1 / 1
人食いの館~お化けなんているわけねえだろと館に踏み込んだ青年たちの運命は如何に~
しおりを挟む
「ここが噂の館ですね……」
僕は魔導学園に通っているエルト。
同じく魔導学園に通っている友人2人と共に、町はずれの森の奥にある人食いのお化けがいるという館へとやって来ました。
今までに何人も探索に入ったらしいのですが、その誰もが帰ってこないためにそう噂されているようです。完全にいわくつきの建物というわけですね。
「おい、マジで入るのか……?」
少々後ろ向きな反応をしたのは召喚魔術を得意とするノヴァ。彼は後退りをしており、既に館からはそれなりに離れています。
「あら、怖いならここで待っていてもいいのよ? もちろん一人きりで……だけれど」
「ヒェッ……」
そんなノヴァに容赦無く現実を突きつけたのは氷属性の魔術を得意とするグラシス。氷のように冷たい視線と精神性から、学園の中では氷の女王として恐れられています。
「そもそも、そんなに怖いのならお供でもなんでも召喚すれば良いじゃない?」
「そんなことして大事な友達が危険な目に合ったらどうするんだ!!」
ノヴァは怖がりで小心者ではあるものの、義理堅いというか何と言うか人間としてはかなり信用出来る人物なのです。だからこそ彼は信用できるのです。
転校してきたばかりの彼に誰よりも早く声をかけた僕の目に狂いはありません。
「まあいい、とにかく入りましょう」
「良くは無いが?」
僕たち3人は館の中へと入りました。
「おい待て俺の話しがまだ」
--人食いの館--
「これは……」
館の中は埃に塗れていて空気が悪く、ずっといると気分が悪くなりそうです。
「皆さん、体の調子が悪くなったらすぐに言ってください。何が起こるかわかりませんから」
僕はヒール……悪者の方では無く、回復魔法得意としています。ある程度の体調の悪化だったら回復魔法で何とかなるでしょう。
ガチャ
「なに!?」
「おい、扉が開かねえぞ!」
ノヴァが扉をガチャガチャしていますが、開く様子はありません。どうやら閉じ込められてしまった様です。
「ひとまず冷静に、状況を確認しましょう。どこかに外に出られそうなところがあるかもしれません」
「おうそうだな。窓とかから出られるかもしれねえ」
「私は窓から出るなんてはしたないことはしたくないのだけれど……仕方が無いわね」
はぐれないように3人で固まり、どこか外に出られそうな場所を探しました。しかし、どの窓も開きませんでした。まるで壁に描かれた絵のように一切動きがありません。がたつきすらも無いのです。
「仕方がねえ。来い! ミカン!」
ノヴァを中心に魔法陣が展開され、目の前に柑橘系の果物に犬のような四肢が生えた謎の生命体が現れました。彼の召喚する召喚獣、ミカンです。
ミカンは彼が合成魔術を使って作り出した魔導生物であり、元々この世界にいたものではありません。
彼が昔飼っていた犬……名をミカンと言います。そのミカンが死んでしまったため彼は近畿の魔法に手を出したのです。禁忌の魔法ではありません。近畿地方に伝わる伝説の魔法です。
その魔法によりミカンは復活することが出来ました。しかしその姿は生前のような愛らしいものでは無く、柑橘系の果物と同化した異形そのものと言ったものでした。
この魔法を発動する際に彼は、果物のミカンも一緒に連想してしまったのです。
「いつ見てもその姿、狂っているわね。そうまでして一緒にいたいだなんて、貴方も相当狂ってるのかしら」
「失礼だな正気だよ」
ミカンは鋭い牙をいくつも生やした恐ろしい口を開け、窓に噛みつく。何度も何度も狂ったように、涎を垂らしながら噛みつき続ける。しかしどれだけ噛みついても窓は開きませんでした。というより、壁も壊れませんでした。
「どうやら駄目みたいだ。ありがとうなミカン」
「クゥ~ン」
子犬のような鳴き声を上げてミカンはノヴァの影に入っていきます。
「なら次は私の出番の様ね」
グラシスは手のひらから氷の柱を生み出し、窓へとぶち当てました。着弾点を中心に氷のつぶてがばらまかれ、それがまた新たな柱を生み出しこの部屋はあっという間に氷漬けになってしまいました。
「グラシス……俺たちまで凍らせるつもりか……?」
「あら、凍ってしまっても良いのよ?」
「相変わらずつめてえな」
ノヴァのその言葉を聞いてもなお、グラシスは氷の魔法を使い続けています。このままでは館から脱出するよりも前に僕たちが氷漬けになってしまうでしょう。
「私は自由なのよ。貴方たちがどうなろうとね! ハッハァー!」
「おい、待て待てふざけんなよマジで!!」
パリン
「何!?」
突然背後から物音がしました。
その物音に注意がそれたことにより、グラシスの氷の魔法は中断され間一髪のところで氷漬けになることは免れました。ポルターガイストに感謝ですね。
とは言えそのまま放っておくわけにもいきません。敵対存在かもしれませんし、何か手掛かりにもなるかもしれませんから。
僕はそうっと物音のする方に近づいて行きました。
その瞬間、僕の視界は真っ暗になり何も見えなくなったのです。
「うぁああぁぁぁぁ!?」
真っ暗闇の中聞こえるエルトの悲鳴。いったい僕の身に何が……?
