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第22話 虎一郎、手を合わせる
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虎一郎はイリューシュの豪邸の大広間に入ると、その広さと豪華さに驚いた。
「さ……、さすがの豪華さであるな……。仕えていた殿様の屋敷よりも大きいとは……」
すると、虎一郎は大広間の横にある和室と、和室の奥にある大きな仏壇を見つけた。
「ん? あれは畳……。それに、仏壇」
それを聞いた愛芽は虎一郎に説明した。
「コイちゃん、あのお仏壇は三英雄の、ひろしさん、大熊笹さん、茂雄さんのお仏壇なんだ」
「おお。しかし、寺にあるほどの立派な仏壇。さぞや功績を残したお方なのであろうな」
「うん。ひろしさんたちが居なかったら、この世界は無かったからね」
「なんと、そうであったか」
虎一郎はそう言うと仏壇に向かって手を合わせ、深々と頭を下げた。
それを見ていたイリューシュは虎一郎に声をかけた。
「虎一郎さん、よろしければ和室にあがって頂いても。お線香もありますので」
「はっ。ありがたき幸せ」
虎一郎はイリューシュに一礼すると和室の前へ行き、さらに一礼して中へ入った。
そして静かに仏壇の前で正座をすると、茜衣と菜七海も和室にやってきて虎一郎の横に座った。
「おお、茜衣殿、菜七海殿。お2人もこの方々にお会いしたことが?」
「ひろしじぃちゃんだけ」
「ぅん、ぁたしも」
茜衣は仏壇に飾ってある優しそうな3人の老人の写真を指さして虎一郎に言った。
「この真ん中が、ひろしじぃちゃん。101歳まで生きたんだよ」
「なんとご長寿な」
「ひろしじぃちゃんはねぇ、とっっっても優しくて、いつも一緒に遊んでくれたんだ」
「そうであったか。英雄と讃えられるほどのお方であるのに……。私もそうありたいものだな……」
虎一郎はそう言うと仏壇の前にあった線香を手に取り、火が灯っているロウソクで火を付けて香炉に立てた。
そして姿勢を正すと静かに目を閉じて手を合わせた。
菜七海と茜衣もそれを見て一緒に手を合わせた。
それ姿を見たイリューシュと愛芽も後ろから静かに手を合わせた。
スッ……
虎一郎は静かに目を開けると、仏壇の写真を見つめながら小さく呟いた。
「こんなにも慕われるお方たち……。一度お会したかったものだ……」
「会えるよ!」
茜衣が嬉しそうに言うと、虎一郎は驚いて聞き返した。
「会えるのであるか!?」
「うん。熊じぃと茂じぃだけだけど」
「ぅん、大熊笹さんと茂雄さん」
「な、なな、なんと! まだ生きておられるのか?」
「ううん。NPCだよ」
「ピンデチエリアの真ん中にある塔にぃる」
「えぬぴー……?」
それを聞いた愛芽は虎一郎に説明した。
「大熊笹さんと茂雄さんは亡くなっているんだけどね、2人はとっても強かったから生前に詳細な脳のデータをキャプチャーしてNPCに……、って分からないよね」
「???」
虎一郎が全く理解できないといった顔をしていると愛芽は続けて話をした。
「あ、コイちゃんに分かりやすく言ったら、優しい幽霊って感じ?」
「ほう……。なんとなく分かった……。亡くなられたが、亡霊として存在するのだな」
「そうそう。生前に集めたデータを使って塔でみんなの練習相手をしてて。勝負して負けても、どうして負けたかを優しく教えてくれるんだよ」
「なんと素晴らしい……」
「だから、みんなの練習場になってるんだ」
「愛芽殿、それは私も勝負できるのであろうか」
「もちろんだよ。行ってみる?」
「誠であるか、お願い申す!」
虎一郎が声をあげると、茜衣と奈七海も嬉しそうに愛芽に言った。
「あたしも行きたい!」
「ぁたしも」
「ははは。じゃあ、後でみんなで行こうか」
「宜しくお願い申す」
「やった!」
「ひさしぶり」
するとイリューシュが、この世界の有名なお菓子「ドラゴン大福」とお茶を持ってきてテーブルに並べると、笑顔でみんなを呼んだ。
「さぁさぁ、お菓子の用意ができましたよ。塔に行く乗り物を手配しますから、それまでこちらを食べて待っていてくださいね」
「「はーい!」」
「ははっ」
―― 株式会社イグラァ社内 ――
その頃、ゲームの制作会社イグラァの最上階にある会長室では、会長と社長の大谷が話をしていた。
