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「遅かったな。」
戻ってきた女に気づいた男が振り返って声をかける。
「…すみません、皆様の楽しい時間をくだらないことに費やすことになってしまいましたね。」
男を無視し、4人に詫びる女。
「そんな…我々も丁度踊り疲れて休憩したかったですし、構いませんよ。それに、貴方がここを離れて15分にも満たないじゃないですか。」
そう言って双子の兄が穏やかに笑った。
「黎。折角だ、JOKERと踊るか?」
「え…?あ、はい!」
双子の弟の言葉に、嬉しそうに頷くフィアンセ。
「…私はお二人の護え「いーじゃねぇか。堅いこと言わずに踊ってこいよ。さっきの女どもに見せつけてやれ。」
少し困った様な表情で断ろうとする女の言葉を、男が愉しそう遮る。それを聞いて、双子の弟とフィアンセがダンススペースで踊りだす。招待客達は動きを止めて。
「ほら、行けよ。好意を無下にする気か?」
ニヤニヤと、女を酷く腹立たせる表情で挑発する男。
「…後で覚えてろ。」
小さく舌打ちをし、踊りを止めた2人の元へ歩いていく。フィアンセの前で跪き、手を差し出す女。
「踊っていただけませんか?」
魅惑の微笑みに、2人は少し驚いた顔をしたが、それはすぐに笑みへと変わる。周囲の人間は息を呑み、それらに見せつけるように双子の弟が女へとフィアンセを受け渡した。
「踊りはあまり得意ではないのですが…。」
フィアンセの腰に手を添え、その耳元で困った様に小さく笑う。曲に合わせ、フィアンセをより綺麗に魅せるように踊る。
「得意ではない、なんて…嘘つきですね。」
クスクスと笑うフィアンセ。
「本当ですよ。」
「先ほど、女性に誘われていたでしょう?」
「…見ていたのですか。」
「たまたま。お二人から私たちの踊っている場所がよく見える様に、私たちからもお二人がよく見えるんですよ。」
そう言って楽しそうに笑う。
「………。」
「それで、JOKERさんが席を外している間にKさんが、JOKERは踊りが上手い、とおっしゃていて。」
「…全てあいつの企てですか。」
女は軽く頭痛を覚えた。
「ふふっ、…ほらご覧になって?女性は皆、貴女に釘付けですよ。壁に手をついて女性に迫った時も、悔しそうにしている方が沢山いらしたんですから。」
「それも見られてしまいましたか…。」
「ええ。…あ、蒼彩と皓が来ましたね。」
踊りだす双子の兄とフィアンセを視界に捉える。反対側からは双子の弟。手を伸ばす双子の弟に、腕の中にいたフィアンセを渡す女。双子の弟達は一礼のあと、Kの元に戻っていく。女は踊りを止めた双子の兄達に歩み寄り、先ほどのように跪いて手を差し出した。
「踊っていただけますか?」
ふわりと微笑めば、双子の兄が双子の弟と同じ仕草でフィアンセを女に渡す。
「本当に何でもできるのですね。」
「…そんなことはありませんよ。」
うふふ、と優雅に笑うフィアンセに苦笑を零す女。
「いいえ…、とても聡明なお方です。」
「……っ。」
瞼を伏せたフィアンセに、女が言葉を詰まらせる。
「蒼彩達から貴女の話を聞いて、私も黎もお友達になりたいと思っていたんです。」
真剣な眼差し。
「友、達…?」
そんなフィアンセに、女は拍子抜けした。少しリズムから外れそうになりながらも、なんとか音楽の中に踏み止まる。何事もなかったかのように踊り続けてはいるが、動揺が身体の中に渦巻いていた。
「…しかし私は「…殺し屋、だから?」
「!!」
僅かに仮面の下にある目を見開く女。
「…それも、あいつに言われましたか。」
そっと目を閉じて、小さく息を吐いた。それは呆れにも、諦めにも受け取れる。
「ええ…、JOKERは絶対に頷かない、と。」
儚い笑顔に広がる憂い。
「…そう、ですね。」