「エルトォォ!! お前の死は無駄にはしねえ!!」
ノヴァは叫びながら部屋から出て行ったようです。足音的にグラシスも一緒に逃げたようですね。
暗闇にも慣れだんだん目が見えてきました。そして今僕がどういった状態なのかもわかりました。
「ぁあ……あぁぁぁぁ!?」
僕は謎の生物に丸呑みされていたのです。
◇
「はぁ……はぁ……なんとか逃げ切れたか?」
何だったんだアイツは……。突然現れたと思ったらエルトの頭を飲み込み……うぷっ。
思い出しただけで吐き気がしやがる。あんな異形の怪物が蔓延っているってのかこの館には……?
「グラシス、頼りねえかもしれねえけど俺が絶対守ってやるからな」
「あら、それならきちんと守ってもらおうかしら。まあ信用はしていないのだけれど」
「酷ぇな。それにしてもあの異形の怪物……魔物にしては見た目がグロテスクすぎるぜ。まるでサイコな何者かによって作られたみてえな造形をしてやがる。きっと碌なヤツじゃねえぞ」
「それはひょっとしてギャグで言っているのかしら」
グラシスの言っている意味は分からなかったが、俺はとにかくあの生物を作った頭のおかしいヤツを許さねえ。生物を愚弄している。到底許されるべき行為でないのは明らかだぜ。
カタ
「今度はなんだ!?」
「人形のようね。それも人形劇に使うような大きめの……」
「なあ、なんであの人形……包丁を持っていやがるんだ?」
人形は出刃包丁を握っている。人形がそんな物騒なもんを持つ必要があるのか?
とりあえず近づかないようにしつつ、脱出できそうなところを探すしかない。こんなところにいつまでも居たら命がいくつあっても足りねえ。
「あの人形、あんなところにあったかしら」
「え?」
少し歩くとグラシスがそう呟いた。人形の方を見ると、先ほどよりも近づいているように感じる。それにポーズも少し違うような。
いやそんなことあるはずが無い。この状況だからそう感じるだけだ。
俺はそう信じ先を急いだ。
そしてある程度歩いた時違和感を覚えた。グラシスの足音が無いのだ。
俺は恐る恐る振り返る。そこにグラシスはいなかった。
ザク……ザク……
暗闇の中、何か音が聞こえてくる。
グチュ……ズビュ……
何か粘度の高い液体のような音が聞こえる。
俺は音の方へと向かう。怖い。見るのが怖い。何が起こっているのかは薄々わかっていた。見たくない。それでも何かがそうさせたのだ。
重い足で無理やり歩き、音の正体にまでたどり着いた。
そこでは、人形が出刃包丁をグラシスの体に突き刺している最中だった。
「あ、ああぁぁ……あ?」
衝撃的な状況に思考が一瞬吹き飛ぶ。
目の前では変わらず人形がグラシスを切り刻んでいる。そしてそのまま視線を上げ、人形の顔を見た時。目を疑った。
血に濡れた口元。何か赤い塊をくちゃくちゃと咀嚼している。
それが何かはすぐにわかった。人形は、グラシスを食べていた。
「あ……あぁ……うあぁぁああっぁあ!?」
俺は即座に逃げた。足がもつれそうになるが、それでも何とか根性で逃げ続けた。
足が焼ききれそうだった。もうこの先走れなくなっても良い。それでも今この瞬間、生涯の分も使って走る。ただそれだけ考えて走り続けたのだった。
◇
「ここまでくればもう大丈夫か……?」
死に物狂いで走り続けたためか、自分が今どこにいるのかわからない。辺りを見ると豪華な布が敷かれたテーブルの上に食器が並べられていることに気付いた。
いつの間にか食堂にまで来ていたようだ。
「それにしてもこの匂いは何だ……?」
部屋の奥から肉を焼いた時のような香ばしい匂いが漂ってくる。全力で走ったためか、その匂いを嗅いでお腹が空いてきてしまった。
