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いしもりえりか

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踊る何組かの男女。その中に、双子とフィアンセ達の姿もあった。女と男は、少し離れた壁際で周囲に不審がられない程度に目を光らせる。

「…今のところ、不穏な動きはないな。」

男口調の女が、男だけに聞こえる音量で話す。

「…お前を呼ぶまでもなかったな。」

そんなことを返す男に小さく笑いながら、ところで、と区切る。

「何、楽しんでるんだ…。」

少しばかり頭を抱えた女が、隣で飲食に徹する男に呆れている。会場の中央はダンススペースになっているが、周りは軽く立食ができるスペースになっていた。

「暇だからな。お前もどうだ?」

男がウエイターから受け取った赤ワインを、女に差し出す。

「いや、いい。」

と、女が断ったところで、2人の令嬢が近寄ってきた。

「あの…よろしければ、踊っていただけませんか。」

顔を赤らめる令嬢達。

「貴女ような美しいご令嬢に誘っていただけるとは…光栄です。」

甘く言葉を紡ぐ女。
令嬢は更に紅潮し、憂いを帯びていた表情が一気に明るいものへと変わる。

「女性からの誘いをお断りするのは大変心苦しいのですが…、職務中ですので。」

酷く残念そうに言う女に、隣りでは男が笑いを堪えて、令嬢達は悲しそうな表情を滲ませた。

「そう、ですか…。せめて、お名前だけでも…。」

「貴女が私を心から欲すれば、名前など知らなくともいつかまた会えます。このような仮の姿ではなく、真の姿で…。」

儚げに微笑む女に、再び頬を赤らめた令嬢が何かにあてられて熱に浮かされたかのように、一言二言零して、ぼー…っとした様子で去っていく。それから少しして、笑い出した男が満足するまで笑ったところで、口を開いた。

むごいな。」
「…そうか?」

素知らぬ顔で返しながら、双子の弟とフィアンセを見守る女。

「花は花らしく、待っていればいいものを。」

女が冷めた口調で小さく零す。

「俺は、誘う女も誘われる女も好きだぜ?」
「喰える女なら誰でもいいだけだろ。」
「相変わらずはっきり言うなァ、お前…。」
「それはどうも。」
「褒めてねーよ!」

女は、煩い、と言葉を落として歩き出す。

「おい、?」

男の怪訝な声を他所に、女が初老の男に近づき、周りからは見えないよう相手の腰に銃口を当てる。

「ご退出願おうか。」

凍りそうなほど冷たい女の声。青ざめていく初老の男。それに気づいた男が、気怠げに近づいてきた。

「…でも一番好きなのは、誘いもせず誘われるのを待とうともしない蝶みたいな女だな。」

女に耳打ちして、初老の男を会場の外に連れ出した。それを鼻で笑って、踊る双子達にそっと近づく。

「一度食事を取られてはいかがですか?」

女の柔らかい声に、4人が頷いて。少し離れたテーブルに移動した。

「Kは?」
「すぐ戻ってきます、ご安心を。」
「そうですか。」

双子の兄の少し不安げな問いに、女が優しく答える。4人がテーブルを囲み、グラスを片手に談笑していると、一歩下がっていた女の横に戻ってきた男が並んだ。

「あと2、3人ってとこだな。」
「そうね。」
「お二人もいかがですか。」

男に気づいた双子の兄が、シャンパンを勧める。

「おう、さんきゅ。」

それを受け取る男。女には双子の弟がグラスを差し出していて。

「ありがとうございます。」

女は内心驚きながらも、そのグラスを受け取った。

「俺の時は断っておいて、緋彩からの酒は受け取るのか。」

肩を組んで絡んでくる男の腰に、先ほどの様に銃口を食い込ませる。

「…何か言ったか?」
「おま…っ!」

穏やかな口調と口元の笑みとは裏腹に、それだけで殺されそうな程の殺気を放つ女に気づき、柄にもなく真っ青になる男。双子の弟は、そんな2人に少しだけ目を見開く。他の3人からは見えないようで、男の様子を不思議そうに見ていた。
ふと、女の視線が一点を捉える。

「…失礼。」

グラスを置き、テーブルから離れてダンススペースを挟んだ向かい側の壁際に向かう。鮮血の様な赤のドレスを身に纏った、消えていきそうな青白い女。女はウエイターから白ワインを受け取り、青白い女に近づく。

「いかがですか?」

片方のグラスを差し出す女。

「…ありがとう。」
「つまらなさそうですね…、よろしければご一緒しても?」

薄く笑って、青白い女を逃がさないよう壁に手をつく。

「…楽しませてくれるなら。」

青白い女の笑みに計り知れぬ嫌悪感を抱きながら、その腰に手を添えてテラスへとエスコートする。

「あぁ…月が綺麗ですね。」
「そうね…。」
「…さて、と。本題に入ろうか。」

後頭部に銃口を向ける。

「貴女にこの華やかな世界は不釣り合い過ぎるのでは?」

嘲笑の滲む声。

「…あら、そういう貴方もこちら側の人間でしょう?」

虚勢を張る青白い女。

「そうだな。…だが生憎、私の闇は華やかさにも劣らないという自負がある。」
「………っ!!」
「溶け込むのも、仕事の内だと思わないか?」

女の口元に浮かぶ冷笑を、月の光が照らす。

「…私に見つかった時点でGame Overだけどね。」

笑みを消した女が、銃の先を心臓が位置する背中に移す。

「─…До свидания.」

銃弾が風を切る音と共に発せられた女の透き通った声が、夜の闇に溶けて消えた。
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