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漆黒のスーツに身を包み、髪を一つに結う。深紅のバラがあしらわれた黒のシルクハットを被り、ゴールドの仮面が顔の4分の1…両目と左頬を隠していて。靴は先の丸い黒のローファー。服の下にサラシを巻いた女は、中性的な姿をしていた。
「…じゃあ行ってくるね、Alice。」
みゃあ、と鳴く子猫をひと撫でし、会場へと向かった。会場の門を潜ったところで、すぐに男の後ろ姿を見つけ、その隣に静かに並ぶ。
「うおっ?!」
突然隣に人が現れたことに驚き、声を上げる男。左手が、スーツに隠れるハンドガンにかかっている。
「…ちょっと、私よ。」
女が仮面の下の顔を顰める。
「………。」
足を止め、目を見張る男に対して、苛立ちを感じ始める女。ひとつ溜め息を零し、男を置いて歩き出す。
「…蜜姫か?!」
「…煩い。」
会場の中へと足を進める女を、我に返った男が慌てて追ってきた。
「その格好…!」
男は普段通り、シルバーグレーのスーツに赤いシャツを合わせている。今日は場面が場面なだけあって、スーツと同じシルバーグレーのネクタイを着けているが、意味があるのかないのかわからないくらい緩んでいた。顔には右半分のほとんどを隠すシルバーの仮面。
「念には念を。…仮面を付ければある程度は隠せるけど、女の格好じゃ目立ち過ぎるから。」
煩わしい、とでも言いたげな女。
「…なるほど。」
納得した男が何やらブツブツと言っているのに気づきながらも、女は無視を決め込む。
「…とりあえず、控え室の方行くぞ。」
会場内に入ったところで、男が思い出した様に案内する。
「ここだな。」
ノックのあと聞こえた、はい、という中からの声に、Kだ、と返す男。“K”は男の通り名だ。
「よ。」
「…失礼します。」
片手を上げるだけの男に対し、女は礼儀正しく頭を下げる。部屋の中には、双子と2人の女性。
「K、そちらは?」
愛想の良さそうな金色の髪の男が、フィアンセの腰を抱きながら男に問う。双子の兄だ。
「JOKERだ。」
「………。」
静かに恭しく頭を下げる女に、周りは目を少しばかり見開きながらも今回の護衛対象である4人は仮面を外し頭を下げ返す。
「男…?」
「しかし、JOKERは女性だったはずでは…?」
愛想の悪そうな銀色の髪の男…双子の弟が怪訝そうな顔をし、双子の兄が不思議そうに尋ねる。
「…今夜は、この姿が適切だと判断しましたので。仮の姿での初見、どうかお許し下さい。」
男声とも取れる…低くも高くもない透き通った女の声が、部屋の空気を静かに揺らす。何度見ても見慣れない仕事仕様の女の姿に、男は肩を竦めた。
「そうですか…お心遣い痛み入ります。どうか、緋彩と彼のフィアンセをお守り下さい。」
「…頼む。」
丁寧な双子の兄とは違い、口数の少ない双子の弟。
「…お任せ下さい。」
仮面で隠れていない女の口元が綺麗に弧を描く。そんな女に頬を赤らめる双子の、フィアンセ達。
「ほら、挨拶を。」
そんなフィアンセ達に気づいているのかいないのか、双子の兄が穏やかに言う。
「蒼彩の婚約者の、皓と申します。」
「緋彩の婚約者の、黎と申します。」
2人のフィアンセの挨拶を聞いて、女は静かに微笑んだ。
「皓様黎様、…どうぞよろしくお願い致します。」
そんな女に更にうっとりするフィアンセ達。
「…おっと、そろそろ時間だな。行くか。」
やれやれ、と言いたげな男が口を挟んだことで、2人のフィアンセが、はっ、とする。男が扉を開け、女が周囲を確認しながら部屋を出ると、その後ろを4人が続き、最後に男が出た。並ぶ4人の右前を女、左後ろを男が歩き、主催者の双子とそのフィアンセ達に気づいた招待客達が道を開けていく。
(蒼彩様と緋彩様よ!)