女は、余計なことを…、と心の中で舌打ちする。どろどろとしたもの心へじわじわと広がっていくのに気付いた女は本格的に苛立ち始めるが、それを表に出さないよう平静を装った。
「嫌、ですか?」
「…いえ、そういうわけでは……。」
「考えておいてくださいね。」
そう笑って、フィアンセは双子の兄の元へ戻っていく。ダンススペースの中心で恭しく一礼した女も、酷く愉快そうに見物している男の元へ静かに戻った。
「お疲れさん。」
「貴様…「余計なことを、って思ってんだろ?」
ニヤリ、と笑う男に隠さず舌打ちした女。双子達も招待客もダンスを再開したようだった。
「随分苛ついてんなァ?」
「誰のせいだと、…。」
女は言いかけた言葉を、諦めたように飲み込む。
「自分の所為であいつらが傷つくのが嫌なら、お前が守ってやればいい。お前なら、それができるだろ?」
慈愛に満ちた男の言葉。
「普通、とまではいかないだろうが、表の時間も持てよ。」
「今更表の時間なんて…無意味だ。私はもう、裏の世界に染まり過ぎてる。」
哀しそうに女を見つめる。そんな男を知ってか知らずか…女は、それに、と言葉を続けた。
「これからも裏の世界で生きていく私に、表の時間なんて必要ない。」
しばらくの沈黙の後、男が小さく笑う。
「今日は酷く饒舌だな、お前。」
その言葉に驚き、目を見開く女。
「…お前はもっと、貪欲になるべきだ。」
男が女を真っ直ぐ見据える。その視線から逃れるように、女は目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
「逃げるなんて、お前らしくねぇじゃねーか。」
男のニヒルな笑み。
「…挑発に乗るのはあまり好きじゃない。」
調子を取り戻した女が、冷たく放つ。男はそれに、肩を竦めた。
「…が、今回だけは、その挑発に乗ってやる。」
仮面の下に浮かぶ、シニカルな表情。
闇に浮かぶ華やかな夜…、日付が変わろうとしていた。
戻ってきた女に気づいた男が振り返って声をかける。
「…すみません、皆様の楽しい時間をくだらないことに費やすことになってしまいましたね。」
男を無視し、4人に詫びる女。
「そんな…我々も丁度踊り疲れて休憩したかったですし、構いませんよ。それに、貴方がここを離れて15分にも満たないじゃないですか。」
そう言って双子の兄が穏やかに笑った。
「黎。折角だ、JOKERと踊るか?」
「え…?あ、はい!」
双子の弟の言葉に、嬉しそうに頷くフィアンセ。
「…私はお二人の護え「いーじゃねぇか。堅いこと言わずに踊ってこいよ。さっきの女どもに見せつけてやれ。」
少し困った様な表情で断ろうとする女の言葉を、男が愉しそう遮る。それを聞いて、双子の弟とフィアンセがダンススペースで踊りだす。招待客達は動きを止めて。
「ほら、行けよ。好意を無下にする気か?」
ニヤニヤと、女を酷く腹立たせる表情で挑発する男。
「…後で覚えてろ。」
小さく舌打ちをし、踊りを止めた2人の元へ歩いていく。フィアンセの前で跪き、手を差し出す女。
「踊っていただけませんか?」
魅惑の微笑みに、2人は少し驚いた顔をしたが、それはすぐに笑みへと変わる。周囲の人間は息を呑み、それらに見せつけるように双子の弟が女へとフィアンセを受け渡した。
「踊りはあまり得意ではないのですが…。」
フィアンセの腰に手を添え、その耳元で困った様に小さく笑う。曲に合わせ、フィアンセをより綺麗に魅せるように踊る。
「得意ではない、なんて…嘘つきですね。」
クスクスと笑うフィアンセ。
「本当ですよ。」
「先ほど、女性に誘われていたでしょう?」
「…見ていたのですか。」
「たまたま。お二人から私たちの踊っている場所がよく見える様に、私たちからもお二人がよく見えるんですよ。」
そう言って楽しそうに笑う。
「………。」
