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第二章
婚約破棄
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第二章 婚約破棄
「そろそろ、西の館へ伺いましょう」
ばあやが言った。
「西では、皆さまがお待ちですわ」
今日は、ベアトリックスの誕生日なのだ。
ベアトリックスの頭に銀の髪飾りをつけたばあやは
「もっとも、パーティーの主役は、少し遅れて行かれるものですけれど。お嬢様も今日で十九歳ですわね。この美しさ、王宮のプリンスたちこそ、あなたさまにふさわしいと思いますのに。悔しいですわ。待ち人たちを少し焦らしてやりましょうか」
と言って、ベアトリックスを元気づけようとしたのか、急に笑顔になった。どこか寂しさのうかがえるような笑顔だった。
「パーティーなんて、豪勢なものではないわ。両親と義理の弟と一緒に、いつもより少しだけ贅沢な食事をするだけですもの。オーケストラを招いたり、ボールルームでダンスを踊ったり、なんて貴族のパーティーを今の我が家が出来るわけないもの」
と、ベアトリックスが言うと
「お父上のミッドフォード伯爵が生きておいででしたら、王室の方々だってお呼びになれたのに。殿下と呼ばれる方々が、お嬢さまをお妃にと望まれることだって充分有り得ましたわ」
そう言うと、はーっと大きなため息をつき
「借金に追われている子爵にしてみれば、気前のいい平民の大金持ちを見逃す手はないってことでしょうね。おいたわしいですわ。お嬢さま」と言った。
「その平民親子が来ているんでしょう。エドワード・アーヴィンはもうわたくしの婚約者ですものね。子爵が招待しないわけがないわ」
ベアトリックスはため息をついた。
鏡の向こうには、憂い顔の若く美しい女性がいた。アーヴィン商会から派遣された仕立て屋が作ったシルクのドレスに身を包み、同じくアーヴィン商会から贈られた高価な装飾品を身に着けた自分の姿に彼女は見入った。
「上質のシルクは光沢だけじゃなく、歩いた時に布が擦れる音すら違うのね」
もう少し鏡に近づこうと体を動かしたとき、ベアトリックスは、我知らず、そんな言葉を口にしていた。
「絹擦れの音、わたくしも久しぶりに聞きました。新しい物は特に音が違いますわね」
と、ばあやが言った。
つややかな栗色の髪に、アーモンド型の目、鳶色の瞳、薔薇の花びらのような唇・・・かつて、「社交界の華」と讃えられた母クローディアの面差しそのままだと周囲の人たちが言う今の自分を、彼女はじっと見つめた。
(確かに、わたくし、悪くはないわ。いいえ、悪くないどころか、自分を美しいと思っていても、決して自惚れ屋ではないはずよ)
だが、どれほど着飾っても、貴族の家柄にしか興味のないエドワード・アーヴィンは、きっと、今日も、自分にお世辞の一つも言わず、黙って座り込んでいることだろう。
西の館へ行くのがいやだ、とベアトリックスは思った。
「花の盛りの美しさ、って今のあなた様のことを申すのでしょう。嘆かわしいことです。あのような商家の息子ごときにお嬢様が娶られることが決まるなど」
「いいのよ、ばあや。ある日、空からお金が降ってくる、なんてこと起こり得ないんですもの。この家が借金取りに追われずに、平和に暮らしていくためには、ああいう人たちの支援を受けなければならないの。嘆いても仕方ないわ」
ベアトリックスは、庭には出ず、館内の渡り廊下を通って、西の館へと行った。第一客室は、あの親子のためには使わない。もう一つの狭い部屋、本来なら大広間でもてなすお客の待合室に使う「取次の間」が、彼らのための「客間」だ。先日の晩餐のさいもゲスト用のダイニングルームへ案内せず、ここに食事を運んだ。
その部屋のドアを、ばあやが開けた。ベアトリックスは続いて中へ入った。
赤ら顔の商人が、深く頭を下げた。
子爵が言った。
「婚約は解消だ」
(え?)
(なんですって?)
「先日のことでございますが、お茶会で、王女様がせがれを」
商人が言った。
「パトリシアさまが?」
母とばあやが目を丸くしていた。
「あのお茶会で?」
ベアトリックスの義父として、ブライトストーン子爵が「貴族婚姻法」に則り、婚約を国王陛下に報告すると、第三王女パトリシアが「ベアトリックスの婚約者がどんな方か見たいわ」と仰せになった。そして、非公式にお祝いのお茶会を開いてくださったことがあった。
社交界にほとんど顔を出さない没落一家を、王女殿下が招いて下さったという栄誉に、ブライトストーン子爵は喜んで、すぐに出席の返事をした。赤ら顔の商人は、子爵にも増して、王女からの招待に狂喜乱舞していたらしいと、ベアトリックスは母から聞いた。
近衛隊長ミッドフォード伯爵の遺児、レディ・ベアトリックスの婚約者として、エドワード・アーヴィンは王女の客人となれた。非公式ではあるが、王宮に招かれたのだ。それは平民の商人の息子にとって大変な名誉だ。アーヴィン親子は、金の力でまた一つ夢を叶えた、ということなのだろう。
こうして、ベアトリックスとエドワード・アーヴィンは初めて二人で人前に出た。
あの日、金色の髪を撫でつけてオールバックにしたエドワード・アーヴィンは、普段にもまして美男に見えた。長身で彫刻のようなエドワードの姿に、貴族令嬢たちからため息がもれた。
「素敵な方ね。あなた、幸運よ」
そう言いつつも、「お相手はしょせん成金ですけれど」と、扇で口元を隠してそっとベアトリックスに言ったマーゴット・ウッドブリッジ伯爵令嬢の冷たい目を、彼女は思い出していた。
(そうだわ、あのとき)
「そんなこと、おっしゃるものではなくってよ。マーゴ」と間に入って下さったのがパトリシア王女だった。
「時代は変わっていくものよ、素敵なカップルじゃないの、ね、あなた、エドワードとおっしゃったかしら?」
と言われたあと、とろんと蕩けたようなまなざしでじっと、王女はエドワードを見ておられた。
(あのとき、ひと目惚れされたのね。きっと)
