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第2話 従弟の鏡くん
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「今日からしばらくウチで預かることになった。仲良くしてやってくれ 」
「よ、よろしくおねがいします 」
夏期休暇のある日、お父様が突然従弟の鏡くんを連れてきての第一声がこれである。…サプライズすぎません?
どうやら彼の両親が出張で海外に行くらしい。その間お父様がウチで預かることになったという。
「…ただな、私もしばらくまた家を空けなければならなくてな。桃華、面倒をみてあげなさい 」
「…!はい、わかりました! 」
一人っ子のわたしとしては前々から弟が欲しいと思っていたし、鏡くんは小顔でキョトンとした姿がとても可愛らしい。撫で回したい…ハッ!危うくわたしの内なる母性が覚醒しそうになる。
「えぇと、その、あの… 」
鏡くんがもじもじしながらわたしを見つめている。トイレだろうか?
「いっしょにあそぼ?ももか、おねいちゃん 」
「…! 」
そしてわたしの中の母性が覚醒した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あぁ、もうこんな時間… 」
鏡くんと遊んでいると時間が一瞬で吹き飛んだ。…バイトに行かなくては。そう思って立ち上がったとき、服の裾を引っ張られた。
「?どこにいくの、おねいちゃん? 」
鏡くんだ。
「お姉ちゃん今からねぇ… 」
言いかけて口を閉じる。もし彼にバイトのことを話したら、お父様に話してしまうかもしれない。ここは適当にごまかさないと。
「お姉ちゃん今から買い物に行ってくるね 」
よしっ!完璧な言い訳!これで鏡くんも…
「じゃあぼくもいく!おねいちゃんのにもつもつ! 」
…あれ?なんか状況悪化してない?
鏡くんは目をキラキラさせて仲間になりたそうにこちらをみていた。いっそ職場に連れて行く?いや、メイドカフェだぞ!流石に無理だ。
「…ごめんね鏡くん。鏡くんにはお留守番をお願いしたいなぁって 」
幸い今日は召使いさんも来ないから自然な言い訳で…って小さい子相手に何やってんだろ。
「…そっか。わかったおねいちゃん 」
寂しそうにはにかむ鏡くんの笑顔を見て胸がしめつけられる。そしてその胸の痛みを抱えたまま、わたしは職場へと向かったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ、今日はいつもよりダメだったなぁ 」
トボトボしながら帰路を歩く。店中の皿という皿を破壊し尽くしてしまった。店長さんが珍しく涙目になって、「…鷹華ちゃん、つらいことあったら言ってね。とりあえず今日はもう帰ろう、ね? 」と言われて早めに帰ることになった。
仕事中もずっと鏡くんのことが頭から離れなかった。…3時間くらいひとりぼっちにしちゃった。家に到着し、心配しながらもドアを開けると…
「おねいぢゃぁぁんんんん!! 」
泣きながら鏡くんが抱きついてきた。
「ぼぐ、ざびじがっだよぉぉ! 」
「ごめんね、鏡くん、ごめんね! 」
必死になだめようとしたけど鏡くんは一向に泣き止まない。罪悪感が込み上げてくる。…どうすればいいの?
ふと、いつかお父様から聞いた話を思い出した。
『お前が小さい時はな、よく泣いていて私や母さんを困らせたものさ。でもな、母さんがおはなしを聞かせるとすぐに泣き止んでしまったんだ。話が終わる頃にはすやすや気持ちよさそうに寝息を立てていたものだったよ 』
そう、か。おはなしを話せば泣き止んでくれるかもしれない。
「鏡くん聞いて!むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お婆さんが川に洗濯に行くと… 」
「ももだろうはもうじっでるよぉぉ! 」
鏡くんは泣き止まない。…そっか、知ってる話には入り込み辛いもんね。
「じ、じゃあ、むかしむかし、あるところに浦島太郎という男が… 」
「ばっどえんどはいやだよぉぉぉ! 」
これも知ってたかぁ。なら一体なにを話せばいいんだろう。
そう考えていると鏡くんが少しだけ泣き止んでこういった。
「……ね…ちゃん 」
「…え? 」
「ぼぐ、おねいぢゃんのばなじがぎきだい 」
…わたしの話?
「…でもわたしの話なんてそんな 」
「びぇぇぇええええええん!! 」
鏡くんが泣き叫んだ。でもわたしの何を話そう。…学校のこと?いや、みんなわたしに遠慮してか距離をとられてるしなぁ。…趣味のこと?でも、わたしにこれらしい趣味なんてなぁ…
そのとき、ハッとひらめいた。…あるじゃないかわたしにも。生まれて初めてお父様に逆らうぐらい、いくら失敗してもやめられないぐらい大好きなことが!「…鏡くん、わたしね、夢があるの 」
「…ゆ……め? 」
「そう夢。わたし実はね… 」
そうしてわたしは鏡くんに全てを話した。ずっとメイドさんに憧れていたこと。いまお父様にナイショでメイドカフェで働いていること。失敗ばかりだけどとても楽しいこと。
もしお父様に話されたら…なんてそのときにはもう思わなかった。ただ1秒でも早く、鏡くんに泣き止んで欲しかった。これ以上彼を悲しませたくなかった。
そうして、全部話し終わる頃には、鏡くんはすやすやと寝息を立てていた。
「ごめんね鏡くん、そして、聞いてくれてありがとう 」
今まで誰にも話せなかったこと。ずっと胸の奥にしまい込んでいたつかえが取れたようだった。
「おやすみ、鏡くん 」
おでこに軽くキスをすると、わたしもベッドに潜り込んだ。
「よ、よろしくおねがいします 」
夏期休暇のある日、お父様が突然従弟の鏡くんを連れてきての第一声がこれである。…サプライズすぎません?
