戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ

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第16話 森の戦い

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 海は逃げるポインズン・ベアーを追いかけて森の中へと消えていった。

 戦いの一部始終いちぶしじゅう見ていた虎一郎は感心しながらつぶやいた。

「なんと素晴らしい戦いぶりであったか。しかし海殿はどこへ……」

「コイちゃん、海さんはあの熊の主人をつかまえに行ったんだよ」

「主人を?」

「仲間にしたモンスターはHP……、あ『命』がたくさん減ると主人の所に戻るから、追いかけて主人を倒すんだと思う」

「そうか。コスギという忍者が言っておったが、主人を倒せば、仲間のモンスターを奪い取れると」

「そうフィールドに出てる仲間のモンスターは奪えるんだ。たぶん海さんは、あの熊の主人から熊を奪い取って、もう他の人を襲わせないようにしたいんだと思う」

「……海殿、本当に頭が下がるお方だ」


 その頃、動画配信サイトのチャンネル「モリノ・クッマサン」では配信者が狼狽うろたえていた。

「え、ちょ、おれのポイズン・ベアーが逃げてくるんだけど! ってか、来んなって! 居場所がバレんだろ!」

 配信者は慌てて仲間のポイズン・ベアーを自分のプレイベートエリアへ送ろうとしたが『戦闘中のため転送できません』の文字が視界に浮かんだ。

「ちっ! じゃあ殺すしかねぇ」

 配信者は隠れて撮影していた草むらで弓を構えると、なんと自分のポイズン・ベアーに矢を放った。

 ヒュッ ヒュッ ヒュッ

 ドドドッ!

 ガァァアア……

 ポイズン・ベアーは悲しそうに苦しんだ。

 しかしエージェントの海はそれを見逃さず、矢が放たれた草むらに向かって一直線に走り込んだ。

 ダダダダダダダッ!

 ドガン!
『クリティカル +20%』

「ぐわっ!」

 海はシールドバッシュで主人のプレイヤーを叩きつけると、そのまま大盾で抑え込んで言った。

「僕はエージェントの海。君のチャンネルにもメッセージを送ったが、君には200件以上の苦情が来ているため取り締まりに来た」

 倒れた主人のプレイヤーは笑いながら海に答えた。

「は? 取り締まり? ホントに来たのかよ。……ふざけんな!」

 主人のプレイヤーは素早く矢筒に入れていたしびれ矢を取り出すと、海の脇腹わきばらを狙った。

 ブワッ!

 カンッ!

 しかし海は即座に槍の柄で弾くと、槍を構えて主人のプレイヤーに言った。

「君はペナルティーを受けることになる。しかし君たちのアジトの場所を教えれば……」

 主人のプレイヤーは海の言葉をさえぎるるように叫んだ。

「あほか! 教えるわけねぇだろ」

「……仕方がない。ではポイズン・ベアーを頂くぞ」

 ドスドスッ!
『クリティカル +40%』
『クリティカル +80%』

「くそっ! なんだこの攻撃力は!」

 海が主人のプレイヤーをランスで攻撃するとくやしそうに消滅していった。

 海の戦いを遠くから見ていた虎一郎は海のそばにやって来て尋ねた。

「海殿、さすがの強さであるな。感心いたした。その熊は海殿の仲間になったのであろうか」

「はい、仲間になりました。一旦いったんエージェント・センターの保護施設ほごしせつに送ります」

 海はそう言うと、ポイズン・ベアーをエージェント・センターに転送した。

 するとその時、少し離れた所から茜衣あいの声が聞こえた。

「海おじさん! また熊きた!」

 海と虎一郎が振り向くと、ポイズン・ベアーよりも大きな熊が茜衣あいのすぐ近くにいた。

茜衣あい殿!」
茜衣あいちゃん」

 ブゥーン……

 愛芽めめは急いで防御魔法陣を展開すると、海は驚いて声をあげた。

「あ、あれはビッグ・ベアー!」

 海がそう言うと、突然1人の体格の良い若い男性が現れて海たちに言った。

「これね、ぼくの自慢の熊のビッグ・ベアーなんだ。はは。ぼく、モリノ・クッマサンのファンでね。配信者さんのかたきうちちに来たんだ。はは」

 それを聞いた海はランスを構えながら若い男に尋ねた。

「よくこの場所が分かったな」

「ぼくね、このゲームの地形と景色は全部覚えてる。だから、動画見たら場所がわかるんだ。はは」

 するとその時、茜衣あいが抱っこしていたツバキが飛び降りて、ビッグ・ベアーに激しく吠えた。

「わんわん! わんわんわん!」

 するとなんと、ビッグ・ベアーは爪でツバキに襲いかかった。

 ブワッ!