第三王女パトリシアは、これまでにも何度かベアトリックスを私的な催しに呼んで下さっていたのだが、子爵家の経済状況が思わしくなくなってから、彼女はずっと欠席していた。毎回、同じドレスで参加もできまい、というのが理由だったのだ。
パトリシア王女は、王家の末っ子である。
国王陛下のお子は五人。上に兄君の王太子殿下と、その弟君。そして王女が三人続けてお生まれになった。
王位継承に絡むことは、この先まずあり得ないであろう三番目の姫、という立場のため、ご兄弟たちより気楽に過ごしておられたパトリシア王女は、友人の貴族令嬢たちを招いて、たあいないお喋りをするのがお好きだった。
ベアトリックスはあの日、アーヴィン商会のお陰で久しぶりに新調したドレスを着て、お茶会へと行ったのだ。イヤリングは代々伯爵夫人が受け継ぐ、というサファイアで造られたものを、母親から借りた。叔父も、このイヤリングに対しては相続を主張したりはぜず、残しておいてくれたのだ。母が嫁いだ時に持ってきた宝飾品は売り払ってしまって手元にはないので、ネックレスの代わりに青いベルベットのリボンを、チョーカーとして首に巻いた。
アーヴィン商会が、当日のためにと、高価な宝石を使ったアクセサリーを数品届けてくれたのだが、ベアトリックスは、それを身に着ける気持ちにはなれなかったのだ。
だが、エンゲージリングだけは、つけないわけにはいかず、アーヴィン家から贈られたものを嵌めた。あの夜、エドワード・アーヴィンが箱を開いて見せてくれた大粒のダイヤを使ったものだった。いったい何カラットあるのだろうか。自分の薬指で輝きを放つその石を見ると、重いため息が出た。自分がもっと単純な女ならよかったのに、と彼女は思った。
(ダイヤモンドに目が眩んで、貧乏な恋人を捨て、大金持ちの求婚者を選んだ女の物語が、確か、極東にあったわね)
ベアトリックスは、昔、屋敷にいた東洋人の使用人を思い出していた。
(あの者が教えてくれた話だったのかしら?お茶を入れるのが上手だと、お母さまが気に入っておられたわ)
かつて、お茶を入れるためだけの人間を雇っていたことがあったとは、今ではとうてい考えられない。彼女はまだ子爵家が華やかだった頃に思いを巡らし、またも涙ぐんだのだった。
エドワード・アーヴィンと二人で人前に出る、ということは、ベアトリックスにとっては、成金に身売りをします、と宣言するようなもの。非公式な場とは言え、婚約者として彼を紹介するなんて、考えただけで気分が重かったが、恐れ多くも王女殿下が自分の婚約を祝うために開いてくださった催しに、欠席は出来なかった。
エドワードはそつなくベアトリックスをエスコートしてくれた。
「だめだわ。このキュウリサンド。美味しすぎるわ。太ってしまうわ、わたくし」
パトリシア王女は、あの時、そうおっしゃった。
「あらあ、姫さま、キュウリを挟んだパンでは太りませんわ」と言ったマーゴに、王女が
「キュウリサンドで終わるわけはないわ。この後に木苺のパイもチョコレートケーキも出るんですもの。お茶会が終わる頃には、ドレスがきつくなっているかも。新しいのを作らなくっちゃ。アーヴィン商会の被服部門から腕利きの仕立て職人を呼んでちょうだい」とおっしゃった。
その言葉を受けて
「まさか、そんなに急にお太りにはなられませんわ」
マーゴが言うと、王女は
「あなた方が帰る前に、わたくし、雪だるまみたいになったりして」と顔をしかめて言われ、一同が笑った。
その時、ベアトリックスは、顔を少し振っただけなのに、イヤリングが耳たぶから、はずれた。
鎖骨の上あたりに落ちたイヤリングを、そっとエドワードが取ろうとした時、ベアトリックスは彼を避けるかのように後ろに体を引いた。
そして、自分でイヤリングを取ろうとした。
その時、エドワードの手と自分の手が触れてしまい、咄嗟にベアトリックスは手を引いた。
イヤリングが絨毯に落ちた。
落ちた物を拾おうともせず、ベアトリックスは赤い絨毯の上に光るイヤリングを見ていた。
涙型の青いサファイアの周辺をダイヤモンドが取り巻いたものだった。
伯爵家の「過去の栄光」を象徴する装飾品が、床に落ちた。没落した自分たち家族の姿を見るようだ。ベアトリックスはそんなふうに思っていたのだ。
「どうぞ」
エドワードがイヤリングを拾い上げ、ベアトリックスに差し出した。
「床に落ちたものを、もう一度、耳につけるのは嫌ですか?」
エドワードが問うた。
「失くすといけないわ。これにお入れなさいな」
王女が小さな絹の巾着袋のようなものを手渡してくれた。
傍らの侍女が、用意していたもののようだった。
「アクセサリーを落とす人は多いのよ。お化粧室に指輪を忘れる人が多くて、次がイヤリングだそうよ。わたくしも、女官のメアリーにお気をつけくださいってよく言われるの。しょっちゅう落とし物をするから探すのが大変みたい」と、王女が笑いながら言われると
「やっぱり耳に穴を空けないと駄目ですわね」と令嬢の一人が王女に同意した。
「クリップ式のイヤリングは落ちやすいもの。笑って少し体が揺れただけで、これなんだから。ベアトリックスってば、指にも大きなダイヤが光っているわね。あなた、どっちも失くしちゃだめよ」
向かい側に座っていた侯爵令嬢のエミリアが言った。
「ねえ、このイヤリングも彼からの贈り物なの?大きなサファイア。あなたの青いドレスにぴったりよ」
「それより、左手薬指のダイヤを見せて。すごく大きいわ。あなたの華奢な指には重すぎるかも」と言って、ベアトリックスの薬指から指輪を抜こうとするマーゴと、その親友のタニヤ。
「あら、クラシカルなサファイアのほうがいいわ。ダイヤのエンゲージリングだけじゃなく、サファイアまで買ってもらえて、ほんと羨ましいわ?ベアトリックス、彼におねだりしたの?」
と、大きな目をさらに大きく開けてたずねるエミリアに、「いいえ」と、ベアトリックスがこたえようとした時
「いいえ。イヤリングはミッドフォード家のものです。彼女の家には、由緒ある宝飾品が数多くありますから」
