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追跡者
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「天帝の兎が動くわ」
善見城を囲む庭園の一つ、歓喜苑の川のほとりで、神谷恵利が悪戯っぽい眼を光らせた。
ポニー・テイルがこめかみの皮膚を引き上げ、眼が吊り上がっていた。
華奢な身体を大きめのトレーナーで包み、ショートパンツから延びた足は少年のように細かった。
少女でありながらその姿は、少年の姿をした小鬼を連想させた。
彼女には、「透視能力」があった。
「かぐや姫を探すつもりだね」
分厚い苔が蒸した大岩の上に座った如月玲司が、細長く血の気を無くした白い指を頬に当て、青白い顔には不釣り合いな、赤い唇を弱々しく動かした。
「やっと動く気になったか。でも簡単には見つからないと思うよ。だってこの半年、俺たちは恵利の透視を使ってかぐや姫を探したのに、見つからなかったんだから」
苔が幹まで這い上がっている、歓喜苑の中でも一段と大きな劫波樹に寄りかかっていた、六条院清四郎は大樹を見上げた。
それだけで枝が折れて、ばさりと音を立てて落ちてきた。
「苛ついて『念動力』を使うなよ! 驚くだろう?」
玲司は弱々しく自分の胸をさすった。
「天帝ったら、兎を放っておいたんだって」
トレードマークのポニー・テイルを小気味好くゆらして、恵利は清四郎を見た。
「兎?」
生まれつき命令する側の人間の顔をした清四郎は、冷たい視線を恵利に向けた。
「うん。天人を探し出せる兎だって」
清四郎の高飛車な表情に無関心な恵利は、ポニー・テイルで吊り上がり気味の眼を、さらに吊り上げて意地悪な光を放ったが、息が上がり苦しそうに顔をゆがめた。
「へえ。そんなことしてたんか。じゃあ、天帝に放たれた兎が入りこんでる人間を見つけよう。そいつらのあとをつけてれば、かぐや姫にたどり着ける可能性がある」
清四郎はみぞおちの下に痛みを感じ、手できつく抑えつつもにっと笑った。
「まさか、かぐや姫が逃げ出してたなんて、思いもしなかったもんね」
玲司が細い指を神経質に組み合わせて、大きな溜息をついた。
「全くよ。どこへ行っちゃったのかしら? とにかくここに連れてこなければいけないのよね。ここって、かぐや姫でないと役に立たないんだから」
恵利は呼吸を整えながら、呆れたかのようなイントネーションで呟いた。
「だから、天帝も必死なのさ」
清四郎が好戦的な口調で言った。
「帰るよ、玲司。天帝の兎より先に人間界へ戻って、奴が来るのを待とうじゃないか。恵利。監視できるな」
「さぁ? 玲司に言ってよ。玲司がここと人間界をつないでおいてくれれば、透視してられるわ」
恵利は肩を少し上げて、無責任な言い方をした。
「玲司?」
清四郎は彼を見た。
「いいよ。でもそんなに長くはできない。けっこう力がいるんだ」
少女のように華奢な玲司はゆっくりと立ち上がり、雑草や土を神経質に払い落としてから、疲れた声で呟いた。
「二人とも、その間身体は持つかい?」
高飛車な物言いをしていた清四郎だったが、心配そうに二人を交互に見た。
「大丈夫よ。ねぇ、玲司。さぁ、兎が善見城を出るわよ」
恵利が空元気を出して、小鬼のように眼を吊り上げて笑った。
「ということは、そろそろ飛ぶな。玲司。帰るぞ」
玲司の眼が一瞬光を放った。同時に三人の姿が歓喜苑から消えた。
善見城を囲む庭園の一つ、歓喜苑の川のほとりで、神谷恵利が悪戯っぽい眼を光らせた。
ポニー・テイルがこめかみの皮膚を引き上げ、眼が吊り上がっていた。
華奢な身体を大きめのトレーナーで包み、ショートパンツから延びた足は少年のように細かった。
少女でありながらその姿は、少年の姿をした小鬼を連想させた。
彼女には、「透視能力」があった。
「かぐや姫を探すつもりだね」
分厚い苔が蒸した大岩の上に座った如月玲司が、細長く血の気を無くした白い指を頬に当て、青白い顔には不釣り合いな、赤い唇を弱々しく動かした。
「やっと動く気になったか。でも簡単には見つからないと思うよ。だってこの半年、俺たちは恵利の透視を使ってかぐや姫を探したのに、見つからなかったんだから」
苔が幹まで這い上がっている、歓喜苑の中でも一段と大きな劫波樹に寄りかかっていた、六条院清四郎は大樹を見上げた。
それだけで枝が折れて、ばさりと音を立てて落ちてきた。
「苛ついて『念動力』を使うなよ! 驚くだろう?」
玲司は弱々しく自分の胸をさすった。
「天帝ったら、兎を放っておいたんだって」
トレードマークのポニー・テイルを小気味好くゆらして、恵利は清四郎を見た。
「兎?」
生まれつき命令する側の人間の顔をした清四郎は、冷たい視線を恵利に向けた。
「うん。天人を探し出せる兎だって」
清四郎の高飛車な表情に無関心な恵利は、ポニー・テイルで吊り上がり気味の眼を、さらに吊り上げて意地悪な光を放ったが、息が上がり苦しそうに顔をゆがめた。
「へえ。そんなことしてたんか。じゃあ、天帝に放たれた兎が入りこんでる人間を見つけよう。そいつらのあとをつけてれば、かぐや姫にたどり着ける可能性がある」
清四郎はみぞおちの下に痛みを感じ、手できつく抑えつつもにっと笑った。
「まさか、かぐや姫が逃げ出してたなんて、思いもしなかったもんね」
玲司が細い指を神経質に組み合わせて、大きな溜息をついた。
「全くよ。どこへ行っちゃったのかしら? とにかくここに連れてこなければいけないのよね。ここって、かぐや姫でないと役に立たないんだから」
恵利は呼吸を整えながら、呆れたかのようなイントネーションで呟いた。
「だから、天帝も必死なのさ」
清四郎が好戦的な口調で言った。
「帰るよ、玲司。天帝の兎より先に人間界へ戻って、奴が来るのを待とうじゃないか。恵利。監視できるな」
「さぁ? 玲司に言ってよ。玲司がここと人間界をつないでおいてくれれば、透視してられるわ」
恵利は肩を少し上げて、無責任な言い方をした。
「玲司?」
清四郎は彼を見た。
「いいよ。でもそんなに長くはできない。けっこう力がいるんだ」
少女のように華奢な玲司はゆっくりと立ち上がり、雑草や土を神経質に払い落としてから、疲れた声で呟いた。
「二人とも、その間身体は持つかい?」
高飛車な物言いをしていた清四郎だったが、心配そうに二人を交互に見た。
「大丈夫よ。ねぇ、玲司。さぁ、兎が善見城を出るわよ」
恵利が空元気を出して、小鬼のように眼を吊り上げて笑った。
「ということは、そろそろ飛ぶな。玲司。帰るぞ」
玲司の眼が一瞬光を放った。同時に三人の姿が歓喜苑から消えた。
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