「あぶない!」

 パリン!

 愛芽めめはツバキを防御魔法陣ぼうぎょまほうじんで防いだが、爪は防御魔法陣をくだいて吹き飛ばした。

「防御魔法陣が!」

 ガァァアアアアア!

 ビッグ・ベアーはさらに爪でツバキに襲いかかると、それを見た茜衣あいはツバキをかばうように飛び出した。

「ツバキちゃん!」

 ズバッ!

「あっ!」

 茜衣あいはビッグ・ベアーの爪にやられると、一気にHPを減らされて消滅してしまった。

「アイアイ!」
茜衣あいちゃん!」
茜衣あいちゃん……」
茜衣あい殿!」

 ツバキはかばってくれた茜衣あいが消えてしまったのを見ると体を低くして戦闘態勢せんとうたいせいをとり、ビッグ・ベアーをにらみつけた。

 グルルルルルル!

 すると虎一郎と海がやって来て、うなるツバキを片手で抱え上げた。

「ツバキ。お主を可愛がってくれた茜衣あい殿が倒されて無念であろう。その無念、私がたそう」

 虎一郎はそう言うとツバキを愛芽めめに手渡した。

 そして虎一郎は刀を抜くと、海に言った。

「海殿。ここは私にお任せくだされ。みなをお願い申す」

「わかりました」

 海は前に出ると、愛芽めめたちを守るように大盾を構えた。

 虎一郎は刀を下段に構えると、ビッグ・ベアーをにらみつけた。

茜衣あい殿のかたき

 ダッ バンッ!!

 虎一郎は目にも留まらぬ速さで踏み込むと、ビッグ・ベアーを一閃いっせんした。

 ズバッ!
『クリティカル! +20%』

 ガァアアア!

 虎一郎に斬られたビッグ・ベアーは鋭い爪を振り下ろして反撃した。

 ブンッ!

 ザッ ザザッ!

 虎一郎はビッグ・ベアーの爪を流れるようにけると、ビッグ・ベアーの腕に十文字斬りの2連撃を食らわせた。

 ズバ ズバッ!
『クリティカル! 2コンボ +40%』
『クリティカル! 3コンボ +80%』
『部位破壊 +25%』

 するとその時、焦ったビッグ・ベアーの主人の体格の良い男性は虎一郎に痺れナイフを投げつけた。

「よ、よくも、ぼくのビッグ・ベアーを!」

 ヒュッ!

 キン!

 虎一郎は視線も移さずにナイフを弾くと、体を低く回転させてビッグ・ベアーの足を攻撃した。

 ズバッ!
『クリティカル! 4コンボ +160%』

 虎一郎が次々とクリティカルを決めると、ビッグ・ベアーの主人は慌てて手で何かを操作した。

「ぼ、ぼぼ、ぼくのビッグ・ベアー! あ、あいつ、クリティカル4コンボなんて!」

 ビッグ・ベアーの主人はビッグ・ベアーを自分のプライベートエリアに戻そうとしたが『戦闘中のため転送できません』の文字が視界に浮かんだ。

 それを見た主人の男性は棍棒こんぼうを手に出現させて虎一郎に走り込んできた。

「ぼ、ぼくのビッグ・ベアーをこんな目に! ゆるさない!」

 するとそれを聞いた虎一郎は主人の若い男性に言った。

「よく聞くのだ! 私は茜衣あい殿をあんな目に合わせたお主を許さぬ。私とお主、何が違うのだ」

 若い男性は虎一郎の言葉に足を止めた。

「う……、うう」

「お主は悲しいのであろう?」

「う……、うん」

「なぜだ」

「ぼくの大切なビッグ・ベアー……」

茜衣あい殿は私の、いや、みんなの大切な友人だ。私も悲しい」

「う……」

「お主が悲しいのも分かる。だが、お主も他人を悲しくさせたのだ」

「う、うう……。また、また、ぼく失敗した。うう……、うわぁん!」

 ビッグ・ベアーの主人の男性は突然大声で泣き出した。
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