俺はその匂いに釣られ部屋の奥へと歩いていく。
部屋の奥はキッチンへとつながっており、そこには奇麗に盛り付けられた料理の山があった。
館の状況から料理をする者などいる訳が無いのは明白だった。にも関わらず目の前には豪勢な料理が並んでいるのだ。
ふと我に返った時、自分の口から涎が垂れているのに気付いた。
「嘘だろオイ……」
こんなところにある食べ物などどう考えてもおかしい。なのにも関わらず、食欲が湧き上がって仕方が無いのだ。
鼻腔の奥にまで流れてくる脂の乗った肉のジューシーな匂い。耐えられるはずなど無かった。
「あむっんぐ……はふっはふっ」
口の中が熱い。わかっているが止められない。こういうものは口の中ベロッベロにしてハフハフしながら食うのが一番美味い。
「あぁもっむぐっ……ゴクンッ」
ちょうどいい火加減で焼かれた肉は柔らかく、簡単に噛み切れる。いやもう噛み切れるなんて表現はこの肉には冒涜だ。溶ける。そう溶けるだ。それこそがこの肉に合う最高の表現。口に入れた瞬間脂がジュワっと広がり、旨味が口の中いっぱいに広がる。まさに肉のシーパラダイスやぁぁ!
一通り食べ終えた時、視界の端に黒い布が落ちているのに気が付いた。
「これは……?」
よく見るとそれは、服の一部のようだった。
「……え?」
改めて部屋を見回す。部屋中に衣服の一部と思われる布が落ちていた。
「オイオイオイ……」
それだけでは無い。
冷凍庫と思われるところからは明らかに人間の四肢と思われるものがはみ出ていたのだ。
この状況が指し示す答えは一つだった。
今食べた肉料理は、人肉で出来ていたのだ。
「嘘……だろ……?」
そんな事実、気付きたくなかった。
だって。
「人間が美味いなんて知っちまったら……もう戻れねえだろうが」
そこからは俺の独壇場だった。
学園の家庭科の評価10である俺に作れないものは無い。
冷凍庫から肉を取り出す。そして奇麗に骨から肉を削ぎ落し、フライパンの中へ投入。この時あらかじめ油を引いておくのを忘れてはいけない。
ある程度火が通ってきたら一度火を止めて置いておく。
次に骨を鍋に入れ出汁を取る。骨すらも無駄にしないのが、持続可能な世界を維持する上でとても大切だ。
灰汁を取りながら十分程茹でた後、先ほどのフライパンに流しこむ。そして再度火を付け、持ってきていた麺を入れる。
麺をほぐす時には適当にぐちゃぐちゃとかき回してはいけない。そうすると麺が千切れて短くなってしまう。
最後に持ってきていたソースを混ぜよーくなじませながら焼いていく。
これで人肉焼きそばの完成だ。
「それではいただきますズビズバー」
美味い。
腹ごしらえも済んだので、俺はまた脱出口を探し始めた。
◇
「……どこにも出口がねえ」
あれから館中を探索したが、出口と思わしきところは発見できなかった。
「ノヴァ?」
「その声、我が友エルトじゃねえか!」
聞き覚えのある声。エルトは生きていたのだ。どうやったのかはわからないがあの状況から生存したようだ。
「おや、グラシスは?」
「ああ……あいつは……」
「私がどうかしたかしら?」
「グラシス!?」
グラシスが会話に割り込んできた。これまたあの状況から生存したようだ。
「それにしても、脱出できそうな場所が全く無いのは困りましたね」
「そうね。私のスタイルの良さなら少しの穴でもあれば脱出できるのだけれど」
「それじゃ俺たちが出られねえだろうが」
グラシスは確かにスタイルが良い。数百年に一度の逸材と言われてもおかしくは無いほどのモノを持っている。ただ、出るとこ出ていないのが残念なのだ。本人に言ったらぶち転がされるので言わないし言うヤツもいないのだが。
