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9 新たなる旅立ち

57 世界は入り混じる

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 今から数年前、突然世界は光に包まれたという。
 光が晴れた時、世界の大半は高密度な魔力に汚染された死の世界となっておりほとんどの生物は死に絶えたらしい。
 今生物が残っているこのエリアはその大災害の時『星龍様』という存在によって守られたものなのだという。

 星龍様は自らの身を犠牲にこの土地を守り、それが今にまで語り継がれている。
 ランはそう語った。

「だからポーションの素材もそうたくさん手に入るものでは無いんだ。それでも、星龍様によって何とか私たちは生き残ることが出来たのだから、文句など無いのだけどね」

 大災害……恐らくデオスの基地を破壊した際に発生した魔力爆発だろう。星龍様の逸話と合わせても内容は一致する。そしてその星龍様と言うのは……俺だろう。
 あの時地上にいた誰かが、地上を守る俺の姿を見てそう言い始めたのだろう。

 そうなるとまた問題が出てくる。
 何故外の世界にランやエルフの里が存在するのか……だ。

 大災害からここが外の世界であることはわかったが、箱庭の中の世界がこちらに出てきている理由はわからなかった。

「英雄と称えられるドラゴン……」

「何か思い当たることでも?」

「何度もこの話をして申し訳ないが、やはり忘れてはいけないような誰かが似たような存在だったような気がするのだ」

 ……俺だってランに俺の事を思い出して欲しい。でも今この状況ではどうしようも無いのだ。

「その後星龍様がどうなったとかはわからないのか?」

「その後は何も語られていないんだ。何しろ大災害の影響でしっちゃかめっちゃかだった訳だろうからな」

「そうなのか」

 その後の事を知っている者がいれば何か手掛かりになると思ったのだが、あまり期待しない方がよさそうだ。

 こうして数日の間、ランからこの世界の情報を手に入れた。
 魔物が根絶されていたはずの地上には箱庭の中から溢れたのだろう魔物が跋扈していること。位置的にルガレア王国が現状一番大きな国であること。
 傷も治ってきたため、そろそろ動き始めることにした。メルたちの安否が心配なのもそうだが、会話の出来なくなったファルについても調べなければならない。。

「俺はそろそろここから出て行こうと思う」

「……そうか。君が良ければで良いんだが……私も同行していいだろうか」

「……え?」

「君からは何か、心の奥がざわつく感じがするんだ。今ここで別れたらもう二度と会えなくなってしまう気がして……」

「傭兵の方は良いのか?」

「話は付けてきてある。実を言うと里の者もサザンという男については何か引っかかるものを持っていたのだ。それについて何かがわかるかもしれないと言うことで、皆私の旅立ちを快く思ってくれたようだ」

「そうか。なら一緒に行こう」

「本当に……良いのか?」

 実際、俺も今ここでランと別れたらもう二度と会えないような気がしたのだ。

「ありがとう……!」

 こうして俺とランの二人は行動を共にすることとなった。

 ルガレア王国が現状一番大きな国であるらしく、情報を得るならそこが一番いいだろうという事で二人の意見は一致した。
 王国に行くのであればずっと龍の姿でいるわけにもいかないので一旦人の姿に戻ろうとするが、何故か戻れなかった。何度戻ろうとしても戻れない。

「どうしたんだ……?」

「人に戻れないんだ」

「人に? 君は人間なのか?」

 そう言えばランには言っていなかった。彼女の中では俺はドラゴンなのだ。

「俺は能力を使って龍の姿になっている人間だよ」

「そうか」

 表情を曇らせるラン。また記憶を思い起こそうとしているのだろう。 

「それならば人化の魔法を使えば良いのではないか? 狸の魔物などが使用しているあの魔法を使えば人の姿に化けることが出来るはずだ」

 ランのその言葉を聞き、俺は以前ファルを人の姿にした魔法を自身にエンチャントした。
 みるみる体は縮んでいき、爪も牙も翼も消える。元の俺の体を取り戻した。ただ龍のまま人の姿になっているだけなので能力は龍転身状態と同じものであった。気を付けないと色々と面倒になりそうだ。

 そんなこんなで人の国に入れるようになったので、俺たちはルガレア王国へと向かったのだった。

 王国へと向かう途中、魔物が現れる。Bランク魔物であるホーンウルフだ。この魔物は頭部の立派な角を武器にして狩りを行う危険な生物である。だが今の俺たちにとっては対処が難しい相手では無い。

 ランはオリハルコンの剣を抜き構える。そして俺はランに身体能力向上の付与魔法をエンチャントする。
 この感じ、久しぶりだ。十数年前の事を思い出す。メル、リア、ラン、ファル、そして俺の5人で旅をしたあの頃。絶対にメルとリア、そしてファルを見つけ出す。それまでどうか待っていてくれ。

新たなる旅立ち 完
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