JOKER

いしもりえりか

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ひと仕事終えた女は素早くドレスを身に纏い、クラッチバッグを手に地下へと戻る。
エレベーターから降りてきた女を見たブラックジャックのディーラーが、小さく微笑んだ。女はテーブルに近づき、ボーイに声をかける。素早く駆け寄ってきたボーイに、ウォッカのストレートを頼み、椅子に座る。

「やっていかれますか?」
「そうね…でも、私強いわよ?」
「それは、楽しみです。」

賭け事には負けない。前言通り、全勝した女。

「全てあなたにあげる、好きに使うといいわ。」

儲けた金を差し出す女に、僅かに目を見開くディーラー。しかし、すぐに微笑んで。

「ありがとうございます。ちなみに…この後のご予定は?」

ディーラーの問いに、くすり、と笑う。

「そうね、誰かに誘われれば、お酒でも飲みに行こうかしら。」

好戦的な目をした女。

「…でしたら、今夜、お付き合いいただけますか?」

勝気なディーラーも、嫌いじゃない。

「…つまらないのは嫌いよ?」

女は笑い、着替えて戻ってきたディーラーの腕に自らの手を添えた。
1組の男女が夜のネオンに迷い込む、真夜中の3時。

----

目を覚ました女が、時計に目をやる。その針はあと5分で11時を指そうとしているではないか。
昨夜のディーラーがシャワーを浴びているのか、バスルームから音が聞こえる。女は、ブランケットを身体にまとい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。冷えたそれで喉のかわきをうるおしていれば。横からそれを奪い、自らの口に持っていくディーラー。
上下する喉仏をぼんやりと眺めていれば、顔が近づき、唇が重なりあう。舌とともに入り込んでくる水。ちゅ…っ、とわざとらしい音を立てながら、唇が離れていった。

「何するのよ…。」

呆れたように、見上げる女。

「ん?欲しいのかな、と思って。」

悪びれもなく言うディーラーを軽く睨む。

「どう?もう1ラウンド。」

ニヤリと笑うディーラー。

「…胡散臭うさんくさい笑顔だとは思っていたけど、ここまで獣だとは思わなかったわ。」

女が呆れたように言えば、ディーラーは至極楽しそうに笑って。

「褒め言葉として受け取っておくよ。」

その言葉とともに、女をベッドに沈めた。

「ダメよ、13時に約束があるの。」

とは言っても、仲介人の店までは15分もあれば着くのだが。

「…男?」
「そうね。」

けるなぁ…、とディーラー。

「どうせなら、もっと上手な嘘にしてくれる?」

綺麗に笑った女を見て、ディーラーは小さく肩をすくめる。

「じゃあせめて、ランチだけでも。」

そのぐらいの時間はあるだろう?と見透かしたような目で見据えてくるので、負けず見つめ返す女。

「…シャワーだけ入らせて。」

先に折れたのは、女のほうだった。もちろん、と満足気に頷くディーラーに、女は小さくため息を落として浴室に向かう。

「俺が洗ってあげようか?」

女が呆れたように振り返れば、下心なんて皆無、とでも言い出しそうな程の爽やかな笑顔。

「…結構よ。」
「それは残念。」

----

シャワーのあと、身支度を整え、ディーラーとともに部屋を出る。1階に併設されているカフェで、2人ともパニーニとドリンクのセットを注文した。

「ところで…、オーナーとどっちが良かった?」

パニーニもあと一口でなくなる、という頃に。突然投げかけられた質問。

「あら、本気で私があんな薄汚い男と寝たと思っているの?」

心底不思議そうに首を傾げた女を見て、ディーラーは、冗談だよ、と笑った。

「殺したの?」

そう続けられた言葉に女は、ふわり、と花が咲いた様に笑って。

「…秘密。」

…そう、一言。

「…敵わないなぁ。」

困った様に笑ったディーラーは、また会える?と小さく零す。

「どうしようかしら…。」

悪戯いたずらっぽく首をかしげる女。

「そうね…私の気が向いたら遊んであげる。」

続いた言葉にディーラーは、降参のポーズ。私たちがいる世界は、そういう世界だ。

「じゃあ…君に見つけてもらえるように、俺はバーでも開こうかな。」

昨日君が十分過ぎるほどの出資をしてくれたしね、と笑うディーラー。そういえば賭けでの儲けを全てあげたんだったな、とぼんやり昨晩のことを思い出す。

「…“Poisonous Honey”、っていうのはどう?」

カフェを出たところで、再び口を開いたディーラーに女は一瞬何の話かわからず、考えて先ほどの話かと結論付ける。…どうやら本気だったらしい。

「…“毒入りの蜂蜜”?」

女はディーラーを真っ直ぐ見つめる。

「ハマったら、やめられない。…君みたいに。」

真剣な表情のディーラーを見て、小さく笑う女。合格、という言葉とともに、自らディーラーに口づけた。

「気に入ったわ。…もし店をやる気がほんとにあるのなら、次は本当の私で会いに行ってあげる。」
「それは光栄「もっとも…あなたが今見ている私と正反対の女でよければ、だけど。」

強気な女にディーラーは。

「どんな君だろうと、君は君だろう?」

穏やかに微笑んで。そんなディーラーに女は、どっちが毒なんだか、と心の中で零した。
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