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切っ先の捉えた先
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七条土御門大路は大きな寺がいくつかある土地であり、お参りに来た人などで通りはとても賑やかになる。
参拝客目当てに商売をする者も少なくなく、寺に通じている通りは右も左も茶店やそば屋や旅館や雑貨店などで埋め尽くされている。
その数多くある店の一つ、茶店の「京茶屋」にお茶と団子を楽しむ瑶太の姿があった。
(この緑茶は中々美味い。団子の甘みをスっと胃まで運んでくれるようだ。お茶の毛が浮いているのもこの茶が良い物であるという証拠だな)などと、脳内で瑶太は分かったような事を言っている。
茶店の外にある通りに面した長椅子に座りながら瑶太は茶を楽しんでいた。
着物はいつものような漆黒の滅魔隊剣士の着物ではなく、藍色のオーソドックスなタイプの物を着ていて、頭には大きな傘を顔を隠すように被っている。
(あれか……?いや違うな)瑶太は茶を飲む振りをしながらも通りを歩いている人たちの顔を注意深く見る。
彼は無論ここに観光に来たわけではない。裏同心としての仕事で来ているのである。
(見つからないな。他に行くか)
「勘定を頼みます。美味しかったです」
「はいよ。ありがとね」
瑶太は茶店の人の良さそうなおばあさんに代金を払うと立ち上がり、次の行き先へ向かった。
瑶太はある人を調べるように榊老人に頼まれた。
そのある人とは、ここ七条土御門大路に本店を置く油屋、「川島油」の現、当主の川島多喜二という40歳ほどの男だ。
瑶太は今日は日の昇らないうちから川島油の店前で張り込んで、川島多喜二の挙動を伺っていた。
昼頃までは特に動きもなく、瑶太も暇であったのだが13時過ぎに多喜二が刀を腰に差した男と共にどこかへ出かけたので、瑶太はそれを追けた。
そして現在、瑶太は彼らを見失い、探している。
(次は宗匠寺にでも行ってみるか)
瑶太は多喜二が良く出入りしているという情報が事前にあった寺を目指した。
寺は本堂が一つだけあり、他は森が広がるばかりだったが、本堂の中に誰かいるようで話し声が微かに聞こえてくる。
「明日には、はい。一人ほど……」
多喜二の声だ。
「早くしてくれよ」
そう催促するガラガラとした声は誰の物かは分からないが、本堂内には5人ほどの人の気配がする。
瑶太は周りに誰もいないことを確かめると、本堂の床下に潜り込んだ。
「ここに、今日の手土産を。どうぞ」
「おお。これは美味そうだ。いただこう」
ズルズルと何かを食べる音が辺りを包む。
(聞いたことのない咀嚼音だな)と床下の瑶太。
「まあまあ、一杯どうぞ」
本堂内では宴会が始まりつつあった。瑶太は宴会が始まると床下から抜けだし、一旦家へ帰った。
(やはりあの男は、何かあるな)そう思いつつ帰路を急いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はい。4日前の昼頃からです。弟が家を出てから帰ってこないんです」
「君、どこで働いてるの?」
「油屋の川島油で油の精製をしています」
ここは大和族居住区の治安を維持する町方の支部。(いわゆる交番)
14歳ほどに見える女の子が同心(警官)の質問にそう答えた。
「家出かな。本部の町方に届けておきます」
女の子は深々と頭を下げて
「よろしくお願いします」
「心配だろうけど、思い詰め過ぎないでね。顔色が良くないよ」
「ありがとうございます」
そう言って女の子は町方の支部を出た。
生まれてからずっと一緒だった12歳の弟が四日前から行方知らずで、毎晩夜通しで泣き続けたこの女の子の目の周りはとても赤く染まっていた。
この女の子、相樂ゆきは同心に言っていたとおり川島油で働いている。
この子とその弟は生まれて直ぐに両親を亡くし、途方に暮れていた所を川島多喜二に拾われた。
なので多喜二はこの姉弟にとって命の恩人であり、二人とも多喜二のためなら(命さえかけられる)という思いなのだ。
「ただいま戻りました」
「おう、ゆき。どうだったい?良太は見つかりそうかい?」
ゆきは首をゆっくりと横に振って
「ううん。わからない。町方の本部に報告してくれるって」
と多喜二に言った。
「心配だなあ」
多喜二はポンポンとゆきをなでながら言った。
「でも、仕事はちゃんとしなくちゃ。良太のために時間とってごめんなさい」
