メイドのみやげ話ですっ!

内藤 春翔

文字の大きさ
2 / 5

第2話 従弟の鏡くん

しおりを挟む
「今日からしばらくウチで預かることになった。仲良くしてやってくれ 」
「よ、よろしくおねがいします 」

夏期休暇のある日、お父様が突然従弟のきょうくんを連れてきての第一声がこれである。…サプライズすぎません?
どうやら彼の両親が出張で海外に行くらしい。その間お父様がウチで預かることになったという。
「…ただな、私もしばらくまた家を空けなければならなくてな。桃華、面倒をみてあげなさい 」
「…!はい、わかりました! 」
一人っ子のわたしとしては前々から弟が欲しいと思っていたし、鏡くんは小顔でキョトンとした姿がとても可愛らしい。撫で回したい…ハッ!危うくわたしの内なる母性が覚醒しそうになる。
「えぇと、その、あの… 」
鏡くんがもじもじしながらわたしを見つめている。トイレだろうか?
「いっしょにあそぼ?ももか、おねいちゃん 」
「…! 」
そしてわたしの中の母性が覚醒した。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「あぁ、もうこんな時間… 」
鏡くんと遊んでいると時間が一瞬で吹き飛んだ。…バイトに行かなくては。そう思って立ち上がったとき、服の裾を引っ張られた。
「?どこにいくの、おねいちゃん? 」
鏡くんだ。
「お姉ちゃん今からねぇ… 」
言いかけて口を閉じる。もし彼にバイトのことを話したら、お父様に話してしまうかもしれない。ここは適当にごまかさないと。
「お姉ちゃん今から買い物に行ってくるね 」
よしっ!完璧な言い訳!これで鏡くんも…
「じゃあぼくもいく!おねいちゃんのにもつもつ! 」
…あれ?なんか状況悪化してない?
鏡くんは目をキラキラさせて仲間になりたそうにこちらをみていた。いっそ職場に連れて行く?いや、メイドカフェだぞ!流石に無理だ。
「…ごめんね鏡くん。鏡くんにはお留守番をお願いしたいなぁって 」
幸い今日は召使いさんも来ないから自然な言い訳で…って小さい子相手に何やってんだろ。
「…そっか。わかったおねいちゃん 」
寂しそうにはにかむ鏡くんの笑顔を見て胸がしめつけられる。そしてその胸の痛みを抱えたまま、わたしは職場へと向かったのだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「はぁ、今日はいつもよりダメだったなぁ 」
トボトボしながら帰路を歩く。店中の皿という皿を破壊し尽くしてしまった。店長さんが珍しく涙目になって、「…鷹華ちゃん、つらいことあったら言ってね。とりあえず今日はもう帰ろう、ね? 」と言われて早めに帰ることになった。
仕事中もずっと鏡くんのことが頭から離れなかった。…3時間くらいひとりぼっちにしちゃった。家に到着し、心配しながらもドアを開けると…
「おねいぢゃぁぁんんんん!! 」
泣きながら鏡くんが抱きついてきた。
「ぼぐ、ざびじがっだよぉぉ! 」
「ごめんね、鏡くん、ごめんね! 」
必死になだめようとしたけど鏡くんは一向に泣き止まない。罪悪感が込み上げてくる。…どうすればいいの?

ふと、いつかお父様から聞いた話を思い出した。
『お前が小さい時はな、よく泣いていて私や母さんを困らせたものさ。でもな、母さんがおはなしを聞かせるとすぐに泣き止んでしまったんだ。話が終わる頃にはすやすや気持ちよさそうに寝息を立てていたものだったよ 』

そう、か。おはなしを話せば泣き止んでくれるかもしれない。
「鏡くん聞いて!むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お婆さんが川に洗濯に行くと… 」
「ももだろうはもうじっでるよぉぉ! 」
鏡くんは泣き止まない。…そっか、知ってる話には入り込み辛いもんね。
「じ、じゃあ、むかしむかし、あるところに浦島太郎という男が… 」
「ばっどえんどはいやだよぉぉぉ! 」
これも知ってたかぁ。なら一体なにを話せばいいんだろう。
そう考えていると鏡くんが少しだけ泣き止んでこういった。
「……ね…ちゃん 」
「…え? 」
「ぼぐ、おねいぢゃんのばなじがぎきだい 」
…わたしの話?
「…でもわたしの話なんてそんな 」
「びぇぇぇええええええん!! 」
鏡くんが泣き叫んだ。でもわたしの何を話そう。…学校のこと?いや、みんなわたしに遠慮してか距離をとられてるしなぁ。…趣味のこと?でも、わたしにこれらしい趣味なんてなぁ…
そのとき、ハッとひらめいた。…あるじゃないかわたしにも。生まれて初めてお父様に逆らうぐらい、いくら失敗してもやめられないぐらい大好きなことが!「…鏡くん、わたしね、夢があるの 」
「…ゆ……め? 」
「そう夢。わたし実はね… 」

そうしてわたしは鏡くんに全てを話した。ずっとメイドさんに憧れていたこと。いまお父様にナイショでメイドカフェで働いていること。失敗ばかりだけどとても楽しいこと。

もしお父様に話されたら…なんてそのときにはもう思わなかった。ただ1秒でも早く、鏡くんに泣き止んで欲しかった。これ以上彼を悲しませたくなかった。
そうして、全部話し終わる頃には、鏡くんはすやすやと寝息を立てていた。
「ごめんね鏡くん、そして、聞いてくれてありがとう 」
今まで誰にも話せなかったこと。ずっと胸の奥にしまい込んでいたつかえが取れたようだった。
「おやすみ、鏡くん 」
おでこに軽くキスをすると、わたしもベッドに潜り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

処理中です...