と、エドワードがこたえた。
「じゃあ、ミッドフォード伯爵家の宝飾品は、彼女が全て受け継いだということね。あなた方の結婚は、世間が言うようなお金目当てのものじゃない、ってことでよろしくて?」
エミリアが、興味津々と言った面持ちでたずねたのをベアトリックスは思い出した。
「そうですよ。我々には愛があります。身分の差を楽々と超えるほどの」
エドワードはそう言うと、ただ唖然としているベアトリックスに「レディ・ベアトリックス。これからは、新しいデザインの物をたくさん贈らせてください」と、優しげな笑顔を向けた。そして、イヤリングを王女の侍女からいただいた小さな袋にしまうと
「殿下、お気遣いを賜り、有難う存じます」と言って、それを、自分の胸のポケットに入れた。
王女の前で、ポケットに手を入れる行為が礼儀にかなっていたかどうかはわからない。だが、そんなエドワードに、王女は「いいのよ。気にしないで」と言われると、しばらくじっと彼を見つめておられた。それから、「エドワード、わたくしたち、前にどこかでお会いしたことはない?」と尋ねられた。彼が「わたしが王宮に上るのは、本日が初めてです。殿下」と言葉を返すと、王女は再び、しげしげとエドワードを見て「あなた、綺麗な手をしてらっしゃるわね」とおっしゃった。そして、「このサファイア、エドワードの瞳の色と同じよね」とも言われ、「ドレスも、イヤリングも、チョーカーまで彼の瞳の色に合わせるなんて。ベアトリックスも、エドワードがほんとうに好きなのね。身分の差を超える愛、って素敵だこと」と、つぶやいておられたのだった。
あのときの一連の出来事を、思い返すベアトリックスの記憶に割り込むように、商人の大きな声が聞こえた。
「こちらの令嬢と伺ったお茶会で、王女がエドワードにひと目惚れされて、結婚を望んでおられると聞きまして。あまりにも、身分違いで恐れ多い話なので、これはご辞退させていただくしかないと思いましたが、王女の熱意がとにかくお強くて」
商人は、汗を拭きながら言うと
「こういう時、立場が下の者は断りづらいんですよ。当方としては、王室とご縁を結ぼうなんて気持ちは全くなく、こちらのご令嬢との婚約を喜んでおりましたのに」
と困惑を装いつつも、顔は気色満面で
「しかし、まあ、王室からのお話となれば、もったいなくもありがたいこととお受けするべきだということになりまして。これ以上、名誉なことはないわけですし」
ベアトリックスは、扇を広げた。
口元を隠してから、フッと笑う。
王家と親戚になれる、それも傍系の子女ではなく現国王の直系の王女が彼の息子の結婚相手だ。
得意満面の商人を見ていると、面白くてならない。
商売上では抜け目のない、成功者のアーヴィン商会の社長が、「王家の家柄」「血筋」と聞いただけで、ろくに考えることもせず飛びついたのを、ベアトリックスは「身の程知らず」と、蔑みながら見ていた。
(王家とのお付き合いなんて、上流の貴族でさえもたいへんなのに)
だが、有頂天で、息子の新たな縁を喜んでいる商人の気持ちに、わざわざ水を差すことはなかろう。
「気まぐれな王女さまと、娘に甘い国王陛下。それに、王室ご一家には、古い価値観のお取り巻きがたくさんおりますの。そうした貴族たちとのお付き合いは大変ですわ。愛息がご苦労されますよ」などと教えてあげる義理もない。よけいなおせっかいというものだ。
アーヴィン商会が、王室御用達になれば、商売上も大きく躍進を遂げるだろうし、あの親子にとっては成り上がり人生大大大成功である。
貴族との縁を得ようと必死だった成金が、困窮する子爵家の娘、ベアトリックスを迎えようと画策し、それが叶うと大喜びしていた。それが今や王室と縁続きになろうとしている。ついこの間まで、大金を積んで得ようとしていた子爵家の娘は、もはや用済み、息子は王女に望まれている。その高揚感でデニス・アーヴィンの瞳が輝いているようにベアトリックスには見えた。
(今日、息子は来てないんだわ・・・自分の口から婚約解消を告げる勇気もないのかしら。それとも、今頃、王女さまと会っているのかしら。まあ、わたくしにはどうでもいいことだけど)
別に、あの男と会いたかったわけではないし、ましてや結婚したかったわけなどない。破談を告げられてむしろホッとしているのだが、婚約を解消したとなれば、すでに義父が受け取ってしまった「支度金」はどうなるのだろう。返せ、と言われるのではないだろうか。
ちらと、義父を見ると、こっちが拍子抜けするほどにこにこしている。この男が歯を見せて笑うのを見るのは、五歳の時、母に
「今日から、この方があなたの新しいお父さまよ」
と言われて顔を合わせた時以来である。
あの時も、どこか嘘くさいと言うか、わざとらしい愛想笑いを浮かべていた義父。今も幼いベアトリックスに警戒心を抱かせたあの時と、同じ雰囲気を漂わせている。
商人は、赤ら顔をほころばせながら
「こちらの一方的な都合での婚約破棄ですので、お渡ししたお支度金のご返還は不要ですし、今回の件で令嬢にも失礼なことをしたわけなので、追加で慰謝料も受け取っていただきたいと・・・」
支度金を返さなくていい。
婚約解消を告げられたベアトリックスの心の傷を慮って慰謝料を上積みしてくれる、とのこと。
「金持ちケンカせず」という言葉がある。富める者は、他者の恨みを買ってはならない。つまらないことで遺恨を持たれ、刺されでもしたら命が危ないし、言いがかりとしか思えないような訴訟沙汰に巻き込まれるのも時間の無駄だ。だからさっさと金でカタをつける。これが、一代でアーヴィン商会を立ち上げ、成功に導いた男の処世術なのだろう。
今回こちらには、破談による「心の傷」などありはしないので、慰謝料は本来受け取るべきではなかろうが、くれるというものは有り難く貰っておこう。没落貴族の処世は、まず、よけいなプライドを捨てるところから始めなくては、とベアトリックスは思った。
(これ、最高じゃなくって?)