「確かにグラシスの体なら通れそうですね。胸ありませんし」
「あら、エルトは氷漬けになりたいようね」
「ヒエッ」
言うヤツいたわ。命知らずが。
「さて、それでは最後の手段を使いましょうか」
「何?」
「そんなものがあるのなら速く出して欲しかったのだけれど」
「この方法は最後の最後に許された手段なのです。何しろこの館を吹き飛ばしてしまうのですから」
「お前を器物損壊罪で訴える。理由はわかるな?」
「ここはノヴァのものではありませんから訴えられる筋合いはありません。そして何より建物は器物損壊罪では無く建造物損壊罪ですよ。学園で習ったでしょう」
「そうだっけか」
そんな事を言いながらエルトは大規模魔術の準備を始めていた。
「この魔法はこの土地全体を範囲にして、建造される前に回復(ヒール)します」
「おお! 何言っているのかはわからんがとにかくすごく凄そうだ!」
次の瞬間、白い光に包まれ山並みは萌えた。
館が建つ前の緑豊かな土地に戻ったのだ。
「うおおぉぉエルトの魔法気持ち良すぎだろ!」
「そんなに褒めないでくださいよ」
「少しはやるじゃないエルト。見直したわ」
「それでは先ほどの事はチャラに」
「それとこれは別よ?」
「死の宣告」
こうして俺たちは無事に帰ることが出来たのだった。
その後人肉に飢えた俺が街丸ごと料理したりエルトとグラシスの全面戦争が起こったりこの館で行方不明になった人がエルトの魔法で蘇ったりと波乱が続くのだが、それはまた別のお話なのであった。
人食いの館~お化けなんているわけねえだろと館に踏み込んだ青年たちの運命は如何に~ 完
僕は魔導学園に通っているエルト。
同じく魔導学園に通っている友人2人と共に、町はずれの森の奥にある人食いのお化けがいるという館へとやって来ました。
今までに何人も探索に入ったらしいのですが、その誰もが帰ってこないためにそう噂されているようです。完全にいわくつきの建物というわけですね。
「おい、マジで入るのか……?」
少々後ろ向きな反応をしたのは召喚魔術を得意とするノヴァ。彼は後退りをしており、既に館からはそれなりに離れています。
「あら、怖いならここで待っていてもいいのよ? もちろん一人きりで……だけれど」
「ヒェッ……」
そんなノヴァに容赦無く現実を突きつけたのは氷属性の魔術を得意とするグラシス。氷のように冷たい視線と精神性から、学園の中では氷の女王として恐れられています。
「そもそも、そんなに怖いのならお供でもなんでも召喚すれば良いじゃない?」
「そんなことして大事な友達が危険な目に合ったらどうするんだ!!」
ノヴァは怖がりで小心者ではあるものの、義理堅いというか何と言うか人間としてはかなり信用出来る人物なのです。だからこそ彼は信用できるのです。
転校してきたばかりの彼に誰よりも早く声をかけた僕の目に狂いはありません。
「まあいい、とにかく入りましょう」
「良くは無いが?」
僕たち3人は館の中へと入りました。
「おい待て俺の話しがまだ」
--人食いの館--
「これは……」
館の中は埃に塗れていて空気が悪く、ずっといると気分が悪くなりそうです。
「皆さん、体の調子が悪くなったらすぐに言ってください。何が起こるかわかりませんから」
僕はヒール……悪者の方では無く、回復魔法得意としています。ある程度の体調の悪化だったら回復魔法で何とかなるでしょう。
ガチャ
「なに!?」
「おい、扉が開かねえぞ!」
ノヴァが扉をガチャガチャしていますが、開く様子はありません。どうやら閉じ込められてしまった様です。
「ひとまず冷静に、状況を確認しましょう。どこかに外に出られそうなところがあるかもしれません」