「大谷くん。今回のA4480のプロジェクトは順調に進んでいるようだな」
「はい、先ほど高橋くんより連絡が入りましてイリューシュ知事の家へ向かったようです」
「そうか。そういえば報告があったが、夜にクッマクマ団のアジトへ攻め入ると」
「はい。エージェント・リーダーのライラの作戦に同行するようです」
「なるほど。そうなると多くのプレイヤーと仲間のモンスターが同時に動いて、複雑なプログラム処理になりそうだな」
「はい。膨大なデータで構成されているA4480には大きな負荷がかかりますのでバグがでるかもしれません。しかしライラと海がいますので安心かと」
「そうだな。だが万が一バグが出た場合はA4480のエラーをしっかり解析しておいてくれ」
「そうですね、承知しました」
すると会長は険しい表情を崩し、笑顔で大谷に尋ねた。
「そういえば、鶴井田くんの娘さんはA4480の世話をするために庶務課に移動したんだってな」
「はい、熱烈に志願されまして。おそらく彼女はA4480に好意を寄せていますね」
「はっはっは、そうかそうか」
「昔はVTuberや2次元推しが流行りましたが、今ではNPC推しやVRMMO婚、メタバース婚も一般的になりましたからね」
「そうだな。しかし、足で稼ぐアナログ営業で出世した鶴井田くんの娘さんが、デジタル世界で恋をするとは皮肉なものだな」
「その通りですね。ははは」
―― ピンデチの街 ――
虎一郎たちはお菓子を食べ終えて塔に行く準備を整えると、わいわいお喋りしながらイリューシュの屋敷を出た。
すると、空から大きな黒いドラゴンがゆっくりと降りてきた。
バサッ バサッ バサッ ズゥゥン……
「こ! この獣は!?」
虎一郎は空から舞い降りてきたドラゴンに驚いて刀に手をかけると、イリューシュが笑顔で説明した。
「虎一郎さん、この子はドラゴンのドラちゃんです。背中に乗って移動できるんですよ」
「な、なんと……」
虎一郎は大きなドラちゃんを見上げると、茜衣と菜七海がドラちゃんに走っていった。
「ドラちゃん!」
「どらちゃん」
ドラちゃんは走ってくる2人に頭を下げると嬉しそうに人間の言葉で答えた。
「茜衣様、菜七海様、おひさしぶりです! はっはっは!」
茜衣と菜七海がドラちゃんの頭に抱きつくと、ドラちゃんはノドを鳴らして嬉しそうに目をつむった。
「さ……、さすがの豪華さであるな……。仕えていた殿様の屋敷よりも大きいとは……」
すると、虎一郎は大広間の横にある和室と、和室の奥にある大きな仏壇を見つけた。
「ん? あれは畳……。それに、仏壇」
それを聞いた愛芽は虎一郎に説明した。
「コイちゃん、あのお仏壇は三英雄の、ひろしさん、大熊笹さん、茂雄さんのお仏壇なんだ」
「おお。しかし、寺にあるほどの立派な仏壇。さぞや功績を残したお方なのであろうな」
「うん。ひろしさんたちが居なかったら、この世界は無かったからね」
「なんと、そうであったか」
虎一郎はそう言うと仏壇に向かって手を合わせ、深々と頭を下げた。
それを見ていたイリューシュは虎一郎に声をかけた。
「虎一郎さん、よろしければ和室にあがって頂いても。お線香もありますので」
「はっ。ありがたき幸せ」
虎一郎はイリューシュに一礼すると和室の前へ行き、さらに一礼して中へ入った。
そして静かに仏壇の前で正座をすると、茜衣と菜七海も和室にやってきて虎一郎の横に座った。
「おお、茜衣殿、菜七海殿。お2人もこの方々にお会いしたことが?」
「ひろしじぃちゃんだけ」
「ぅん、ぁたしも」
茜衣は仏壇に飾ってある優しそうな3人の老人の写真を指さして虎一郎に言った。
「この真ん中が、ひろしじぃちゃん。101歳まで生きたんだよ」
「なんとご長寿な」
「ひろしじぃちゃんはねぇ、とっっっても優しくて、いつも一緒に遊んでくれたんだ」
「そうであったか。英雄と讃えられるほどのお方であるのに……。私もそうありたいものだな……」
虎一郎はそう言うと仏壇の前にあった線香を手に取り、火が灯っているロウソクで火を付けて香炉に立てた。
そして姿勢を正すと静かに目を閉じて手を合わせた。
菜七海と茜衣もそれを見て一緒に手を合わせた。
それ姿を見たイリューシュと愛芽も後ろから静かに手を合わせた。
スッ……