「とんでもない。良いんだよ。仕事に戻る前に少しお使いを頼まれてくれないか?」
「何でしょうか?」
「この包みをな、宗匠寺まで届けに行って欲しい。本堂の中に入っていけば分かる」
「分かりました。直ぐに届けます」
ゆきは包みを両手で抱きしめるようにして持ち、寺に向かって駆けて行った。
川島多喜二は店の外に出てゆきを見送り、誰にも聞こえないほどの声でボソリと
「これで一人だな。全く、良太の方はたいした金にはならなかったが、女の脳は人気だから少しは金になるだろ……」そう言った。
しかし、その非常に小さな声で発せられた言葉を油屋の向かいの旅館の二階から聞いている者がいた。
白髪で滅魔刀を腰に差している。
羽崎瑶太であった。
彼は多喜二が嬉しそうな顔をして店に入っていくのを確認すると、ヒラリと二階から飛び降りて、相樂ユキの後を駆け追った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「失礼します。川島多喜二の使いの者です。お届け物に参りました」
寺に着いたゆきは名の通り雪のように白く美しい髪が乱れているのにもかまわずに本堂に向かってそう言った。
「お、おう。はいってくれ」
少し時間が経ってから奥の方からしわがれた声でそう言われたので、ゆきは重く固まった引き戸を力一杯に開けて、本堂の中に入った。
「おう。おう。ありがとよ」
「これを川島多喜二が届けよと」
ゆきは中にいた声に見合った風貌のヒゲの長い老人に包みを渡した。
老人は包みを直ぐに開けて、中に入っていた小袋に分けられていた黄色い、何か得体の知れない物を夢中になって食べ始めた。
ゆきは少し気味悪くなって、直ぐに帰ろうと振り返ったが、その腕を老人ががしりと掴んだ。
「離して下さい。私には仕事がありますので」
「何を言っている。そなた自身も届け物ではないか」
「何を訳の分からないことを」
そうゆきが言うと老人は笑い出した。
「ふひゃひゃひゃっ!多喜二も酷いやつだ。何も知らせていないなんて。まあ、知らせてしまえばここに来なくなってしまうがな。」
「帰りますっ!」
いよいよおかしな雰囲気になってきたので強引にでも帰ろうと老人をゆきは引っ張ったがその手を何者かがガッシリと掴んだ。
いつの間にか、ゆきは屈強な男達に囲まれていた。
「逃げようとしても無駄じゃ。お前はどの道……死ぬ」
「な、なんで」
「お前は売られたんじゃ。多喜二に」
「そんなわけ無いっ。お父さんは私たちを育ててくれたっ」
「そこがきゃつの凄いところだ。両親を失った子供達を引き取って育て、儂らに売る。そうすれば町方の足もつかない」
老人が舌で口周りをゆっくりとなぶる。
舌が、二股に別れている。
「ま、魔族……」
「そうじゃ。儂らは魔族じゃ。そしてこれからお前を喰う」
老人は手を硬化させて鉄のような色になった指の先で、ゆきの首を少しだけ切った。
血が滲んで流れてくる。
老人はそれを手に取って舐めた。
「やはりこの位の年頃の女が一番美味そうじゃな。……ん?この匂い、4日ほど前に喰ったガキに似ているぞ」
ゆきの血の気がサッと引いていった。
「食べ……た……?」
「弟か何かか?こいつかい?」
壺の中から老人は脳みそを吸い取った後の頭を取りだしてゆきに見せた。
「あああああっ。ちがっ……りょ、良太……」
脳天部がグシャグシャにされたその頭の顔は見慣れた弟のものだった。
「食べた後のはコレクションするのが趣味でなあ。後で味を思い出せるんじゃ。お前も、美味しく頂いてコレクションに入れよう」
異様に長い魔族特有の舌がゆきの脳天部に当てられた。
「いやあああああ。死にたくないっ!!死にたくないっ」
泣きじゃくりながら抵抗するが周りに控えている者達も居り、一切逃げられそうな気配はない。
「誰にも聞こえやしないよ」
老人の舌が脳天に圧をかけながら穴を開けようとした。
その時であった。
「ドッゴーーーンっ!!!」
凄まじい爆音と共に本堂の片側が全て消えた。
「何だ?」
「何があった!!」
轟音と共に舞ったホコリや塵のせいで魔族達には何が起こったのかまだ分からない。
「ああ~。臭いがするな。プンプンと。魔族どもの」
ホコリの向こうにギラリと刀の光が見えた。
「刀?黒鐘滅魔隊かっ!!」
「気をつけろ!」
ホコリと塵の中でも魔族達は戦闘態勢に入った。
「黒鐘の名において、貴様らを滅魔する。天に昇り、仏となれ」
