メイドのみやげ話ですっ!

内藤 春翔

文字の大きさ
1 / 5

第1話 明るく元気に頑張ります

しおりを挟む
「おかえりなさいませ、ご主人様! 」
「ご注文は何になさいますか? 」
「おいしくなぁれ♫ 萌え萌えキュン 」

古風な街並みが残るこの商店街の隅に、ひときわ異彩を放つ喫茶店があった。いわゆる『メイドカフェ』である。そこは若者の人口が多い割に、娯楽施設が少ないこの町でかなり繁盛していた。そしてこの店で1番人気の店員はというと…

パリンッパリンッパリンッ!!!
店内に大量の皿が割れる音が響く。

「す、すいませ~ん!お怪我はありませんか? 」
近くにいた2人組の客にメイドが駆け寄る。
「あぁ、大丈夫さ!俺はこれを見越して防弾チョッキを着てるからね! 」
「お前なぁ… 」
防弾チョッキを見せびらかす男の向かいの客が呆れる。…最も、彼の頭にはヘルメットが乗っかっているのだが。
「うぅ~、いつも申し訳ないです 」
ガックリとうなだれる古風な出で立ちのメイド。
「いいって、わざとじゃないってみんな知ってるからさ。な? 」
あたりを見渡すとみんなヘルメットを被りながらメイドの方に視線を送っていた。中には胃薬を準備している人もいた。この店の常連さんたちだ。

…そう、彼女こそがこの店の看板娘、通称"破壊神"、鷹華なのだ!

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ハァ、今日も失敗しちゃったなぁ… 」
帰り道、制服に着替えた鷹華はため息をこぼした。
「お客さ…じゃなかった、ご主人様たちは皆さんいい方ばかりですけどわたしだってちゃんとしたいのに… 」
いわく、彼女が作った料理を食べて生きて帰った者はいないと。
曰く、彼女が皿を割った回数がその日にやってきたお客の数だと。
「うぅ、家事ぐらい出来るようにならないとなぁ… 」

そんなことを考えていると彼女の家に到着した。大きい玄関門を抜け、戸を開ける。そしてやや大きめの声で鷹華は…

桃華ももかです。ただいま戻りました 」
「おかえりなさいませ、お嬢様 」

彼女の本名は鷹司たかつか 桃華。この地域に代々続く名家、鷹司家の一人娘である。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

いつものように召使いに迎え入れられ、自分の部屋に入ろうとすると、後ろから呼び止められた。

「…桃華、こんな時間までどこに行っていたんだ? 」
「お、お父様…。今日は帰られていたのですね 」

筋骨隆々、鋭い瞳をもった長身の男性。彼こそが現鷹司家当主にして私の父だ。

「御託はいい。こんな時間まで何をしていたのか答えなさい 」
ギロッ、と睨まれる。
「その…テストも近いので、学校の図書館で勉強しておりまして… 」
声を絞るように出す。するとお父様は
「…まぁいいだろう。もう少し次から早く帰ってきなさい 」
フン、と視線を外し寝室の方に向かった。よ、よかったぁ。

「…時に桃華、まさかとは思うがアルバイトなどはしていないだろうなぁ? 」
お父様が背中越しでの問いかけてくる。ビクッ、と私の背筋が凍った。
「わかっていると思うが桃華、アルバイトで金を稼ぐあまり、若いうちにしかできないことを疎かにする、なんてことは鷹司家の名のもと、決してするなよ? 」
「…肝に銘じています 」
去っていくお父様をふるえる足を抑えて見送った。
…そう、わたしの家ではアルバイトが禁止されている。お父様は、わたしがまだ幼い頃に亡くなったお母様の分まで精一杯わたしを育ててくださった。家を空けることが多いけど、桃華が寂しくないように、と召使いまで雇ってくれて(そのおかげで家事スキルが壊滅的になってしまったのだが…)、本当にわたしは愛されているのだと思う。だから本当はお父様の言うことを素直に聞くべきだ。…聞くべきなのだが。
「やっぱりメイドさんは辞めたくないなぁ 」
ベッドに寝転びながら考える。

わたしはずっと召使いさんを見てきた。彼女は自分でできないことをなんでもやってのけたし、自分の知らないこともなんでも知っていた。そんな彼女の側で育ったわたしが果たしてメイドという職業に憧れを抱かずにいられるだろうか。いや、いられない。(これ反語。)
そんな時に見つけたのが例の『メイドカフェ』の求人広告だった。店長さんはとてもいい人でわたしをみるや否や、(謎の奇声を発しながら)即採用してくれた。メイド服まで支給していただいて、実家の事情を話すと、じゃあ本名はマズイよね流石に、と鷹華というハンドルネームまでつけていただいた。それでもやっぱり家事なんてしたことないから今日みたいに失敗ばかりして恩を返しきれてない。
「…よし!明日から頑張るぞー!おー! 」
小さく腕をあげる。わたしだってやればできるはずだ。店長さんだって、「キミのいいところは前向きで明るいところだよ。だから失敗しても明るく微笑んでくれればそれでいいからね。…デュフフ 」と言ってくださってるし。



パリンッパリンッパリンッ!!
…翌日、今日も元気にお皿を破壊する音が店内に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

処理中です...