもそも女は縛るタイプではなく、言ってみれば放し飼い。それぞれが各々のスキルアップのために、世界中を飛び回っている。
しかし女の愛は深く、大きい。自らの内に入れた人間は、全身全霊で守りぬくのだ。
「ほかのみんなも、もうすぐ帰ってくるみたいだぞ。」
仲介人の言葉に、女が今日初めて小さく笑う。
「…そう。」
本人も自覚していない嬉しそうなその表情を見て、仲介人は微笑んだ。
ビビッドピンクのキャップ帽を目深に被り、靡かせるのはミディアムの黒髪。そして大きめのパーカーとその下から僅かに見える短パン。…どれも黒ばかりで、短パンとニーソの間に見える地肌の白さが際立っている。
その女の名は蜜姫、歳は18。
女は不意に立ち止まり、パーカーのポケットから徐に出された左手。その手には改造されたデザートイーグルが握られている。
銃口を向けた先には、壁と、異国の言葉を零す顔面蒼白なブロンド美女がいた。
「─…До свидания. 」
その言葉とともに放たれた銃弾。サイレンサーを装着しているため銃声は聞こえず、路地裏には空気を切る音が鈍く響く。
横たわるブロンド美女に近づき冷たく見下ろした女は、すぐに興味を失ったのか、何事もなかったかのようにその場を後にした。
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迷路の様な路地を迷わず進む。
ただでさえ人気の無い路地。曇天のせいか、いつも以上に暗く怪しい雰囲気を醸し出していて。容易く闇と同化することができた。
闇に紛れてたどり着いたのは路地裏にある一つの扉。高層ビルに囲まれた…所謂“死角”に、場違いながらもひっそりと佇む煉瓦作りの2階建て。
女はアンティークの扉を静かに押し、音もなく中に滑り込んだ。
「いらっしゃい、あぁ…おかえり、蜜姫。」
家主であり、店主である仲介人が、穏やかに微笑む。
「………、和寿。」
呼応するように、仲介人の名を小さく零す。
「デザートイーグルの使い勝手はどうだった?」
いつものカウンター席に座れば、にやり、とハンドガンの感想を求めてくる仲介人。女は左のポケットからデザートイーグルを出し、カウンターテーブルに静かに置いた。
「…普通。強いて言えば…あまり好きじゃない。」
仲介人は、やっぱりか、と少し思案したあと、デザートイーグルを手にし、銃口を女の眉間へと突き付ける。きっかり5秒…満足したのか、手にしたそれをカウンター下に仕舞った。
「相変わらず表情一つ変えねぇなぁ。」
笑いながらそう言う仲介人に女は若干の殺意を抱きながらも、ただジッと見据える。
「蜜姫ぐらいだぞ。仲介しているだけの俺に、気に入らない、だの、好みじゃない、だの、重みが欲しい、だの、つまらない、だの注文の多い奴。」
言葉の割にどこか愉しそうな声色の仲介人が、ちょっと待ってろ、と言って裏へと姿を消す。 すぐに戻ってきた仲介人の手には3丁のハンドガン。
「純正の“M&K USP9”か、… “ブレン・テン”、だな。」
「…ブレン・テン?」
…仲介人は女の目の色が変わったのを見逃しはしなかった。
「そ。Dornaus and Dixon companyの、ブレン・テン。」
女がブレン・テンに注いでいた視線をチラリと仲介人に向ければ。
「…勿論、純正。」
「スタンダードと同じサイズで黒、ってことは…ミリタリー?」
ミリタリーは、別名“ポリス・モデル”。フレームはステンレスで艶消し黒染めされている。
仲介人は、流石だな、と小さく笑って。
「ブレン・テンを選ぶなら、こっちもやるよ。」
そう言った仲介人が並べたのは、少し小さめのハンドガン。
「まさか…ポケット・モデル?」
ニヤリ、と妖しく笑う仲介人。
ポケット・モデルは“幻のコンパクト・モデル”と呼ばれ、スライドにはクロームがかかっていて、フレームはスタンダード・モデルを加工したもの。試作は2丁しか作られず、作動するのは1丁のみだと言われている。
「ミリタリーでも珍しいのに、ポケット・モデルまで…。依頼は何、金?それとも仕事?」
問屋が武器を買い付けてくるのとは異なり、仲介人の元に集まるのは「依頼」とその「報酬」。ハンドガンなんかも価値のあるものであれば、報酬になることがあるのだ。もちろん先ほどのデザートイーグルのように報酬ではなく、仲介人の元に舞い込む武器もあるのだが。
「いらねぇ。千梨が、そろそろ蜜姫が自分に合ったガンを探してるだろうから、つって持ってきたやつだからな。」
至極愉しそうな仲介人。 女はピクリ、と僅かかに隠しきれなかった反応をみせた。
「千梨…?」
「あぁ、ニューヨークから戻ってきた。」
殺し屋は独自のコネクションを長年かけて作る。しかし女は特にそういったことをするタイプではなくて。それでも女の絶対的な強さに惹かれ、是が非でも我が手中に、と考える人間が後を断たなかった。
この異例の事態に、5年前…この世界では珍しく、一つのチームが出来上がった。
その名は、女の通り名でもある「JOKER」。女が信頼に値すると認めた者の集まり。メンバーはそれぞれ名を轟かせる変わり者達だ。
仲介人、和寿
問屋、千梨
情報屋、神壱
ハッカー、桃
スナイパー、椿
闇医者、桜
そして…殺し屋、蜜姫。
チームと言っても、そもそも女は縛るタイプではなく、言ってみれば放し飼い。それぞれが各々のスキルアップのために、世界中を飛び回っている。
しかし女の愛は深く、大きい。自らの内に入れた人間は、全身全霊で守りぬくのだ。
「ほかのみんなも、もうすぐ帰ってくるみたいだぞ。」
仲介人の言葉に、女が今日初めて小さく笑う。
「…そう。」
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