ホコリが治まって、破壊された壁の向こうに白髪の男が見えてきた。
男は刀を高速の攻撃が特徴の下段に構え、「黒鐘滅魔隊滅魔士、羽崎瑶太。これより滅魔を開始する」そう言った。
参拝客目当てに商売をする者も少なくなく、寺に通じている通りは右も左も茶店やそば屋や旅館や雑貨店などで埋め尽くされている。
その数多くある店の一つ、茶店の「京茶屋」にお茶と団子を楽しむ瑶太の姿があった。
(この緑茶は中々美味い。団子の甘みをスっと胃まで運んでくれるようだ。お茶の毛が浮いているのもこの茶が良い物であるという証拠だな)などと、脳内で瑶太は分かったような事を言っている。
茶店の外にある通りに面した長椅子に座りながら瑶太は茶を楽しんでいた。
着物はいつものような漆黒の滅魔隊剣士の着物ではなく、藍色のオーソドックスなタイプの物を着ていて、頭には大きな傘を顔を隠すように被っている。
(あれか……?いや違うな)瑶太は茶を飲む振りをしながらも通りを歩いている人たちの顔を注意深く見る。
彼は無論ここに観光に来たわけではない。裏同心としての仕事で来ているのである。
(見つからないな。他に行くか)
「勘定を頼みます。美味しかったです」
「はいよ。ありがとね」
瑶太は茶店の人の良さそうなおばあさんに代金を払うと立ち上がり、次の行き先へ向かった。
瑶太はある人を調べるように榊老人に頼まれた。
そのある人とは、ここ七条土御門大路に本店を置く油屋、「川島油」の現、当主の川島多喜二という40歳ほどの男だ。
瑶太は今日は日の昇らないうちから川島油の店前で張り込んで、川島多喜二の挙動を伺っていた。
昼頃までは特に動きもなく、瑶太も暇であったのだが13時過ぎに多喜二が刀を腰に差した男と共にどこかへ出かけたので、瑶太はそれを追けた。
そして現在、瑶太は彼らを見失い、探している。
(次は宗匠寺にでも行ってみるか)
瑶太は多喜二が良く出入りしているという情報が事前にあった寺を目指した。
寺は本堂が一つだけあり、他は森が広がるばかりだったが、本堂の中に誰かいるようで話し声が微かに聞こえてくる。
「明日には、はい。一人ほど……」
多喜二の声だ。
「早くしてくれよ」
そう催促するガラガラとした声は誰の物かは分からないが、本堂内には5人ほどの人の気配がする。
瑶太は周りに誰もいないことを確かめると、本堂の床下に潜り込んだ。
「ここに、今日の手土産を。どうぞ」
「おお。これは美味そうだ。いただこう」
ズルズルと何かを食べる音が辺りを包む。
(聞いたことのない咀嚼音だな)と床下の瑶太。
「まあまあ、一杯どうぞ」
本堂内では宴会が始まりつつあった。瑶太は宴会が始まると床下から抜けだし、一旦家へ帰った。
(やはりあの男は、何かあるな)そう思いつつ帰路を急いだ。
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「はい。4日前の昼頃からです。弟が家を出てから帰ってこないんです」
「君、どこで働いてるの?」
「油屋の川島油で油の精製をしています」
ここは大和族居住区の治安を維持する町方の支部。(いわゆる交番)
14歳ほどに見える女の子が同心(警官)の質問にそう答えた。
「家出かな。本部の町方に届けておきます」
女の子は深々と頭を下げて
「よろしくお願いします」
「心配だろうけど、思い詰め過ぎないでね。顔色が良くないよ」
「ありがとうございます」
そう言って女の子は町方の支部を出た。
生まれてからずっと一緒だった12歳の弟が四日前から行方知らずで、毎晩夜通しで泣き続けたこの女の子の目の周りはとても赤く染まっていた。
この女の子、相樂ゆきは同心に言っていたとおり川島油で働いている。
この子とその弟は生まれて直ぐに両親を亡くし、途方に暮れていた所を川島多喜二に拾われた。
なので多喜二はこの姉弟にとって命の恩人であり、二人とも多喜二のためなら(命さえかけられる)という思いなのだ。
「ただいま戻りました」
「おう、ゆき。どうだったい?良太は見つかりそうかい?」
ゆきは首をゆっくりと横に振って
「ううん。わからない。町方の本部に報告してくれるって」
と多喜二に言った。
「心配だなあ」
多喜二はポンポンとゆきをなでながら言った。
「でも、仕事はちゃんとしなくちゃ。良太のために時間とってごめんなさい」
「とんでもない。良いんだよ。仕事に戻る前に少しお使いを頼まれてくれないか?」
「何でしょうか?」
