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仮想空間でセカンドライフ

第23話 ひろし、本を買ってくる

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 夜11時。

 おじいさんは夜中に目が覚めると、のどが渇いたので台所へ麦茶を飲みに向かった。

 するとなんと、居間でおばあさんがVRグラスをかけてゲームをやっていた。

「おばあさん、よっぽど楽しかったんだな。ははは」

 おじいさんは台所で麦茶を飲むと寝室へ戻っていった。


 その頃、おばあさんは一人でゲームの世界に来ていた。

 そして、マユたちのために夜の森に入ってキノコと赤薬草を集めていたのだった。

「あら、夜のほうがキノコや薬草がたくさんあるわね」

 おばあさんは順調にキノコや薬草を集めていて、すでに合計40個以上集まっていた。

「これなら夜に来たほうがよさそうね」

 おばあさんが呟いた瞬間、やぶの中から何かが飛び出してきた。

 ガサガサッ!
「ガルルルルル」

「あっ!」

 なんと、おばあさんの目の前に大きなオオカミが現れた。

 おばあさんは慌てて逃げ出すと、道をふさぐようにさらに2匹のオオカミが現れた。

「ガルルルルル」
「ガルルル!」

 おばあさんは氷の魔法使いを職業にしていたので、思い出したように詠唱をはじめた。

「凍てつく……氷の……ええっと、女神たちよ……」

 しかし、まだ詠唱をしっかり覚えていなかったので、先にオオカミたちが襲いかかってきてしまった。

「ガァァアア!」

「ああっ!」

 ヒュッ……ドッ! ヒュッ……ドッ!

 すると、どこからともなく矢が飛んできて一体のオオカミに2本刺さり、消滅させた。

 ヒュッヒュッヒュッ……カンッ、ドッ、ドッ!
 ヒュッヒュッヒュッ……ドッ、ドッ! カラン

 その後も矢が何本も飛んでゆき、残りのオオカミたちに数本当たると、オオカミたちは静かに消滅していった。

「洋子ちゃん」

 おばあさんが振り向くと、そこにはなんと弓を持ったナミがいた。

「あ、ナミさん! ナミさんが助けてくれたの? 助かったわ!」

「ぅん。夜はモンスター多ぃ。ぁぶないよ」

「そうだったのね……。知らなかったわ、今度はお昼に来るわね」

 それを聞いたナミはウンと頷いた。

 すると、おばあさんは少し気になってナミに尋ねた。

「ところで、ナミさんは何をしてらっしゃったのかしら」

「れんしゅう」

「練習?」

「ぅん。弓を上手じょうずになって、みんなを守りたいから」

 それを聞いたおばあさんは感動して、少し目を潤ませながらナミの手を握った。

「ナミさん、素晴らしいわ! みんなを助けたいなんて!」

 ナミは恥ずかしそうに下を向くと、おばあさんに言った。

「でも、みんなには内緒。まだ下手だから」

「ええ、わかったわ。内緒にしておくわね」

 おばあさんは大きく頷きながらナミの手を離すと笑顔で言った。

「ナミさん、本当に助かったわ。では今日は帰りますね。また明日お会いしましょうね」

 ナミは笑顔でウンと頷いた。

 おばあさんはナミに深々と頭を下げるとログアウトしていった。


 ー 翌日 ー

 おじいさんは街に頼まれたものを買いに行ったついでに一冊の本を買ってきた。

「ただいま。おばあさん、面白い本を買ってきたよ」

 おじいさんは買ってきた本をおばあさんに手渡した。

「あら、あのゲームの本?」

「そうなんだよ」

 本には、

『サ・フラウ オフィシャルガイドブック【最新版】』

 と書かれていた。

 おばあさんは喜んで本を開くと、キノコと薬草のページを探して読み始めた。

「へぇぇ、こんなキノコも。あら、色々なキノコがあるのね。なになに、これは魔法の防御と……」

 おばあさんはテーブルにあったメモを手元に持ってくると、本の内容をメモをし始めた。

 おじいさんはおばあさんの背中越しに本を覗き込むと、そこには沢山のキノコの絵が描いてあった。

「こんなにキノコがあるんだなぁ」

「ええ、本当に。だけど、荒野や砂漠なんかに行かなければならないみたいね……」

「そうかぁ。あの世界は広いんだなぁ」

 すると、おばあさんは目次を見て巻末の折りたたまれたページを開いた。

 そこには世界地図が描かれていたが、字が小さくて読めなかった。

「おばあさん、はい老眼鏡」

「あら、ありがとうございます」

 2人は老眼鏡をかけて地図を覗き込むと、ピンデチの村を見つけたおばあさんが大きな声をあげた。

「あら! あの村、こんなに端の小さな村なんですね!」

「あぁ、本当だ。あの世界は凄く広いんだなぁ。コーシャタの街もこんなに近かったのか」

 2人は世界の広さに驚いた。

 すると、おばあさんがピンデチの近くにある荒野地帯を見つけて声をあげた。

「あら、近くに荒野があるじゃない。岩キノコがあるかもしれないわ」

「岩キノコ?」

「ええ。岩キノコと薬草を調合すると、防御強化薬が作れるみたいなんです」

「そうなのか。おばあさんは覚えるのが早いなぁ」

「防御強化薬も、きっと売れるわね。うふふ」

 おばあさんは笑顔になると、本を閉じて台所へ昼食を作りに行った。

 おじいさんはテーブルに残された本をなんとなく開いてみると、転職について解説されたページが開かれた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー
 転職の方法は3つ!

 1)平行転職
 ステータスを維持しながら新しい職業に転職する方法。しかし、転職できる職業は初期職業のみ

 2)昇格転職
 ステータスを一度全てリセットして100pのステータスポイントのみを割り振り、新しい職業に転職する方法。

 この方法でしかなれない職業に転職できる。
 例えば、賢者、魔術武闘家、魔法騎士、大弓使いなど。

 3)降格転職
 一度、昇格転職をしてから、他の初期職業に転職する方法。ステータスや能力は継承するが、一般的ではない。

 例えば、大弓使いから弓使いなど
 ーーーーーーーーーーーーーーーー

「転職かぁ。わたしもいつか転職できるのだろうか。ははは」

 おじいさんは笑いながら呟くと、おばあさんが焼きそばをレンジで温めて持ってきてくれた。

「おじいさん、何か面白い事でも書いてありましたか?」

「あぁ、転職の事なんだけどな、わたしは無職だから転職できるのかなぁ。武器も持てないからなぁ。ははは」

「あら。わたしは魔法使いになったんですけど、魔法が唱えられないんですよ。うふふふ」

 二人は昼食を取りながらゲームの話題で盛り上がった。

 そして焼きそばを食べ終えて一緒に洗い物を済ませると、一緒にVRグラスを用意して居間の椅子とソファに座った。

「じゃあ、おばあさん。キノコ集め頑張ってな」

「ええ。あなたも書道の先生、頑張ってくださいね」

 2人は笑顔でVRグラスをかけるとゲームの世界へ入っていった。
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