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10 ルガレア王国と星龍教団

59 星龍教団

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 星龍教団。それは星龍様を崇める宗教団体。教団員は祝福を授かり、星龍様より賜りし大いなる力を行使することが出来ると言われている。その力を人々のために使い、共に幸福を目指そうという教えを掲げている。

 しかしそれは表向きの姿。実際は暴力的なまでに国民の尊厳を踏みにじる最悪の集団だ。その力を使い気に入らない者は徹底的に排除する。その力を恐れた王国の重鎮の協力も有り、教団の位の高い者は国を動かすほどの実権すら握っていると言う。
 
 そのせいで国の憲兵も教団には手を出すことが出来ない。むやみやたらに手を出せば自分の首が飛ぶからだ。教団の者はその力を利用して、タダ酒を飲んでは無理やり女を連れ回し飽きたら捨てるといった蛮行を繰り返している。

 それでもその行為を咎める者はいない。咎めたら最後、この国にいられなくなるからだ。いや、それでも優しい方だろう。サザンに石化魔法をかけた男のように、教団員以外の命を軽く見る者も少なくはない。物理的に首が飛ぶ可能性だってあるのだ。

 店主から星龍教団についての情報を聞き、サザンは怒りに震えた。腐敗しきった組織に怒りが湧く。間接的にではあるが星龍教団の生まれに関わっていると感じたサザンはこの状況を重く受け止め、教団の暴走を止めることを決意したのだった。

 そのためにサザンは教団についての情報を集めることにしたのだが、絶好の機会が訪れることになる。翌日冒険者ギルドへと向かうと、受付に教団の者がいたのだ。そして何やらサザンについてのことを話しているようなのだ。

「昨日、冒険者が我が教団に歯向かったと言う報告があった。その者を差し出さなければ税を重くする措置を取る。明日までに見つけ出すのだ」

「そ、そんな……」

「貴様ら受付嬢ごときが教団に歯向かうのか?」

「……いいえ」

 教団の者は、教団に歯向かった冒険者を明日までに見つけろという要求を突き付けた。そして間に合わなければ重税を課すという強迫も込みでだ。

 それは誰が考えても無茶だとわかることであった。ルガレア王国程の規模であればギルドに登録されている冒険者は数百人では収まらないだろう。この時点で相当な無理を言っているのがわかるが、期限が明日までと言うのも理不尽さに拍車をかけている。依頼に出ている冒険者は明日帰って来る保証が無いからだ。

 こうした理由からもわかるように、教団の目的は歯向かった者への粛清というよりもギルドからの税収の方が大きいのだろう。もし間に合えば見せしめに粛清できる者が手に入る。間に合わなければ税収が美味しくなる。どちらでも教団にとってはプラスになるのだ。

 サザンは教団について情報を得るためにはまたとない絶好の機会だと考え、自ら名乗り出た。教団の者はサザンのその声を聞き振り返る。そこには昨日酒場にいた男も混ざっている。

「自ら名乗り出るとは良い心がけだ。まあそれでも貴様の罪は消えないのだがね」

「間違いない、この男だ。俺の祝福を受け入れなかった不届き者は」

 サザンはそのまま教団の者に連れられ、ギルドを後にする。そしてしばらく見せしめのように連れ歩かされた後、教会の中へと入れられた。

 教会内には星龍様と思われる石像が立っており、壁面にも星龍様と思われる存在が大きく描かれている。その中でも一際目立つのが、中央にある壁画であった。それは星龍様が人間に何かを授けているように見えるものである。
 とは言えサザンにはそんなことをした記憶はない。仮にあの絵が真実だとすると、何故辺境の森で目が覚めたのかの説明が付かない。そんな大事な存在ならば、あのような僻地に放置をするなどありえないからだ。

 サザンが壁画について考えていると、教会の奥から一人の男が歩いてくる。

「司祭様。どうかあの不届き者に天罰を」

「うむ」

 司祭と呼ばれたその男はサザンに近づいて行き、詠唱を始める。

「ああ我らの主、星龍様よ。どうかこの者に祝福をお与えください」

 司祭を中心にして光の柱が立つ。しばらくするとその光は司祭から解き放たれ、サザンを包み込んだ。

 数秒の間、静寂が辺りを埋め尽くす。それに耐えられないかのように、教団の一人が口を開くのだった。

「祝福が効いていない……!?」

「そのようなこと、ありえるはずが……!」

「……」

 教団の者たちが動揺を隠せない中、司祭は無言のまま何かを考え込んでいるようだった。

「司祭様! 星龍様の祝福は絶対なのでは無いのですか!?」

「もし星龍様の祝福が効かない存在が居るのだとしたら……」

「静まれィ!!」

 司祭のその一言で辺りに再び静寂が訪れる。

「そのような存在はありえん。司教様の元へと連れて行くのだ。さすればきっと祝福がこの者に降り注ぐであろう」

 司祭の言葉を聞いた教団の者はサザンを拘束し教会から連れ出す。そして再び街中を連れ歩かせた。そしてしばらく歩き続けた後たどり着いたのは、このルガレア王国の中心地であり王の住まう地。王城であった。