「それで、JOKERさんが席を外している間にKさんが、JOKERは踊りが上手い、とおっしゃていて。」
「…全てあいつの企てですか。」
女は軽く頭痛を覚えた。
「ふふっ、…ほらご覧になって?女性は皆、貴女に釘付けですよ。壁に手をついて女性に迫った時も、悔しそうにしている方が沢山いらしたんですから。」
「それも見られてしまいましたか…。」
「ええ。…あ、蒼彩と皓が来ましたね。」
踊りだす双子の兄とフィアンセを視界に捉える。反対側からは双子の弟。手を伸ばす双子の弟に、腕の中にいたフィアンセを渡す女。双子の弟達は一礼のあと、Kの元に戻っていく。女は踊りを止めた双子の兄達に歩み寄り、先ほどのように跪いて手を差し出した。
「踊っていただけますか?」
ふわりと微笑めば、双子の兄が双子の弟と同じ仕草でフィアンセを女に渡す。
「本当に何でもできるのですね。」
「…そんなことはありませんよ。」
うふふ、と優雅に笑うフィアンセに苦笑を零す女。
「いいえ…、とても聡明なお方です。」
「……っ。」
瞼を伏せたフィアンセに、女が言葉を詰まらせる。
「蒼彩達から貴女の話を聞いて、私も黎もお友達になりたいと思っていたんです。」
真剣な眼差し。
「友、達…?」
そんなフィアンセに、女は拍子抜けした。少しリズムから外れそうになりながらも、なんとか音楽の中に踏み止まる。何事もなかったかのように踊り続けてはいるが、動揺が身体の中に渦巻いていた。
「…しかし私は「…殺し屋、だから?」
「!!」
僅かに仮面の下にある目を見開く女。
「…それも、あいつに言われましたか。」
そっと目を閉じて、小さく息を吐いた。それは呆れにも、諦めにも受け取れる。
「ええ…、JOKERは絶対に頷かない、と。」
儚い笑顔に広がる憂い。
「…そう、ですね。」
女は、余計なことを…、と心の中で舌打ちする。どろどろとしたもの心へじわじわと広がっていくのに気付いた女は本格的に苛立ち始めるが、それを表に出さないよう平静を装った。
「嫌、ですか?」
「…いえ、そういうわけでは……。」
「考えておいてくださいね。」
そう笑って、フィアンセは双子の兄の元へ戻っていく。ダンススペースの中心で恭しく一礼した女も、酷く愉快そうに見物している男の元へ静かに戻った。
「お疲れさん。」
「貴様…「余計なことを、って思ってんだろ?」
ニヤリ、と笑う男に隠さず舌打ちした女。双子達も招待客もダンスを再開したようだった。
「随分苛ついてんなァ?」
「誰のせいだと、…。」
女は言いかけた言葉を、諦めたように飲み込む。
「自分の所為であいつらが傷つくのが嫌なら、お前が守ってやればいい。お前なら、それができるだろ?」
慈愛に満ちた男の言葉。
「普通、とまではいかないだろうが、表の時間も持てよ。」
「今更表の時間なんて…無意味だ。私はもう、裏の世界に染まり過ぎてる。」
哀しそうに女を見つめる。そんな男を知ってか知らずか…女は、それに、と言葉を続けた。
「これからも裏の世界で生きていく私に、表の時間なんて必要ない。」
しばらくの沈黙の後、男が小さく笑う。
「今日は酷く饒舌だな、お前。」
その言葉に驚き、目を見開く女。
「…お前はもっと、貪欲になるべきだ。」
男が女を真っ直ぐ見据える。その視線から逃れるように、女は目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
「逃げるなんて、お前らしくねぇじゃねーか。」
男のニヒルな笑み。
「…挑発に乗るのはあまり好きじゃない。」
調子を取り戻した女が、冷たく放つ。男はそれに、肩を竦めた。
「…が、今回だけは、その挑発に乗ってやる。」
仮面の下に浮かぶ、シニカルな表情。
闇に浮かぶ華やかな夜…、日付が変わろうとしていた。
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