魔人になった僕だけどそれでも兄上を愛したい

URUR

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第2章:満たされない心

足跡を追う

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 「リリスは……“あれ”を使ったのか」

 図書室の奥。封印されていた禁術書《アル=アエノス》を前に、僕は呆然と立ち尽くしていた。

 机の上には、血の染み。
 術式の一部が書き残され、半分が焼き切れている。
 それが何を意味するのかは、僕にもわかっていた。

 “完成された”禁術――それは、必ず“何か”を引き換えにする。
 命、記憶、存在そのもの……。
 そのどれか、あるいはすべて。

 「……馬鹿だ」

 声に出した瞬間、喉が詰まる。
 その言葉は、僕に向けたものだった。

 僕が、何も知らずに、何も与えずに、突き放して。
 リリスだけが、全てを背負った。

 どれほど怖かっただろう。
 どれほど寂しかっただろう。
 それでも、僕の呪いを解くために――たった一人で禁術に手を出した。

 「……どこに行った……お前……」

 リリスはもう、人の世界にはいない。

 魔術師たちの書物によれば、完成した禁術は、発動させた物の代償を奪いどこか別の空間へ送り出す。
 それは“空間”とは呼べない。記憶の淵、魔の底――呼び方すら定かではない。

 僕は本棚を乱暴に探して古びた魔術地図を引きずり出す。
 そこには、かつて禁術を行った者が“消えた”とされる場所の記録があった。

 その中のひとつ――「黒の地」。
 光が届かず、草木は枯れ、音も届かない死の領域。

 「まさか……そんなところに……」

 でも、その可能性しか残っていなかった。
 あいつは、生きている。
どこかで、たった一人で。

 胸が、軋む。

 今までの僕なら、そんな地に誰かを探しに行くような真似はしなかった。
 “他人”など、僕にとって意味を持たなかったから。

 でも、違う。

 リリスは……あいつだけは、違った。

 「なぜ、もっと……早く……」

 悔やんでも遅い。
 もう、何もかもが遅すぎる。

 けれど。

 それでも――

 「……まだ、間に合うかもしれない」

 自分にそう言い聞かせる。

 どれだけ記憶が失われていようと。
 どれだけ感情が失われてようと。
 リリスが完全に“壊れてしまう”前に――僕が、迎えに行く。

 「お前が……俺を救ってくれたように」

 僕は、決して弱さを見せない主義だった。
 でもこのときばかりは、拳を強く握り、震えを止められなかった。

 リリスは、あれだけ僕を好きだと笑ってくれた。
 それを、鬱陶しいと突き放していた自分が、どれほど醜かったか。

 「……俺は、愛される資格なんてない」

 けれど――

 「……それでも、まだ……お前を、愛してる」

 呟いた言葉は、誰にも届かない。
 それでも僕は、言葉にしておかなければならなかった。

 もう、“兄上”と呼ばれる資格すらないこの僕が、
 それでもリリスのために何ができるのか――

 それを見つけるために、歩き出す。

 どれほど遠くても、
 どれほど苦しくても。
 あいつの手に、もう一度、触れられるなら。

 今度こそ、その手を、二度と離さない。
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