ベアトリックスは、傍らのばあやにウインクして見せた。
意に添わぬ結婚の約束から逃れることが出来たばかりか、追加の慰謝料まで手に入れたのだ。
(王女様、ありがとうございます。成金の息子と末永くお幸せに。前近衛隊長ミッドフォード伯爵の長女ベアトリックスは、王家、そして、王女パトリシア殿下に終生の忠誠と敬愛を誓います)
ホーッホホホ
お客が帰ったあとの客間にベアトリックスの母の高笑いが響く。
「あなたの婚約はこれにて解消ね」
「嬉しそうにおっしゃるのね。お母さま」
「してやったり、よ。支度金の名目で大金を受け取って我が子爵家の借金は帳消し、さらに多額の慰謝料まで・・・そのうえ、あの成金一門とも縁続きにならずにすんだのですもの。大勝利、ってこういうことを言うのね。今日のことは、あなたにとって最高の誕生日プレゼントになったんじゃなくって?」
実際、母の言うとおりなのだが、ベアトリックスは敢えて
「娘の婚約解消を喜ぶ母親がどこにいまして?それも相手方からの一方的な婚約破棄。お母さまは、我が子が侮辱されたとは思われませんの?」
とたずねた。
「あら、よく言うわよ。ベアティ」
クローディアは、小さな子供をあやすかのような優しげな眼差しで娘を見て
「今回のことで、一番得をしたのは、あなたよ。支度金と慰謝料の両方が貰えたうえに、あなたの名誉も守られたわ。王室のわがまま姫の横恋慕が婚約解消の理由なんですもの。王女さまが相手じゃ、どうしようもないって、皆さん、ちゃんとわかってるわ。支度金だけでも落ちぶれた我が家を立て直すには充分すぎる額なのに、慰謝料を上積みだなんて。アーヴィンは気前がいいから、札束を見るのが今からほんとうに楽しみ」
と、うふっと笑った。
「お母さまってば。わたくしの慰謝料よ。子爵には渡さないわ」
と、ベアトリックスが言うも母はひるまない。
「結婚は家と家との結びつきですもの。支度金も慰謝料も、あちらの家長デニス・アーヴィン氏から子爵家当主パーシヴァル・ロデリック・ブライトストーン卿へと支払われるものよ」と、しれっと言った。
「じゃあ、結局、得をしたのは、わたくしじゃなくて、この家の当主、つまりお母さまの再婚相手だけってことなの?納得いかない話だわ。本来、借金は子爵自身が返すべきものでしょう。それを、わたくしを成金に売って、支度金を手に入れ、それで返済するなんて・・・今回の縁談も、わたくしの父親づらして急いでことを運ぼうとしていたわ。わたくし、ほんとうに子爵に対して怒っていますのよ。それに、あの商人親子にも」
言い終わらないうちに母が口を挟む。
「美男だったわよね、エドワード・アーヴィン。あなた、ひょっとして、破談を残念に思っていない?」
「冗談はおよしになって。お母さま、ご自分が顔で相手を選んだばかりに借金苦に陥ったのに、学習もなく、見た目しか取り柄のない男を褒め」
ないで、と言おうとしたのに、これも言い終わる前に、母が口を挟んできた。
「あなたは嫌うけれど、あれでも、子爵は子爵なりにあなたの幸福を考えたのよ。親子ほど年の離れた男に嫁がせることだけはしたくないと言ってね。始末の悪いことに、老いぼれほど若い娘が好きなものだから。ベアティ、あなたに結婚を申し込んできた男たちのリストを全部見せたら、あなたの怒りの炎でこの屋敷が全焼したかもしれなくてよ」
クローディアはそう言うと笑った。
「お母さまはそうおっしゃるけど、年の離れた大人の男性のほうが、包容力があって優しいかもしれないわ。若くて、見た目のいい男なんて、きっと誘惑に弱くて浮気三昧よ。あのエドワードだって絶対そうよ。お金もあるし、口説かなくても女のほうから寄ってくるじゃない。今回だって、王女さまに惚れられて。わたくしは、あんなに縦に長いだけの男なんて、頼りなくて嫌だわ。男なら、もっと鍛えて筋肉つけなくちゃ」
「惚れる、なんて下品な言葉、どこで覚えたの?好意を寄せられる、って言い直しなさいな」
「いいじゃないの。異性への劣情を美しい言葉に言い換えることに、意味なんてあるかしら」
「あなた、くやしいのね?ベアティ」
「くやしくはないわ。彼らが欲しかったのは家柄でしょう。だから王家に転んだのだし」
それに・・・、とベアトリックスは言葉をつづけて
「子爵だって、支度金を返さなくてよい、さらに慰謝料を積む、と言われて上機嫌だったわ。あからさますぎて、わたくし、あきれましたわ。それなのに、おかあさまは、いつも子爵を庇われるのね」
「子爵、じゃなくて、お父さまとお呼びなさいな。そろそろ大人になって欲しいわ、ベアティ。確かに、あの人が島を買ったことで、結果的には全財産を失い、さらに借金まで背負う羽目になったけれど、詐欺師に騙されるきっかけになったのだって、わたくしとあなた、それに、アレックス小子爵の将来のために少しでも多くの富を得ねば、と考えたためだったんだから」
「妻子のことを思えばこそ、慎重に行動するのが貴族の当主と言うものですわ。叔父さまの情けでここにいられるけれど、本来なら、亡きお父さまの暮らした家に子爵が住むなんて、おかしな話だと思いますわ。王都の子爵邸が本来の住まいなんじゃなくて?そりゃ、ミッドフォード伯爵邸のほうが広くて豪華かもしれないけど。そういう見栄っ張りな性格が、怪しい詐欺師の話に飛びつくことと、その結果、借金を背負い込むことにつながったんじゃないかしら」
「運よく成功する人もいれば、資産を失う人もいる。わたくしは、よかれと思って間違えた、あの人を責める気にはなれないわ」
母親に言われて、ベアトリックスは
(お母さまは子爵に夢中。匙を投げるしかないわ)
と、ため息をついた。
「子爵は、もともと思慮が浅い方なのだと思いますわ。わたくしの嫁ぎ先を選ぶにあたって、エドワード・アーヴィンを連れてきたことが、そもそも・・・若くて見映えのいい男なら、出自が平民の礼儀知らずでも、わたくしが喜ぶとでも思ったんでしょうか」
「確かに、パーシーは、美男子を連れてきてくれたわね。あなたとエドワード・アーヴィン、二人が並ぶと本当にお似合いだったわ」