虎一郎は静かに目を開けると、仏壇の写真を見つめながら小さく呟いた。
「こんなにも慕われるお方たち……。一度お会したかったものだ……」
「会えるよ!」
茜衣が嬉しそうに言うと、虎一郎は驚いて聞き返した。
「会えるのであるか!?」
「うん。熊じぃと茂じぃだけだけど」
「ぅん、大熊笹さんと茂雄さん」
「な、なな、なんと! まだ生きておられるのか?」
「ううん。NPCだよ」
「ピンデチエリアの真ん中にある塔にぃる」
「えぬぴー……?」
それを聞いた愛芽は虎一郎に説明した。
「大熊笹さんと茂雄さんは亡くなっているんだけどね、2人はとっても強かったから生前に詳細な脳のデータをキャプチャーしてNPCに……、って分からないよね」
「???」
虎一郎が全く理解できないといった顔をしていると愛芽は続けて話をした。
「あ、コイちゃんに分かりやすく言ったら、優しい幽霊って感じ?」
「ほう……。なんとなく分かった……。亡くなられたが、亡霊として存在するのだな」
「そうそう。生前に集めたデータを使って塔でみんなの練習相手をしてて。勝負して負けても、どうして負けたかを優しく教えてくれるんだよ」
「なんと素晴らしい……」
「だから、みんなの練習場になってるんだ」
「愛芽殿、それは私も勝負できるのであろうか」
「もちろんだよ。行ってみる?」
「誠であるか、お願い申す!」
虎一郎が声をあげると、茜衣と奈七海も嬉しそうに愛芽に言った。
「あたしも行きたい!」
「ぁたしも」
「ははは。じゃあ、後でみんなで行こうか」
「宜しくお願い申す」
「やった!」
「ひさしぶり」
するとイリューシュが、この世界の有名なお菓子「ドラゴン大福」とお茶を持ってきてテーブルに並べると、笑顔でみんなを呼んだ。
「さぁさぁ、お菓子の用意ができましたよ。塔に行く乗り物を手配しますから、それまでこちらを食べて待っていてくださいね」
「「はーい!」」
「ははっ」
―― 株式会社イグラァ社内 ――
その頃、ゲームの制作会社イグラァの最上階にある会長室では、会長と社長の大谷が話をしていた。
「大谷くん。今回のA4480のプロジェクトは順調に進んでいるようだな」
「はい、先ほど高橋くんより連絡が入りましてイリューシュ知事の家へ向かったようです」
「そうか。そういえば報告があったが、夜にクッマクマ団のアジトへ攻め入ると」
「はい。エージェント・リーダーのライラの作戦に同行するようです」
「なるほど。そうなると多くのプレイヤーと仲間のモンスターが同時に動いて、複雑なプログラム処理になりそうだな」
「はい。膨大なデータで構成されているA4480には大きな負荷がかかりますのでバグがでるかもしれません。しかしライラと海がいますので安心かと」
「そうだな。だが万が一バグが出た場合はA4480のエラーをしっかり解析しておいてくれ」
「そうですね、承知しました」
すると会長は険しい表情を崩し、笑顔で大谷に尋ねた。
「そういえば、鶴井田くんの娘さんはA4480の世話をするために庶務課に移動したんだってな」
「はい、熱烈に志願されまして。おそらく彼女はA4480に好意を寄せていますね」
「はっはっは、そうかそうか」
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「そうだな。しかし、足で稼ぐアナログ営業で出世した鶴井田くんの娘さんが、デジタル世界で恋をするとは皮肉なものだな」
「その通りですね。ははは」
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すると、空から大きな黒いドラゴンがゆっくりと降りてきた。
バサッ バサッ バサッ ズゥゥン……
「こ! この獣は!?」
虎一郎は空から舞い降りてきたドラゴンに驚いて刀に手をかけると、イリューシュが笑顔で説明した。
「虎一郎さん、この子はドラゴンのドラちゃんです。背中に乗って移動できるんですよ」
「な、なんと……」
虎一郎は大きなドラちゃんを見上げると、茜衣と菜七海がドラちゃんに走っていった。
「ドラちゃん!」
「どらちゃん」
ドラちゃんは走ってくる2人に頭を下げると嬉しそうに人間の言葉で答えた。
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