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善見城(ぜんけんじょう)

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「兎。かぐや姫を探しておくれ。どうしていなくなってしまったんだろう。あの子に何があったんだろうか?」

 天帝は悲痛な表情で、極彩色に彩られた広間の真ん中でひれ伏している、白い小さな兎に告げた。

 天帝の前後左右には、赤や青の甲冑をつけた四天王が立っていた。

 やや右前方には増長天ぞうちょうてん・左側には広目天こうもくてん・後方左側には持国天じこくてん・右側には多聞天たもんてんが控えていた。

 四天王は微動だにせず、天帝を取り囲んでいた。

 ながきに渡り、阿修羅との戦いを繰り返している天帝は、手には雷をつかさどる金剛杵こんごうきねを持ち、甲冑を着けたままの姿で、象を模した玉座に疲れた身体を預けていた。

 戦況はけっして不利ではなかった。けれど、かぐや姫がいないとなると、話は変わってくるのだった。

 かぐや姫の存在は、戦況を左右するほどのものだった。

「かしこまりました。天帝さま」

 居住まいを正して兎が答えた。

「かぐや姫がいなくなったあの日、人間界と天界が重なった。姫はまた人間界へ行ったのかもしれない。私はあの子が天界を飛び出したことに気づくと、すぐさま二羽の兎を放った。兎は人間の中に入り込んでる。おまえが人間界へ行って兎を目覚めさせ、かぐや姫を探させるんだ。あれらは天人を見つける力を持ってる」

「はい。必ず兎を見つけ、かぐや姫さまを探させます」

 兎は天帝を見上げた。

「頼む」

 天帝はゆっくりと立ち上がると、四天王を引き連れて、再び阿修羅との戦いへと向かった。
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