母クローディアはそう言うと
「見た目は大事よ。男も女も」と笑った。
「お金も入ったことだし、今後のあなたの花婿候補リストから、平民は排除できるわね。由緒ある家柄のご子息と縁づいてもらって、この子爵家を盛り立てていただきたいものだわ」
そう言って、オーッホホホと、さらなる高笑いを残して、母は部屋をあとにした。
「そろそろ、西の館へ伺いましょう」
ばあやが言った。
「西では、皆さまがお待ちですわ」
今日は、ベアトリックスの誕生日なのだ。
ベアトリックスの頭に銀の髪飾りをつけたばあやは
「もっとも、パーティーの主役は、少し遅れて行かれるものですけれど。お嬢様も今日で十九歳ですわね。この美しさ、王宮のプリンスたちこそ、あなたさまにふさわしいと思いますのに。悔しいですわ。待ち人たちを少し焦らしてやりましょうか」
と言って、ベアトリックスを元気づけようとしたのか、急に笑顔になった。どこか寂しさのうかがえるような笑顔だった。
「パーティーなんて、豪勢なものではないわ。両親と義理の弟と一緒に、いつもより少しだけ贅沢な食事をするだけですもの。オーケストラを招いたり、ボールルームでダンスを踊ったり、なんて貴族のパーティーを今の我が家が出来るわけないもの」
と、ベアトリックスが言うと
「お父上のミッドフォード伯爵が生きておいででしたら、王室の方々だってお呼びになれたのに。殿下と呼ばれる方々が、お嬢さまをお妃にと望まれることだって充分有り得ましたわ」
そう言うと、はーっと大きなため息をつき
「借金に追われている子爵にしてみれば、気前のいい平民の大金持ちを見逃す手はないってことでしょうね。おいたわしいですわ。お嬢さま」と言った。
「その平民親子が来ているんでしょう。エドワード・アーヴィンはもうわたくしの婚約者ですものね。子爵が招待しないわけがないわ」
ベアトリックスはため息をついた。
鏡の向こうには、憂い顔の若く美しい女性がいた。アーヴィン商会から派遣された仕立て屋が作ったシルクのドレスに身を包み、同じくアーヴィン商会から贈られた高価な装飾品を身に着けた自分の姿に彼女は見入った。
「上質のシルクは光沢だけじゃなく、歩いた時に布が擦れる音すら違うのね」
もう少し鏡に近づこうと体を動かしたとき、ベアトリックスは、我知らず、そんな言葉を口にしていた。
「絹擦れの音、わたくしも久しぶりに聞きました。新しい物は特に音が違いますわね」
と、ばあやが言った。
つややかな栗色の髪に、アーモンド型の目、鳶色の瞳、薔薇の花びらのような唇・・・かつて、「社交界の華」と讃えられた母クローディアの面差しそのままだと周囲の人たちが言う今の自分を、彼女はじっと見つめた。
(確かに、わたくし、悪くはないわ。いいえ、悪くないどころか、自分を美しいと思っていても、決して自惚れ屋ではないはずよ)
だが、どれほど着飾っても、貴族の家柄にしか興味のないエドワード・アーヴィンは、きっと、今日も、自分にお世辞の一つも言わず、黙って座り込んでいることだろう。
西の館へ行くのがいやだ、とベアトリックスは思った。
「花の盛りの美しさ、って今のあなた様のことを申すのでしょう。嘆かわしいことです。あのような商家の息子ごときにお嬢様が娶られることが決まるなど」
「いいのよ、ばあや。ある日、空からお金が降ってくる、なんてこと起こり得ないんですもの。この家が借金取りに追われずに、平和に暮らしていくためには、ああいう人たちの支援を受けなければならないの。嘆いても仕方ないわ」
ベアトリックスは、庭には出ず、館内の渡り廊下を通って、西の館へと行った。第一客室は、あの親子のためには使わない。もう一つの狭い部屋、本来なら大広間でもてなすお客の待合室に使う「取次の間」が、彼らのための「客間」だ。先日の晩餐のさいもゲスト用のダイニングルームへ案内せず、ここに食事を運んだ。
その部屋のドアを、ばあやが開けた。ベアトリックスは続いて中へ入った。
赤ら顔の商人が、深く頭を下げた。
子爵が言った。
「婚約は解消だ」
(え?)
(なんですって?)
「先日のことでございますが、お茶会で、王女様がせがれを」
商人が言った。
「パトリシアさまが?」
母とばあやが目を丸くしていた。
「あのお茶会で?」
ベアトリックスの義父として、ブライトストーン子爵が「貴族婚姻法」に則り、婚約を国王陛下に報告すると、第三王女パトリシアが「ベアトリックスの婚約者がどんな方か見たいわ」と仰せになった。そして、非公式にお祝いのお茶会を開いてくださったことがあった。
社交界にほとんど顔を出さない没落一家を、王女殿下が招いて下さったという栄誉に、ブライトストーン子爵は喜んで、すぐに出席の返事をした。赤ら顔の商人は、子爵にも増して、王女からの招待に狂喜乱舞していたらしいと、ベアトリックスは母から聞いた。
近衛隊長ミッドフォード伯爵の遺児、レディ・ベアトリックスの婚約者として、エドワード・アーヴィンは王女の客人となれた。非公式ではあるが、王宮に招かれたのだ。それは平民の商人の息子にとって大変な名誉だ。アーヴィン親子は、金の力でまた一つ夢を叶えた、ということなのだろう。
こうして、ベアトリックスとエドワード・アーヴィンは初めて二人で人前に出た。
あの日、金色の髪を撫でつけてオールバックにしたエドワード・アーヴィンは、普段にもまして美男に見えた。長身で彫刻のようなエドワードの姿に、貴族令嬢たちからため息がもれた。
「素敵な方ね。あなた、幸運よ」
そう言いつつも、「お相手はしょせん成金ですけれど」と、扇で口元を隠してそっとベアトリックスに言ったマーゴット・ウッドブリッジ伯爵令嬢の冷たい目を、彼女は思い出していた。
(そうだわ、あのとき)
「そんなこと、おっしゃるものではなくってよ。マーゴ」と間に入って下さったのがパトリシア王女だった。
「時代は変わっていくものよ、素敵なカップルじゃないの、ね、あなた、エドワードとおっしゃったかしら?」
と言われたあと、とろんと蕩けたようなまなざしでじっと、王女はエドワードを見ておられた。