 流石のこの状況にサザンは驚く。実権を握る者もいると店主に聞かされていたが、あくまで噂だと考えていたのだ。しかし実際に王城へと連れてこられたことで、それが真実であるということを理解する。同時に、腐敗しきった教団がこの国の中心に潜り込んでいるという事態に怒りを覚えたのだった。

 城内に入るとサザンはすぐに地下へと連れていかれた。長い階段を降りるとそこには大きな空間があったのだが、その光景にサザンは再度驚く。ただでさえ大きな空間内に、天井まで届くのでは無いかと言う大きさの星龍像が立っているのだ。そしてその周りは豪華な装飾で覆われている。明らかに教団内に相当な額の金が入ってきているのが見て取れた。

 その光景に目を奪われていると、教会の時と同じように奥から一人の男が出てくる。司祭よりもさらに煌びやかな服を着たその男こそが司教であるとサザンは直感的に理解する。

「この者が祝福を受け付けないという愚か者であるな?」

「はい、司教様。この者にどうか祝福をお与えになってください」

「よかろう」

 司教はサザンに近づいて行くと、詠唱を始めようとする。だがそれをサザンは止めた。

「司教様、お聞きしたいことがございます」

「……何だ?」

「星龍様からの祝福というのはどういったものなのでしょうか。私はこの国に来て長くはないもので、どうかご教授いただきたいのです」

 サザンは司教に星龍様についてを尋ねた。この教団について、そして星龍様の祝福について知ることが出来るかもしれないと考えたのだ。

「良いだろう」

 司教は教団の者の制止を聞かず、サザンに星龍様の祝福について語り始めた。

「星龍様の祝福とは、星龍様が世界をお救いになった時ある人間に授けられた力なのだ。その力は今後も世界を維持するうえで必要になるだろうと言い伝えられている。そしてその力を授けられし存在こそがこの星龍教団をお作りになられたのだ。祝福は良き者には幸福を、悪しき者には天罰をくだす。この力を使い我らは世を正していくのだ」

 まるで自分たちが正義の執行者だと言わんばかりの勢いで司教はそう語る。それを聞いたサザンは今にも司教に飛び掛かりそうであったが何とか耐えている。

「なるほど、それでは昨日のように女を無理やり連れだすのも酒を奪い取るのも正しいことだと言うのですね」

「我らはそれだけのことをしても良いほど、世界のための善行を行っておるのだ」

 司教は笑みを浮かべながらそう答える。それは自分たちの行っていることをちっとも悪びれていないと証明しているようなものだった。

「さて、そろそろ貴様には祝福を与えよう。……我らの主、星龍様よ。どうかこの者に祝福をお与えください」

 司祭の時と同じように司教の周りに光が集まっていき、一本の光の柱が立つ。それは徐々に大きくなっていき、天井に接触するまでになっていった。司祭の時とは違う大きさにサザンは納得する。サザンは祝福の正体に気付き始めていたのだ。

 しばらくの後、光の柱が解き放たれサザンを包む。しかしサザンの身には何も起こらない。完全耐性の前には一切の状態異常が効かないため当然である。

「祝福……これはそんなものじゃない。実際、教団員の一人は明確に石化魔法と言っていた」

「何だと?」

「ひぃ!?」

 石化魔法を使った教団員に別の教団員が詰め寄る。

「貴様、祝福の正体を外で話したのか!!」

「す、すみませ……あがっ」

 突然、教団員の体が膨れ上がり爆発する。

「まったく、余計なことをしてくれる。祝福の正体がバレたら厄介なことになると散々言い聞かせたはずなのだが」

「ひ……お助け……」

 爆発は司教が起こしたものだった。今の攻撃からサザンは祝福が未知なる力などでは無く、魔法の一種でしか無いことを確信する。

「貴様もこうなりたくなければせいぜい気を付けるのだな」

 教団員は司教のその言葉を聞き、逃げて行く。この場にいるのはサザンと司教の二人だけとなった。

「さて、祝福の正体を知られてしまった以上はここから生きて出すわけには行かないのだ」

 司教はサザンに向かって魔法を放つ。だがそれらは全くサザンに有効打を与えられない。

「……祝福を無効化する時点で分かっていたが、仕方が無い」

「何が祝福だ。ただの状態異常魔法じゃないか」

「それでも強力なものであれば祝福だと騙すことが出来るのだよ。馬鹿な者どもはそれを恐れている。滑稽なものだ。魔法無効の道具なりを利用すれば防げるものを、祝福だと信じ切っているから試そうともしない」

「だから俺がその真実を皆に伝えればあなたたちは終わりだ」

「残念だが、それは無理な話だ」

 司教はそう言うと、再び現れた教団員から小瓶を受け取る。

「これを使えば、たとえ貴様でも生きてここから出ることは不可能だ」

 そう言って司教は小瓶の中身を一息で飲み干したのだった。
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