戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ

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第33話 コー執行猶予3ヶ月

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 ―― 虎一郎の家 ――

 グツグツグツグツ……

 虎一郎はテーブルで釣ってきた魚をながら、小さく切った切り身をツバキにあげていた。

「ツバキ、今日の魚は脂が乗っているぞ」

「わんわん!」

 ハムッ、ハムハムッ!

 ツバキは美味しそうに切り身を食べ始めた。

 茜衣あいは、グツグツと揺れるおとぶたのぞき込むと、目をつむってにおいをかいだ。

「んん~、いいにおい! 昨日とはちょっとにおいが違うねコイっち」

「おぉ、分かるか茜衣あい殿。今日は愛芽めめ殿が持ってきてくれた生姜しょうがきざんで入れてあるのだ」

「これ生姜しょうがの匂いか!」

「今日はあぶらの乗ったサバが釣れたのだ。美味うまい煮付けができるであろう」

「サバ!? あれサバなの? 缶詰かんづめしか食べた事なかったから初めて見たよ」

「私の故郷ではサバがよく釣れてな。……うむ、そろそろであるな」

 虎一郎がおとぶたを持ち上げると、一気に美味しそうな匂いが部屋に広がった。

「いいにおい!」
「ぅん」
「え、コイちゃん美味しそう!」

 虎一郎は菜箸さいばしで皿にサバの煮付けを乗せると、みんなに差し出しながら嬉しそうに言った。

「今日は素材が良いゆえ、我ながら自信がある。きっと美味うまいはずだ」

「まじで!」
「ぅん、ぃぃにおい」
「たのしみ!」

 みんなはサバの煮付けに手を合わると、一緒に声をそろえた。

「「いただきます!」」

 茜衣あいは嬉しそうにサバの煮付けにはしを入れ、柔らかいサバを一口頬張ひとくちほおばった。

「……」

 菜七海ななみ愛芽めめ一口頬張ひとくちほおばると静かになった。

「……」

 すると突然、茜衣あいがサバにかじりついた。

 ムシャムシャムシャムシャ!!

「ん、んま!!!」

 ムシャムシャムシャムシャ、カン!

 茜衣あいはしを置くと虎一郎に言った。

「コイっち、これめっちゃ美味い! おかわり!」

「コイちゃん、あたしも!」
「ぁたしも」

 それを聞いた虎一郎は満面の笑みで答えた。

「おお、それは良かった。まだ鍋に残っておるから好きに……」

 虎一郎がそう言いかけると、恐ろしく俊敏しゅんびんな動きで、茜衣あいが一番大きい切り身をはしでつかみ上げた。

「おっしゃ、大きいのイタダキ!」

「あ、ズルいアイアイ!」
「ずるぃ」

 愛芽めめ菜七海ななみも切り身をつかみ上げると、自分の皿に乗せて食べ始めた。

 ムシャムシャムシャムシャ……

 虎一郎の作ったサバの煮付けは、あっという間に無くなってしまった。

 ◆

「「ぷはー!」」

 茜衣あい菜七海ななみ愛芽めめは美味しいサバの煮付けを平らげると、腹一杯はらいっぱいになって仰向あおむけに寝転んだ。

「うまー」
「ぅん」
「おいしかったねー」

 虎一郎はそれを見ると、お玉で煮汁のカスをすくいながら嬉しそうに言った。

「まだ2日目の煮汁だ。これから、もっと美味くなるぞ」

 それを聞いた愛芽めめは虎一郎に尋ねた。

「え、コイちゃん、その煮汁って次も……」

「うむ。また明日も火を入れて煮付けを作る」

「おー! しの秘伝のタレだ!」

「秘伝? いやいや。貴重な醤油とみりんが勿体もったいないのでな」

 虎一郎はそう言うと鍋のふたを閉めて蛇口の近くに鍋を置きながら話しを続けた。

「煮汁は、煮物をするたびに美味くなる。母上の煮汁は絶品だったぞ」

「へぇぇ、コイちゃんのお母さんの料理も食べてみたかったなぁ」

「はっはっは、私もいくつか作り方を教わっておる。畑の作物が育つまで待たれよ」

「そっかー、じゃあ明日まで我慢だなぁ」

「明日? いや、前の畑の人参にんじん里芋さといも大豆だいずの事であるのだが……」

 すると愛芽めめは思い出したように虎一郎に説明した。

「あ、ごめんコイちゃん、言い忘れてた。この世界だと、一般野菜は3日、特殊野菜は6日、お米は10日で収穫できるんだ」

「いやいや愛芽めめ殿、いくらなんでも……」

 虎一郎は愛芽めめの言葉を不審ふしんに思いながらも窓から畑を見てみると驚いた。

「なっ! 葉が出ておる! 里芋と大豆はもうあんなに大きく!!」

 バタン!