(あのとき、ひと目惚れされたのね。きっと)
第三王女パトリシアは、これまでにも何度かベアトリックスを私的な催しに呼んで下さっていたのだが、子爵家の経済状況が思わしくなくなってから、彼女はずっと欠席していた。毎回、同じドレスで参加もできまい、というのが理由だったのだ。
パトリシア王女は、王家の末っ子である。
国王陛下のお子は五人。上に兄君の王太子殿下と、その弟君。そして王女が三人続けてお生まれになった。
王位継承に絡むことは、この先まずあり得ないであろう三番目の姫、という立場のため、ご兄弟たちより気楽に過ごしておられたパトリシア王女は、友人の貴族令嬢たちを招いて、たあいないお喋りをするのがお好きだった。
ベアトリックスはあの日、アーヴィン商会のお陰で久しぶりに新調したドレスを着て、お茶会へと行ったのだ。イヤリングは代々伯爵夫人が受け継ぐ、というサファイアで造られたものを、母親から借りた。叔父も、このイヤリングに対しては相続を主張したりはぜず、残しておいてくれたのだ。母が嫁いだ時に持ってきた宝飾品は売り払ってしまって手元にはないので、ネックレスの代わりに青いベルベットのリボンを、チョーカーとして首に巻いた。
アーヴィン商会が、当日のためにと、高価な宝石を使ったアクセサリーを数品届けてくれたのだが、ベアトリックスは、それを身に着ける気持ちにはなれなかったのだ。
だが、エンゲージリングだけは、つけないわけにはいかず、アーヴィン家から贈られたものを嵌めた。あの夜、エドワード・アーヴィンが箱を開いて見せてくれた大粒のダイヤを使ったものだった。いったい何カラットあるのだろうか。自分の薬指で輝きを放つその石を見ると、重いため息が出た。自分がもっと単純な女ならよかったのに、と彼女は思った。
(ダイヤモンドに目が眩んで、貧乏な恋人を捨て、大金持ちの求婚者を選んだ女の物語が、確か、極東にあったわね)
ベアトリックスは、昔、屋敷にいた東洋人の使用人を思い出していた。
(あの者が教えてくれた話だったのかしら?お茶を入れるのが上手だと、お母さまが気に入っておられたわ)
かつて、お茶を入れるためだけの人間を雇っていたことがあったとは、今ではとうてい考えられない。彼女はまだ子爵家が華やかだった頃に思いを巡らし、またも涙ぐんだのだった。
エドワード・アーヴィンと二人で人前に出る、ということは、ベアトリックスにとっては、成金に身売りをします、と宣言するようなもの。非公式な場とは言え、婚約者として彼を紹介するなんて、考えただけで気分が重かったが、恐れ多くも王女殿下が自分の婚約を祝うために開いてくださった催しに、欠席は出来なかった。
エドワードはそつなくベアトリックスをエスコートしてくれた。
「だめだわ。このキュウリサンド。美味しすぎるわ。太ってしまうわ、わたくし」
パトリシア王女は、あの時、そうおっしゃった。
「あらあ、姫さま、キュウリを挟んだパンでは太りませんわ」と言ったマーゴに、王女が
「キュウリサンドで終わるわけはないわ。この後に木苺のパイもチョコレートケーキも出るんですもの。お茶会が終わる頃には、ドレスがきつくなっているかも。新しいのを作らなくっちゃ。アーヴィン商会の被服部門から腕利きの仕立て職人を呼んでちょうだい」とおっしゃった。
その言葉を受けて
「まさか、そんなに急にお太りにはなられませんわ」
マーゴが言うと、王女は
「あなた方が帰る前に、わたくし、雪だるまみたいになったりして」と顔をしかめて言われ、一同が笑った。
その時、ベアトリックスは、顔を少し振っただけなのに、イヤリングが耳たぶから、はずれた。
鎖骨の上あたりに落ちたイヤリングを、そっとエドワードが取ろうとした時、ベアトリックスは彼を避けるかのように後ろに体を引いた。
そして、自分でイヤリングを取ろうとした。
その時、エドワードの手と自分の手が触れてしまい、咄嗟にベアトリックスは手を引いた。
イヤリングが絨毯に落ちた。
落ちた物を拾おうともせず、ベアトリックスは赤い絨毯の上に光るイヤリングを見ていた。
涙型の青いサファイアの周辺をダイヤモンドが取り巻いたものだった。
伯爵家の「過去の栄光」を象徴する装飾品が、床に落ちた。没落した自分たち家族の姿を見るようだ。ベアトリックスはそんなふうに思っていたのだ。
「どうぞ」
エドワードがイヤリングを拾い上げ、ベアトリックスに差し出した。
「床に落ちたものを、もう一度、耳につけるのは嫌ですか?」
エドワードが問うた。
「失くすといけないわ。これにお入れなさいな」
王女が小さな絹の巾着袋のようなものを手渡してくれた。
傍らの侍女が、用意していたもののようだった。
「アクセサリーを落とす人は多いのよ。お化粧室に指輪を忘れる人が多くて、次がイヤリングだそうよ。わたくしも、女官のメアリーにお気をつけくださいってよく言われるの。しょっちゅう落とし物をするから探すのが大変みたい」と、王女が笑いながら言われると
「やっぱり耳に穴を空けないと駄目ですわね」と令嬢の一人が王女に同意した。
「クリップ式のイヤリングは落ちやすいもの。笑って少し体が揺れただけで、これなんだから。ベアトリックスってば、指にも大きなダイヤが光っているわね。あなた、どっちも失くしちゃだめよ」
向かい側に座っていた侯爵令嬢のエミリアが言った。
「ねえ、このイヤリングも彼からの贈り物なの?大きなサファイア。あなたの青いドレスにぴったりよ」
「それより、左手薬指のダイヤを見せて。すごく大きいわ。あなたの華奢な指には重すぎるかも」と言って、ベアトリックスの薬指から指輪を抜こうとするマーゴと、その親友のタニヤ。
「あら、クラシカルなサファイアのほうがいいわ。ダイヤのエンゲージリングだけじゃなく、サファイアまで買ってもらえて、ほんと羨ましいわ?ベアトリックス、彼におねだりしたの?」
と、大きな目をさらに大きく開けてたずねるエミリアに、「いいえ」と、ベアトリックスがこたえようとした時