「おうそうだな。窓とかから出られるかもしれねえ」
「私は窓から出るなんてはしたないことはしたくないのだけれど……仕方が無いわね」
はぐれないように3人で固まり、どこか外に出られそうな場所を探しました。しかし、どの窓も開きませんでした。まるで壁に描かれた絵のように一切動きがありません。がたつきすらも無いのです。
「仕方がねえ。来い! ミカン!」
ノヴァを中心に魔法陣が展開され、目の前に柑橘系の果物に犬のような四肢が生えた謎の生命体が現れました。彼の召喚する召喚獣、ミカンです。
ミカンは彼が合成魔術を使って作り出した魔導生物であり、元々この世界にいたものではありません。
彼が昔飼っていた犬……名をミカンと言います。そのミカンが死んでしまったため彼は近畿の魔法に手を出したのです。禁忌の魔法ではありません。近畿地方に伝わる伝説の魔法です。
その魔法によりミカンは復活することが出来ました。しかしその姿は生前のような愛らしいものでは無く、柑橘系の果物と同化した異形そのものと言ったものでした。
この魔法を発動する際に彼は、果物のミカンも一緒に連想してしまったのです。
「いつ見てもその姿、狂っているわね。そうまでして一緒にいたいだなんて、貴方も相当狂ってるのかしら」
「失礼だな正気だよ」
ミカンは鋭い牙をいくつも生やした恐ろしい口を開け、窓に噛みつく。何度も何度も狂ったように、涎を垂らしながら噛みつき続ける。しかしどれだけ噛みついても窓は開きませんでした。というより、壁も壊れませんでした。
「どうやら駄目みたいだ。ありがとうなミカン」
「クゥ~ン」
子犬のような鳴き声を上げてミカンはノヴァの影に入っていきます。
「なら次は私の出番の様ね」
グラシスは手のひらから氷の柱を生み出し、窓へとぶち当てました。着弾点を中心に氷のつぶてがばらまかれ、それがまた新たな柱を生み出しこの部屋はあっという間に氷漬けになってしまいました。
「グラシス……俺たちまで凍らせるつもりか……?」
「あら、凍ってしまっても良いのよ?」
「相変わらずつめてえな」
ノヴァのその言葉を聞いてもなお、グラシスは氷の魔法を使い続けています。このままでは館から脱出するよりも前に僕たちが氷漬けになってしまうでしょう。
「私は自由なのよ。貴方たちがどうなろうとね! ハッハァー!」
「おい、待て待てふざけんなよマジで!!」
パリン
「何!?」
突然背後から物音がしました。
その物音に注意がそれたことにより、グラシスの氷の魔法は中断され間一髪のところで氷漬けになることは免れました。ポルターガイストに感謝ですね。
とは言えそのまま放っておくわけにもいきません。敵対存在かもしれませんし、何か手掛かりにもなるかもしれませんから。
僕はそうっと物音のする方に近づいて行きました。
その瞬間、僕の視界は真っ暗になり何も見えなくなったのです。
「うぁああぁぁぁぁ!?」
真っ暗闇の中聞こえるエルトの悲鳴。いったい僕の身に何が……?
「エルトォォ!! お前の死は無駄にはしねえ!!」
ノヴァは叫びながら部屋から出て行ったようです。足音的にグラシスも一緒に逃げたようですね。
暗闇にも慣れだんだん目が見えてきました。そして今僕がどういった状態なのかもわかりました。
「ぁあ……あぁぁぁぁ!?」
僕は謎の生物に丸呑みされていたのです。
◇
「はぁ……はぁ……なんとか逃げ切れたか?」
何だったんだアイツは……。突然現れたと思ったらエルトの頭を飲み込み……うぷっ。
思い出しただけで吐き気がしやがる。あんな異形の怪物が蔓延っているってのかこの館には……?