(…かっこいい。)
(あの女達、大して可愛くもないのに…。)
(素敵…。)
(…どんな手を使ったのかしら…。)
(お似合いね。)
(御厨様たちを挟んで歩く殿方は誰かしら…。)
周りから聞こえてくる声の多くは羨望の声。しかし、中には聞くに忍びないものもあった。ちらり、と後ろに視線を向ければ。慣れているのだろう、2人のフィアンセは真っ直ぐ前だけを見据え、堂々と歩いていた。視線を戻した女の口角が無意識に上がる。
「…先に舞台での挨拶を。」
女が緞帳の降りている舞台を確認した上で、舞台袖に繋がる扉を開けて4人に入るよう促す。
「俺たちは、舞台袖で待機してる。挨拶が終わったら…蒼彩と皓は俺がいる上手に、「…緋彩様と黎様は私のいる下手に捌けてください。」
2人の言葉に頷いた4人が、舞台上にあるマイクの前に立つ。それと同時に女が上手に移動して。緞帳が上がり、主催者にスポットライトが当たると、煌く会場が盛大な拍手に包まれた。短めの挨拶が終わり、4人がそれぞれに捌けてくる。
「…会場に移動しましょう。」
女が双子の弟とそのフィアンセを誘導し、入口の前で双子の兄とそのフィアンセを連れた男と合流した。
「中では好きな様に動いていいが、必ず2人1組でいるようにしてくれ。」
男の言葉に4人が頷いたのを合図に、女と男が両開きの扉を開ける。
「…それでは、参りましょう。」
女は一つ、笑みを零した。
「…じゃあ行ってくるね、Alice。」
みゃあ、と鳴く子猫をひと撫でし、会場へと向かった。会場の門を潜ったところで、すぐに男の後ろ姿を見つけ、その隣に静かに並ぶ。
「うおっ?!」
突然隣に人が現れたことに驚き、声を上げる男。左手が、スーツに隠れるハンドガンにかかっている。
「…ちょっと、私よ。」
女が仮面の下の顔を顰める。
「………。」
足を止め、目を見張る男に対して、苛立ちを感じ始める女。ひとつ溜め息を零し、男を置いて歩き出す。
「…蜜姫か?!」
「…煩い。」
会場の中へと足を進める女を、我に返った男が慌てて追ってきた。
「その格好…!」
男は普段通り、シルバーグレーのスーツに赤いシャツを合わせている。今日は場面が場面なだけあって、スーツと同じシルバーグレーのネクタイを着けているが、意味があるのかないのかわからないくらい緩んでいた。顔には右半分のほとんどを隠すシルバーの仮面。
「念には念を。…仮面を付ければある程度は隠せるけど、女の格好じゃ目立ち過ぎるから。」
煩わしい、とでも言いたげな女。
「…なるほど。」
納得した男が何やらブツブツと言っているのに気づきながらも、女は無視を決め込む。
「…とりあえず、控え室の方行くぞ。」
会場内に入ったところで、男が思い出した様に案内する。
「ここだな。」
ノックのあと聞こえた、はい、という中からの声に、Kだ、と返す男。“K”は男の通り名だ。
「よ。」
「…失礼します。」
片手を上げるだけの男に対し、女は礼儀正しく頭を下げる。部屋の中には、双子と2人の女性。
「K、そちらは?」
愛想の良さそうな金色の髪の男が、フィアンセの腰を抱きながら男に問う。双子の兄だ。
「JOKERだ。」
「………。」
静かに恭しく頭を下げる女に、周りは目を少しばかり見開きながらも今回の護衛対象である4人は仮面を外し頭を下げ返す。
「男…?」
「しかし、JOKERは女性だったはずでは…?」
愛想の悪そうな銀色の髪の男…双子の弟が怪訝そうな顔をし、双子の兄が不思議そうに尋ねる。
「…今夜は、この姿が適切だと判断しましたので。仮の姿での初見、どうかお許し下さい。」
男声とも取れる…低くも高くもない透き通った女の声が、部屋の空気を静かに揺らす。何度見ても見慣れない仕事仕様の女の姿に、男は肩を竦めた。
「そうですか…お心遣い痛み入ります。どうか、緋彩と彼のフィアンセをお守り下さい。」
「…頼む。」
丁寧な双子の兄とは違い、口数の少ない双子の弟。
「…お任せ下さい。」
仮面で隠れていない女の口元が綺麗に弧を描く。そんな女に頬を赤らめる双子の、フィアンセ達。
「ほら、挨拶を。」
そんなフィアンセ達に気づいているのかいないのか、双子の兄が穏やかに言う。
「蒼彩の婚約者の、皓と申します。」
「緋彩の婚約者の、黎と申します。」
2人のフィアンセの挨拶を聞いて、女は静かに微笑んだ。
「皓様黎様、…どうぞよろしくお願い致します。」
そんな女に更にうっとりするフィアンセ達。
「…おっと、そろそろ時間だな。行くか。」
やれやれ、と言いたげな男が口を挟んだことで、2人のフィアンセが、はっ、とする。男が扉を開け、女が周囲を確認しながら部屋を出ると、その後ろを4人が続き、最後に男が出た。並ぶ4人の右前を女、左後ろを男が歩き、主催者の双子とそのフィアンセ達に気づいた招待客達が道を開けていく。
(蒼彩様と緋彩様よ!)
(…かっこいい。)
(あの女達、大して可愛くもないのに…。)
(素敵…。)
(…どんな手を使ったのかしら…。)
(お似合いね。)
(御厨様たちを挟んで歩く殿方は誰かしら…。)
周りから聞こえてくる声の多くは羨望の声。しかし、中には聞くに忍びないものもあった。ちらり、と後ろに視線を向ければ。慣れているのだろう、2人のフィアンセは真っ直ぐ前だけを見据え、堂々と歩いていた。視線を戻した女の口角が無意識に上がる。
「…先に舞台での挨拶を。」
女が緞帳の降りている舞台を確認した上で、舞台袖に繋がる扉を開けて4人に入るよう促す。
「俺たちは、舞台袖で待機してる。挨拶が終わったら…蒼彩と皓は俺がいる上手に、「…緋彩様と黎様は私のいる下手に捌けてください。」
2人の言葉に頷いた4人が、舞台上にあるマイクの前に立つ。それと同時に女が上手に移動して。緞帳が上がり、主催者にスポットライトが当たると、煌く会場が盛大な拍手に包まれた。短めの挨拶が終わり、4人がそれぞれに捌けてくる。
「…会場に移動しましょう。」
女が双子の弟とそのフィアンセを誘導し、入口の前で双子の兄とそのフィアンセを連れた男と合流した。
「中では好きな様に動いていいが、必ず2人1組でいるようにしてくれ。」
男の言葉に4人が頷いたのを合図に、女と男が両開きの扉を開ける。
「…それでは、参りましょう。」
女は一つ、笑みを零した。
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