メイドのみやげ話ですっ!

内藤 春翔

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第4話 水と共に私は

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雨が降り始めてきた。
「…うぅ、寒いです 」
和服に雨がしみて冷たい。
いくあてもなく飛び出してきたはいいけど雨が降ってくるなんて…傘を取りに戻ろうか?いや、絶対にダメだ。そんなことしたらお父様はわたしを引きとめるに違いない。幸いなのは今は小雨で…

----五分後。

「…うぅぅぅ、ざぶいぃぃでずぅぅ 」
雨は大雨に進化した。前も見えないくらいの大雨だ。わたしはなんとか雨宿りできる場所を探そうと必死に歩いた。

瞬間、世界が反転した。
泥に足をとられてころんでしまったらしい。びちょ、と気持ちの悪い感触が身体中に染み渡る。
----立ち上がらなきゃ。
そう思い腰を動かそうとした。が、なぜか動かなかった。
「…あ、れ? 」
もう一度やってみる。やはり動かない。
「…どう、し、て? 」
どうやらころんだ拍子に腰が抜けてしまったらしい。うまく立ち上がれない。

----わたしはここで死ぬのだろうか。
雨に打たれながらそんなことを思った。身体が徐々に冷えているのが分かる。

----でもここで死んでもいいのではないか。
お父様には大好きな仕事を否定され、いくあてもない。仮に生きたところでまたあの鷹司家という牢獄に囚われるのだ。ならば、ここで消えてしまった方が楽なのではないだろうか。

「…もう…いい、かな 」
そんなことを呟いて瞳を閉じる。水の粒が大地を穿つ音だけが響く。今、わたしは水と一緒に地面に飲み込まれようとしているんだ。もう全てゆだねてしまおう。メイドとして、働くことができないならもうこの世に未練なんて…
『おねいちゃん!おねいちゃん! 』
そう、未練なんて…
『いっしょにあそぼ?ももかおねいちゃん 』

なぜか思い出したのは、鏡くんの笑顔だった。ずっと欲しかったわたしの可愛い弟。従弟だけど、本当の弟のように思っていた。彼の無邪気な笑顔をもう見れないとなると寂しくなった。
「…あ…いたい…なぁ 」
そう呟いた。

「…ね…ちゃん!…ね…ちゃん! 」
----あぁ、幻聴が聞こえる。鏡くんのいじらしい声が。わたしを呼んでくれる声が。
「ももかおねいちゃん!ももかおねいちゃん!おきて!おきてよ! 」
身体を揺さぶられて目を開ける。

----そこには長靴を履いて小さな傘を持った大好きな弟きょうくんの姿があった。

「…きょ、う…くん? 」
思わず顔を上げる。
「…きょうくん!! 」
「…うん、ぼくだよおねいちゃん 」
鏡くんがわたしを抱きしめた。
「おねいちゃんが、あめのなか、おそとにいっちゃったから、しんぱいしたんだよ? 」
彼の温もりが冷えたわたしの中に入ってくる。とても心地いい温もりだ。

「もう、かえろ?おねいちゃん 」
鏡くんがそう言ってくれる。けど、わたしは首を横に振った。
「で、きないよ…できないよ! 」
涙がこぼれてきた。
「きょうくんがお父様にわたしのこと話しちゃったから帰れなくなっちゃったんだよ!?どうして!?どうして話したりしたの!? 」わたしは怒鳴る。こんなのやつあたりでしかないのに。
「ごめん…なさい 」
鏡くんが謝ってきた。
「ぼく、おねいちゃんがたのしそうにはなしてくれたおはなし、だいすきなんだよ? 」でも、と続ける。
「おねいちゃんのおとうさんはおねいちゃんのおしごと、きらいみたいでしょ?だから…ぼく、おねいちゃんのおとうさんにわかってほしくて…おねいちゃん、おしごとだいすきなんだって!! 」
「…鏡くん 」
どうやら、鏡くんはお父様を説得してくれようとしたらしい。
「おねいちゃん、ぼくもいっしょに、ごめんなさいするから、もうかえろ?ね? 」鏡くんはそういうと、わたしの目を見てはにかんだ。
「きょうくん…!きょうくん!! 」
愛しさが込み上げてきた。そしてわたしも鏡くんを----小さな王子さまを抱きしめた。
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