 虎一郎は思わず家から出ると、大豆を植えたところへ走った。

「500年も経つと、野菜もあっという間に育つのか! 先ほどまで何もなかったはずが……。これは流石さすがに驚いた……」

 虎一郎は大豆の前にしゃがむと、まだ緑の豆のさやを1つもぎ取り、中の豆を口に放り込んだ。

 モグモグ……

「うむ、これはもう食える。なんて成長が早い大豆であるか……」

 虎一郎が驚いていると茜衣あいがやってきて虎一郎に尋ねた。

「コイっち、もうこれ食べれるの?」

「おぉ、茜衣あい殿。大豆は緑色の豆も食えるのだ」

「え、そうなの?」

「私は、これを塩茹しおゆでしたものが好きでな」

「それ、あたしも食べたい! コイっちが作るの何でも美味しそうなんだもん」

「はっはっは! そうであるか。そう言ってもらえると嬉しい。ついでにもう一品作りたいものがある。海水をみに行かねば」

「え? また海行くの?」

「うむ。塩とにがりを作るのだ」

「??」

 茜衣あいが意味が分からずにしていると、菜七海ななみが虎一郎に尋ねた。

「コイっち。もしかして、ぉ豆腐もつくる?」

「おお、さすがであるな菜七海ななみ殿。その通りでござる」

「そっか。ゎたし海水持ってる」

「なんと! それは誠でござるか」

「ぅん。めずらしいぉ魚つれたら持ってかえるから、ぃつもこれ持ってる」

 菜七海ななみはそう言うと、水槽に入った海水を出現させた。

 それを見ていた茜衣あい菜七海ななみに聞いた。

「え、海の水から塩できるの?」

「ぅん。海の水しょっぱぃでしょ」

「あ、そういえば!」

「海の水をかすと、塩と苦汁にがりができる」

「ニガリ?」

「ぅん。苦汁にがりと大豆で豆腐ができる」

「え、まじで!?」

「ぅん。まじ」

 茜衣あいは驚いた顔のまま固まっていると、愛芽めめが虎一郎に尋ねた。

「てか、コイちゃん。すっごい大掛おおがかりなお豆腐作ろうとしてない?」

「うん? 大豆をしぼり、苦汁にがりを混ぜるだけだ。それほどのものでは無かろう」

「やば、本気のやつだ……」

 愛芽めめがそう呟くと、なんと大豆はどんどん黄色に変色していった。

 それを見た虎一郎は慌てて緑の豆のさやを収穫していった。

「なんという成長の早さ! 緑の豆を収穫しておかねば!」

 それを見た茜衣あい菜七海ななみ愛芽めめも、一緒になって緑の豆のさやを収穫していった。

「え! この緑のでいいんだよね」
「はやぃ」
「やば! もう黄色になっちゃう!」

 シュゥゥウウウ……

 大豆はみるみる黄色になっていったが、虎一郎たちはかろうじて緑色の豆のさや一抱ひとかかええほど収穫するができた。


 その頃、エージェント・センターでは、ライラがコーの釈放しゃくほう手続きをしていた。

「コー。本当にそれでいいのか?」

「ああ。損害賠償はおれが全額支払う。だからサルサルとメンバーたちはゆるしてやってくれ」

「……そうか。では、そうさせてもらおう」

「頼んだぜ。今プクナと円を送った」

 コーは手で何かを操作すると、ライラにプクナと円の受け取り通知が表示された。

「確かに受け取った」

「じゃぁ、もう釈放しゃくほうでいいか?」

「そうだな、メンバー全員釈放する。だが自首では無かったため、3ヶ月の執行猶予しっこうゆうよとなる。執行猶予中はステータスがゼロになり……」

「ああ、分かってるよ。攻撃力も防御力もゼロだろ? 少なくとも3ヶ月は大人しくしてるさ」

「そうか。まぁ、執行猶予が明けたら、またわるさをしてくれても良いんだぞ。昨日の勝負は楽しかったからな」

「はっ。勘弁してくれよ」

 コーはそう言って苦笑いするとエージェント・センターをあとにした。
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