「この包みをな、宗匠寺まで届けに行って欲しい。本堂の中に入っていけば分かる」
「分かりました。直ぐに届けます」
ゆきは包みを両手で抱きしめるようにして持ち、寺に向かって駆けて行った。
川島多喜二は店の外に出てゆきを見送り、誰にも聞こえないほどの声でボソリと
「これで一人だな。全く、良太の方はたいした金にはならなかったが、女の脳は人気だから少しは金になるだろ……」そう言った。
しかし、その非常に小さな声で発せられた言葉を油屋の向かいの旅館の二階から聞いている者がいた。
白髪で滅魔刀を腰に差している。
羽崎瑶太であった。
彼は多喜二が嬉しそうな顔をして店に入っていくのを確認すると、ヒラリと二階から飛び降りて、相樂ユキの後を駆け追った。
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「失礼します。川島多喜二の使いの者です。お届け物に参りました」
寺に着いたゆきは名の通り雪のように白く美しい髪が乱れているのにもかまわずに本堂に向かってそう言った。
「お、おう。はいってくれ」
少し時間が経ってから奥の方からしわがれた声でそう言われたので、ゆきは重く固まった引き戸を力一杯に開けて、本堂の中に入った。
「おう。おう。ありがとよ」
「これを川島多喜二が届けよと」
ゆきは中にいた声に見合った風貌のヒゲの長い老人に包みを渡した。
老人は包みを直ぐに開けて、中に入っていた小袋に分けられていた黄色い、何か得体の知れない物を夢中になって食べ始めた。
ゆきは少し気味悪くなって、直ぐに帰ろうと振り返ったが、その腕を老人ががしりと掴んだ。
「離して下さい。私には仕事がありますので」
「何を言っている。そなた自身も届け物ではないか」
「何を訳の分からないことを」
そうゆきが言うと老人は笑い出した。
「ふひゃひゃひゃっ!多喜二も酷いやつだ。何も知らせていないなんて。まあ、知らせてしまえばここに来なくなってしまうがな。」
「帰りますっ!」
いよいよおかしな雰囲気になってきたので強引にでも帰ろうと老人をゆきは引っ張ったがその手を何者かがガッシリと掴んだ。
いつの間にか、ゆきは屈強な男達に囲まれていた。
「逃げようとしても無駄じゃ。お前はどの道……死ぬ」
「な、なんで」
「お前は売られたんじゃ。多喜二に」
「そんなわけ無いっ。お父さんは私たちを育ててくれたっ」
「そこがきゃつの凄いところだ。両親を失った子供達を引き取って育て、儂らに売る。そうすれば町方の足もつかない」
老人が舌で口周りをゆっくりとなぶる。
舌が、二股に別れている。
「ま、魔族……」
「そうじゃ。儂らは魔族じゃ。そしてこれからお前を喰う」
老人は手を硬化させて鉄のような色になった指の先で、ゆきの首を少しだけ切った。
血が滲んで流れてくる。
老人はそれを手に取って舐めた。
「やはりこの位の年頃の女が一番美味そうじゃな。……ん?この匂い、4日ほど前に喰ったガキに似ているぞ」
ゆきの血の気がサッと引いていった。
「食べ……た……?」
「弟か何かか?こいつかい?」
壺の中から老人は脳みそを吸い取った後の頭を取りだしてゆきに見せた。
「あああああっ。ちがっ……りょ、良太……」
脳天部がグシャグシャにされたその頭の顔は見慣れた弟のものだった。
「食べた後のはコレクションするのが趣味でなあ。後で味を思い出せるんじゃ。お前も、美味しく頂いてコレクションに入れよう」
異様に長い魔族特有の舌がゆきの脳天部に当てられた。
「いやあああああ。死にたくないっ!!死にたくないっ」
泣きじゃくりながら抵抗するが周りに控えている者達も居り、一切逃げられそうな気配はない。
「誰にも聞こえやしないよ」
老人の舌が脳天に圧をかけながら穴を開けようとした。
その時であった。
「ドッゴーーーンっ!!!」
凄まじい爆音と共に本堂の片側が全て消えた。
「何だ?」
「何があった!!」
轟音と共に舞ったホコリや塵のせいで魔族達には何が起こったのかまだ分からない。
「ああ~。臭いがするな。プンプンと。魔族どもの」
ホコリの向こうにギラリと刀の光が見えた。
「刀?黒鐘滅魔隊かっ!!」
「気をつけろ!」
ホコリと塵の中でも魔族達は戦闘態勢に入った。
「黒鐘の名において、貴様らを滅魔する。天に昇り、仏となれ」
ホコリが治まって、破壊された壁の向こうに白髪の男が見えてきた。
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