「いいえ。イヤリングはミッドフォード家のものです。彼女の家には、由緒ある宝飾品が数多くありますから」
と、エドワードがこたえた。
「じゃあ、ミッドフォード伯爵家の宝飾品は、彼女が全て受け継いだということね。あなた方の結婚は、世間が言うようなお金目当てのものじゃない、ってことでよろしくて?」
エミリアが、興味津々と言った面持ちでたずねたのをベアトリックスは思い出した。
「そうですよ。我々には愛があります。身分の差を楽々と超えるほどの」
エドワードはそう言うと、ただ唖然としているベアトリックスに「レディ・ベアトリックス。これからは、新しいデザインの物をたくさん贈らせてください」と、優しげな笑顔を向けた。そして、イヤリングを王女の侍女からいただいた小さな袋にしまうと
「殿下、お気遣いを賜り、有難う存じます」と言って、それを、自分の胸のポケットに入れた。
王女の前で、ポケットに手を入れる行為が礼儀にかなっていたかどうかはわからない。だが、そんなエドワードに、王女は「いいのよ。気にしないで」と言われると、しばらくじっと彼を見つめておられた。それから、「エドワード、わたくしたち、前にどこかでお会いしたことはない?」と尋ねられた。彼が「わたしが王宮に上るのは、本日が初めてです。殿下」と言葉を返すと、王女は再び、しげしげとエドワードを見て「あなた、綺麗な手をしてらっしゃるわね」とおっしゃった。そして、「このサファイア、エドワードの瞳の色と同じよね」とも言われ、「ドレスも、イヤリングも、チョーカーまで彼の瞳の色に合わせるなんて。ベアトリックスも、エドワードがほんとうに好きなのね。身分の差を超える愛、って素敵だこと」と、つぶやいておられたのだった。
あのときの一連の出来事を、思い返すベアトリックスの記憶に割り込むように、商人の大きな声が聞こえた。
「こちらの令嬢と伺ったお茶会で、王女がエドワードにひと目惚れされて、結婚を望んでおられると聞きまして。あまりにも、身分違いで恐れ多い話なので、これはご辞退させていただくしかないと思いましたが、王女の熱意がとにかくお強くて」
商人は、汗を拭きながら言うと
「こういう時、立場が下の者は断りづらいんですよ。当方としては、王室とご縁を結ぼうなんて気持ちは全くなく、こちらのご令嬢との婚約を喜んでおりましたのに」
と困惑を装いつつも、顔は気色満面で
「しかし、まあ、王室からのお話となれば、もったいなくもありがたいこととお受けするべきだということになりまして。これ以上、名誉なことはないわけですし」
ベアトリックスは、扇を広げた。
口元を隠してから、フッと笑う。
王家と親戚になれる、それも傍系の子女ではなく現国王の直系の王女が彼の息子の結婚相手だ。
得意満面の商人を見ていると、面白くてならない。
商売上では抜け目のない、成功者のアーヴィン商会の社長が、「王家の家柄」「血筋」と聞いただけで、ろくに考えることもせず飛びついたのを、ベアトリックスは「身の程知らず」と、蔑みながら見ていた。
(王家とのお付き合いなんて、上流の貴族でさえもたいへんなのに)
だが、有頂天で、息子の新たな縁を喜んでいる商人の気持ちに、わざわざ水を差すことはなかろう。
「気まぐれな王女さまと、娘に甘い国王陛下。それに、王室ご一家には、古い価値観のお取り巻きがたくさんおりますの。そうした貴族たちとのお付き合いは大変ですわ。愛息がご苦労されますよ」などと教えてあげる義理もない。よけいなおせっかいというものだ。
アーヴィン商会が、王室御用達になれば、商売上も大きく躍進を遂げるだろうし、あの親子にとっては成り上がり人生大大大成功である。
貴族との縁を得ようと必死だった成金が、困窮する子爵家の娘、ベアトリックスを迎えようと画策し、それが叶うと大喜びしていた。それが今や王室と縁続きになろうとしている。ついこの間まで、大金を積んで得ようとしていた子爵家の娘は、もはや用済み、息子は王女に望まれている。その高揚感でデニス・アーヴィンの瞳が輝いているようにベアトリックスには見えた。
(今日、息子は来てないんだわ・・・自分の口から婚約解消を告げる勇気もないのかしら。それとも、今頃、王女さまと会っているのかしら。まあ、わたくしにはどうでもいいことだけど)
別に、あの男と会いたかったわけではないし、ましてや結婚したかったわけなどない。破談を告げられてむしろホッとしているのだが、婚約を解消したとなれば、すでに義父が受け取ってしまった「支度金」はどうなるのだろう。返せ、と言われるのではないだろうか。
ちらと、義父を見ると、こっちが拍子抜けするほどにこにこしている。この男が歯を見せて笑うのを見るのは、五歳の時、母に
「今日から、この方があなたの新しいお父さまよ」
と言われて顔を合わせた時以来である。
あの時も、どこか嘘くさいと言うか、わざとらしい愛想笑いを浮かべていた義父。今も幼いベアトリックスに警戒心を抱かせたあの時と、同じ雰囲気を漂わせている。
商人は、赤ら顔をほころばせながら
「こちらの一方的な都合での婚約破棄ですので、お渡ししたお支度金のご返還は不要ですし、今回の件で令嬢にも失礼なことをしたわけなので、追加で慰謝料も受け取っていただきたいと・・・」
支度金を返さなくていい。
婚約解消を告げられたベアトリックスの心の傷を慮って慰謝料を上積みしてくれる、とのこと。
「金持ちケンカせず」という言葉がある。富める者は、他者の恨みを買ってはならない。つまらないことで遺恨を持たれ、刺されでもしたら命が危ないし、言いがかりとしか思えないような訴訟沙汰に巻き込まれるのも時間の無駄だ。だからさっさと金でカタをつける。これが、一代でアーヴィン商会を立ち上げ、成功に導いた男の処世術なのだろう。
今回こちらには、破談による「心の傷」などありはしないので、慰謝料は本来受け取るべきではなかろうが、くれるというものは有り難く貰っておこう。没落貴族の処世は、まず、よけいなプライドを捨てるところから始めなくては、とベアトリックスは思った。
(これ、最高じゃなくって?)