「グラシス、頼りねえかもしれねえけど俺が絶対守ってやるからな」
「あら、それならきちんと守ってもらおうかしら。まあ信用はしていないのだけれど」
「酷ぇな。それにしてもあの異形の怪物……魔物にしては見た目がグロテスクすぎるぜ。まるでサイコな何者かによって作られたみてえな造形をしてやがる。きっと碌なヤツじゃねえぞ」
「それはひょっとしてギャグで言っているのかしら」
グラシスの言っている意味は分からなかったが、俺はとにかくあの生物を作った頭のおかしいヤツを許さねえ。生物を愚弄している。到底許されるべき行為でないのは明らかだぜ。
カタ
「今度はなんだ!?」
「人形のようね。それも人形劇に使うような大きめの……」
「なあ、なんであの人形……包丁を持っていやがるんだ?」
人形は出刃包丁を握っている。人形がそんな物騒なもんを持つ必要があるのか?
とりあえず近づかないようにしつつ、脱出できそうなところを探すしかない。こんなところにいつまでも居たら命がいくつあっても足りねえ。
「あの人形、あんなところにあったかしら」
「え?」
少し歩くとグラシスがそう呟いた。人形の方を見ると、先ほどよりも近づいているように感じる。それにポーズも少し違うような。
いやそんなことあるはずが無い。この状況だからそう感じるだけだ。
俺はそう信じ先を急いだ。
そしてある程度歩いた時違和感を覚えた。グラシスの足音が無いのだ。
俺は恐る恐る振り返る。そこにグラシスはいなかった。
ザク……ザク……
暗闇の中、何か音が聞こえてくる。
グチュ……ズビュ……
何か粘度の高い液体のような音が聞こえる。
俺は音の方へと向かう。怖い。見るのが怖い。何が起こっているのかは薄々わかっていた。見たくない。それでも何かがそうさせたのだ。
重い足で無理やり歩き、音の正体にまでたどり着いた。
そこでは、人形が出刃包丁をグラシスの体に突き刺している最中だった。
「あ、ああぁぁ……あ?」
衝撃的な状況に思考が一瞬吹き飛ぶ。
目の前では変わらず人形がグラシスを切り刻んでいる。そしてそのまま視線を上げ、人形の顔を見た時。目を疑った。
血に濡れた口元。何か赤い塊をくちゃくちゃと咀嚼している。
それが何かはすぐにわかった。人形は、グラシスを食べていた。
「あ……あぁ……うあぁぁああっぁあ!?」
俺は即座に逃げた。足がもつれそうになるが、それでも何とか根性で逃げ続けた。
足が焼ききれそうだった。もうこの先走れなくなっても良い。それでも今この瞬間、生涯の分も使って走る。ただそれだけ考えて走り続けたのだった。
◇
「ここまでくればもう大丈夫か……?」
死に物狂いで走り続けたためか、自分が今どこにいるのかわからない。辺りを見ると豪華な布が敷かれたテーブルの上に食器が並べられていることに気付いた。
いつの間にか食堂にまで来ていたようだ。
「それにしてもこの匂いは何だ……?」
部屋の奥から肉を焼いた時のような香ばしい匂いが漂ってくる。全力で走ったためか、その匂いを嗅いでお腹が空いてきてしまった。
俺はその匂いに釣られ部屋の奥へと歩いていく。
部屋の奥はキッチンへとつながっており、そこには奇麗に盛り付けられた料理の山があった。
館の状況から料理をする者などいる訳が無いのは明白だった。にも関わらず目の前には豪勢な料理が並んでいるのだ。
ふと我に返った時、自分の口から涎が垂れているのに気付いた。
「嘘だろオイ……」
こんなところにある食べ物などどう考えてもおかしい。なのにも関わらず、食欲が湧き上がって仕方が無いのだ。
鼻腔の奥にまで流れてくる脂の乗った肉のジューシーな匂い。耐えられるはずなど無かった。
「あむっんぐ……はふっはふっ」
口の中が熱い。わかっているが止められない。こういうものは口の中ベロッベロにしてハフハフしながら食うのが一番美味い。
「あぁもっむぐっ……ゴクンッ」
ちょうどいい火加減で焼かれた肉は柔らかく、簡単に噛み切れる。いやもう噛み切れるなんて表現はこの肉には冒涜だ。溶ける。そう溶けるだ。それこそがこの肉に合う最高の表現。口に入れた瞬間脂がジュワっと広がり、旨味が口の中いっぱいに広がる。まさに肉のシーパラダイスやぁぁ!