どうやら彼の両親が出張で海外に行くらしい。その間お父様がウチで預かることになったという。
「…ただな、私もしばらくまた家を空けなければならなくてな。桃華、面倒をみてあげなさい 」
「…!はい、わかりました! 」
一人っ子のわたしとしては前々から弟が欲しいと思っていたし、鏡くんは小顔でキョトンとした姿がとても可愛らしい。撫で回したい…ハッ!危うくわたしの内なる母性が覚醒しそうになる。
「えぇと、その、あの… 」
鏡くんがもじもじしながらわたしを見つめている。トイレだろうか?
「いっしょにあそぼ?ももか、おねいちゃん 」
「…! 」
そしてわたしの中の母性が覚醒した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あぁ、もうこんな時間… 」
鏡くんと遊んでいると時間が一瞬で吹き飛んだ。…バイトに行かなくては。そう思って立ち上がったとき、服の裾を引っ張られた。
「?どこにいくの、おねいちゃん? 」
鏡くんだ。
「お姉ちゃん今からねぇ… 」
言いかけて口を閉じる。もし彼にバイトのことを話したら、お父様に話してしまうかもしれない。ここは適当にごまかさないと。
「お姉ちゃん今から買い物に行ってくるね 」
よしっ!完璧な言い訳!これで鏡くんも…
「じゃあぼくもいく!おねいちゃんのにもつもつ! 」
…あれ?なんか状況悪化してない?
鏡くんは目をキラキラさせて仲間になりたそうにこちらをみていた。いっそ職場に連れて行く?いや、メイドカフェだぞ!流石に無理だ。
「…ごめんね鏡くん。鏡くんにはお留守番をお願いしたいなぁって 」
幸い今日は召使いさんも来ないから自然な言い訳で…って小さい子相手に何やってんだろ。
「…そっか。わかったおねいちゃん 」
寂しそうにはにかむ鏡くんの笑顔を見て胸がしめつけられる。そしてその胸の痛みを抱えたまま、わたしは職場へと向かったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ、今日はいつもよりダメだったなぁ 」
トボトボしながら帰路を歩く。店中の皿という皿を破壊し尽くしてしまった。店長さんが珍しく涙目になって、「…鷹華ちゃん、つらいことあったら言ってね。とりあえず今日はもう帰ろう、ね? 」と言われて早めに帰ることになった。
仕事中もずっと鏡くんのことが頭から離れなかった。…3時間くらいひとりぼっちにしちゃった。家に到着し、心配しながらもドアを開けると…
「おねいぢゃぁぁんんんん!! 」
泣きながら鏡くんが抱きついてきた。
「ぼぐ、ざびじがっだよぉぉ! 」
「ごめんね、鏡くん、ごめんね! 」
必死になだめようとしたけど鏡くんは一向に泣き止まない。罪悪感が込み上げてくる。…どうすればいいの?
ふと、いつかお父様から聞いた話を思い出した。
『お前が小さい時はな、よく泣いていて私や母さんを困らせたものさ。でもな、母さんがおはなしを聞かせるとすぐに泣き止んでしまったんだ。話が終わる頃にはすやすや気持ちよさそうに寝息を立てていたものだったよ 』
そう、か。おはなしを話せば泣き止んでくれるかもしれない。
「鏡くん聞いて!むかーしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お婆さんが川に洗濯に行くと… 」
「ももだろうはもうじっでるよぉぉ! 」
鏡くんは泣き止まない。…そっか、知ってる話には入り込み辛いもんね。
「じ、じゃあ、むかしむかし、あるところに浦島太郎という男が… 」
「ばっどえんどはいやだよぉぉぉ! 」
これも知ってたかぁ。なら一体なにを話せばいいんだろう。
そう考えていると鏡くんが少しだけ泣き止んでこういった。
「……ね…ちゃん 」
「…え? 」
「ぼぐ、おねいぢゃんのばなじがぎきだい 」
…わたしの話?
「…でもわたしの話なんてそんな 」
「びぇぇぇええええええん!! 」
鏡くんが泣き叫んだ。でもわたしの何を話そう。…学校のこと?いや、みんなわたしに遠慮してか距離をとられてるしなぁ。…趣味のこと?でも、わたしにこれらしい趣味なんてなぁ…
そのとき、ハッとひらめいた。…あるじゃないかわたしにも。生まれて初めてお父様に逆らうぐらい、いくら失敗してもやめられないぐらい大好きなことが!「…鏡くん、わたしね、夢があるの 」
「…ゆ……め? 」
「そう夢。わたし実はね… 」
そうしてわたしは鏡くんに全てを話した。ずっとメイドさんに憧れていたこと。いまお父様にナイショでメイドカフェで働いていること。失敗ばかりだけどとても楽しいこと。
もしお父様に話されたら…なんてそのときにはもう思わなかった。ただ1秒でも早く、鏡くんに泣き止んで欲しかった。これ以上彼を悲しませたくなかった。
そうして、全部話し終わる頃には、鏡くんはすやすやと寝息を立てていた。
「ごめんね鏡くん、そして、聞いてくれてありがとう 」
今まで誰にも話せなかったこと。ずっと胸の奥にしまい込んでいたつかえが取れたようだった。
「おやすみ、鏡くん 」
おでこに軽くキスをすると、わたしもベッドに潜り込んだ。
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