ベアトリックスは、傍らのばあやにウインクして見せた。
意に添わぬ結婚の約束から逃れることが出来たばかりか、追加の慰謝料まで手に入れたのだ。
(王女様、ありがとうございます。成金の息子と末永くお幸せに。前近衛隊長ミッドフォード伯爵の長女ベアトリックスは、王家、そして、王女パトリシア殿下に終生の忠誠と敬愛を誓います)
ホーッホホホ
お客が帰ったあとの客間にベアトリックスの母の高笑いが響く。
「あなたの婚約はこれにて解消ね」
「嬉しそうにおっしゃるのね。お母さま」
「してやったり、よ。支度金の名目で大金を受け取って我が子爵家の借金は帳消し、さらに多額の慰謝料まで・・・そのうえ、あの成金一門とも縁続きにならずにすんだのですもの。大勝利、ってこういうことを言うのね。今日のことは、あなたにとって最高の誕生日プレゼントになったんじゃなくって?」
実際、母の言うとおりなのだが、ベアトリックスは敢えて
「娘の婚約解消を喜ぶ母親がどこにいまして?それも相手方からの一方的な婚約破棄。お母さまは、我が子が侮辱されたとは思われませんの?」
とたずねた。
「あら、よく言うわよ。ベアティ」
クローディアは、小さな子供をあやすかのような優しげな眼差しで娘を見て
「今回のことで、一番得をしたのは、あなたよ。支度金と慰謝料の両方が貰えたうえに、あなたの名誉も守られたわ。王室のわがまま姫の横恋慕が婚約解消の理由なんですもの。王女さまが相手じゃ、どうしようもないって、皆さん、ちゃんとわかってるわ。支度金だけでも落ちぶれた我が家を立て直すには充分すぎる額なのに、慰謝料を上積みだなんて。アーヴィンは気前がいいから、札束を見るのが今からほんとうに楽しみ」
と、うふっと笑った。
「お母さまってば。わたくしの慰謝料よ。子爵には渡さないわ」
と、ベアトリックスが言うも母はひるまない。
「結婚は家と家との結びつきですもの。支度金も慰謝料も、あちらの家長デニス・アーヴィン氏から子爵家当主パーシヴァル・ロデリック・ブライトストーン卿へと支払われるものよ」と、しれっと言った。
「じゃあ、結局、得をしたのは、わたくしじゃなくて、この家の当主、つまりお母さまの再婚相手だけってことなの?納得いかない話だわ。本来、借金は子爵自身が返すべきものでしょう。それを、わたくしを成金に売って、支度金を手に入れ、それで返済するなんて・・・今回の縁談も、わたくしの父親づらして急いでことを運ぼうとしていたわ。わたくし、ほんとうに子爵に対して怒っていますのよ。それに、あの商人親子にも」
言い終わらないうちに母が口を挟む。
「美男だったわよね、エドワード・アーヴィン。あなた、ひょっとして、破談を残念に思っていない?」
「冗談はおよしになって。お母さま、ご自分が顔で相手を選んだばかりに借金苦に陥ったのに、学習もなく、見た目しか取り柄のない男を褒め」
ないで、と言おうとしたのに、これも言い終わる前に、母が口を挟んできた。
「あなたは嫌うけれど、あれでも、子爵は子爵なりにあなたの幸福を考えたのよ。親子ほど年の離れた男に嫁がせることだけはしたくないと言ってね。始末の悪いことに、老いぼれほど若い娘が好きなものだから。ベアティ、あなたに結婚を申し込んできた男たちのリストを全部見せたら、あなたの怒りの炎でこの屋敷が全焼したかもしれなくてよ」
クローディアはそう言うと笑った。
「お母さまはそうおっしゃるけど、年の離れた大人の男性のほうが、包容力があって優しいかもしれないわ。若くて、見た目のいい男なんて、きっと誘惑に弱くて浮気三昧よ。あのエドワードだって絶対そうよ。お金もあるし、口説かなくても女のほうから寄ってくるじゃない。今回だって、王女さまに惚れられて。わたくしは、あんなに縦に長いだけの男なんて、頼りなくて嫌だわ。男なら、もっと鍛えて筋肉つけなくちゃ」
「惚れる、なんて下品な言葉、どこで覚えたの?好意を寄せられる、って言い直しなさいな」
「いいじゃないの。異性への劣情を美しい言葉に言い換えることに、意味なんてあるかしら」
「あなた、くやしいのね?ベアティ」
「くやしくはないわ。彼らが欲しかったのは家柄でしょう。だから王家に転んだのだし」
それに・・・、とベアトリックスは言葉をつづけて
「子爵だって、支度金を返さなくてよい、さらに慰謝料を積む、と言われて上機嫌だったわ。あからさますぎて、わたくし、あきれましたわ。それなのに、おかあさまは、いつも子爵を庇われるのね」
「子爵、じゃなくて、お父さまとお呼びなさいな。そろそろ大人になって欲しいわ、ベアティ。確かに、あの人が島を買ったことで、結果的には全財産を失い、さらに借金まで背負う羽目になったけれど、詐欺師に騙されるきっかけになったのだって、わたくしとあなた、それに、アレックス小子爵の将来のために少しでも多くの富を得ねば、と考えたためだったんだから」
「妻子のことを思えばこそ、慎重に行動するのが貴族の当主と言うものですわ。叔父さまの情けでここにいられるけれど、本来なら、亡きお父さまの暮らした家に子爵が住むなんて、おかしな話だと思いますわ。王都の子爵邸が本来の住まいなんじゃなくて?そりゃ、ミッドフォード伯爵邸のほうが広くて豪華かもしれないけど。そういう見栄っ張りな性格が、怪しい詐欺師の話に飛びつくことと、その結果、借金を背負い込むことにつながったんじゃないかしら」
「運よく成功する人もいれば、資産を失う人もいる。わたくしは、よかれと思って間違えた、あの人を責める気にはなれないわ」
母親に言われて、ベアトリックスは
(お母さまは子爵に夢中。匙を投げるしかないわ)
と、ため息をついた。
「子爵は、もともと思慮が浅い方なのだと思いますわ。わたくしの嫁ぎ先を選ぶにあたって、エドワード・アーヴィンを連れてきたことが、そもそも・・・若くて見映えのいい男なら、出自が平民の礼儀知らずでも、わたくしが喜ぶとでも思ったんでしょうか」
「確かに、パーシーは、美男子を連れてきてくれたわね。あなたとエドワード・アーヴィン、二人が並ぶと本当にお似合いだったわ」
母クローディアはそう言うと
「見た目は大事よ。男も女も」と笑った。
「お金も入ったことだし、今後のあなたの花婿候補リストから、平民は排除できるわね。由緒ある家柄のご子息と縁づいてもらって、この子爵家を盛り立てていただきたいものだわ」
そう言って、オーッホホホと、さらなる高笑いを残して、母は部屋をあとにした。
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