一通り食べ終えた時、視界の端に黒い布が落ちているのに気が付いた。
「これは……?」
よく見るとそれは、服の一部のようだった。
「……え?」
改めて部屋を見回す。部屋中に衣服の一部と思われる布が落ちていた。
「オイオイオイ……」
それだけでは無い。
冷凍庫と思われるところからは明らかに人間の四肢と思われるものがはみ出ていたのだ。
この状況が指し示す答えは一つだった。
今食べた肉料理は、人肉で出来ていたのだ。
「嘘……だろ……?」
そんな事実、気付きたくなかった。
だって。
「人間が美味いなんて知っちまったら……もう戻れねえだろうが」
そこからは俺の独壇場だった。
学園の家庭科の評価10である俺に作れないものは無い。
冷凍庫から肉を取り出す。そして奇麗に骨から肉を削ぎ落し、フライパンの中へ投入。この時あらかじめ油を引いておくのを忘れてはいけない。
ある程度火が通ってきたら一度火を止めて置いておく。
次に骨を鍋に入れ出汁を取る。骨すらも無駄にしないのが、持続可能な世界を維持する上でとても大切だ。
灰汁を取りながら十分程茹でた後、先ほどのフライパンに流しこむ。そして再度火を付け、持ってきていた麺を入れる。
麺をほぐす時には適当にぐちゃぐちゃとかき回してはいけない。そうすると麺が千切れて短くなってしまう。
最後に持ってきていたソースを混ぜよーくなじませながら焼いていく。
これで人肉焼きそばの完成だ。
「それではいただきますズビズバー」
美味い。
腹ごしらえも済んだので、俺はまた脱出口を探し始めた。
◇
「……どこにも出口がねえ」
あれから館中を探索したが、出口と思わしきところは発見できなかった。
「ノヴァ?」
「その声、我が友エルトじゃねえか!」
聞き覚えのある声。エルトは生きていたのだ。どうやったのかはわからないがあの状況から生存したようだ。
「おや、グラシスは?」
「ああ……あいつは……」
「私がどうかしたかしら?」
「グラシス!?」
グラシスが会話に割り込んできた。これまたあの状況から生存したようだ。
「それにしても、脱出できそうな場所が全く無いのは困りましたね」
「そうね。私のスタイルの良さなら少しの穴でもあれば脱出できるのだけれど」
「それじゃ俺たちが出られねえだろうが」
グラシスは確かにスタイルが良い。数百年に一度の逸材と言われてもおかしくは無いほどのモノを持っている。ただ、出るとこ出ていないのが残念なのだ。本人に言ったらぶち転がされるので言わないし言うヤツもいないのだが。
「確かにグラシスの体なら通れそうですね。胸ありませんし」
「あら、エルトは氷漬けになりたいようね」
「ヒエッ」
言うヤツいたわ。命知らずが。
「さて、それでは最後の手段を使いましょうか」
「何?」
「そんなものがあるのなら速く出して欲しかったのだけれど」
「この方法は最後の最後に許された手段なのです。何しろこの館を吹き飛ばしてしまうのですから」
「お前を器物損壊罪で訴える。理由はわかるな?」
「ここはノヴァのものではありませんから訴えられる筋合いはありません。そして何より建物は器物損壊罪では無く建造物損壊罪ですよ。学園で習ったでしょう」
「そうだっけか」
そんな事を言いながらエルトは大規模魔術の準備を始めていた。
「この魔法はこの土地全体を範囲にして、建造される前に回復(ヒール)します」
「おお! 何言っているのかはわからんがとにかくすごく凄そうだ!」
次の瞬間、白い光に包まれ山並みは萌えた。
館が建つ前の緑豊かな土地に戻ったのだ。
「うおおぉぉエルトの魔法気持ち良すぎだろ!」
「そんなに褒めないでくださいよ」
「少しはやるじゃないエルト。見直したわ」
「それでは先ほどの事はチャラに」
「それとこれは別よ?」
「死の宣告」
こうして俺たちは無事に帰ることが出来たのだった。
その後人肉に飢えた俺が街丸ごと料理したりエルトとグラシスの全面戦争が起こったりこの館で行方不明になった人がエルトの魔法で蘇ったりと波乱が続くのだが、それはまた別のお話なのであった。
人食いの館~お化けなんているわけねえだろと館に踏み込んだ青年たちの運命は如何に~ 完
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる