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第一章
第十一話 新たな刺客
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~フリード視点~
突如現れた男に、野盗の頭と思われる男の首が刎ねられた。
「お前は!」
男と顔見知りの関係なのか、騎士爵様は彼を見た途端に歯を食い縛り、前に出ると右手を横に広げた。
「フリード君、マヤノちゃん。やつの相手は私がする。万が一の時にはヘイオー君を連れて先に行くのだ」
「ちょっと待ってください! それでは契約が――」
保護対象が自ら危険な場面に首を突っ込んでどうする? そう言おうとしたが、間髪を容れずに彼は駆け出し、握っていた剣を振り下ろす。
だが、男は攻撃を躱し、野盗の頭と思われる男が握っていた剣を掴むと後方に下がる。
「さすがだな。自ら捨て石になってあの子を逃そうとするか」
「当然だ。あの方はこの国の希望なんだ。あの男の望む世界になんてさせてたまるか!」
騎士爵様たちは激しい撃ち合いを初め、剣の刃同士が触れるとバインドと呼ばれる状態になる。
「フリードちゃん、どうする?」
マヤノが心配そうな顔で見て来る。
俺たちの依頼は、騎士爵様とヘイオーを岬の小屋に届けることだ。護衛対象に守られるなんてことは、あってはならない。
「俺たちも加勢する。護衛対象を戦わせる訳にはいかない」
「うん、そうだよね。よーし、あんなやつ、マヤノが一瞬で方を付けてあげる」
「何を言っている! 先ほど私が言っていたことをもう忘れたか! ヘイオー君を連れて逃げるんだ! 私が時間を稼いでいる間に例の場所へ!」
俺たちも加勢に入ろうとすると、騎士爵様がヘイオーを連れて、この場から離れることを優先するように言ってくる。
「俺と戦っている最中に、よそ見をしながら指示を出すとか、かなり余裕があるじゃないか! オラ!」
騎士爵様の気が俺たちに逸れている状態をチャンスと思ったようで、男は騎士爵様の腹部に蹴りを放った。
不意を突かれた騎士爵様は吹き飛ばされて地面に転がるも、直ぐに起き上がって構え直す。
「お二人共、ここは彼に任せて行きましょう。あの人の想いを無下にしてはいけません」
騎士爵様が奮闘する中、ヘイオーが彼の行為に甘えるべきだと言ってくる。
「ごめんね、ヘイオー君や騎士爵様の気持ちは分かる。だけど、マヤノたちは冒険者の真似事で依頼を受けている。だから、依頼者に何を言われても、依頼は必ず遂行するんだから」
「この僕が命令をしているのだぞ! 平民風情が出しゃばるな!」
マヤノの言葉が気に障ったのか、ヘイオーが声を荒げる。彼から放たれた言葉は、子供にしては重みがあるように感じられ、空気がビリビリと振動しているかのように錯覚した。
「ごめんね。何を言われてもマヤノは、自分が選んだ道を突き進むから」
上体を少し前に倒し、片目を瞑ってウインクをしながら、敬礼のようなポーズをマヤノは取る。そして踵を返して背中を向けると、戦っている騎士爵様たちの方に走り出した。
「彼女はいったい何者なんだ? この僕が威厳のある風格で従わせようとしたのに、物怖じしないなんて」
面食らった顔でヘイオーが俺の方を向くが、苦笑いを浮かべてその場を誤魔化す。
正直、俺の方が知りたいぐらいだ。行き倒れになっていた女の子、そして普通の人よりも魔力量が段違いであることしか、俺には分からない。
彼女が何者で、どうしてあそこまで強いのかは、神秘のベールに包まれて知ることができない。
「ごめんね、騎士爵様! あなたの言うことには従えない。だってもし、パパだったら絶対に保護対象は守り通すはずだから。パパの娘である以上、マヤノは同じことをするよ。ミニチュアシャクルアイス!」
マヤノが魔法を発動すると、敵の足元の水分が集まり、水になる。そしてその水に限定して気温が下がっているようで、氷に変化すると男の足元を凍らせた。
「何だと! 足元が一瞬で凍った!」
「言うことを聞いてくれない困った子だが、そのアシストは助かる! ゼッペル! お前を倒し、あの男を処罰する!」
騎士爵様が男の名を叫び、剣を振り上げる。だが、気が付いた瞬間には、彼の握っていた剣は弾かれて地面に落ちていた。
「ふぅ、危ない、危ない。この剣を持っていなかったら斬られていたな。それよりもこのウザイ氷だ」
ゼッペルが足元の氷に剣を突き刺す。すると突き刺さった場所からヒビが入ると広がり、最終的には粉々に砕け散った。
「あちゃあ、炎魔法を使わずに解除しちゃったか。これじゃあ、第二のトラップを発動できないね。むむむ、どうしょう?」
自分の使った拘束魔法が解除されたことにより、己が考えていた策が失敗したようだ。マヤノは両手の人差し指を頭に置き、次の策を考えているのか、頭を左右に動かす。
「ハハハ! この剣は身体能力を向上させる力を持っている! こいつがあれば、人間を超えた動きをすることも可能だ!」
4対1でも戦況が有利だと判断したのか、ゼッペルは笑い声を上げ、口の端を吊り上げる。
このままではまずい。あのゼッペルを倒すことはできなくとも、全員でこの場から離れて距離を稼ぐことができれば、逃げ切ることもできそうだ。
何か方法はないか。
思考を巡らせながら周囲を伺う。するとブルボーアが、まだ近くに待機している姿が視界に映る。
そう言えば、まだ奴隷化を解除していなかったな。ブルボーアの速度なら、ゼッペルを翻弄させてその隙に逃げることができるかもしれない。
「行け! ブルボーア!」
奴隷化させているイノシシ型のモンスターに命令を下す。するとブルボーアは指示に従い、敵に突っ込んだ。
ブルボーアの突進は、熟練の冒険者でも一瞬怯んでしまうほどの鬼気迫る覇気を感じさせる。
一瞬の隙を突くなら今の内だ。
モンスターが突っ込むのと同時に、ヘイオーを抱き抱える。
「おい、この僕をお姫様抱っこするな!」
「今は非常時だと分かっていますよね。これぐらい我慢してください」
ヘイオーからの文句を言われつつも、地を蹴ってかける。
「マヤノ、騎士爵様、今の内に逃げますよ!」
「分かったわ。ミニチュアシャクルアイス!」
戦略的撤退をすることを告げると、マヤノはもう一度ゼッペルに氷の拘束魔法をかけた。そして氷に気を取られている間に、ブルボーアがやつに突進を食らわせると、吹き飛ばされて地面に倒れた。
マヤノのアシストのお陰で、どうにか道を切り開くことはできた。
今の内に撤退だ。
突如現れた男に、野盗の頭と思われる男の首が刎ねられた。
「お前は!」
男と顔見知りの関係なのか、騎士爵様は彼を見た途端に歯を食い縛り、前に出ると右手を横に広げた。
「フリード君、マヤノちゃん。やつの相手は私がする。万が一の時にはヘイオー君を連れて先に行くのだ」
「ちょっと待ってください! それでは契約が――」
保護対象が自ら危険な場面に首を突っ込んでどうする? そう言おうとしたが、間髪を容れずに彼は駆け出し、握っていた剣を振り下ろす。
だが、男は攻撃を躱し、野盗の頭と思われる男が握っていた剣を掴むと後方に下がる。
「さすがだな。自ら捨て石になってあの子を逃そうとするか」
「当然だ。あの方はこの国の希望なんだ。あの男の望む世界になんてさせてたまるか!」
騎士爵様たちは激しい撃ち合いを初め、剣の刃同士が触れるとバインドと呼ばれる状態になる。
「フリードちゃん、どうする?」
マヤノが心配そうな顔で見て来る。
俺たちの依頼は、騎士爵様とヘイオーを岬の小屋に届けることだ。護衛対象に守られるなんてことは、あってはならない。
「俺たちも加勢する。護衛対象を戦わせる訳にはいかない」
「うん、そうだよね。よーし、あんなやつ、マヤノが一瞬で方を付けてあげる」
「何を言っている! 先ほど私が言っていたことをもう忘れたか! ヘイオー君を連れて逃げるんだ! 私が時間を稼いでいる間に例の場所へ!」
俺たちも加勢に入ろうとすると、騎士爵様がヘイオーを連れて、この場から離れることを優先するように言ってくる。
「俺と戦っている最中に、よそ見をしながら指示を出すとか、かなり余裕があるじゃないか! オラ!」
騎士爵様の気が俺たちに逸れている状態をチャンスと思ったようで、男は騎士爵様の腹部に蹴りを放った。
不意を突かれた騎士爵様は吹き飛ばされて地面に転がるも、直ぐに起き上がって構え直す。
「お二人共、ここは彼に任せて行きましょう。あの人の想いを無下にしてはいけません」
騎士爵様が奮闘する中、ヘイオーが彼の行為に甘えるべきだと言ってくる。
「ごめんね、ヘイオー君や騎士爵様の気持ちは分かる。だけど、マヤノたちは冒険者の真似事で依頼を受けている。だから、依頼者に何を言われても、依頼は必ず遂行するんだから」
「この僕が命令をしているのだぞ! 平民風情が出しゃばるな!」
マヤノの言葉が気に障ったのか、ヘイオーが声を荒げる。彼から放たれた言葉は、子供にしては重みがあるように感じられ、空気がビリビリと振動しているかのように錯覚した。
「ごめんね。何を言われてもマヤノは、自分が選んだ道を突き進むから」
上体を少し前に倒し、片目を瞑ってウインクをしながら、敬礼のようなポーズをマヤノは取る。そして踵を返して背中を向けると、戦っている騎士爵様たちの方に走り出した。
「彼女はいったい何者なんだ? この僕が威厳のある風格で従わせようとしたのに、物怖じしないなんて」
面食らった顔でヘイオーが俺の方を向くが、苦笑いを浮かべてその場を誤魔化す。
正直、俺の方が知りたいぐらいだ。行き倒れになっていた女の子、そして普通の人よりも魔力量が段違いであることしか、俺には分からない。
彼女が何者で、どうしてあそこまで強いのかは、神秘のベールに包まれて知ることができない。
「ごめんね、騎士爵様! あなたの言うことには従えない。だってもし、パパだったら絶対に保護対象は守り通すはずだから。パパの娘である以上、マヤノは同じことをするよ。ミニチュアシャクルアイス!」
マヤノが魔法を発動すると、敵の足元の水分が集まり、水になる。そしてその水に限定して気温が下がっているようで、氷に変化すると男の足元を凍らせた。
「何だと! 足元が一瞬で凍った!」
「言うことを聞いてくれない困った子だが、そのアシストは助かる! ゼッペル! お前を倒し、あの男を処罰する!」
騎士爵様が男の名を叫び、剣を振り上げる。だが、気が付いた瞬間には、彼の握っていた剣は弾かれて地面に落ちていた。
「ふぅ、危ない、危ない。この剣を持っていなかったら斬られていたな。それよりもこのウザイ氷だ」
ゼッペルが足元の氷に剣を突き刺す。すると突き刺さった場所からヒビが入ると広がり、最終的には粉々に砕け散った。
「あちゃあ、炎魔法を使わずに解除しちゃったか。これじゃあ、第二のトラップを発動できないね。むむむ、どうしょう?」
自分の使った拘束魔法が解除されたことにより、己が考えていた策が失敗したようだ。マヤノは両手の人差し指を頭に置き、次の策を考えているのか、頭を左右に動かす。
「ハハハ! この剣は身体能力を向上させる力を持っている! こいつがあれば、人間を超えた動きをすることも可能だ!」
4対1でも戦況が有利だと判断したのか、ゼッペルは笑い声を上げ、口の端を吊り上げる。
このままではまずい。あのゼッペルを倒すことはできなくとも、全員でこの場から離れて距離を稼ぐことができれば、逃げ切ることもできそうだ。
何か方法はないか。
思考を巡らせながら周囲を伺う。するとブルボーアが、まだ近くに待機している姿が視界に映る。
そう言えば、まだ奴隷化を解除していなかったな。ブルボーアの速度なら、ゼッペルを翻弄させてその隙に逃げることができるかもしれない。
「行け! ブルボーア!」
奴隷化させているイノシシ型のモンスターに命令を下す。するとブルボーアは指示に従い、敵に突っ込んだ。
ブルボーアの突進は、熟練の冒険者でも一瞬怯んでしまうほどの鬼気迫る覇気を感じさせる。
一瞬の隙を突くなら今の内だ。
モンスターが突っ込むのと同時に、ヘイオーを抱き抱える。
「おい、この僕をお姫様抱っこするな!」
「今は非常時だと分かっていますよね。これぐらい我慢してください」
ヘイオーからの文句を言われつつも、地を蹴ってかける。
「マヤノ、騎士爵様、今の内に逃げますよ!」
「分かったわ。ミニチュアシャクルアイス!」
戦略的撤退をすることを告げると、マヤノはもう一度ゼッペルに氷の拘束魔法をかけた。そして氷に気を取られている間に、ブルボーアがやつに突進を食らわせると、吹き飛ばされて地面に倒れた。
マヤノのアシストのお陰で、どうにか道を切り開くことはできた。
今の内に撤退だ。
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